当事者目線の障がい福祉に係る将来展望検討委員会第9回(令和4年2月21日)資料6 当事者目線の障がい福祉を推進するための条例の制定について 1経緯 (1)津久井やまゆり園事件を契機とした取組み ○平成28年7月、県立障害者支援施設津久井やまゆり園において、19人の尊い生命が奪われる大変痛ましい事件が発生した。県は、事件が二度と繰り返されないよう、ともに生きる社会の実現をめざし、同年10月、県議会と共同で「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定し、共生社会の実現に向けた様々な取組みを進めているところ。 ○また、県は、平成29年10月、津久井やまゆり園再生基本構想を策定し、津久井やまゆり園と芹が谷やまゆり園の2つの新たな施設を整備することとし、併せて利用者の望む暮らしを一緒に考えていく「意思決定支援」に取り組むこととした。 ○こうした取組みの中、有識者の検証により、複数の県立障害者支援施設で、安全を優先した長時間の居室施錠など、虐待が疑われる不適切な支援が行われていたことが明らかになり、県立施設の改革に着手するとともに、令和3年6月、県全体の障がい福祉のあり方を検討する、当事者を中心とした「当事者目線の障がい福祉に係る将来展望検討委員会」を設置し、目下、県立施設の必要性も含めた議論を精力的に行っている。 (2)「当事者目線の障がい福祉」への転換 ○県立施設の支援を見直す中で、県として、これからの障がい福祉は、本人の望みや願いを第一に考える「障がい当事者の目線」の支援を行うことが重要であると考えた。そして、当事者との対話も重ね、障がい当事者の心の声に耳を傾け、お互いの心が輝くことを目指す福祉を進めていく必要があるとの認識に至った。 ○県は、令和3年11月、2つのやまゆり園の開所を新しい障がい福祉のスタートと位置づけ、障がい福祉のあり方を「支援者目線」から「当事者目線」へ大転換を図るという決意を、「当事者目線の障がい福祉実現宣言」として発信した。 (3)条例制定の検討 ○将来展望検討委員会では、「長期ビジョンの実現を着実に進めるには、指針、計画、条例といった仕組みが必要」「条例を作って障がい者の居場所を作っていく決意を示すべき」などの意見が示された。 ○県議会からは、計画の策定、憲章、宣言、条例も大きな取組の一つであり、あらゆる可能性、選択肢を排除することなく検討するよう意見をいただいた。 ○これらの意見を受け止め、「当事者目線の障がい福祉」に必要な施策を確実に実行する普遍的な仕組みについて検討した結果、理念や目的、責務などを市町村や事業者、県民等と共有することが必要であり、県議会の議決を得て制定する「条例」が最も効果的と考えた。(R3.11.30県議会本会議において同旨を知事が答弁) 2新条例のイメージ @名称 (仮称)当事者目線の障がい福祉推進条例 A前文 ・津久井やまゆり園での事件を契機に「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定 ・その後、津久井やまゆり園の再生を進める中で、意思決定支援の取組みに力を入れ、 当事者目線の障がい福祉の重要性を認識するに至った ・オール神奈川で当事者目線の障がい福祉を実現するには、県、市町村、県民及び事 業者が、理念や目的、責務などを共有して、取組を推進する必要があり、条例を制定 B目的 ・県、市町村、県民、事業者が連携し、当事者目線の障がい福祉の考えを共有するとともに、各般の施策を総合的かつ計画的に実施することにより、当事者目線の障がい福祉の推進を図り、もって地域共生社会の実現を目指す。 C基本理念 ・将来展望検討委員会で取りまとめようとしている長期的な障がい福祉のあるべき姿の実現を目指す。 〜みんなのいのちが輝く「ともに生きる社会かながわ」の実現〜 〜障がい当事者が希望する場所で、尊厳をもって、その人らしく暮らすことが当たり前となる社会〜 ・当事者と支援者や周りの仲間など、双方の喜びや幸せにつながる「当事者目線の障がい福祉」の実現を目指す。 〜その第一歩である意思決定支援の全県展開〜 D県・市町村・県民・事業者の責務と役割 ・県は、市町村及び事業者と連携して、「当事者目線の障がい福祉」の実現を目指した施策を策定し、総合的かつ計画的に実施する。 ・障害福祉サービス提供事業者は、基本理念に基づき、利用者に対する意思決定支援の取組みを進めるよう努める。 ・県民は、「当事者目線の障がい福祉」の理解を深め、地域共生社会の実現に努める。 E基本的な施策の方向性 ・障がい福祉施策の充実強化を図ること ・当事者目線の徹底と権利擁護の体制を強化すること ・地域の福祉資源の充実を図ること ・地域共生社会の実現を目指す取組みを進めること など F財政上の措置 3今後の進め方 (1)基本的な考え方 ○県議会、当事者や県民、市町村、支援者、関係団体、事業者、審議会等と、幅広く丁寧に意見交換を行いながら検討を行い、政令市を含めたオール神奈川で進めていく。 ○実体的規定については、将来展望委員会における今後の議論を踏まえ、庁内関係部局とも十分に協議しながら検討を進めることとする。 (2)想定するスケジュール 令和4年1月〜関係者等との意見交換(継続的に実施)※ 障がい当事者、支援者、関係団体、市町村、事業者等 3月第1回県議会定例会厚生常任委員会に条例骨子案を報告 4月〜県民意見の聴取(パブリックコメント) 関係者等との意見交換 6月第2回県議会定例会厚生常任委員会に条例素案を報告 7月〜関係者等との意見交換 9月第3回県議会定例会に条例案の提出 令和5年4月条例の施行 (3)「ともに生きる社会かながわ憲章」との関係 ○「ともに生きる社会かながわ憲章」は、津久井やまゆり園で発生した事件が二度と繰り返されないよう、障がい者はもとより、誰もがその人らしく暮らすことのできる「ともに生きる社会」の実現を目指す決意を示すため、県政の基本的な理念として県議会とともに策定したものである。 一方、この条例は、そうした憲章の理念を、障がい福祉分野において、より具体化 していくための方策の一つとして位置付けられるものと考えている。 【参考】県議会でのやりとり 令和3年10月11日 県議会厚生常任委員会 自民党意見発表(抜粋) ・当事者目線の障がい福祉を追求していくために、そして、ともに生きる社会を実現していくために、効率的、効果的なことを絶えず考え、検証していく必要がある。計画の策定や、憲章、宣言、条例も大きな取組のひとつであると考える。あらゆる可能性と、選択肢を排除することなく、検討委員会の中での議論、あるいは当事者の声に、謙虚に耳を傾けながら進めていくよう求める。 令和3年11月30日 藤代ゆうや議員(自民:本会議代表質問) 【質問】※抜粋 県が目指す「当事者目線の障がい福祉」の実現に向けた施策を、確実に実施していくための普遍的な仕組みづくりについて、どのように考えているのか。 【知事答弁】 津久井やまゆり園での悲惨な事件から5年が過ぎ、この間、県は、津久井やまゆり園の再生を進め、利用者の方々が、それぞれの望む暮らしを実現できるよう、意思決定支援の取組や、津久井やまゆり園と芹が谷やまゆり園の整備に力を注いできました。 こうした中、本人の望みや願いを第一に考える、障がい当事者の目線に立った支援が重要と改めて認識し、その理解や実践に向け、私自身、障がい福祉の現場を視察し、当事者の皆様との対話を重ねてきました。 津久井と芹が谷、この2つのやまゆり園の開所を、新しい障がい福祉のスタートと位置づけ、先の芹が谷やまゆり園の開所式において、障がい福祉のあり方を「支援者目線」から「当事者目線」へと大転換を図るという宣言を、メッセージとして発信しました。「当事者目線の障がい福祉」とは、当事者の心の声に耳を傾けて、工夫をしながらサポートすることが、当事者の皆様の幸せとなり、これにより、支援者や周りの仲間の喜びにもつながるものです。   「当事者目線の障がい福祉」の実現については、障がい当事者、施設代表者、学識者などからなる「将来展望検討委員会」から、条例も含めて普遍的な仕組みづくりの検討を進めるよう、御提言をいただいています。さらに、県議会からも、普遍的な仕組みづくりについて、条例、憲章、計画など、あらゆる可能性と選択肢を排除することなく検討するよう、御意見をいただいたところです。 県は、こうした当事者や「将来展望検討委員会」、県議会などとの議論を受け止め、「当事者目線の障がい福祉」の施策を、確実に実現するための普遍的な仕組みとして、様々な観点から検討を行ってきました。 そうした検討の結果、オール神奈川で「当事者目線の障がい福祉」の実現を目指すには、その理念や目的、責務などを市町村や事業者、県民の皆様と共有することが必要であり、そのためには、県議会の御議決を得る、条例の制定が最も効果的であるとの考えに至りました。 今後、条例の制定に向けては、県議会はもとより、当事者や県民の皆様、市町村、関係団体、事業者などと、幅広く丁寧に意見交換を行いながら、練り上げていきたいと考えています。 津久井やまゆり園事件という大変痛ましい事件を経験した本県が、これを乗り越え、「新しい障がい福祉は神奈川から始まった」、「神奈川が変えたんだ」と後の世から言われるよう、全力で取り組んでまいります。