資料2−2 地域共生社会の実現にどう取り組むか(論点〜大事項) 相談支援体制の充実についてどう考えるか(論点〜中事項) (1)現状・課題 〇障がい者が地域で安心して暮らしていくためには、日々の生活の中で抱えている課題等にきめ細かく対応し、適切に公的サービス等に結びつけていく仕組みが、地域に用意されていることが大切である。地域での生活は、入所施設とは異なり、相談に応じてくれる支援者が常に身近なところにいるわけではないので、障がい者の地域での暮らしを、伴走してサポートする相談支援の役割は大変重要である。 〇令和2年4月時点で、計画相談(サービス等利用計画の策定)に応じる全国の相談支援事業所数は10,563か所あり、同じく一般相談に応じる相談支援事業所数は3,551か所である。これらに配置されている相談支援専門員の数は23,954人となっている。  〇高度な相談機能を有する基幹相談支援センターは、778市町村(全体の45%)に全部で946か所設置されている。このうち、24時間365日対応しているものが全体の28%(490市町村)あり、ピアカウンセリングを行うものも全体の36%(634市町村)ある。また、地域包括支援センターと一体的に実施しているものが全体の3%(47市町村)ある。 〇一方、我が県の相談支援専門員の配置数は、令和3年3月時点で1,514人(前年度から28人増)であるが、相談支援事業所の主要業務である計画相談支援の実績値は、見込量の29.6%と低調であり、人員不足が原因と考えられている。相談支援専門員の養成には努めているものの、研修を受講し資格を得ても、所属法人において相談業務以外の業務に従事したり、相談支援事業所が未開設であるなどの理由から、相談業務に従事しない(できない)受講者が66%も存在しており(令和3年4月調査)、就業率の向上が課題である。 ○また、障がい者の地域生活を支えるために、相談支援事業者が担うサービスである「地域移行支援」の令和2年度実績は、見込量(204人)の 28.9%である59人、同じく、「地域定着支援」が見込量(322人)の16.8%である54人、同じく、「自立生活援助」(1,146人)が見込量の6.6%である76人にとどまっている。 ○さらに、一定程度経験を積んだ常勤かつ専従の相談支援専門員を配置している相談支援事業所は、全体の13.3%(令和3年7月調査)であり、また、多くが直接支援業務を兼務している実態にあるため、相談支援業務の知識・経験を積むことが難しい状況にあるという課題も指摘されている。加えて、相談支援専門員の平均経験年数は約3.6年にとどまっており、資質の向上に取り組んでいく必要がある。 〇地域の相談支援の中核となる機関として、基幹相談支援センターが想定されている。しかしながら、県内では、33市町村のうち、基幹相談支援センター未設置の市町村が11市町村あり(令和3年7月)、地域の相談支援体制の強化についても課題である。 ○また、県では、(自立支援)協議会を全県域レベルだけでなく、各障害保健福祉圏域にも設置して、よりきめ細かに、市町村の(自立支援)協議会のバックアップと機能発揮を図るよう考えられてきたが、全県レベルの神奈川県障害者自立支援協議会と同様に、設置が目的化し形骸化しているとの見方・指摘がある。 〇昨年(令和3年)3月から進められている、社会保障審議会障害者部会での「障害者総合支援法」の附則で規定された施行後3年を目途とする見直しの議論では、「自立支援協議会」の機能強化による「まちづくり」の推進について取り上げられており、今後さらに、関係機関が相互の連携を図ることにより、地域におけるインフォーマルサービスも含めた支援体制に関する課題について情報共有し、地域資源の整備を図ることが求められるものと思われる。 〇今日、個人や世帯が抱える生きづらさやリスクが複雑化・多様化しているとされ、ダブルケア、老々介護、8050問題、社会的孤立、さらには、就職氷河期世代の就労問題などの課題が顕在化している。これらの課題は、障がい施策に関係するものも少なくないと考えられるが、これまでの対象者別の各社会保障制度の下では十分な対応が難しく、福祉の政策領域だけでなく、他の政策領域との連携を図ることが大変重要である。 〇個人や世帯が抱える課題が一層複雑化、多様化していることに鑑みると、本人の暮らし全体を捉え、継続的な関わりを行うための相談支援、言い換えると、支援者と本人が継続的につながり関わり合いながら、本人と周囲との関係を広げていくことを目指す伴走型支援が必要である。 〇近年のこうした課題認識から、令和2年に社会福祉法等が改正され、「属性を問わない相談支援」、「参加支援」、「地域づくりに向けた支援」の3つの支援を一体的に実施する重層的支援体制整備事業が市町村事業として創設された。これは、障がい、高齢、子ども、生活困窮などの対象別の相談に限らず、文字どおり、生活課題がどのような事由に起因するものであっても、相談を断らずに受け止める相談支援を目指すものである。県は、令和3年度から、市町村がこの事業に取り組みやすいよう助言等を行う「後方支援事業」を開始しており、今後、同事業を活用するなどにより、県内の市町村において、包括的な相談支援体制の整備が進むことが期待される。 (2)検討の方向性 (相談支援専門員の相談業務への就業促進) ○相談支援専門員の資格取得者が、できる限り相談支援業務に従事するよう、相談支援事業所に就業しない要因、課題について、県は、引き続き、相談支援従事者初任者研修修了者を対象とした就業状況調査を実施するとともに、必要に応じて、市町村に対するヒアリングを行うこと等により把握し、その課題の解決に向けての取組みを進めることとしてはどうか。 (研修体制の充実) 〇個人や世帯が抱える課題が一層複雑化、多様化する中で、利用者の願いや希望に沿った良質なサービスを提供するためには、相談支援専門員のアセスメントの能力の向上が必要不可欠であり、県は、アセスメント力の向上のため、障がい福祉のみならず他分野との協働を想定した実践的な研修プログラムを策定し、研修実施機関と連携し実施することとしてはどうか。 (基幹相談支援センターの設置促進) 〇多様なニーズに対する相談対応については、基幹相談支援センター機能を中心にした相談対応力の向上が課題である。県は、基幹相談支援センター未設置の市町村と連携し、早期に基幹相談支援センターが設置できるよう、当該市町村及び相談支援事業者を支援することとしてはどうか。 〇また、県は、主任相談支援専門員を対象とした連絡会議を開催し、主任相談支援専門員に向けた最新の施策に関する情報提供や基幹相談支援センターでの先駆的な取り組みの実践報告等を実施することにより、基幹相談支援センターの支援力向上を図ることとしてはどうか。 (圏域ごとの相談支援ネットワークの形成の推進) ○個人や世帯が抱える複雑化・多様化した課題に対応していくためには、断らない相談支援に取り組み、広域的に、相談機関に係る多職種や多機関が連携し、幅広いネットワークを構築していくことが大切である。その際、県内全域において、福祉の政策領域だけでなく他の政策領域とも連携して取組みを進める必要があることから、県は、県障害者自立支援協議会や各障害保健福祉圏域における相談支援ネットワーク形成等事業のこれまでの取組みを踏まえ、圏域ごとの相談支援ネットワークの再構築に向けた取組みを進めることとしてはどうか。 (自立支援協議会の活性化) 〇障がい者が地域で安心していきいきと暮らすためには、障がいに起因する生活課題の解決だけでなく、居住支援、成年後見制度等の権利擁護、再犯防止・更生支援などの他分野においても必要な対応がなされることが重要であり、そのためには、地域の障がい福祉のシステムづくりに関し、中核的役割を担う自立支援協議会がしっかりと機能してくことが重要である。県は、市町村と連携し、自立支援協議会の活性化に向け、他地域における好事例や運営ノウハウ等について情報提供するなどの取組みを進めることとしてはどうか。その際、新たな縦割りが生じないように、庁内横断的な体制を構築し、各部局が所掌する施策が有機的に連携するように配慮しながら取組みを進めることとしてはどうか。 (地域生活支援拠点の設置の促進) 〇地域生活支援拠点には、医療的ケアが必要な重症心身障害や遷延性意識障害、あるいは、強度行動障害、高次脳機能障害等の支援が難しい人への対応が十分に図られるよう、多職種連携の強化を図るとともに、緊急時の対応や備えについて、医療機関との連携も含め、地域全体で支援する協力体制を構築することが期待されている。県においては、地域生活支援拠点の整備済市町村数は12市町(令和2年度実績)と、障害福祉計画の目標値を下回っており、県は、市町村と連携を図り、地域生活支援拠点の整備が進むよう、全国の好事例の紹介、関係事業者による協議の場の設定等に努めることとしてはどうか。 (伴走型の支援の推進) 〇深刻化する「社会的孤立」に対応するため「つながり続けること」を目的とする支援として、「伴走型支援」が提唱されている。社会的孤立は、生きる意欲や働く意欲の低下、社会的サポートとつながらない等のリスクを生むことから、障がいがあることにより、さらに深刻な事態を招く恐れがある。これまでの「問題解決型支援」だけでなく、ひとりにさせない地域共生社会の実現を目指すことが大切である。 〇この伴走型支援を推進するに当たっては、相談支援専門員をはじめとする専門職、地域の様々な機関・団体、地域住民が、「ひとりにさせない地域共生社会」という地域の在り方について、理念を共有することが大事である。県は、市町村と連携し、地域の様々な人たちが出会い、学び合い、地域における多様なつながりが生まれやすくなる環境整備(プラットフォームづくり)を進めることとしてはどうか。 (包括的な相談支援体制の構築) 〇県内の各市町村における重層的支援体制整備事業を活用した包括的な相談支援体制の整備の進捗状況は様々である。このため、県は、各市町村における包括的な相談支援体制を構築するため、各市町村の課題の共有や意見交換を行う連絡会の開催や、全国の好事例を学ぶ研修会を実施すること等により、市町村の取組みを支援することとしてはどうか。また、その連絡会議等には、市町村社会福祉協議会、学識経験者、関係機関職員などにも参加してもらい、議論を進めることとしてはどうか。 これまでの主なご意見(相談支援体制の充実に関して) 〇県立施設が、地域の社会資源として、障がい者の地域生活支援や家族支援をしっかりと担っていくためには、自らが相談支援の機能を発揮し、各市町村の相談支援事業者との連携体制を構築することが重要である。このことが、県下で意思決定支援の取組みを広げていくためのエンジンになり得る。さらには、各市町村の基幹相談支援センターの支援を行うセンター・オブ・センターの機能も目指すことも今後検討すべきである。 〇県立施設は、障がい保健福祉圏域全般の基幹的な相談支援機能として、中井やまゆり園の「かながわA(エース)」のような機能を他の県立施設に導入していくことを検討すべきである。 〇長野県では、10の福祉圏域ごとに配置されている県地方事務所において、関係者による圏域調整会議(後の自立支援協議会に相当する会議体)が設置され、大規模県立施設である西駒郷の地域生活移行の話し合いがなされた。その後、福祉圏域ごとに総合支援センターが置かれ、在宅で暮らす人たちについて考えるケア会議や支援会議を開いたりし、地域生活移行のエンジンとして活動するとともに、グループホームを作るときに重い障がいの利用者を受け入れられるよう看護師を配置する県単補助制度などの施策につながっていった。神奈川県においても、相談支援体制の構築に向け、各県立施設がハブとなって、自立支援協議会の活動強化と相談支援事業所の広域連携などの取組みを進めることの可能性について検討すべきである。 〇人は、何か決定する前にも相談するし、決定した後も相談する。したがって意思決定支援は、常に相談相手がいないといけない。弱い人が、迷いながら何か決めているという前提で、「あなたの決定に他の人も関わりますよ」というのが意思決定支援である。意思決定支援を推進していくためには、相談支援体制を構築することが必須であり、県立施設がそういった相談支援体制の構築にどう関わってくのか、今後検討すべきである。 〇神奈川って当事者がいろんな会議の委員に出ていないんじゃないかなと思う。障害者自立支援協議会の委員について興味があるが、自立支援協議会委員という当事者も誰もいない。あとは、本当に神奈川を変えたいのならば、地域の民生委員にも入ってもらうといいと思う。障がい者ってやっぱり民生委員さんにつなげないと、自分たちの町を良くしようよって言っても、民生委員も各障がいの方を知らない方が多いので、民生委員さんも入れてほしいと思う。 〇自立支援協議会で取り上げる問題等を、根本的なところで見直してほしい。今、事業者の情報交換の場になっていると感じる。当事者の意見を聞くということも本当に必要。 関係団体ヒアリングでの主なご意見(相談支援体制の充実に関して) 〇特に在宅重度障がい者や知的・精神障がい者においては、地域との関わりも薄く孤独になりやすいと思われる。固定化したサービス メニューではなく、当事者が望む支援を把握し柔軟に対応できるような体制が必要。 (神奈川県身体障害者連合会) 〇障害者手帳が取得できない、ボーダーの方々や、家でひきこもっている多くの障がい者へアプローチをして、社会とつながり、孤立(本人も家族も)しないようにしていく。(神奈川県障害者地域作業所連絡協議会) 〇相談支援事業所や就労・生活支援センターと連携し、自立に向けてサポートしてほしい。(神奈川県自立生活支援センター) 〇現代においては障がいが多様化しており、メンタルの支援も必要。障がい者支援はスロープを作ればよいというものではない。人間関係が希薄になっており、人間関係を大切にする取組みが重要。( 〃 ) 〇広域地域生活拠点等事業(県立施設)地域生活支援拠点事業(市町村)双方の連携を行うことで一時的な役割と後方支援の重層的な面的整備の推進を図ること。(かながわ障がいケアマネジメント従事者ネットワーク) 〇県立施設には、広域の地域生活支援拠点等事業(県立施設等)の役割を担い、市町村域の地域生活支援事業との階層化を行い、 官民協働で地域課題の軽減・改善を進める機能が求められる。 ( 〃 ) 〇県と三政令市の連携強化、一体感のある人材育成の基盤整備、専門性の交流や共有等。( 〃 ) 〇自立支援協議会の開催状況など、県域地域での格差の是正も必要。(神奈川県手をつなぐ育成会) 〇相談支援事業所との連携により入所の専門性を生かし、自宅で暮らす障がい児者の所へも出向いて行って支援できる体制(クライシスプラン)が必要。(神奈川県自閉症協会) 〇夜間、休日の支援体制として、現状の体制では、緊急連絡を受ける職員への精神的な負担感が高く、今後さらにホーム等の拡充を するには、夜間も対応できる拠点づくりが必要と感じる。(神奈川県知的障害施設団体連合会) 〇地域生活を支える障がい福祉サービス事業所と、障がい者が緊急時等に受入れを行う障害者支援施設とがスムーズに連携できる体制が必要と考える。(神奈川県知的障害施設団体連合会) 〇在宅、グループホームの人をバックアップする生活支援センター機能の充実。その機能は、地域生活支援拠点事業で示されているが、一定のエリアごとに短期入所機能を持つ障害者支援施設が中心となり、地域の関係機関と連携して面的整備を行い、重層的支援が可能となる体制が必要だと考える。( 〃 ) 〇自立生活アシスタントのような生活面を支える個別支援(若しくは公的なサービス導入についての意識づけ等のインテーク支援)の体制づくり。( 〃 ) 〇近年、中軽度の発達障がい者で他害行為があるために、在宅やグループホームで対応できない事例、累犯障がい者の受入れ相談が増加傾向にある。虐待を受けて精神的な問題も重複する事例など、従来の重度の知的・身体障がい者だけでない対象者については、行政のバックアップの下で空床ベッドを確保し、先進的なモデル事業として、県下施設からの依頼を受けて対応してほしい。( 〃 ) 〇障害者支援施設には、地域自立支援協議会等に参画し、情報発信・共有を行い、官民協働で地域づくりを推進するための役割を担ってほしい。( 〃 ) (参考資料) 障がい児・者を対象とした障害福祉サービス体系 出典:後藤 博「障害者相談支援体制」(株式会社 第一生命研究所、2021) ●個別給付として提供される相談支援 ○一般相談支援事業(都道府県の指定) ・基本相談支援 ・地域相談支援→地域移行支援、地域定着支援 ○特定指定相談支援事業(市町村の指定) ・基本相談支援 ・計画相談支援→サービス利用支援、継続サービス利用支援 ●地域生活支援事業により提供される相談支援 ・適切な事業者への委託が可能(一般相談支援事業、特定指定相談事業) ○障害者相談支援事業:主に個別給付による相談支援対象外となる障がい者等への相談支援 ○基幹相談支援センター:地域の相談支援の中核的機関、総合的・専門的相談支援、相談支援体制の強化の取組等 ◎市町村 ●自立支援給付 ○介護給付 ・居宅介護(ホームヘルプ) ・重度訪問介護 ・施設入所支援等 ○訓練等給付 ・自立訓練(機能訓練・生活訓練) ・就労移行支援 ・自立生活援助等 ○相談支援 ・地域相談支援 ・計画相談支援 ○自立支援医療 ・更生医療・育成医療 ・精神通院医療等 ○補装具 ○特定障害者特別給付 ○高額障害福祉サービス等給付 ○児童福祉法 ○障害児相談支援 ○障害児通所支援 ○障害児入所支援 ●地域生活支援事業 ○地域生活支援事業(市町村)(必須事項) ・理解促進研修・啓蒙 ・計画相談支援 ・自発的活動支援 ・地域活動支援センター機能強化 等 ◎都道府県 [市町村に対して支援の矢印] ○地域生活支援事業(都道府県)(必須事項) ・専門性の高い相談支援 ・専門性の高い意思疎通支援者の養成・派遣 ・広域的な支援 ・相談支援者指導養成育成事業  等