資料2-3 障がい福祉施策の充実強化が必要ではないか(論点案〜大事項) 障害者支援施設からの地域生活への移行を進める方策についてどう考えるか (1)現状・課題 ○障害者総合支援法の基本理念である「どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することが妨げられないこと」を踏まえ、本県でも、国の障害福祉計画指針に基づき、障害者支援施設(以下「入所施設」という。)の入所者の地域生活への移行を進めるため、障害福祉サービス等の基盤整備等に取り組んできた。 ○グループホームや日中活動系サービスの利用者数の推移を見ると、年々増加しており、入所施設以外の暮らしの場としての整備は一定程度進んでいると思われる。 ○しかし、神奈川の第5期障害福祉計画において、平成28年度末時点の福祉施設入所者のうち約10%となる470人が移行することを目標としたが、実績は、平成28年度末時点入所者のうち3.6%となる 175人であり、目標を大幅に下回っている。 ○グループホーム利用者の障害支援区分別の構成を見てみると、利用者数の増加に伴い、各障害支援区分の利用者数は増加しているが、その構成比にほとんど変化はなく、詳細な分析は必要であるものの、障害者支援施設に入所している障害支援区分5、6の人の地域生活への移行が進んでいない可能性が考えられる。一方、入所施設の利用者の障害支援区分別の推移を見ると、障害支援区分5、6の人の割合が年々増加している。 ○第98回社会保障審議会障害者部会では、全国的にも、施設入所者の重度化・高齢化により、入所施設からの退所は入院・死亡を理由とする割合が年々高まってきており、グループホームなどへの地域生活移行者数は減少傾向にあると報告されている。 ○障がいの重い人が地域で安心して生活できる取組みとして、平成30年度から日中サービス支援型グループホームが創設された。神奈川においては、令和3年6月現在の整備数は22か所である。 ○また、神奈川では、県立障害者支援施設から地域生活移行を進めるため、その利用者をグループホームで受け入れた場合にグループホームの改修経費や人件費などの補助を行っており、グループホームの改修経費については、令和元年度1件、令和2年度0件、職員加配の実績については、令和元年2件、令和2年度3件だった。重度障がい者にも対応する日中活動の場の新規整備に対する補助については、令和元年度1件、令和2年度1件であった。 ○「障害者支援のあり方に関する実態調査」(平成30年度 厚生労働省障害者総合福祉推進事業)によると、地域移行に取り組んでいない施設に、その理由を聞いたところ、「地域での居住の場(グループホーム等)が少ない」が41.8%となっている一方、「入所者にとって施 設の支援が一番適切であるため、地域移行は不要」という回答が37.4%であった。?? ○措置制度の時代から継続して入所している人も多く、必ずしも、本人の意向で施設に入所したわけではないことに留意する必要があ る。また、入所すること自体が目的化しているのではないかとの指摘もある。「障害者支援施設における地域移行の実態調査及び意思決定支援の取り組み推進のための調査研究事業」(令和2年度 厚生労働省障害者総合福祉推進事業)では、現在の入所者の地域移行の可能性について調査しており、施設が入所者の地域移行についての意向を把握しているのは調査対象者の約3.8%に留まっていたとの結果もある。改めて、入所者一人ひとりの意向を確認し、本人の願いや希望に寄り添った支援が求められている。 ○長期間、入所施設に入所している方が多く、施設内で全て完結させてしまう支援となりがちであることから、社会経験の機会が少ない。そもそも地域生活を知らない方を地域に移行させることに無理があるのではないかとの指摘もあり、様々な社会経験を積んでもらうことが必要である。また、仲間や友だちの重要性も指摘されており、地域における人とのつながりを広げていく取組みも必要である。 ○地域生活移行に当たっては、相談支援専門員との連携が欠かせないが、相談支援専門員や相談支援事業者の数が不足している現状があり、施設の入所者一人ひとりに十分関われていないことが推測される。さらに、障害者支援施設に入所している人を対象に、住居の確保その他の地域生活へ移行するための支援を行う「地域移行支援」の利用実績も低い。 ○地域生活移行を推進する一方で、「施設か地域という対立構造ではなく、施設も住まいの場としての選択肢の一つとして位置付けてはどうか」との意見もある。障がいのある人の市民としての権利を保障し、本人が選択した暮らしの実現に向けて支援することは当然である。「どこ」で暮らすということだけでなく、「どのような」暮らしをするのかが重要であり、支援の内容と質が問われている。 (2)検討の方向性 (当事者目線の支援の推進) ○本人の望みや願いを第一に考え、本人の可能性を最大限に引き出すために、障がい当事者一人ひとりの意思を確認する必要がある。 どこで誰と生活するか、どのような暮らしを望んでいるのかについて、入所施設は、施設の入所者一人ひとりの自己決定を尊重し、その意向に沿った支援を行うため、全県展開を視野に、意思決定支援に取り組むこととしてはどうか。 ○特に、県立施設は重度の障がいの人が多いとされており、どんなに重い障がいがあっても障がい当事者には必ず意思があるという前提に立ち、自ら意思を決定することに困難を抱える障がい者の意思決定に、率先して取り組むこととしてはどうか。 (施設内における地域生活移行の促進体制の構築) ○ 入所施設からの地域生活への移行を促進していくためには、家族や後見人、相談支援専門員、事業所、行政等との連携が欠かせない。入所施設は、相談支援専門員や支援担当の職員だけに任せるのではなく、施設においても組織として積極的に対応することが重要である。県は、意思決定支援を行うとともに、地域生活移行の取組みを担う専任の職員を配置した施設に対し、財政的な支援を検討することとしてはどうか。 (社会経験等の拡大) ○施設の支援が、施設での安定を目指したものであり、地域で生活することを踏まえた支援になっていないことから、入所施設の入所者は社会経験が少ないとの指摘がある。入所施設は、入所者一人ひとりに対し、地域で生活するということがどういうものなのか考え、生活が豊かになるよう外出など余暇の充実や社会参加等に取り組むこととし、県は、その実現に向けて支援することとしてはどうか。 ○入所施設での日中活動を充実することは、地域生活移行の鍵であるとの意見もあり、入所施設における日中活動については、できる限り、施設の外に出ていく工夫をすべきである。経営の規模が大きな法人であれば、そうした事業展開が可能だが、小規模法人などは難しい場合も多い。入所施設は、法人の枠を超えて、連携・協力できる体制の整備に取り組むこととし、県は、その実現に向けた支援を行うこととしてはどうか。 ○施設入所者に入所施設以外の住まいの場があることを知ってもらうために、県は、体験専用のグループホームや小規模なサテライト型の入所施設を利用することのできる機会を設け、誰もが気軽に体験することができるよう取り組んではどうか。? (地域におけるネットワークづくり) ○入所施設は地域との関係性が希薄になりがちであるため、地域の自治会等に参加するなど、地域とのつながりを深め、障がい対する理解促進に努めることが重要である。さらに、「地域をつくる」という視点に立ち、所在地域、あるいは圏域の自立支援協議会等に積極的に参加し、現状の取組みや課題等を共有し、地域関係者によるネットワークの構築に努めることとし、県は、その実現に向けた支援を行うこととしてはどうか。 ○地域生活移行した人が、何らかの理由で生活することが困難になった場合は、本人の意向を踏まえ、入所施設等は必要に応じて受入れ、再度、地域生活に移行できるよう支援を行うこととしてはどうか。また、協議会等で受入れについて検討するなど、地域で支えることとし、その仕組みづくりを行うこととしてはどうか。 (重度障がいのある人等の地域生活移行) ○重度障がい者が多く入所している県立施設こそ、地域生活移行に全力を尽くし、どんなに障がいの重い人も地域生活が可能であるということを証明する必要がある。施設内の体制構築はもちろんであるが、重度障がい者に対応できるグループホームや日中活動の場を設置(委託も想定)し、地域生活への移行に取り組んではどうか。 ○また、こうした県立施設の取組みを踏まえ、県は、重度障がい者の地域生活移行に関するノウハウを蓄積し、県内の入所施設に情報発信していくこととしてはどうか。 (地域資源の充実) ○本人が「住まいの場」を自分の意思で選択するためには、行政は関係者と連携し、多様な「住まいの場」を確保する必要がある。入所施設は、住まいの場の社会資源として、その必要性も含め、どのように位置付けていくべきかについて、議論する必要があるのではないか。 ※入所施設のあり方(必要性も含む)については、別途検討する予定。 これまでの主なご意見(地域生活移行に関して) ○重度といわれる、医療的ケア、行動障がいのある人については、今でもグループホームというのは、なかなか基盤が整備されていない。重度の人が地域で生活するには、報酬も含めてまだ十分ではない。国立、県立では財源を上乗せしてやるべきだと強く思っている。 ○先般の、西駒郷の今後のあり方の検討会結果では、強度行動障がいのある人が残っていて、なかなか今後、そういう方たちの地域生活が進まないということだったが、是非そういう人についても地域生活移行に取り組むべきである。 ○西駒郷の基本構想を実現するには、どうしてもエンジンが必要である。県庁や西駒郷の現地に、専門の部署を作ったが、地域生活移行を推進する体制としては大きかった。 ○県立施設の今後としては、地域共生社会の実現に向けて、どんなに障がいの重い人も地域生活が可能であるということを証明してほしい。是非、地域生活移行及び地域生活支援に全力を尽くしていただきたい。 ○他県の廃止が決まった入所施設の事例であるが、地域生活を知らない人を地域に移行させるというのは、もともと無理があることから、社会経験を積んでもらうということを、この2年の間にやっていくということを計画している。 ○入所施設は「能力存在推定」を示さなければならない。一人ひとりの可能性を示す。そのことが、地域に戻っていく一つのきっかけになり、理解者を増やすことになる。そのためには、本当に施設の中で完結する支援では無理だ。 ○地域で行き場を失った人が来所されると、「何のために来たのか」、「どこへ向かっていくのか」という、約束と合意を経て入所することが必要だ。そうでないと、入所での生活に、全く目的意識を失って、何のためにそこにいるのか、どこに向かっているのか、支援職員、利用者ともに見失っていくことになる。 ○地域に戻っていくというのは、本当に関わる人が増えていく、居場所が増えていくということを意味する。 〇地域生活移行の鍵は、確実に日中活動である。日中活動がしっかりとあれば、あとはグループホームなど寝る場所が変わるだけなので、障がい当事者も、地域での不安というのが先に解消される。 ○既存の社会福祉事業者の中で、県立施設よりも、はるかに能力のある入所施設はある。そういったところといろいろ相談をしながら、基盤を整備していくことができるのではないか。 ○単にグループホームであれば良いということではなく、やはりその支援の内容、それが非常に重要だと思っている。 関係団体ヒアリングでの主なご意見(地域生活移行に関して) ○選択肢を増やす必要がある。最近、自己決定という言葉を使わなくなってきたが、家族との関係の中でサービスの利用が限られたり、自分が選択しなくても済むようなことは今もある。今日何を食べようか考えなくても済む。選択肢を増やすためには自立生活ってこんなことだよと経験してもらう必要がある。相談支援やピアカウンセリングを行う当事者とのつながりを大切にしてほしい。 ○将来外に出るとき、どんな生活ができるか、思い描いて支援をすることが大切。長く施設にいるのではなく、地域移行に向けて先を見ることが重要。 ○相談支援やオンブズマン、ピアカウンセリング等を行っている当事者を支援者として入れるとよい。(神奈川県自立生活支援センター) ○地域における重層的支援体制の構築や自立支援協議会等を活用した地域移行のための地域ネットワークの促進が必要である。 ○地域移行がいざ具体化すると、主に家族、地域の支援者が社会的障壁となりやすい。 ○「地域生活支援型」入所機能と標榜して位置づけ、とりわけ家族との生活から、地域で支援を受けながらの生活へと「生活の再構築を図る」取組みを、入所前から退所後の地域定着を含め、一貫した支援を積み上げることが重要と考えている。 ○地域移行後に健康面、行動面等で支援が必要になった時は戻って充電できることも大事。横断型、循環型サービスを確保することが望ましい。(神奈川県知的障害施設団体連合会) ○ 入所施設における意思決定支援の取組みと体制整備(全県展開)。津久井やまゆり園の意思決定支援を全県展開するべき。 ○地域移行が主として法人内で行われているのが実状で、法人内で可能な地域移行しか進まない。法人を超えた地域移行を進めるための役割を県が果たすべき。(かながわ障がいケアマネジメント従事者ネットワーク) ○法人ごとに支援のやり方や考え方が異なっているために、法人を超えて地域生活を支えることができない現実がある。各法人が連携したオール神奈川の取組みを県がすすめるべき。本人の選択肢が広がる。 ○本人の外の状況を含めて、入所施設とグループホーム等が共通の認識を持つことが大切。グループホームがグループホームでの生活が可能と思っても、施設ができないと思うこともある。 (日本グループホーム学会) ○グループホームの量的な整備は進んでいるものの、重度の利用者の受入れを拒む事業所も散見される。日中支援を支える人材が少ないことも課題の1つである。(神奈川セルプセンター) ○地域生活に移行した利用者へのフォローアップ。グループホームの職員が支援に困った時のアドバイス等が必要である。(神奈川障害者地域作業所連絡協議会) ○地域と施設が対立構造になるのではなく、本人の希望に沿った生活を実現するために、連携できるとよい。(きょうされん) 福祉施設から地域生活移行後の住まいの場について 図表。左から、年度、共同生活、家庭復帰、公営住宅・一般住宅、その他、合計 平成26年度、46、35、2、3、86 平成27年度、50、14、1、0、65 平成28年度、28、13、1、0、42 平成29年度、20、6、6、32 平成30年度、34、10、3、0、47 令和元年度、46、5、1、0、52 令和2年度、36、4、2、2、44 入所施設とグループホームの利用状況について 左から年度、入所施設、グループホーム。単位は人。 平成22年度、3915、5136 平成23年度、4684、5445 平成24年度、5118、5928 平成25年度、5113、6470 平成26年度、5050、6742 平成27年度、5049、7294 平成28年度、5000、7968 平成29年度、4888、8148 平成30年度、4878、8748 令和元年度、4803、9442