(1ページ) 当事者目線の障がい福祉に係る将来展望検討委員会 第6回(令和3年11月24日)資料1 支援の難しい人の地域生活の場を広げるためには何が必要か 障害のある人とと援助者でつくる日本グループホーム学会 事務局長室津滋樹 (2ページ) 地域生活の場を広げるために ○現在、多くの場合、地域の暮らしへの移行は、同一法人内で行われている。 ○法人内の入所施設から、同じ法人の相談事業所、グループホーム、日中活動、ホームヘルパー事業所へ。 ○結果として、地域の偏在が起きやすい。 ○地域生活の場を広げるためには、法人を超えた地域の暮らしへの移行が必要。 ○しかし、法人を超えた地域の暮らしへの移行は、困難だと考えられてきた。 (3ページ) 地域生活移行と行動障害への対応が必要な人の支援に関するアンケート調査 ○6年前の横浜市グループホーム連絡会が行った調査。 ○横浜市グループホーム連絡会は横浜市の運営委員会型(知的障害者、身体障害者)グループホームの連絡会 ○2015年6月6日から7月6日の期間に、地域生活移行と行動障害への対応が必要な人の支援に関するアンケート調査をおこなった。 ○発送数153ホームに対して回答があったのは64ホームで、回答率は41パーセントになった。 ○回答のあった調査から集計した入居者数は327名(男性248名、女性79名)、障害別に見ると知的障害291名、精神障害21名、身体障害49名(重複あり)であった。 ○アンケート調査の内容から、その障害に該当する人がいないと考えているところからは回答がない場合が多いと思われ、支援者が日々の支援がむずかしいと感じているグループホームからの回答が多いのではないかと考えられる。 (4ページ) 同一法人でないと入所施設からグループホームヘの移行はむずかしいと思うか? ○同一法人でないとむずかしい 7 ○そうは思わない 32 (5ページ) 〈同一法人でないとむずかしい〉と考えている人のおもな自由記述 ○専門的な支援を実施するにあたり、支援に関する継続的なノウハウ、支援計画等の引き継ぎが、同一法人でないとむずかしい。 ○本人をまったく知らない人が支援するのは、むずかしい。 ○行動障害のある人の移行はバックアップ体制が整っていないとグループホームだけで見ていくのは困難である。バックアップ体制を整えるには、同一法人でないとむずかしいと思う。 ○同一法人の方が情報を共有しやすい。 ○移行後の支援に関する相談やバックアップの必要がでてくると思うので同ー法人でないと連携がむずかしいと思う。 (6ページ) 〈そうは思わない〉と考えている人のおもな自由記述 ○法人がちがっても、情報、意見の交換を密におこなえば支援は可能。 ○本人の特性やニーズをくみ取ることはむずかしいが情報を共有し、支援体制を整えることで可能。 ○もとの法人の支援者との連携・協力体制があれば、支援が可能。 ○きちんと情報交換や体験入居などを通して引き継ぎができる体制が整っていれば可能。 ○情報の共有と地域での生活への支援の連携ができれば同一法人にこだわる必要はないのではないか。 ○支援のノウハウや支援計画を引き継ぎ、本人の情報を共有できていれば、支援していける。 ○その人にとって環境や支援者がかわるということでは、同一法人であろうとなかろうと同じ。 ○新しい環境や支援者がはいることで、本人の可能性や選択の幅が広がる。 ○家族と同居している人がグループホームに入居するときと変わりはない。 ○同ー法人にこだわることよりも、その人がもともと生活していた地域に戻ることが大切。 (7ページ) 入所施設からグループホームヘ移行するときに必要な支援について ○入所施設担当者と協働して入居者のアセスメントと支援の組立を行う人員 39 ○移行前の入所施設によるバックアップ等 35 ○計画相談等によって地域全体で本人の支援について検討するしくみ 29 ○移行にとりくむ専門のワーカーを区・市に配置する 24 ○その他自由記述 (8ページ) その他自由記述 ○現場で対応できる援助者、日中やグループホームをつなぐ援助者、相談できる体制。 ○入所施設での本人の情報について、入所施設にいるときのアセスメント・必要な支援・情報。 ○グループホーム職員が本人の情報をあちこちから集めるのではなく、間にたって、本人の情報を集め、移行後の支援の組み立てやアドバイスをおこなってくれる人がいるとよい。 ○入居後にも本人のことをよく知っている人がかかわり、グループホームでの生活・支援の組み立てに継続的にかかわること。 ○移行後についても、特に安定するまでは本人の変化をずっと見守っていく外部からの見守りがあると安心。 ○環境変化によってそれまでとは異なる課題が出てくると思うので、それに対応できるように支援していく。 ○グループホームでの生活・支援が行き詰まってしまったときの、バックアップ体制(人・場所)。 ○入所施設との関係がない場合、移行を希望している人のニーズを知ることができない。希望者のニーズを把握する機関とそれをつなげる人が必要。 (9ページ) 事例1 ○障害について ○障害名:自閉症、重度知的障害、区分5 ○援助の必要なこと;環境の構造化、視覚的な支援を用いた日々のスケジュールの提示。支援者の統一した支援、関わり。 ○障害の概略;日々の生活において行動がパターン化しやすく、パターン化した行動を変えるのは困難。また天候の変化に過敏で、特に晴れから曇り、雨に変わったときなど、不安定になりやすい。不安定さが強くなると大声で叫ぶ、物、人を噛むことがある。言葉の理解は困難で、言葉で関わると混乱することが多い。写真やイラストなど、視覚的なものは強い。 (10ページ) 事例1 ○重度訪問介護開始時から、行動障害の人のアセスメントをどのようにするかということから始まった行動障害プロジェクトという法人を超えた勉強会をはじめた。 ○近隣の活動ホーム等通所の場所、グループホーム、ヘルパー事業所が集まっての会議で、それぞれの抱えている事例を持ち寄って、行動障害に関わってきた人をアドバイザーとして、おこなっていた。 ○行動障害という障害について、正しい理解がないままに向き合っていることも多くあり、行動障害について、学ぶ機会ともなっていた。 (11ページ) ○活動ホーム通所。平日週一回のペースで活動ホームのショートステイをおこなっていた。 ○2019年(平成31年)3月お父さんの長期入院により実家での生活がむずかしくなった。 ○そこからは本人が自宅に戻れる状態になることはなく、相談担当者が、活動ホーム、入所施設等のショートステイ、短期入所で日々を埋め、転々とする生活となった。 ○2019年(平成31年)3月グループホームでは、グループホームの改修にともなって、行動障害の人の入居できるグループホームを検討していた。その入居者の候補として名前があがり、入居を可能にするためにどうすればいいかを検討することとなった。 (12ページ) 2019年(令和元年)9月 ○2019年(令和元年)9月 グループホーム入居を目指して、入所施設で3ヶ月のミドルステイを実施。その間、横浜市発達障害者支援センターの発達障害地域生活支援マネジャーが関わって、グループホーム入居後の生活の仕方を検討する。 ○本人のアセスメントをすすめ、生活がパターン化しないよう、本人が理解できる生活のスケジュール、外出用のスケジュールの作成。また、本人が自立できることはないか検討し、本人用の手順書をつくりグループホーム入居までにハミガキ、洗濯ものを干すことは自分でやれる流れになった。 (13ページ) 2019年(令和元年)12月 グループホーム入居。 ○生活支援マネジャーは準備段階から入居後も関わりを持ち、援助者側の支援をおこなうことで、環境が変わっても可能な限り生活の仕方が変わらない生活を試みた。 ○最初は、ミドルステイ中の生活の仕方と同じ方法でグループホームの生活をはじめた。 ○現在、入居直後、不安定な時期もあったが、乗り越え、現在の生活にいたっている。 ○これまでの経過の中では、本人の不安定さのみではなく、援助者の理解の未熟さから、本人の流れを崩してしまい、不安定さを招くことも起きている。援助者側のチームワークを立て直すことに力を貸すのも、生活支援マネージャーの役割の一つ。 (14ページ) 通所先職員の継続した支援が移行を可能にした 事例2 ○障害について ○身体障害者手帳;脳性麻痺による体幹機能障害2級、愛の手帳 A1 ○区分6 ○全介助、言葉でのコミュニケーション困難、車椅子利用 (15ページ) 事例2 ○作業所に通所していた。もともと、母子二人暮らしで、母から離れる経験も少なく、入浴もできていなかったので、本人の経験を増やすためと、母の負担を減らすために、作業所と同じ法人の活動ホームの一時ケアとショートステイ(横浜市制度)を利用していた。 ○母の体調不良の時には、近くに住む妹さんが対応できたため、数日間のグループホームの体験入居と活動ホームのショートステイで乗り切り、自宅に戻っていた。 ○家を離れて泊まりをする時は、本人はほとんど眠らなかったため、さらに定期的な泊まりを入れ、入所施設への入所希望を出していた。 ○しかし、ご家族、ご本人の希望はグループホーム入居であった。 (16ページ) 事例2 ○それから1年くらい後、通所先から本人が自宅に帰った後、母が倒れて意識がないと妹さんから連絡があった。母は意識を失う前にご自身の異変を察知。妹さんに自分で電話をかけていた。通所先の車で迎えにいくと、本人が1人で泣いていた。 ○その日から本人が家に帰ることはなかった。計画相談はまだなかったので、通所先、グループホームと相談事業所で協力しながら、日々の生活対応をおこなった。また、可能な限りの入所施設を登録し、また短期入所施設を申し込んだ。 ○本人は、毎日自分がどこに連れていかれるか不安だったし、コミュニケーションも取れなかったので大変だったと思うが、母が倒れたのを見ていたためか、家に帰ると言ったことはない。不安や淋しさでよく泣いていたが、泊まりに行きたくないと拒否することもなかった。 ○入所がきまった。(H16年7月)施設に入所している時にも時々、作業所とグループホームの泊まりを入れていた。 (17ページ) 事例2 ○グループホームに入居したのは、H17年10月。新しいグループホームを立ち上げた時に入所施設を退所して、グループホームに移った。 ○入所施設で1年がたっていたので、本人がグループホームに移るということについて、理解ができず、本人の了解を得るのが困難な状況であった。 ○通所先職員の継続した支援が移行を可能にしたと思う (18ページ) 地域生活の場を広げるために ○行動障害のある人たちの援助については、多くの場合、行動障害のある人たちの援助を中心に行っている法人が取り組んでいることが多い。 ○そのような法人がグループホームを設立して、法人内の入所施設からグループホームでの生活に移るという流れで、行動障害の人たちの生活の場は作られてきた。 ○しかしこのやり方では法人を超えて行動障害のある人たちの援助のノウハウについて広げていくことが思うようにすすまず、特定の法人だけで行動障害の人たちの生活を支えていくことになる。特定の法人だけで行動障害の人たちの生活を支えていくことの限界も生じている。 (19ページ) 行動障害の人たちの暮らしを地域で支えるために必要なこと ○日本グループホーム学会が 2017 年に行ったパネルディスカッション「行動障害の人たちの暮らしを地域で支えるために必要なこと」の中で、参加者から自閉症の人を受け入れるつもりはあるがどうすればいいかわからないという声が多く聞かれた。 ○2013 年、強度行動障害支援者養成研修が全国的に取り組まれるようになり、行動障害のある人たちへの理解は進みつつあるが、一方で、研修は受けたものの具体的にどうすればいいのかわからないという現状も多く見聞きするところである。 (20ページ) 福岡市の強度行動障がい者集中支援モデル事業 ○福岡市は県内の入所施設で起きた虐待事件を発端に、強度行動障がいのある人が住み慣れた地域でサービスを利用して生活していけるような体制づくりを目指して強度行動障がい者支援事業を行っている。 ○市が設置した調査研究会を中心に、実態調査をふまえて、 ○@支援研修事業 ○A共同支援事業 ○B集中支援事業 を徐々に拡充している。 ○@支援研修事業で実践的な専門研修を行って支援者を養成 ○A共同支援事業で支援の引継ぎや支援方法の統一などを行い支援できる事業所を増やし ○B集中支援事業で行動問題を軽減させて、地域の障がい福祉サービスを利用して生活できる行動障がい者を増やすことを目指している。 (21ページ) 東大阪市の市内事業所の横のつながりとそれを活用した支援事例(行動障害のある人) ○大阪府東大阪市では、1970 年代からの複数の系統の運動をルーツに持つ団体・法人がそれぞれに活動してきたが、支援費制度、障害者自立支援法と変化する制度状況の中で他法人とも連携する必要性が認識され始め、連絡会等の法人を超えたつながりづくりを進めた。 ○また、大阪府の大規模入所施設からの地域移行を巡る流れの中で、一法人ではなく、多法人・多事業所が連携して地域移行に取り組んでいく体制づくりを行ってきた。 ○それらの横のつながりを活かして情報収集し、行動障害のある人の支援に外部のスーパーバイザーを活用している事業所もある。 (22ページ) 行動障害の人たちを受け入れる取り組みの要点 ○東大阪市と福岡市の取り組みは、まだ数としては少ないものの、特化した法人以外のグループホームで行動障害のある人たちを受け入れることを実現している。 ○取り組みの中心となるところがあること ○現場で行動障害の人に関われる人材を育成すること ○事業所間をつなぐ相談との連携 ○受け入れ先の開拓と拡大(グループホーム、日中活動先、居宅介護事業所) ○国、自治体の関わり、制度、しくみとしての後ろ盾 (23ページ) 取り組みの中心となるところがあること ○これらの事例においては、その地域の行動障害の人たちの支援活動を担ってきた人たちが核となって、法人を超えて支援の裾野を広げていく取り組みを地域的に展開しているが、このことが必要なことと思う。 (24ページ) 現場で行動障害の人に関われる人材を育成すること ○行動障害の人たちの支援をやるつもりはあるけれど、具体的なやり方がわからないということで行き詰まっている場合には、具体的に何をどうすればいいかを現場の援助者と一緒に考え、取り組みを進めることが有効である。 ○行動障害の人を支援してきた経験のある人が、これから行動障害の人の支援をやろうとする現場に来て、実際に支援を進めながら現場に即した課題解決に関わることを実現できるようにすることが必要であると思う。 ○そもそも支援の基本となるアセスメントについて、どのような考え方でアセスメントを行い、どのような支援を実現すれば安定した生活ができるのかを具体的に進めていく機能が必要となると思う。 (25ページ) 事業所間をつなぐ相談との連携 ○相談事業所の中には行動障害に関する知識を持っていないところも見受けられる。 ○また通所先の援助者への研修も十分に行われていないため、行動障害の人たちの生活において、事業所ごとの考え方が共有されていないという現実があると思われる。 ○事業所ごとにやり方が異なると、例えば行動障害の人の通所先とグループホームで支援方法が異なることとなり、その人の支援の流れがうまく作れないということが起こる。 ○障害についての共通の理解と共通のやり方で進めるためにも、事業所間をつなぐ役割を担う相談支援員の理解を進め、事業所間の連携をスムーズにすることが重要である。 (26ページ) 受け入れ先の開拓と拡大(グループホーム、日中活動先、居宅介護事業所) ○福岡市の事例においても、受け入れ先を確保することの困難性が出されているが、援助のむずかしい人たちの地域での生活を進めていくためには、受け入れ先となるグループホーム、日中活動先、居宅介護事業所等の整備が重要な課題となる。 ○特にグループホームについては日中活動などと比較して、常勤職員の割合が低く、多くの非常勤者だけに支えられているという援助力の弱さがあり、このような状況を変えていかないと安定した受け入れ先となることがむずかしいのではないだろうか。 ○グループホームの支援者が確保できないことなど、グループホーム制度そのものの弱さを改善していく努力を行っていかないと受け入れ先の確保がむずかしい。 (27ページ) 国、自治体の関わり、制度、しくみとしての後ろ盾 ○行動障害のある人たちを安心して受け入れることができる地域基盤は、関係者の努力と自主的な取り組みだけでは実現できない。 ○自主的な取り組みが存在することが重要なことであるが、その取り組みから生み出された方法を継続可能なものにしていくためには、自治体の関わりがなくてはならない。 ○行動障害のある人たちを支える基盤整備については、時間をかけて地道な取り組みを進めることが不可避であることから、東大阪市の事例に見られるように自治体の制度が頻繁に変わってしまうことは避けなくてはならない。 ○進め方や方向性を共有した自治体との協同の取り組みが必要である。 ○また、研修受講などを機会として、行動障害の人の支援を現場に活かして取り組みたいと思っている人が出てきても、法人や事業所がその気にならないということもある。組織的に取り組まないと、援助者個人の意識だけでは取り組みは実現できない。法人や事業所への啓発や理解を進めることについても、自治体の関わりは重要になる。