障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会報告書(案) 令和3年3月 障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会 目次 はじめに、1ページ T利用者目線の支援とは、2ページ U検証、4ページ 1検証の対象とした県立障害者支援施設について、4ページ 2検証の方法、7ページ 3検証結果、10ページ (1)津久井やまゆり園、10ページ (2)県立直営施設、24ページ ア中井やまゆり園、24ページ イさがみ緑風園、33ページ (3)指定管理施設、42ページ ア愛名やまゆり園、42ページ イ厚木精華園、57ページ ウ三浦しらとり園、66ページ (4)県の関与に関する調査、74ページ 4全体考察、78ページ V利用者目線の支援の実践に向けて、90ページ 1虐待ゼロの実現を目指した取組み、91ページ 2行動障がいを軽減するための支援技術の向上(身体拘束によらない支援)、93ページ 3意思決定支援の推進、94ページ 4利用者目線の支援を支えるための組織的な体制づくり、96ページ 5県の取組み、100ページ Wさらなる検討の方向性、102ページ 1地域共生社会の実現に向けて、102ページ 2県におけるこれまでの障がい福祉行政の振り返り、102ページ 3県立障害者支援施設のあり方を含めた利用者目線の支援の推進方策について、102ページ 委員名簿及び開催状況、103ページ 参考資料一覧、103ページ (1ページ) はじめに 平成28年7月26日、津久井やまゆり園において19人の尊い生命が奪われるとともに、27人が負傷するという大変痛ましい事件が発生したことを受け、神奈川県(以下「県」という。)では、同年10月14日、神奈川県議会とともに「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定した。 その後、県では、平成29年10月に「津久井やまゆり園再生基本構想」を策定し、これに基づき、利用者の意思決定支援や施設整備に取り組んできた。 ところが、令和元年11月に愛名やまゆり園の元園長が逮捕された事件を機に、かつての津久井やまゆり園の利用者支援に関し、不適切な支援が行われてきたと指摘する情報が県に寄せられたことから、県では、指定管理の基本協定に基づく随時モニタリングを実施し、津久井やまゆり園の利用者支援について検証を行った。 県では、随時モニタリングを進める中で、県内部による検証だけでなく、障がい者支援や権利擁護などの専門家の視点から深く調査する必要があると判断し、令和2年1月に津久井やまゆり園利用者支援検証委員会(以下「検証委員会」という。)を設置した。 検証委員会では、津久井やまゆり園の利用者支援、指定管理者である社会福祉法人かながわ共同会のガバナンス体制及び施設設置者である県の関与の3つに分けて検証を行い、職員のヒアリングも予定していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から実施を見送り、令和2年5月に、それまでに収集した各種資料等から確認できた課題と今後の改善の方向性について、中間報告書を取りまとめた。 中間報告書では、検証によって明らかになった課題は津久井やまゆり園だけではなく、他の障害者支援施設にも当てはまる普遍的な課題であると考えられることから、検証対象を他の県立障害者支援施設に拡大し、身体拘束への対応も含め利用者支援等について、更なる検証が必要であるとされた。 このことを受けて、県では、検証委員会を発展的に改組し、「神奈川県障害者施策審議会」の部会として、「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会」(以下「検討部会」という。)を令和2年7月に設置した。 この検討部会は、津久井やまゆり園に加え、県立障害者支援施設のうち、県直営の中井やまゆり園、さがみ緑風園、指定管理施設の愛名やまゆり園、厚木精華園、三浦しらとり園の合計6施設を対象として、支援の検証を行うとともに、利用者目線の支援など、障害者支援施設における未来志向の支援のあり方を検討することを目的とし、7回の検討部会における審議のほか6施設へのヒアリングを行い、この報告書を取りまとめた。 本報告書が、障害者支援施設における支援の振り返りにつながるとともに、利用者の生活の質の向上がより一層図られることを期待する。 最後に、今回の検証に際して、検証対象の県立障害者支援施設の職員及び指定管理者の法人職員の方々には、御多忙の中、真摯に御対応いただき、改めて、お礼を申し上げる。 (2ページ) T利用者目線の支援とは 検討部会では、利用者目線の支援について、「『利用者のためにはこれが良い』という支援者側の目線ではなく、どんなに重い障がいがあっても、利用者本人には必ず意思があるという理解に立ち、本人を中心に、本人の望みや願いを第一に考え、本人の可能性を最大限に引き出す支援を行うこと」と考える。 (背景となる考え方) 「利用者目線の支援」と同様の考え方として、障がい者の相談支援などで言及される本人中心の支援計画及びそれに基づく支援がある。これは本人を中心として、本人の望みや願いに基づき、その実現に向けて、どのような支援が必要か、本人とともに立案する支援計画である。 本人中心の支援計画及びそれに基づく支援とも関わる「意思決定支援」の考え方の背景には、障害者権利条約(2014年批准)の成立に象徴される、判断能力に困難を抱える人に対する理解の世界的なパラダイム転換がある。すなわち、こうした人に対する、旧来からの理解は、「判断能力が不十分であるので、他者が本人に代わって適切な判断をしてあげなければならない」というもの(能力不存在推定)であるが、パラダイム転換後の理解は、「どんなに重い障がいがあっても、本人には必ず意思があり、支援を受ければ、意思決定ができる」というもの(能力存在推定)である。この考え方は、「利用者目線の支援」の前提として大変重要である。 なお、次に示すように、近年の国内法においても、障がい者の人権と尊厳が重んじられること、その人格と個性を尊重しあうことが謳われており、こうした視点も利用者目線と符合することである。 (参考1)  ○障害者基本法改正(2011) 「全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有する」ことを前提に、制度政策が作られることの必要性を示している。 ○障害者総合支援法の基本理念 第1条の2では、「・・・全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、全ての障害者及び障害児が可能な限りその身近な場所において必要な日常生活又は社会生活を営むための支援を受けられることにより社会参加の機会が確保されること・・・、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと・・・を旨として、総合的かつ計画的に行わなければならない。」とされている。 (3ページ) ○障害者総合支援法に基づく指定計画相談支援の事業の人員及び運営に関する基準(H.24.3.13.厚生労働省令第28号)  第二章第一節第二条 「指定計画相談支援の事業は、利用者又は障害児の保護者の意思及び人格を尊重し、常に当該利用者等の立場に立って行われるものでなければならない。 2指定計画相談支援の事業は、利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるように配慮して行われるものでなければならない。 ○知的障害者福祉法 (支援体制の整備等) 第十五条の三 市町村は、知的障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、この章に規定する更生援護、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律の規定による自立支援給付及び地域生活支援事業その他地域の実情に応じたきめ細かな福祉サービスが積極的に提供され、知的障害者が、心身の状況、その置かれている環境に応じて、自立した日常生活及び社会生活を営むために最も適切な支援が総合的に受けられるように、福祉サービスを提供する者又はこれらに参画する者の活動の連携及び調整を図る等地域の実情に応じた体制の整備に努めなければならない。 (参考2)  能力存在推定とは、厚生労働省の示している意思決定支援ガイドラインにおいても参考にしているイギリスの意思決定能力法(Mental Capacity Act 2005)に示されており、原則としてどのような人にも意思を決定する能力があるという前提に立って、その表出が可能となるよう支援することが定められている。意思決定支援ガイドラインでは、次のような基本的原則を示している。@本人への支援は、自己決定の尊重に基づき行うことが原則である。本人の意思確認ができるようなあらゆる工夫を行い、本人が安心して自信を持ち自由に意思表示できるよう支援することが必要である。A職員等の価値観においては不合理と思われる決定でも、他者への権利を侵害しないのであれば、その選択を尊重するよう努める姿勢が求められる。B本人の自己決定や意思確認がどうしても困難な場合は、本人をよく知る関係者が集まって、本人の日常生活の場面や事業者のサービス提供場面における表情や感情、行動に関する記録などの情報に加え、これまでの生活史、人間関係等様々な情報を把握し、根拠を明確にしながら障害者の意思及び選好を推定する。こうした原則と共に、意思表出がしやすい環境、時間帯、気持ちの状態など個別性の高い配慮が行われて、はじめて意思を決定、表出する能力を発揮できることになる。すなわち、能力存在推定とは、意思決定の能力を引き出す支援力にかかっているともいえる。 (4ページ) U検証 1検証の対象とした県立障害者支援施設について (1)県立障害者支援施設(6施設)の概要(令和2年4月現在) ア津久井やまゆり園 運営:指定管理者制度(指定管理者:社会福祉法人かながわ共同会) (T期)平成17年4月〜平成27年3月 (U期)平成27年4月〜令和3年7月 所在地:横浜市港南区芹が谷2−1−1(平成29年4月仮移転) 主な対象:重度の知的障がい者(障害支援区分平均5.9) 提供サービス:施設入所支援、短期入所、生活介護 入所定員:114名、空床型短期入所 職員数 :113名 イ中井やまゆり園 運営:県直営 所在地:足柄上郡中井町境218 主な対象:重度の知的障がい者(強度行動障がいの専用棟あり)(障害支援区分平均5.7) 提供サービス:施設入所支援、短期入所、生活介護、自立訓練(生活訓練) 入所定員:122名、併設型短期入所18名 職員数 :102名 ウさがみ緑風園 運営:県直営 所在地:相模原市南区麻溝台2−4−18 主な対象:身体障がい者(障害支援区分平均5.8) 提供サービス:施設入所支援、短期入所、生活介護 入所定員:128名、併設型短期入所12名 職員数 :130名 エ愛名やまゆり園 運営:指定管理者制度(指定管理者:社会福祉法人かながわ共同会) (T期)平成18年4月〜平成28年3月 (U期)平成28年4月〜令和8年3月 所在地:厚木市愛名1000 主な対象:重度の知的障がい者(障害支援区分平均5.9) 提供サービス:施設入所支援、短期入所、生活介護 入所定員:100名、併設型短期入所:20名 職員数 :102名 (5ページ) オ厚木精華園 運営:指定管理者制度(指定管理者:社会福祉法人かながわ共同会) (T期)平成18年4月〜平成28年3月 (U期)平成28年4月〜令和8年3月 所在地:厚木市上荻野4835−1 主な対象:中高齢で医療的ケアの必要な知的障がい者(障害支援区分平均5.4) 提供サービス:施設入所支援、短期入所、生活介護 入所定員:110名、併設型短期入所2名 職員数 :82名 カ三浦しらとり園 運営:指定管理者制度(指定管理者:社会福祉法人清和会) (T期)平成23年4月〜令和5年3月 所在地:横須賀市長沢4−13−1 主な対象:重度の知的障がい者(障害支援区分平均5.8) 提供サービス:施設入所支援、短期入所、生活介護、自立訓練(生活訓練) 入所定員:88名、併設型短期入所24名(ほかに障害児支援施設定員36名、障害児支援施設併設型短期入所4名) 職員数 :131名(障害児支援施設職員含む) (参考)指定管理者制度について 指定管理者制度は、平成15年地方自治法(以下「法」という。)改正で法244条の2により、民間事業者等にも「公の施設」の運営管理を委ねることが可能となった制度である。それ以前は、「公の施設」の管理運営主体については公共性確保の観点から公共団体等に限定し、管理委託制度で運営されていた。指定管理者の選定に当たっては、行政外部の専門家を中心とした選定委員会(県では「外部評価委員会」という。)が、応募団体から提出された書類の審査により候補者の選定を行い、その後、議会で指定管理者の指定に係る議決を行った上で、正式に指定管理者が決まるものである。 県では、平成17年から指定管理者制度が導入された。なお、社会福祉施設は支援の継続性、安定性を保つ必要性がある等の観点から、指定管理の期間については、基本的に10年を一つの期間としている。 (2)施設整備の経過 現在、指定管理施設である三浦しらとり園(昭和58年再整備)や愛名やまゆり園(昭和61年再整備)は、それぞれ前身である長沢学園(昭和38年開設)や愛名学園(昭和41年開設)といった県立知的障害児施設を、昭和54年に行われた養護学校の義務教育化を契機として、昭和55年度から昭和61年度までを計画期間とする「やまゆり計画(県立社会福祉施設整備拡充計画)」のもと、児者併設の施設や成人施設へと再整備した施設である。また、再整備に当たっては、入所機能だけでなく、地域支援の機能を併せ持つ施設とした。 続いて、平成3年度から平成7年度までを計画期間とする「第2やまゆり計画」では、昭和39年開設の津久井やまゆり園が再整備された(平成6年)。また、高齢の知的障がい者や医療的サポートを必要とする中高齢者の入所施設として、厚木精華園(平成6年開設)が県立民営の施設として整備され、社会福祉法人かながわ共同会(以下「共同会」という。)に委託された。 その後、県直営の中井やまゆり園(昭和47年開設、平成12年再整備)は、県域の強度行動障害対策の中核施設として、また、さがみ緑風園(昭和42年開設、平成15年再整備)は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)や遷延性意識障がい者など、最重度の身体障がい者に介護、看護とも24時間体制で支援するなど医療ケアを重視する施設として、それぞれ再整備された。 (6ページ)  (3)運営主体の見直し 平成12年度から、愛名やまゆり園が、共同会に委託されて県立民営となり、その後、県立社会福祉施設の将来展望検討会議による検討結果として取りまとめられた「県立障害福祉施設の将来展望について」報告書(平成15年)では、各施設の方向性が次のとおり整理された。 ○中井やまゆり園及びさがみ緑風園 機能強化を図りつつ、中長期的には運営主体の見直しを検討する施設 ○津久井やまゆり園及び三浦しらとり園 委託の検討を進めるべき施設 ○愛名やまゆり園及び厚木精華園 委託の経過や委託先の状況を包括的に踏まえながら、今後、方向性を検討する施設 その後、平成17年度から津久井やまゆり園が、平成18年度から愛名やまゆり園並びに厚木精華園が、そして平成23年度から三浦しらとり園が、それぞれ指定管理者制度による施設に移行している。 さらに、県立障害福祉施設等あり方検討委員会による「県立障害福祉施設等あり方検討委員会報告書」(平成26年)では、制度変更等による障がい者を取り巻く環境の変化や、県立障害者支援施設が果たしてきた役割、市町村や民間施設から期待されている役割等を踏まえ、基本的な考え及び各施設の方向性について、次のように整理された。 ○施設運営の基本的な考え 重度重複等の障がい者や著しい行動障がいのある知的障がい者など、民間施設では対応が難しい利用者を受け入れて支援を行うとともに、地域の拠点施設としての民間施設等への支援、民間施設等との連携・協力の推進といった役割を担う。 ○さがみ緑風園の方向性 医療と福祉の連携体制を継続的に確保し、医療的ケアが必要な最重度の障がい者の受入や地域生活支援が可能であれば、指定管理者制度の導入が可能と考えられる施設 ○中井やまゆり園の方向性 高度な専門性が求められる強度行動障がい対策の中核施設の役割を果たし、発展させていくために専門性の高い人材を継続的に確保することが必要であり、地域生活移行を目指した仕組みづくりを進めるため、県立直営施設として運営していくことが望ましい施設 ○津久井やまゆり園、愛名やまゆり園及び三浦しらとり園の方向性 県立障害者支援施設に期待される役割に加え、法人が自主事業で整備したグループホーム等を活用して、利用者の地域生活移行を引き続き推進していくため、指定管理施設としての存続が望ましい施設 ○厚木精華園の方向性 将来的に、民間施設でも高齢の知的障がい者の支援ができる体制が確保されるなど、高齢の知的障がい者及び医療的ケアを必要とする中高齢の知的障がい者支援のモデル施設としての役割を終えた段階で、民間法人への移譲を検討していくべき施設 (7ページ) 2検証の方法 (1)実施施設 6施設    (2)実施方法 書面調査とヒアリングにより、以下のとおり実施した。 ア書面調査 令和元年12月に県が実施した身体拘束実施状況調査で身体拘束が行われていることが把握された個別ケースについて、調査時点における身体拘束の状況を確認し、その中から、長時間にわたって身体拘束を行っているケースや前施設からの引継ぎが身体拘束実施の主な理由として挙げられているケースなどから事例を抽出し、これに虐待事案等を加えた合計23事例について、過去5年間の身体拘束の状況を中心に、支援の具体的内容、課題、改善に向けた取組状況について調査した。 <調査事例数> 左から、施設名、調査数、抽出数 中井やまゆり園、44事例、6事例 さがみ緑風園、3事例、2事例 津久井やまゆり園、22事例、6事例 愛名やまゆり園、37事例、5事例 厚木精華園、14事例、2事例 三浦しらとり園、10事例、2事例 合計、130事例、23事例 (8ページから9ページ)    イ現地調査及びヒアリング調査 (ア)調査構成員 1施設あたり3〜4名の検討部会委員で構成する。 (イ)ヒアリング対象及び人数 施設長、支援部長、課長、寮長、支援員、法人理事長ほか 左から、施設名、ヒアリング人数 中井やまゆり園、16人 さがみ緑風園、6人 津久井やまゆり園、14人 愛名やまゆり園、11人 厚木精華園、6人 三浦しらとり園、7人 合計、60人 (ウ)現地調査 ・施設内見学(共用スペース、居室部分) ・利用者の様子の確認 ※ただし、さがみ緑風園及び厚木精華園については、新型コロナウイルス感染症「緊急事態宣言」に伴い、現地調査は実施せず、リモートによるヒアリングを行った。 (エ)ヒアリング項目 ・調査時点における身体拘束の状況 ・身体拘束に至った背景や要因 ・改善に向けた検討状況 ・やむを得ず身体拘束を行う場合の可否の判断 ・虐待の疑義があった場合の通報の仕組み ・組織的な検討状況 等 (オ)特定事案に係るヒアリング 次の特定事案についてもヒアリングを実施した。 〔津久井やまゆり園〕 ・「津久井やまゆり園における身体拘束等行動制限の廃止と支援の質の向上に向けた検討会報告書」に係る疑義について 〔愛名やまゆり園〕 ・令和2年1月に認定された虐待事案について ・虐待通報に係る理事長名の文書について (10ページ) 3検証結果 (1)津久井やまゆり園(社会福祉法人かながわ共同会) ア 検証委員会中間報告書に対する認識 (ア)中間報告書の概要 【利用者支援について】 〇身体拘束を行う場合は、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件全てを満たす必要があるが、園では、そのうち一つでも該当すれば実施してよいと認識しており、会議で伝達されていたことが確認された。 〇身体拘束を行う場合は、本人の状態像に応じて必要とされる最も短い拘束時間を想定する必要があるが、24時間の居室施錠を長期間にわたり行っていた事例が確認された。 〇24時間の居室施錠を行うなど「虐待」の疑いが極めて強い行為が、長期間にわたって行われていた事例が確認された。 〇身体拘束を行った場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由等必要な事項を記録する必要があるが、漫然と「見守り困難」と記載することが多く、記録が不十分であるか、あるいは齟齬がある事例が確認された。 【記録について】 ○身体拘束を行う場合は、個別支援会議等において組織として慎重に検討・決定することが求められるが、身体拘束の必要性や身体拘束を減らす取組みについての検討や決定の経過が、寮会議録等から確認できない事例があった。 ○身体拘束の原因となる状況の分析を徹底的に行い、身体拘束の解消に向けた取組方針や目標とする解消の時期等を統一した方針の下で決定し行うため、身体拘束を行う場合には、個別支援計画に身体拘束の態様及び時間、緊急やむを得ない理由を記載することが求められているが、個別支援計画書にその記載が確認できない事例や、記載があっても実施されているかどうかの日々の記録がない事例が確認された。 【エビデンスに基づく支援について】 〇個別支援計画を通して、行動障がいのある人の支援について、なぜこのような行動が起きるかをアセスメントし、計画を作成してモニタリングしながら支援していくという科学的な「エビデンスに基づく実践(Evidence-based practice : EBP)」を行っているということが確認できなかった。 〇行動障がいのある人たちに、多職種連携のチームで支援に取り組んでいることが確認できなかった。 (11ページ) 【組織による決定について】 〇身体拘束を行う場合は、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件全てを満たすか否かを、個別支援会議等において検討した上で決定しなければならないが、複数職員で検討したことが記録から確認できない事例や、身体拘束を行う場合に園内で内部決裁を行う手続きについて、理由が未記載などの記載内容が不十分でも決裁されていた事例など、組織としての判断過程が適切であったのか確認ができない事例があった。 〇虐待防止委員会では、報告された身体拘束等の事例について、発生時の状況等を分析し、発生要因、結果等を取りまとめ、身体拘束の解消に向けた検討をすることが期待されるが、取組状況を報告する程度で、詳細な検討が行われた記録は確認できなかった。 〇虐待防止委員会のほかにも、支援に関する組織決定が必要な会議及び委員会は設置されていたが、必要な検討が行われていたかについて、確認できなかった。 【体制整備について】 〇平成24年には、「障害者虐待の防止、障害者の養育者に対する支援等に関する法律」(以下「障害者虐待防止法」という。)が施行され、津久井やまゆり園は、平成27年度に指定管理が第2期になるなど、支援の振り返りや、検証する機会があったが、その検証が行われたかについて、確認できなかった。 〇身体拘束の実施に関する法人の取扱要領と、園のガイドライン及びマニュアルに齟齬があることが確認された。 (イ)中間報告書に対する共同会の認識のポイント ○ヒアリングがないまま、報告書が出されたことに戸惑った。 ○記載されている内容については、概ね事実と認識している。真摯に中間報告書を受け止めたい。 ○長時間にわたる居室施錠は、現在は「虐待」に当たると認識している。 (12ページ) イ ヒアリングで確認された事実 ヒアリングを行った中で、ポイントと考えられる内容を中心に記載する。 (ア)利用者支援に係るヒアリング @事例Aさん   周囲の騒音などの刺激により、不安定になることがある。移動は自立している。 〔検証期間中の身体拘束の状況〕 ○居室施錠:医師から刺激の少ない環境設定が望ましいと言われており、職員の見守りが難しい時間帯において、最も長い時期は、入眠している時間以外の居室施錠をしていた。令和元年6月以降居室施錠はない。 ○Y字拘束帯:職員の見守りが難しい時間帯において、概ね5時間程度装着していた。    【身体拘束時の状況、認識など】 ○居室施錠については、医師から病状悪化を防ぐために、口頭で刺激のある環境を避けるように言われており、その話を受けて、居室施錠の対応をした。 ○医師の発言に重きを置いていたため、それ以上に何かしなければならないという考えや代替性を検討するという発想に至らなかった。 ○医師の診断書はない。 ○平成27、28年度の記録にある車椅子でのY字拘束帯については、骨折した際に使用していたと思うが、現在は使用していない。骨折以外で使用していたとすれば、その当時は勤務していないため実際に確認していないが、受診等で移動する際に、車椅子を使わなければならないので、その際に使用していたのではないか。 ○当時は、3要件を全て満たす必要があると理解してなかった。きちんと理解して、本人のことを思って考えることができなかった。 【軽減・廃止に向けた支援】 ○寮会議の中で、解錠に向けて検討はしていたが、具体的な取組みには至らなかった。 ○医師からの指示だと思い、それ以上動いていなかった。 ○津久井やまゆり園に異動してきてから、居室施錠をしていることに疑問があった。医師に解錠することを提案した際、「何かあったらどうするのか」と言われたが、「開けてみなければ分からない」と思い、その日から当該事例ともう1人の利用者について、思いきって居室を解錠した。 〇医師の意見に対しては、利用者のことだけではなく、施設運営のことなども考えなければならず、葛藤があった。しかし、「施錠」という言葉が世間的に大変なことであると認識し、居室施錠をすることについて、医師の考えで決定するのではなく、職員側がしっかり考える必要があると思った。 (13ページ) 【解錠後の本人の様子】 ○他の人よりも居室にいる時間が長く、居室から他の利用者の様子を見て、寂しかったと感じていたかもしれない。 ○居室を解錠した現在、落ち着かない場合は、部屋で落ち着くよう声をかけると、自ら部屋に行き、過ごしている。部屋にいることが飽きたら、どの時間関係なく出てくるし、食事も皆さんと一緒に食べている。通院が初めての外出だったが、病院の中を歩いたりする姿を見て、これが普通の姿なのだと思った。 ○居室施錠を解錠して良かったと思った。今の本人しか知らない職員は、以前、拘束があったとは誰も思わないと思う。もう閉めることは絶対にないだろうと思う。 【記録等について】 ○解錠していた時間の記録の記載を忘れている等、記録の不備があった。数分単位で細かく記録している日もあれば、全く記録がつけられていない日があり、そのバランスの悪さが不備である。記録を読み込んだときに、解錠していなかったと思われても仕方がない。 ○医師とのやり取りについては、記録に残してよいのかと迷うことがあり、職員間では情報共有していたが、記録には残していなかった。 ○こういう状況になって記録が大切だと分かった。もちろん、意思決定支援をしながら記録に残していくと、利用者の変化が分かることもあるが、それによって職員も救われる。記録に対しての認識が低かった。 ○『「身体拘束等行動制限」実施について(伺い)』(以下「身体拘束等実施計画」という。)や家族等の同意書がなければ、身体拘束は絶対できないと思っており、実際には身体拘束を行っていなかったが、何かあった場合のために、同意書等を取り続けていた。最近になって、共同会の「利用者の身体拘束等行動制限取扱要領」(以下「取扱要領」という。)をよく読んだところ、これは間違いだったと振り返るようになった。 【支援全般について】 ○正直、環境的なところで、横浜に来て、いろんなことが広がった。 ○相模原市で活用できる資源を探さなかったわけではなく、本当に社会資源がなかった。 ○居室施錠をやめて、活動も本人に合わせて行うようになって、グループホームに移行した方が、より他の資源を使える。外部の資源のことや他法人が取り組んでいるなどを勉強させてもらっている。 ○千木良に帰りたいと利用者が希望したとしても、障がい特性や医療面を考えると、実は横浜で外部の力を借りた方がより生活が潤うのではないかと悩む。そう考えると、Aさんについても、まだまだ生活が広がる可能性のある方である。 (14ページ) A事例Bさん 衣類等に強い関心があり、自他を問わず衣類破きが見られる。 〔検証期間中の身体拘束の状況〕 ○居室施錠:自他を問わず衣類破きがみられるという理由で、概ね終日の居室施錠をしており、排泄も居室内で行っていた。平成30年12月下旬以降、居室施錠は実施していない。 ○つなぎ服:平成30年12月の1日のみ終日、身体的な衛生を保つためという理由で、つなぎ服を着用していた。 【身体拘束時の状況、認識など】 ○他利用者の衣類破りが多く、職員の対応が行き届かない中で継続し、限界だったため、居室施錠せざるを得なかった。 ○身体拘束が頻繁に行われていた時期は、職員の知識や経験がない状態であり、工夫や努力が足りなかった。当時は当時で検討して支援を行っていたが、それが間違っているとは思っていなかった。今、振り返ると見方は変わると思う。 ○今まで継続して行ってきた支援を良しとして、頭の中が凝り固まっていた。しかし、違う意見を聞き、実際に支援を行い、ちゃんとできることが目に見えたことで、改めて、違っていると思った。 ○過去の身体拘束について虐待だと疑われることは仕方ないと思っている。 【軽減・廃止に向けた支援】 ○意思決定支援が契機となり、現場職員の意識が変わり、居室を解錠することができた。 ○平成31年度に人事異動で職員が移って来て、Bさんの身体拘束の状況を確認したが、居室施錠等の必要性はないと思った。居室を解錠した後も、居室で排泄をすることが続いていたため、そのことをやめたいと寮職員に伝え、段階的に取り組んだ。 ○本人はもともと在宅で生活しており、能力がある。当然のこととして、居室内ではなく、最初は職員が付き添いながら、時間をかけてトイレに行ってもらった。これまでは、居室内で対応していたが、居室を解錠した後も自由にトイレに行けない環境はおかしいと思った。 (15ページ) 【支援全般について】 ○身体拘束云々ではなく、普通の生活を目指すということが大事である。 ○意思決定支援の取組みがきっかけとなり、利用者の表情や行動を見て、何を求めているのか、何をしたいのか意識するようになった。 ○意思決定支援が大きな契機となった。改めて、利用者一人ひとりに寄り添う支援を行った。これまでは、コミュニケーションが取りにくい人や利用者との距離感が難しい人が多く、他の利用者と一定の距離を保ちながら支援をしてきた。しかし、意思決定支援の取組みの中で、その考えを変えて、もう一歩踏み込んでやってみようという支援が功を奏した。それが意識として出てきて、変わってきた。 【組織体制】 ○若手職員でも、支援方法が間違っているのであれば、間違っていると言える雰囲気が出てきたと思う。常識が変わると仕事の仕方も変わってくる。施設の常識は、普通の常識とは異なる部分がある。 ○過去の経験から改善に向けて積み重ねてきているが、やはり、良いこと、良くないことをしっかり言える人間が必要である。各セクションにそういう人間がどれだけいるかが大事だと思う。 ○外部から指摘されて気付くこともある。第三者から言われることで寮内でも実践しやすくなる。 【人材育成について】 ○他施設の取組みや最新の福祉の状況等を知るためには、外に出て勉強する環境や仕組みが大切とのことだが、現状では、積極的に他施設等を知る機会はない。外部研修についても一部の職員しか参加できないため、研修内容を全体に向けてどのように発信するかが課題である。 ○他施設の良い取組み等が反映されることはあるが、他施設と比較して遅れている、あるいは率先して行っていると考えている職員は少ないと思う。 【地域生活移行について】 ○津久井やまゆり園や共同会の他の施設の利用者は、形式的には契約だが、実際は、措置の時代からの人がほとんどである。そういう人達を別の施設や地域生活移行と言っても、受け皿もなければ、環境も整っていない。法人内でぐるぐる回せば良いという話ではない。それは、今の日本の福祉の現状でもある。 ○そんな状況にある人達に、どのように安心、安全に暮らしてもらうかということを考えることが現場の役割だと思う。その先に地域生活移行や本人にとってより良い環境を考えていかなければならないが、全員の理想を叶えるには、まだ時間がかかると思う。 (16ページ) (イ)ガバナンスに係るヒアリング 【3要件の検討に対する認識】 ○やむを得ず身体拘束を行う場合の3要件については、認識が低かったと思っている。何をもって一時性なのか等、施設側の解釈が妥当なのか検証して来なかった。 ○3要件を確認する必要があることは自覚しているつもりだったが、その認識が正直低かった。 ○現在は、グループモニタリング等で、3要件について、一つひとつ検討しているが、以前は行ってはいなかった。 ○身体拘束等実施計画などの書類について、3要件について記載する項目がなく、現場の職員に意識してもらう様式ではなかった。 ○身体拘束を行う理由として、「見守り困難」という言葉を使用したことについては、実際には、その時々で理由は異なると思うが、昨日書いた記録に「見守り困難」と書いてあったので、今日も「見守り困難」と記載してしまう傾向があった。状況としては、その方を守るために、職員がマンツーマンで対応できない時間帯なのだと思う。 【軽減・廃止に向けた支援】 ○一つのユニットの中で完結しようという意識から、困ったときは他寮や人を頼っていいというように支援側の意識が変わり、視野を広げることで、身体拘束解消に向けた取組みを積み上げているところである。 【記録】 ○これまでの記録は、健康や食事量等を重要視しており、利用者が日々どのように過ごしているか分からない記録だった。記録がないから活動が何もできていなかったというわけではないが、課題があったことは事実である。 【身体拘束に対する認識】 ○いろいろな人とやり取りをさせていただいて、長時間の居室施錠は虐待という認識を持つに至った。 ○当時は、虐待というよりは不十分な支援ではあったとは思うが、なるべく身体拘束を減らしていこうという努力をしていた時代の中での事例であり、私たちは、これが虐待とは受け止めてはいなかった。5年経過し、県等からの指摘も受けて、その当時行っていた身体拘束は虐待の疑いに当たるのだと、今回の取組みを通して学んだ。 (17ページ) 【組織による決定・対応】 ○手続き上、身体拘束等実施計画・報告という書類の流れはできていたが、記録を見る限りでは、内容に関する議論が少なかった。 ○職員に対して、身体拘束の取扱いについて明確な方針や指示を伝えきれなかったと反省している。現場の職員に対して十分な指導ができていれば、もっと改善できたと思う。 ○組織として虐待防止委員会等のシステムはあったが、機能していなかった。チェック機能がしっかりと働いていなかった。 ○医師から示された一つの方向性について疑問を抱きながらも、組織として、他の支援方法の構築に至ることができなかった。 ○現状の課題に対して、一つのチームとして共通の認識を持って、全園的な取組みにつなげていく力が弱かった。 ○役職にある立場の職員が発信して、行動に移す部分が甘かったと思う。いろいろな方たちから力を借りながら、施設運営をしていきたい。 ○支援のあり方等について見直す期間というのは必ずあったはずだが、漫然と見直すことなく、改善することができなかったところはあると思う。 【意思決定支援】 ○意思決定支援に取り組み、いろいろな目が施設の中に入ったことで、職員の気付きが多くなってきたと思う。 ○意思決定支援に取り組む中で、集団の中の一人ではなく、その人ひとりに着目していくことで、「この方のこの行動にはこんな意味があった」と気付くことができた。 ○今行っている意思決定支援は根幹になってくると思うので、職員が成功体験も含めて外に発信できるような事例に取り組み、園の中で完結するだけではなく、自分たちの弱いところ、足りないところについては、第三者の視点を取り入れながら、職員の育成、専門性を養っていきたい。 ○意思決定支援については、大変評価している。支援の質も確実に向上し、職員の意識も変わった。今まではバラバラだったのが、意思決定支援を通して、ベクトルの向きがそろって加速したと考えている。 【人材育成】 ○法人全体で職員の気持ちをしっかり受け止めていくこと、職員と情報共有をしっかり図っていくことが課題だと認識している。 ○職員は、もっともっと働きやすい、仕事しやすい環境にしてもらいたいと思っているので、新しく法人全体で取り組めることというのを模索していかなければいけないと思っている。 ○法人の中のシステムや要綱の課題、書類関係の整備について検討し、現場の職員が気付きを得られ、支援力の向上につながるものとしていきたい。 (18ページ) 【支援全般について】 ○外部の方にコンサルテーションに入っていただき、強度行動障がいの専門性の部分で評価していただいている。これまでは、強度行動障がいの担当職員が支援について助言や対応をしてきたが、環境側のアセスメントが重要という助言を得て、現在取り組んでいる。 ○ストレングスアセスメントができていなかった。ストレングス視点を書き込むことができるよう書式自体を改める必要があると考えており、法人の統一書式について検討している。 (ウ)県の運営指導について ○身体拘束の多さや3要件について守られていないことについて、県からの指導はなかった。 ○意思決定支援の取組みが始まる前後から、意思決定支援の担当者と関わるようになり、アドバイスを受けて、気付かされることも多かった。 ウ特定事案に係るヒアリング結果 事案「津久井やまゆり園における身体拘束等行動制限の廃止と支援の質の向上に向けた検討会報告書(以下「報告書」という。)」に係る疑義について (ア)報告書の記載内容 報告書には、以下の内容が記載され、平成30年11月に知事に報告書が提出されている。 ○津久井やまゆり園では、平成29年12月から意思決定支援に取り組んできたが、平成30年2月に、やむを得ず身体拘束等行動制限を行っていた利用者の個人記録に、「ご本人の見守りが困難なため」との記載を確認し、身体拘束等行動制限を実施する要件として不適切ではないかとの疑義が生じた。 ○平成30年3月、共同会と県が合同で事実確認を行ったところ、当該利用者に行っていた身体拘束等行動制限は、共同会の取扱要領や津久井やまゆり園独自の「利用者の安全確保における(身体拘束)についてのガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)に沿った対応であったことが確認され、直ちに不適切な支援とは言えないことが認められた。 ○身体拘束等行動制限に係る個人記録等の一部に不十分な点があったことや、今後の利用者支援の質の向上を図る観点から、「津久井やまゆり園における身体拘束等行動制限の廃止と支援の質の向上に向けた検討会」(以下「検討会」という。)を設置した。 ○検討会には、津久井やまゆり園職員、同園オンブズパーソン、中井やまゆり園職員、県障害福祉課職員(構成メンバーの所属等はいずれも当時)が参加し、疑義等が生じた当該利用者の事例をもとに、園の取組みを検証した。 ○検証の結果、身体拘束等行動制限を開始する際の手続きは、要領やガイドラインに基づいて行われていたが、身体拘束を行う判断の基準が低いこと、開始後の変更や見直し、解消に向けた取組みに対する職員の意識が十分ではなく、組織の管理も機能していないこと、家族への説明が不十分であることが明らかになり、今後、再度点検、検討し、具体的な方策につなげていくこととした。 (19ページ) (イ)令和元年12月27日付けの共同会からの知事への質問状 ○令和元年12月27日付けで、共同会から知事あてに、「令和元年12月5日の知事のご発言について」として、事実関係や政策判断した理由等に係る9項目の質問書が提出された。 ○質問書の中で、「『長時間の拘束』は平成28年4月時点のことと知事もご承知のとおりですが、津久井やまゆり園では、それを良しとするのではなく、その後、拘束解除に向けて取り組み、平成30年4月には拘束ゼロを達成しました。」との記載があった。 (ウ)検証委員会での検証により明らかになった課題等 ○報告書には、「身体拘束等行動制限を開始する手続きは、取扱要領やガイドラインに基づいて行われていたが、身体拘束を行う判断の基準が低かった。」と記載されているが、実際には取扱要領やガイドラインに反した手続きが行われていた。 ○個別支援計画や身体拘束等実施計画にない身体拘束(居室施錠)が行われていた。 ○身体拘束の理由を「見守り困難」としているが、やむを得ず身体拘束を行う場合の3要件を満たしていない。 ○県の3要件に対する認識にも課題があった。 ○当該利用者について、平成30年4月に身体拘束が解消されているが、何が問題で、何を見直したのかが不明である。 ○検証した事案が、他の利用者の取組みに反映されていない。 ○報告書のタイトルだけを見ると、園全体の身体拘束の状況について検証したものであると誤解を与えてしまう。前述の知事への質問も、この報告書を根拠にして園全体で身体拘束ゼロを達成したことを前提にした質問になっていた。 ○この報告書の関係者は、当該利用者だけではなく、他の利用者についても身体拘束が行われていたことを把握していたにも関わらず、その状況を検証していなかった。 (20ページ) (エ)検証委員会開催当時の県の認識 ○この報告書をまとめる際に、県職員も構成メンバーとして参加し、当該利用者の身体拘束について検証を行った。この検討会は、共同会や津久井やまゆり園が過去の支援を振り返り、安易な身体拘束に頼らず、継続的に利用者支援の質を向上させられるかということを目的として行ったものであり、県は、この検討結果を津久井やまゆり園が支援に反映させていくことを期待していた。 ○県は、当該利用者以外にも、身体拘束が行われている利用者がいることは承知していたが、他の事例について確認しなかった。 ○県が行う定期のモニタリングでは、身体拘束の実施状況や日中活動を含めた支援の実施状況等について確認していなかった。 ○県は、「身体拘束はやむを得ず仕方がない」という認識があった。 ○身体拘束に係る県の見解について、施設に明確に示していなかった。 (オ)園及び共同会の認識(ヒアリング結果) ○報告書は、県職員が中心に作成した。 ○検討会は、計4回開催されたが、身体拘束が行われている利用者全員について検証するとの認識ではなかった。 ○タイトルが誤解を与えてしまうことは、御指摘のとおりだと思う。この報告書は、当該利用者に対する身体拘束がなくなったことを報告したものだと認識している。 ○知事の発言に対する質問書は、当該利用者の身体拘束については解消しており、そのことは県にも報告しているということを、共同会として発信したものである。津久井やまゆり園で、その時点における身体拘束が1件もないということを言っているわけではない。 ○芹が谷園舎に移転してきて、利用者支援全体をしっかり改善していこうとスタートに立つというよりは、一つひとつの課題を解決するのに精一杯だった。 ○今になって、津久井やまゆり園の方から、当該利用者だけではなく、他の方についても検討するよう提案すべきだったと反省している。 エ検討部会としての見解 (ア)利用者支援について 【身体拘束に対する認識】 ○身体拘束を行う場合は、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件の全て満たす必要があるが、検証した時期は、誤った認識により身体拘束を行っていた。また、身体拘束に関する必要な記録がない、身体拘束を実施していないが、家族等に対して身体拘束を行う承諾書等を取っていた。 ○職員自身が、「身体拘束が頻繁に行われていた時期は、職員の知識や経験がなかった」と振り返っていたように、障害者虐待防止法に対する認識はもちろんのこと、自らの法人が規定している要領等に対する認識も低かった。 (21ページ) 【必要性の検討】 ○医師の発言を優先して、長期間にわたり居室施錠を行っていた事例で、医師の診断書はなく、医師とのやり取りについての記録もないことが確認された。また、安心安全の確保や利用者の障がい特性を理由に、代替性について十分に検討を行わないまま身体拘束を行っていた。 ○医師との連携の難しさがあることは承知しているが、利用者の願いや希望を第一に、より良い生活や豊かな生活について利用者と一緒に考え、支援する福祉の専門職として、医師と対等な立場で話し合う必要があった。居室を解錠した後の本人の言葉や行動からも、本人中心に考えていなかったといえる。 ○安心安全な生活を確保することは当然のことである。その上で、より普通の生活や質の高い生活に向けて支援していくことが必要であり、その視点が欠けていた。 ○職員から、今まで行ってきた支援を良しとして、頭が凝り固まっていたとの発言があった。前例踏襲ではないが、誰でも疑問を持たずに、これまでの支援を継続してしまう傾向がある。職員自身が、常に自分たちが行っている支援について振り返り、評価することが必要であり、組織として、そのことを実行させる仕組みが不十分であった。 【軽減・廃止に向けた支援】 ○身体拘束に関する記録や生活の様子が分かる記録等が不十分であり、アセスメントや支援の経過が確認できない事例があった。記録の必要性について理解し、改善しようとする姿勢がうかがえたが、一方で、過去の情報や支援について把握していない状況も確認された。 ○寮内の支援だけで完結することなく、他セクションや外部資源等を活用しながら、生活の質の向上を目指して支援している事例が確認された。 ○職員自身が振り返り、身体拘束に対する認識を改め、改善に向けて取り組んでいることは評価できる。 ○令和元年12月時点での身体拘束は20人25件だったが、令和2年12月時点では3人3件と減っており、軽減・解消に向けて取り組んでいることが確認された。意思決定支援の取組みを通して、利用者が変わり、職員の意識が変化したこと、第三者の視点や人事異動による新たな視点が入り、支援を見直したことが契機となっていると考えられる。 (22ページ) 【支援全般について】 ○現在は、意思決定支援の取組みを通して、利用者の気持ちや思いを汲み取り、支援を行っていることが確認された。 (イ)ガバナンスについて 【理念、リーダーシップ】 ○安心安全の確保が最優先され、支援者側の目線に立った支援となっており利用者を中心に、より質の高い生活や社会的な生活に向けて支援するという視点が欠けていた。 ○身体拘束を行う場合の「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件については、現場の職員だけではなく、幹部職員の認識も低く、組織として誤った認識を改善することができなかった。障害者権利条約、障害者虐待防止法、意思決定支援など、最新の情報の収集やそれらを踏まえた見直し、支援全般に反映させようとする意識が低かった。 ○長時間にわたる居室施錠は「虐待」に当たると認めた幹部職員もいて、身体拘束の軽減・解消に向けて取り組んでいることは評価できる。しかし、これまで改善せずに、身体拘束を継続してきた施設管理者の責任は大きい。 ○「役職にある立場の職員が発信して、行動に移す部分が甘かった」との発言があったが、管理者や幹部職員自らが、施設の理念として何に価値を置くのか明確に示し、実践していく必要がある。 【組織による対応】 ○身体拘束を行う場合の3要件が満たされて、手続きが守られていればよいということではなく、利用者本人を中心に、本人に合った支援は何か、それは自分たちの施設で支援できるのかどうかということを現場の職員、管理者がそれぞれ真摯に考えることが重要であり、それを行う支援体制、組織体制が必要である。 ○「組織としてシステムはあったが、機能していなかった」との発言があったが、利用者の権利を擁護していく仕組みを再構築する必要がある。 ○職員の振り返りにもあったが、支援が停滞しないように、常にアセスメントし、計画を作成して、モニタリングしながら支援していくという「エビデンスに基づく実践」を行っていく必要がある。 【チーム支援、多職種連携、外部資源の活用等】 ○意思決定支援の取組みを通して、職員の意識が変化しているとのことだが、一つひとつの事例について、外部の第三者の立場の人が関わり、一緒に支援を検証し、考えていくという協働作業、プロセスが重要だったのではないかと考えられる。 ○外部のコンサルテーションを活用し、強度行動障がいのある方の支援について取り組んでいることは評価できる。しかし、津久井やまゆり園は、県の強度行動障害対策事業の拠点施設であり、本来であれば、津久井やまゆり園が専門性を持って利用者支援を行い、また周囲に発信していかなければならないが、その役割を十分に果たせていない。 (23ページ) 【人材育成】 ○強度行動障がいのある方への支援や地域生活移行の取組みに当たっては、最新の福祉の動向や先駆的な取組みをしている施設の状況を知る必要があるが、積極的に学び活かそうとする姿勢が乏しかった。職員の知識や技術等の向上は、支援の質の向上に直結するものであるため、組織として積極的に取り組む必要がある。 ○第三者的な立場の人が、客観性を持って一緒に支援を考えていくという、「現場のスーパービジョン」が必要である。 (ウ)県の運営指導 ○報告書については、県と共同会の両方が関わり作成されたものであるが、ヒアリングにより県職員が中心になって作成したことが判明した。 〇県職員が中心になって作成したことにより、共同会及び津久井やまゆり園職員の課題認識が弱いままで改善につながらず、問題を長引かせてしまった。 ○県職員は、報告書の対象となった利用者以外にも虐待を疑わせる身体拘束が行われていることを認識しながら、検討対象とせず、それでいてあたかも園全体で身体拘束がゼロとなったかのような誤解を与える文書を作成し、県に提出している。そのことの責任は極めて重大である。 ○後述する「県の関与に関する調査」の結果からも明らかなように、県職員の身体拘束の3要件の解釈が甘く、「身体拘束はやむを得ず仕方がない」との認識であり、身体拘束について運営指導をしてこなかった。 ○施設を運営指導する立場の県自身が、利用者の権利擁護に対する認識が低く、利用者目線に立っていなかった。適切な運営指導ができておらず、県の責任は重いといえる。 ○身体拘束を含む利用者の状況や支援の質などに対するモニタリング等についても不十分であり、今後、指導のあり方や随時モニタリングの見直しが必要である。 (24ページ) (2)県立直営施設 ア中井やまゆり園 (ア)書面で確認された事実 【3要件の検討】 〇身体拘束を行う場合は、本人の状態像に応じて必要とされる最も短い拘束時間を想定する必要があるが、1日20時間以上の居室施錠を長期間にわたり行っていた事例が確認された。 ○身体拘束を行う場合は、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件の全てを満たす必要があるが、「行動制限の実施計画について(伺い)」(以下「身体拘束等実施計画」という。)には、「居室施錠でしか(他者の安全等を)防ぐことができない」とだけ記載されており、身体拘束を行わずに支援する方法を検討したか確認することができない事例があった。 〇安心安全を確保することが困難なことを理由として、身体拘束を行っていた事例が確認された。 〇身体拘束を行う場合は、本人の状態像に応じて必要とされる最も短い拘束時間を想定する必要があるが、「県立中井やまゆり園における行動制限についての取扱要領」(以下「取扱要領」という。)」には「行動制限が一時的でそれを解く条件が事前に決定されている場合」では行動制限を行うことができるとされており、一時性の理解が原則と異なる可能性が考えられた。 ○身体拘束を行う場合は、個別支援会議等において組織として慎重に検討・決定することが求められるが、身体拘束の必要性や身体拘束を減らす取組みについての検討や、やむを得ず行う理由などについて検討した経過が、寮会議の記録等から確認できない事例があった。 【組織としての検討、判断】 〇組織として慎重に検討・決定するため、「行動制限判定会議」の名称で会議が設置されていたが、令和2年6月までは、生活寮からの報告を受け、承認を行うだけの場となっていた。(令和2年7月以降は、解消に向けてカンファレンスを行うとされている。) ○「行動制限実施状況報告について(報告)」に「今後の方針」を記載する欄が設けられているが、具体的な取組みや方針の記載が確認できない事例が確認された。 【個別支援計画への記載等】 ○身体拘束の原因となる状況の分析を徹底的に行い、身体拘束の解消に向けた取組方針や目標とする解消の時期等を統一した方針の下で決定していくために、身体拘束を行う場合には、個別支援計画に身体拘束の態様及び時間、緊急やむを得ない理由を記載することが求められているが、個別支援計画にその記載が確認できない事例があった。なお、取扱要領において、個別支援計画作成の際に身体拘束等実施計画を添付して決裁を受けることと規定していることが確認された。 〇個別支援計画書及びそのモニタリング票に、行動制限の時間短縮に向けた取組みの記載はあるが、具体的な対策については示されていない事例が確認された。 〇利用者が不穏にならずにどの程度居室から出ていることが可能なのか試行した記録がない、支援の構築に取り組むとしながら不穏になった場面の記録を分析し環境要因に関して考察したことが記録上確認できないなど、エビデンスに基づいて支援していることが確認できない事例があった。 〇生活寮を移寮した後、半年間にわたって、移った寮内での生活に慣れるために日中活動に参加せず、寮内を中心に過ごしていた事例が確認された。 (25ページ) 【やむを得ず行った場合の本人の状況の記録】 〇身体拘束を行った場合には、その際の利用者の心身の状況を記録する必要があるが、取扱要領第7条において、「行動制限を行った場合は、行動制限に至る経過、行動制限中及び行動制限解除後の利用者の状況等を個人記録に記載する。ただし、一月毎に課寮長に報告する「行動制限実施の記録」(様式6)又は(様式7)をもって代替することができるものとする。」と規定されており、そのうち様式7は実施の時間のみを記入する様式となっていた。そのため、身体拘束解消に向けた取組み過程の記録においても、時間のみが記入され、身体拘束の態様や緊急やむを得ない理由等の必要な事項の記載がない事例が確認された。また、様式6には、利用者の態様を記載する欄が設けられているが、記載の内容が「本人の求めにより」や「破壊防止のため」といった記載のみで、利用者の心身の状況について記載されていない事例が確認された。 (イ)ヒアリングで確認された事実 ヒアリングを行った中で、ポイントと考えられる内容を中心に記載する。 a利用者支援に係るヒアリング @事例Cさん 機械の分解や組み立て、物の仕組に興味があり、物を破壊する。 〔検証期間中の身体拘束の状況〕 〇居室施錠:探索行動が破壊行動につながるため、1日20時間以上施錠している。 【身体拘束時の状況、認識など】 〇居室から出ると、探索行動やいろいろなものへのこだわりが生じ、物を破壊することにつながるので居室対応としている。排泄はポータブルトイレを居室の中に入れている。 〇解錠時間を延ばす対応をしているが、一旦部屋の外に出ると、他者に抵抗する力も強いことから粗暴行為につながりやすい。本人との関係性を作りにくい職員であると、対応が難しい。 〇パニック状況になったときには、居室内で対応するしかない状況になる。なんとか他の場所での対応を考えてはみるものの、支援の方法が非常に難しい方だと捉えている。 (26ページ) 【軽減・廃止に向けた支援】 〇基本的に毎日外に出て自転車に乗るが、職員が関わっていると逆に不安定になってしまうところがあり、通常30分がギリギリである。 〇DVDや本も途中で飽きてしまうので、どうしても長い時間は継続できない。 〇興味関心を引き出すようにかかわり、御家族に本人の特性をいろいろと確認するなどして、プログラムを提案をしているが、不十分なところがある。 〇生活寮の中だけでは検討の幅が狭くなってしまうので、いろいろな意見を伺いながら進めていきたい。 【支援全般について】 〇多職種連携ではないが、他セクション、もちろん専門知識でもあるが、外部の意見や内部的なコンサルテーションも含めてやっていきたいと思う。 〇当施設が終の棲家なのではなく、この先地域に出る、または他施設に移行するであるとか、そういった観点から考える必要がある。 〇養護学校高等部に行けなかった理由など入所前の生活を詳細に把握していない。 〇月に1回、書面で医師に本人の状況を報告しており、医師は直接本人に会い、助言をくれる。 A事例Dさん 刺激にとても弱く暴力行為につながる。 〔検証期間中の身体拘束の状況〕 〇居室施錠:刺激を遮断するという理由で、1日18〜19時間、施錠している。 〇車椅子ベルト:急に走り出し、転倒や他者が怪我をするリスクがあるという理由により、移動時に使用している。 【身体拘束時の状況、認識など】 〇集団生活をすることで、本人が興奮状態になり、他害につながる。他害による他利用者の怪我を防ぐため、居室施錠している。状態が落ち着いているときに解錠の取組みをしている。 〇洋服を着られないときは不調のサインでもあるため、そうした状況がなく服を着ているときに解錠している。 〇不調の状態で居室から出てくると、他利用者や職員に向かっていく、叩くといった行為に発展することが予想されるので、わざわざ不調のときに解錠するのは、本人にとっても結果としてつらいのではないかと思っている。 〇職員の勤務体制上の理由や他利用者との兼ね合いもあり、施錠している。 〇居室施錠により刺激を遮断するようになってから、フリーでホーム内を動いていたときと比較して、表情が良いと感じている。 〇身体拘束等実施計画では、居室外で過ごす時間を設けて施錠時間の軽減を図ることが挙げられているが、その具体的な計画については記載がない。 (27ページ) 【軽減・廃止に向けた支援】 〇マンツーマンで付き添って外に出ることに取り組んでいる。また、誕生会などイベントで気持ちが盛り上がると洋服を着ることができるので、その場合は食堂で他利用者と一緒に参加している。 〇理学療法士や作業療法士等、様々な職種に関わってもらい、動作法など体の動きについて指導を受けている。また、精神科医師に相談しながら、本人が落ち着くような方法がないか検討している。 〇車椅子ベルトは、移動時に使用しているが、落ち着いているときは、車椅子のベルトを外していきたいと考えている。 〇検討部会の委員から、裸であるため居室を施錠することや歩けるにもかかわらず移動時に車椅子に乗せ、ベルトで固定することの意味を問われた際、そうした対応は環境に応じたもので、職員とマンツーマンであれば問題ないという視点に至っていた。 〇他者からの刺激がない一人きりの生活環境を整えることについて、建物の構造上から現在はまだ難しいが、心情的にはやってみたいと思うとのことだった。 〇一人きりの生活環境を整えることについて、幹部に提案したことはない。 〇1日19時間も居室を施錠していることは虐待であるとの指摘を受け、本人にとって良い方法を真剣に考えていくとのことだった。 bガバナンスに係るヒアリング 【理念・リーダーシップ】 〇行動制限判定会議において、利用者の怪我の防止や安全配慮義務ということを優先しつつ、少しでも身体拘束が短くなる取組みというものを進めていこうと常に話をしている。 〇行動制限判定会議は、1回1時間半の中で5〜10人の利用者について検討する。しかし、提案された行動制限を承認しない事例はほんの数例であり、解消に向けた支援を検討するまでに至っていない。利用者が要配慮行動に至る場面はどういうものなのか、確認する必要があると感じている。 〇各生活寮の中では、それぞれに行動障がいの方への支援を考えてやってきているが、それらについて改めて検証する必要がある。施設全体でみるような状況にはなっていない。今回のこの検証等をきっかけに、生活寮での支援や、園自体のあり方について、改めて見直す必要があると思っている。 〇県としての予算の範囲内で修繕が行われるが、廊下などに緩衝材を貼るとか、そういったものがどれくらいできるか、精査できていない。 (28ページ) 【コミュニケーション、情報共有】 〇虐待事案発生後、スケジュールシステムを取り入れて、視覚的な構造化を行ってきた。以前から、カードを用意してある程度は準備していたが、どういうふうに活用するか、物があっても実際にどういうふうに進めていくのか難しいと感じていた。支援の取組みを蓄積し、広く現場で生かせるように専門的支援の内容や方法を伝えることが大事である。 〇虐待事案において、他施設からの受け入れに当たり、細かく一つひとつを見ていくよりは、生活全般を見て、課題を抽出する対応をしていたところ、職員個々の見立てがずれ、結果として、職員の支援の統一が図られず、状況によっては職員個々の対応となっていた。 【アセスメント、個別支援計画、モニタリング】 〇職員間で話しているだけではなくて、きちんと記録に書くように、また、計画書を作るときに会議をしてより適切な方法はないか協議するように、話をしている。 〇モニタリングを形式的に実施するのではなく、どういう手順で支援してきたのかを確認している。園として、計画を参照しながら職員を指導しているところである。 〇本人の状態をきちんと把握し、環境について改善すべきところを改善して、解錠に向けた取組みを進めなければいけないと思う。 〇利用者の状況の記録が健康や医療面のみの記載となり、生活の記録になっていないことがあるので、それを指摘している。 【支援全般】 〇本人が居室から廊下に出てきた回数であるとか、要配慮行動がどういった場合に起こるのかがわかるように、数字などで示す取組みをした。本来であるならば、身体拘束を継続して行う前に確認する必要があった。生活寮として反省すべきところである。 〇支援の統一がなされず虐待及びホールディングを行うことにつながってしまったことを受け、要配慮行動が見られる場面の記録を詳細に残し、どういった場面や時間帯に見られるか、状況を確認している。要配慮行動は虐待事案が発生する前から見られており、早期に確認する必要があった。 〇危険となるポイントを絞って、きちんと精査する必要があった。 〇職員の人的体制によって支援が限られてしまうということがあるので、もう少し職員がいたら、違った支援ができるのではと思うところがある。 〇人手の問題と建物の構造の問題だと思う。 〇廊下は床素材が固いのでダメージが大きい。施設の構造の問題がある。 〇行動障がいについての精神科医による適切なコメントについて、支援に落とし込んでいない。 ○平成16年の「強度行動障害者の支援」以降、実践に係る報告書が発信されていない。 (29ページ) 【虐待防止に関する認識】 〇虐待通報については2回とも園から通報しているが、1回目の令和元年11月の虐待があったときに、この虐待事案を自分のこととしてしっかり受け止めて、再発防止に取り組むというところを、幹部が職員全員にしっかりと伝えきれていなかったことが、令和2年5月の2回目の虐待につながったと思っている。 〇虐待とは認定されなかった事例についても、強引に利用者本人を動かしたと聞いているので、やはり不適切な支援、行為だったと園としては考える。改善しなければならない。 〇人権意識について、ある場面ではカッとなることもあるが、その感情のままに利用者に対応するべきではないということを職員にしっかりと伝えていなかった。組織の統制というところで、甘かったと反省している。 〇施設側の判断で行った居室施錠について「虐待である」と通報されるということがあれば、利用者の方に申し訳ないという思いがある。御指摘は受けるが、職員も一生懸命やっているというところが否定されてしまうという思いがある。虐待という認識はなかった。 【関係機関との連携、協働、活用】 〇外部との接触がない。本当に施設の中で完結していたということを改めて実感している。それで良いとは思っていない。 〇外部の方からのコンサルテーションは計画しておらず前例もない。第三者の方の、私たちが当たり前としていたことを覆す意見は非常に重要だと感じる。 〇日中活動が園内で完結している事例がほとんどである。令和元年度は、2名の方が地域作業所に通っていたが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止と本人の様子から昨年度で終了となり、現在は全ての利用者が園内で活動している。地域生活への移行が課題となっている。 〇今年度、生活寮を移寮して、居室を施錠しなくなった事例があるので、解消した事例が皆無ではないが、検討の幅は確かに狭いと思う。 〇施設外の社会資源を活用できる利用者については、他の社会資源を家族に説明し、見学を通して、本人にあった環境を提供することが必要だと思う。 (30ページ) 【人材育成、人材管理】 〇障がいについて理解ができる、きちんと勉強した人に来て欲しい。 〇人事異動がある中で、職員が入れ替わり支援している。人が変わることで、フレッシュな考え方などが入ってくるのが県の良いところだと思う。 〇県立施設である必要性について、強度行動障がいの中核施設であると謳っていくのであれば、やはり5年、10年はそこにいてしっかりと知識を身に着ける必要がある。人事異動が前提の県立障害者支援施設を持つ必要はないと思う反面、福祉の現場を知っている者が施策を作るという意味で、県立施設は必要であると思う。 c県の運営指導等について 〇身体拘束の3要件に則ってきちんとやっているか、長時間の身体拘束について一時性はどうかということを、令和元年くらいから確認されはじめたと思う。 〇本庁から、3要件を満たさない身体拘束は、虐待と直接言われたことはないと思う。本庁がそう思うのであれば、通報など動きがあると思う。 (ウ)検討部会としての見解 a利用者支援について 【身体拘束の認識、実施の判断】 〇身体拘束に頼らない支援方法の開発が不十分である。また、職員の勤務体制上や他利用者との兼ね合いによって居室を施錠しているが、環境改善に向けた検討が十分にされていない。身体拘束は本人の尊厳を侵害する行為であり、重大な人権侵害であることを認識する必要がある。 〇非代替性について、居室でなければ対応しにくいと考えられていた。また一時性についても軽減することが難しいと話しており、建物の構造上の問題や職員のマンパワーの問題からできる支援はここまでという形で限定的な支援の組み立てとなっていた。 〇身体拘束を行う理由は本人の特性によるものとされていた。職員も含めた環境側の問題であるという視点を踏まえたアセスメントが必要である。 〇居室施錠により刺激を遮断するようになってから利用者の表情が良いと感じているものの、身体拘束を行わない時間を増やすことで具体的にどのような影響が生じるか、どのような環境であれば要配慮行動が比較的見られないかなどを検証しておらず、エビデンスが不足している。改善に向けて観察的な記録をとる必要がある。 (31ページ) 【軽減・廃止に向けた支援】 〇令和2年度に入り、行動制限判定会議等を通して、会議で協議することや内容を記録に残すように周知している。また、どういう手順で支援してきたのか、より適切な方法がないか、園として確認している。 〇利用者の要配慮行動がどういった場合に起こるのかが分かるように、夜間起きて来た回数や状況を調べるといった取組みが見られた。また、外出や居室外で利用者に楽しい時間を過ごしてもらうなど、身体拘束を行わずに過ごす時間を確保するように努めていた。 〇ヒアリングにおいては、事例に関して、利用者の人生の質を向上させていくような前向きな発言、あるいは身体拘束をすることの悪影響について語られることがほとんどなかった。また、個別支援計画に身体拘束の軽減や解消に向けた取組みが具体的に記載されていなかった。本人にとっての生活の質を上げるため、本人の喜びやストレングス(強み)、社会的な活動に着目した支援計画を作成する必要がある。 【医療との連携について】 〇医師は、月に1回本人に会い、行動障がいについて助言をしてくれるようであるが、要配慮行動の強い障がい者の本人にとっての生活の質を上げるために医師と協働していくには、施設職員と同等の立場で医師等が会議に参加し、医療面の視点と福祉的な視点の双方からの検討が行われることが望ましい。 bガバナンスについて 【施設の管理性、閉鎖性】 〇安心安全ということが非常に強く言われ、これによって管理的になっている。 〇外部の施設などとほとんど交流がなく、その施設の中だけで閉じた支援の仕組みを作っている。支援を第三者的な立場の人が、客観性を持って検討するという、その取組みがない。 【権利擁護システム】 〇身体拘束判定会議において支援のあり方について検討するだけの時間が確保されていない(1時間半に5〜10事例を検討)。支援のあり方について検討することができておらず、この会議を設けていることだけを担保として身体拘束が正当化されている印象を受ける。 ○職員がきちんと会議をしながら、権利を擁護していくという仕組みがない。組織として一緒に考えていくという、システムが整備されていない。 (32ページ) 【外部機関との連携について】 〇中井やまゆり園は強度行動障害対策事業の拠点施設であり、地域の他の専門職と有機的に連携しながら、支援の充実に努める必要があるが、平成16年の事業創成期に作成された支援に関する報告書以降、発行がない。また、現在設置されている強度行動障害対策連絡調整会議が支援についてのアドバイスを受けられる機会となっていないなど、拠点施設としての役割が果たせていない。 〇幅広い領域からの目線が入って、支援を考えていく方が良いアイディアが出てくる、また、外の失敗事例の原因を明らかにし他施設に活かす、成功事例を活かすということもできる。地域の拠点として機能していくには、そういった支援の質を高めることを目的とした、ネットワークの形成が必要であり、積極的に取り組んでほしい。 c県の運営指導等について 〇長時間にわたる身体拘束の改善に向けた指導が、県から行われていない。 (33ページ) イさがみ緑風園 (ア)書面で確認された事実 【3要件の検討】 〇医師からの意見書を根拠に作業用テーブルの使用による行動制限を実施しているとする事例において、アセスメント票から、車椅子を自走してホーム外に出て行ってしまわないようにするためや、興味のあるものに手を伸ばして事故になる可能性を防ぐために使用していた可能性がうかがえた。 〇胃ろうの自己抜去防止のために24時間の身体拘束が必要とされていた利用者について、身体拘束の解消に向けた取組みが進み、利用者との関わりが増えていった事例が確認された。 【組織としての検討、判断】 〇「神奈川県立さがみ緑風園における身体拘束取扱要領」(以下「取扱要領」という。)第7条において、「除外の定義」が設けられ、@医師又は機能訓練担当職員の指示により、座位保持装置や補装具等として認定されたものを使用した場合、A意思決定能力のある利用者が安全確保のため、自らの意思で決定した場合は、身体拘束の実施に関する手続を満たしているとみなし、Aの場合には、人権擁護・虐待防止委員会に身体拘束実施報告書(以下「身体拘束等実施報告」という。)により報告を行うとされていることが確認された。なお、「神奈川県立さがみ緑風園身体拘束等適正化のための手引き」に、「しかしながら、座位保持装置等に付属するベルトやテーブルの使用であれば一律に身体拘束ではないと判断することも適当ではない。」との注意書きがあるが、その判断をどこで誰が判断することとしているのかについては、記載がなく確認できなかった。 【個別支援計画への記載等】 ○身体拘束の原因となる状況の分析を徹底的に行い、身体拘束の解消に向けた取組方針や目標とする解消の時期等を統一した方針の下で決定していくために、身体拘束を行う場合には、個別支援計画に身体拘束の態様及び時間、緊急やむを得ない理由を記載することが求められている。しかし、個別支援計画書には「胃ろう部の自己抜去を防止する」「動きがある右腕に拘束帯またはミトンを使用する」といった記載がされているのみで、身体拘束を減らすための取組みなどが具体的に確認できない事例があった。 (イ)ヒアリングで確認された事実 ヒアリングを行った中で、ポイントと考えられる内容を中心に記載する。 (34ページ)  a利用者支援に係るヒアリング @事例 Eさん 車椅子を使用している。手作業を行うために車椅子テーブルを使用しているが、テーブルを付ける時間が徐々に延びていた。 〔検証期間中の身体拘束の状況〕 〇車椅子テーブル:ほぼ毎日使用 ※医師意見書に基づいて車椅子を作製している。 【身体拘束時の状況、認識など】 〇車椅子作成時の医師意見書に、姿勢保持のため胸ベルト、腰ベルト、作業用テーブルが必要と書かれていたことから、胸ベルトも腰ベルトも必要な人、作業するために作業テーブルが必要な人という認識でいた。 〇食事、日中活動、歯磨きのときは車椅子テーブルを付けていたが、本人が寮内で作業やDVDを操作したいと希望するので、だんだん車椅子テーブルを付ける時間が延びていた。 〇胸ベルトはテーブルがあるので要らないかもしれないという話になって、試行で外して以降はやめた。今も、体がどんどん傾くが戻すように声をかけるとなんとなく戻れるので、胸ベルトはしていない。しかし、本人にとっては、胸ベルトをしてあげた方が、生活が楽だったのではないかとも思う。 〇身体拘束のマニュアルの浸透具合は、自信をもって大丈夫とは言いきれないところがある。 【軽減・廃止に向けた支援】 〇本人が生活しているホームが今年度で閉鎖となるため、利用者が減っている中で、食堂のテーブルを本人の高さに合わせて変えられたので、食堂でも車椅子テーブルを使わないで食堂のテーブルで食べることができるようになった。 〇職員室前のカウンターでも、本人の車椅子テーブルを使わないでオーバーテーブルを本人の高さで使えているので、車椅子テーブルを使わないで過ごしている。多少動けるならオーバーテーブル上で手を伸ばしたり違うものを触ったりするのも良いのではと思う。 〇今は車椅子テーブルがない、胸ベルトもない、傾いたら頑張りましょうと職員が声をかけたり手伝ったりして過ごしている。今後の本人の障がい程度を考えると、それもだんだん厳しくなってくると思っている。 【必要な記録】 〇軽減に向けた取組みを進める中、職員一人ひとりが、事故が起きてはならないという意識があり、こまめな観察、見回りが増え、記録や申し送りのノートもこまめに書くようになった。 〇起床から朝食後までは身体が固いということは漠然とはわかっていたが、記録をきちんと付けることで確認できた。また、手あそびすると朝食が食べやすくなるなど、身体を動かしやすくする対策も含めて記録を残すようにしている。 (35ページ) 【情報共有など】 〇3か月に一度の外部医療機関受診の際には、園診療所の看護師が同行するが、受診する前に看護師が本人の様子をホームに確認し、受診する医療機関に伝えるようにしている。 〇ホームの利用者全員が参加する意見交換の場(ホームミーティング)を設け、利用者が何を話してもよい場を作っている。 A事例Fさん 再度挿管をすることが困難な胃ろうチューブの抜去防止を目的として、ミトン型手袋及び拘束帯の使用をしている。 〔検証期間中の身体拘束の状況〕 〇ミトン:毎日数回装着、計8時間以上(令和元年12月現在) 〇拘束帯:毎日数回装着、計8時間以上(令和元年12月現在) ※令和2年11月からは拘束帯を使用せず、ミトンのみを使用している。 【身体拘束時の状況、認識など】 〇平成30年に経鼻経管を入れたことと併せて身体拘束が始まった。当初はミトンを使用し、ミトンをしていても抜管してしまうので帯のようなもので手を縛っていた。 〇令和元年に腹部に外科的な方法で胃ろうを入れているので、抜管によるリスクが非常に高い状態であった。再度抜管することがあるともう一度入れることが難しいとの医療的な話もあり、抜管だけは防がなければならないという理由で、ミトンに加え、医療用に使う拘束帯を使用していた。 【軽減・廃止に向けた支援】 〇皮膚の状態が良いことや関節の動きを見ていて、また、本人がリズムを打って楽しんだり指をつかった余暇が可能であることなどを考えると、身体拘束を無くしていきたいという思いがもともとあった。 〇医療用の拘束帯やミトンを常時使っていると、皮膚疾患や関節可動域も心配されたため、職員が支援に慣れてきたところで、どうやって無くしていこうかという話が始まった。 〇園から、とりわけ園長から言われたというところが大事で、逆に、園長からストップがかかるような反応をされてしまうと、現場は進めにくくなってしまう。上が受け止めて、責任を取るくらいのつもりでいてもらえるとやりやすい。 〇不安がある状態で軽減に向けていきなり試行で取り組むことは難しいと考えたので、リスクの部分は基本的に担当者が引き受けて行う形とした。 〇本当であれば会議にかけながら時間をかけてやっていくところを、スピードを持って対応していく必要があったため、ホーム長や主任、個別に周りの職員と話しながら進めた。 〇身体拘束をしていない状態が定着すると、抜管のリスクがある方という認識が薄れてしまうのではないかとの懸念もある。 〇今は本人が自由に手を動かせるので、前にも増していろいろなところを手で触ったり叩いて遊んだりしているのを見て、結果として良かったと思う。 〇本人が自由に手を動かせるようになって、職員がより一層見守ろうという動きをしていくと、本人に職員が近づくことになるので、ご本人もすごく笑顔を返してきたり、職員の方もFさんに関わるのを楽しむようになった。関わりを持つという意味でも良かったと思う。 (36ページ) bガバナンスについて 【理念・リーダーシップ】 〇現園長の、トップの牽引力があった。現園長が赴任されてからは、方向性としては身体拘束ゼロを目指すというメッセージを受けて、何とか解消に向けて考え続けようと、職員自身の意識が変わり、利用者一人ひとりの検討会議を行うことで工夫が生まれてきた。工夫を試し、繰り返している中で身体拘束の数が減ってきた。まさに意識改革だったと思っている。 〇身体拘束判定会議で、サービス管理責任者に話をさせるのではなく、担当職員に話をさせる。直接現場に話しかけるので、浸透力が強いと思う。 〇現園長の牽引力にホームの職員が応えるのは、非常に苦労していた様子であったが、それについては、ホーム長や課長から園長の真意を伝えるなどフォローをしている。 【アセスメント、個別支援計画、モニタリング】 〇サービス管理責任者が重要だと思う。個別支援計画を作成するに当たっては各セクションからアセスメントしてもらう、各セクションがアセスメントしたものをどうサービス管理責任者がまとめるかという話になるのだが、それを受けて、どう意見交換をするかというところが重要ではないかと思う。 〇職員間で意思統一して関わっていくことが大事。現実的には部分的にしかできていない現状があるので、それは今後の課題と認識している。 (37ページ) 【人権擁護システム】 〇人権擁護委員会が中心となり、年間の計画を立てながら、各ホームの取組状況に結びつくように関わりを持っている。それを補うような形で生活支援部長がバックアップする。 〇安心安全のためだから身体拘束をやっていいということはないので、園長に就任した際、原則禁止だからスタートし直すと言った。しかし、実はしばらく効果がなく、仕組みとして何かしないといけないと思った。 〇身体拘束の実施について、半年に1回見直しをすることとしていたが、事例数が多いので、年に2回の会議では議論ができない、これでは拘束がなくなるはずはないと感じたので、年に2回の会議を止めて、随時、会議を開催することとした。1日1、2事例、1事例15分程度で、各セクションの主要メンバーが集まる朝の連絡会に続いてやることにした。しかし、やはり効果が今一つであったことから、担当職員が出席できる時間に開催し、担当職員と直接議論をすることにした。 〇一番のポイントは、しっかり議論する、担当者が我が事として悩めるような状況をつくることである。 〇「本人が危険回避できないから仕方がない」ということもあったが、知的障がいがあるからやっていいことではないと、環境調整を促してきた。 〇引継ぎで「こういう理由で拘束が必要」とされると、やめられなくなってしまう傾向があるので、今本当に必要なのか見直すように言ってきたところ、時間はかかったが、3年目になってやっと減ってきた。 〇リスクもあるので、実施する前には、会議を通すことを徹底するように指示している。きちんと園の組織決定であるという位置づけにすることによって、何かあっても職員を守れるし、なぜと言われても、園の会議で決まったと言うように伝えている。 〇解消した数を確認してきたが、2年くらい経ったところから、クオリティを重視している。身体拘束を外せばいいということではなく、なぜ解くのか、その議論を一生懸命するように指示している。数や時間の短縮よりも、生活の質についての議論のほうが重要と考える。 〇今、園の職員に要求していることは「自分で考える」ことである。先輩が3、4年前に考えたものに、さらに上乗せするようなことがよくあるが、利用者像も3、4年もすれば変わり、世の中も激変している中では、それを踏まえて見直すことが必要である。 〇心掛けているのは「なんで?」と日々こちらから聞くようにすることである。自分で考えていないと答えられないが、それを繰り返すことで皆変わってくる。 (38ページ) 【関係機関との連携、協働、活用】 〇第三者委員は、大学の准教授2名が毎月交代で来園している。お二人に対して利用者から実際に相談があるかといえば、そうはないといった状況。第三者委員による時間は2時間程度だが、地域支援課長から園の状況を伝え、相談している。 〇オンブズパーソン、当事者の方々も来園している。コロナ禍で今年度はないが、園内を巡回して、4人か5人くらいの利用者と毎回話をしている。 〇第三者委員やオンブズパーソンからの苦情については、園長が苦情の内容を聞き、助言を得ている。 【医療との連携】 〇さがみ緑風園は医療との関連が深いので、安全性を考えると身体拘束を解消することは難しいと諦めていた面があった。 〇日々看護師と一緒に仕事をしており、医療との連携が強い。診療所としては健康の維持を第一目標としており、福祉職と意見が異なる事もあるが、日々担当看護師と確認し合い、場面毎に検討をしている。 〇診療所の職員とホームの職員とがいかに連携良く利用者を支援するかということがとても大事。 〇取組みの相談については、担当の職員と看護師とで話し合い、調整が難しい場合はホーム長と診療所の主任、看護師長とでディスカッションを行い、課長が調整に入ることもある。また、組織として調整がつかない場合は、別途調整会議で園長、診療所長の医師も含めて話し合いをする場を設けている。 〇ここ1、2年は、園長のリーダーシップのもと、身体拘束を減らしていく方向で、診療所にも理解をいただき、相談に乗ってもらいながら、解消に向けた取組みを進めていく形ができつつある。 〇身体拘束判定会議にも看護師長が参加しているので、全利用者の身体拘束に関する状況は、看護師長が把握している。 〇リハビリ担当職員に機能訓練を行ってもらうことや看護師の所見を得ることはとても大事だと思っているので、小さなカンファレンスでも行うようにしている。 【人材育成・人事管理】 〇職員が本庁で身体拘束に関する指導を担当していたこと、また、高齢者施設で、身体拘束ゼロの手引きが発出された頃に仕事をしていた経験が、身体拘束の解消に向けた積極的な取組みに生きている。 ○専門性やノウハウを他の職員、特に人事異動の時期に途絶えないように引き継ぐことについては、苦慮する部分である。 〇人手について、全職員が研修を受けられるくらい研修の機会が増えたり、勤務体制が組めたりできるとよいが、今の状況ではジレンマを感じる。 〇指定管理が進んで県直営の施設が減っていく中で、職員のモチベーションを高め、支援の質の維持・向上に力を入れていく必要がある。 〇 若手職員の育成というところでは、園をあげて研修体制を組んでいる。 〇 職員の「チーム力」をどう高めていくかが課題。例えば、不適切な支援があった場合に、チームとしてどう解決していくかということが大事であると聞いた。一人の職員のマイナス面が取り上げられたとしても、まずはチームとして不足のところをどうサポートするか、解決する方向性について皆で意見交換をすることが大事である。 (39ページ) c県の運営指導等について 〇県立施設の場合は、人、物、財務の工夫がしづらい環境であるということが、仕組みとして間違いなくある。現場が頑張った上でできなかった時に、相談できる外部のしっかりとした機関を作り、支援の困難性に関してコンセンサスを得られる仕組みとしてほしい。 〇身体拘束の解消に向けては、工夫の仕方など具体的なアドバイスが必要である。 (ウ)検討部会としての見解 a利用者支援について 【実施の判断など】 〇障がい者の身体状況に合わせて変形や拘縮を防止し、体幹を安定させることで活動性を高めることを目的とした車椅子のベルトやテーブルについては、一律に身体拘束と判断することは適切ではない。体が傾き、本人の意思に基づいて四肢が動かしにくい状態であれば、胸ベルトやテーブル等を使用する必要がある。 〇ベルトやテーブルの使用は本来四肢が動かしやすくなることや日常生活の向上等の効果を意図して用いるべきものである。そのことを理解せず、本人の状態にかかわらず、1日中、車椅子に乗せ固定したまま過ごすことで、かえって、四肢を動かしにくい状態となっているならば、問題である。 〇したがって、Eさんのように、症状に日内変動がある事例の場合、状態によって、対応を変えることが考えられる。適切な支援とするため、活動性の観点から本人の状況を記録すること、また、本人の状況を医師や理学療法士に報告し、専門的な立場から見解を得る必要がある。 〇Eさんの事例については、取扱要領の「除外の定義」に基づいて、やむを得ず身体拘束を行う場合の手続を満たすとみなされ、身体拘束等実施報告による報告もない。しかし、例えば、ホーム独自の判断で、医師の指示によって作成した座位保持装置等は一律に身体拘束に該当しないという認識に至り、状態にかかわらず1日中車椅子のベルト等を使用して本人の活動を制限し、機能の低下をきたすことも考えられるため、組織的な判断がホームに留まらないように留意する必要がある。 (40ページ) 【医療との連携】 〇さがみ緑風園は、医療との連携における好事例であるといえる。身体拘束の解消に向けては、医療的な面から、安全性の確保が必要となる。生活の状況を観察している職員の情報をもとに、医療上の安全を確保できるか判断する場合も多く見られるため、医師に本人の状況を丁寧に報告することや医療職と会議で話し合うなど、情報の共有が欠かせない。 〇組織として、身体拘束を減らしていく方向で診療所に理解をいただき、直接の支援を担う職員と医療職それぞれの専門的な立場から、解消に向けた取組みを進めることができるよう、連携体制を整えることが重要である。 bガバナンスについて 【理念、リーダーシップ】 〇園長のリーダーシップのもと、また、医療との連携のもと、安全の確保がされつつ、身体拘束解消に向け、積極的に環境が調整されている。 〇担当職員やホームの判断又は責任のみで、安全管理にリスクのあることを進めることは難しい。家族等から「何かあったら責任を持ってもらう」と直接、苦情を受けるセクションでもあるため、ホームでは、身体拘束の軽減に不安を抱き、職員の足並みが揃わないことも少なくない。したがって、理念を明確にするだけでなく、チーム力を高めるためにも、園長自らが率先して、「正当な理由」のない身体拘束をゼロにすることを意思表明すること、また、現場の職員に直接、「園の会議で決まったと言ってよい」と伝えるなど、組織が責任を持っていることを明確に示す必要がある。 〇現場の職員がリスク覚悟でやっていくということについて、直属の上司や園長が、きちんと評価しフィードバックすることによって、身体拘束のない支援を進めることを容認してくれていることがより明確となる。そのような組織的な体制が非常に重要と考える。 〇園長が言うように、身体拘束ゼロに向けた取組みは、身体拘束を外せばいい、時間を短くすればいいという問題ではなく、本人の意思に基づいて四肢を動かしやすくするなど、生活の質を上げることに他ならない。事例に見られたように、身体拘束を解消していくことによって、本人の活動性が高まり、笑顔が増え、職員も利用者に関わるのを楽しむなど、その方の生活が豊かなものになることが想定される。職員が関わり支援することは、本来、その方の生活の質を高めるためのものである。支援をいかに高めるかということが問われている。 (41ページ) 【人材育成】 〇従前からの支援内容を変えて、新たな支援にチャレンジしていくことは、現場はリスクとの隣り合わせで、夜勤帯における対応の難しさもあり、負担もかかるが、このことによって達成できることがある。 〇直接的な支援の高い専門性については、マニュアル的に書くということが難しく、その場の利用者の状況によって試行錯誤した経験値のようなものだと考える。しかし、それが施設全体の身体拘束を減らしていくために重要なものになると思われるので、ぜひ同僚や後輩に伝え、やれるのではないかと感じられた部分をノウハウとして残してほしい。 〇特定の職員であったから可能だったとなりがちなので、横に広げていくような普及が非常に大事であり、その際に、現場の中から出てきたことを普遍化することは、専門性を高めるという意味で、とても重要である。 c県の運営指導等について 〇工夫の仕方については、園内だけで見いだすことや環境調整をすることが困難な場合がある。関係機関を活用し、連携、協働を進める必要がある。 (42ページ) (3)指定管理施設 ア愛名やまゆり園(社会福祉法人かながわ共同会) (ア)書面で確認された事実 【3要件の検討】 ○身体拘束を行う場合は、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件の全てを満たす必要があるが、身体拘束等実施計画には3要件についての記載がなく、どのように検討・判断したのか確認できなかった。 ○安心安全を確保することが困難なことを理由として、身体拘束を行っていた事例が確認された。 ○身体拘束を行う場合は、個別支援会議等において組織として慎重に検討・決定することが求められるが、身体拘束の必要性や身体拘束を減らす取組みについての検討や、やむを得ず行う理由などについて検討した経過が、寮会議録等から確認できない事例があった。 ○身体拘束等実施計画に「拘束等の具体的な内容」と「身体拘束等行動制限の具体的行為」を記載する欄が設けられているが、同一の時期の身体拘束について、それぞれの記載欄に異なることが記載されている事例があった。 ○身体拘束等実施計画に「原則医師による指導の下、実施する」旨の記載がされているが、医師の意見書や医師からの助言や指導等があったことを示す記録や書類などが確認できない事例があった。 【組織としての検討、判断】 ○組織として慎重に検討・決定するため、令和2年8月に「行動制限判定会議」を設置した。 ○身体拘束を行っていないにもかかわらず、家族等から身体拘束の承諾書を取得し続けていた事例が確認された。 ○県による、社会福祉法に基づく施設監査や、指定管理施設において支援上の問題などが指摘された際に基本協定書に基づく随時モニタリングが行われて以降、解消に向けて取り組み、身体拘束を実施しないこととした事例が散見された。しかし、解消に当たっての評価や検討経過が記録から確認できなかった。なお、解消前は、他害防止、衛生管理、自傷防止又は睡眠確保のため、身体拘束が必要であるとされていた。 ○身体拘束の解消が進む中で、個別支援の拡大や利用者がなぜ自傷してしまうのかを確認するなど、職員の関わりが増えている事例が確認された。 ○行動制限の解消に向けた取組状況や、その効果等が、『「身体拘束等行動制限」実施報告書』(以下「身体拘束等実施報告」という。)に記載されていることが確認できない事例があった。 ○身体拘束等実施報告に「今後の方針」を記載する欄が設けられているが、「必要に応じて身体拘束を実施する」や「同意書に基づき実施していく」、「拘束時間を減らすよう配慮する」等の記載しかなく、身体拘束の解消に向けた具体的な取組みの記載が確認できない事例があった。 ○身体拘束を行った場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由等必要な事項を記録する必要があるが、身体拘束等実施報告に身体拘束を行った具体的な時間等の記載がなく、身体拘束がどの程度の時間行われていたか確認ができない事例があった。 (43ページ) 【個別支援計画への記載等】 ○身体拘束の原因となる状況の分析を徹底的に行い、身体拘束の解消に向けた取組方針や目標とする解消の時期等を統一した方針の下で決定していくために、身体拘束を行う場合には、個別支援計画に身体拘束の態様及び時間、緊急やむを得ない理由を記載することが求められているが、個別支援計画の支援目標の記載が「安全を確保する」、支援方法が「承諾書に基づき行動制限を行う」や「自他の安全確保のため居室施錠を行う」等となっており、身体拘束の解消に向けた具体的対策が確認できない事例があった。 ○個別支援計画のモニタリング票である「評価表」に「今後の対応」欄が設けられているが、「承諾書に基づき実施していく。」や「引き続きモニタリング会議で検討する。」等の記載のみで、評価の内容が確認できない事例があった。 【やむを得ず行った場合の本人の状況の記録】 ○身体拘束を行う場合には、本人の状態像に応じて必要とされる最も短い拘束時間を想定する必要があるが、施設が独自に身体拘束の実施状況を整理するために作成していた「身体拘束確認表」には、身体拘束を行った時間や解消した時間の記載が確認できない事例や、食事や入浴などの際には解錠しているにもかかわらず、記録上では24時間拘束を行っていることになっている事例が確認された。 (イ)ヒアリングで確認された事実  ヒアリングを行った中で、ポイントと考えられる内容を中心に記載する。 (44ページ) a利用者支援に係るヒアリング @事例Gさん 行動は活発で、在宅生活時に所在不明となることがあった。 〔検証期間中の身体拘束の状況〕 ○居室施錠:睡眠時間確保のため、概ね1時間以上(平成30年度は概ね10時間)の居室施錠を実施。令和2年2月以降は実施していない。 ○つなぎ服:睡眠時間確保のため、概ね10時間以上(睡眠時)、つなぎ服を着用。令和2年2月以降は実施していない。 【身体拘束時の状況、認識など】 〇前施設から、安全な睡眠を確保するために、夜間は居室施錠とつなぎ服を着用しているとの引継ぎがあり、同様の対応を1年半ほど継続していた。 〇つなぎ服については、異食があるため、夜間に洋服を脱いで、おむつ等を口にすることがないように、就床から起床支援まで(20時〜6時頃)着用していた。 〇居室施錠については、本人が部屋に入り就床するまでの間施錠し、本人が眠ったら解錠していた。20時頃から、長くても21時半頃までで、約1時間施錠していた。 【実施の判断など】 〇前施設から本人の支援について、このような支援が必要であると引継ぎを受けた場合は、まずは同じ支援を継続することとしており、身体拘束についても同様の対応をしていた。 【軽減・廃止に向けた支援】 〇つなぎ服を着用していても、本人が自分でつなぎ服を脱いで、居室から出てくるということがあり、職員間で情報交換し、令和2年1、2月頃に、つなぎ服の着用をやめていく話になった。 〇最初はグループ会議で情報交換し、次に主任も入ったリーダー会議で確認をして、最終的には、全員が出席する寮会議の場で、解消に向けて取り組むことが決定し、試行期間を1か月設けて、令和2年3月に正式に解消した。 〇グループ会議は少人数の職員が参加して行っているが、本人の状況等について確証が取れないため、身体拘束(居室施錠、つなぎ服)の解消には前向きになれないところがあった。 ○本人は、起きてくると他の部屋に入り、他の人を起こしてしまうことがあるため、居室施錠には慎重に取り組んでいこうとの声があり、職員間で拘束解消の合意を得るまで時間がかかってしまった。つなぎ服は自分で脱ぐことができ、居室に鍵をかけても本人が鍵を開けられるので、何の意味もないということが、入所して1年半後の会議で確認された。 〇他の部屋に入ることもあるが、本人とやり取りし、本人が自分の部屋にいたくないのだと理解し、日中過ごしているリビングに誘導し、そこで毛布をかけてあげると、そのまま朝まで落ち着いて過ごしているため、そのような対応をしている。 〇身体拘束の解消について、職員全員の合意を得るまで1年半かかり、長かったと感じている。小人数の職員間で共有している情報について、寮や園でどのように検討し、身体拘束の時間を短くするのかということについて、今の段階では思いつかない。 ○今まで継続していた支援だから、それが良いわけではなく、常に支援の内容を振り返り、評価していく必要がある。 (45ページ) 【記録について】 〇居室施錠について、当初20時から6時まで行っていたが、平成31年4月から20時〜21時までの施錠に変更になっている。その経過が分かる記録、本人の状況や夜間帯に他の部屋に入っていたというような記録がないことについては、おそらく身体拘束という項目ではないところで記録していると思う。 〇令和2年4月に着任してから、これまでの取組みについて、グループ会議やリーダー会議、それから寮会議の記録を確認してみたが、残念ながら、どのような検討がされていたのか分からなかった。解消に向けた取組みについては、端々からある程度、1か月試行した内容や判断した結果が読み取れる程度だった。 ○身体拘束を解消したプロセスをまとめた記録は作成していない。 〇個別記録について、健康等の記録が多くなっていることについては、今年度はコロナ禍で日中活動が行えていないため少ない。昨年度の記録を確認したが、日中活動で楽しそうに散歩していたとか、音楽に合わせて体を揺らしていた等の記録が多くあった。日中活動の記録が充実していたことが分かった。 【支援全般について】 〇以前は、月に1回ドライブに行っていたが、シートベルトを外して、ドアのロックを走行中に外してしまって、その時にドライブに連れて行くのは危険だと判断して、それからは行っていない。外出についても、1対1では難しいため、2対2という場面を作って外出する必要があり、多くて年に2回である。 (46ページ) A事例Hさん 他者の介入で気持ちが乱れることがあり、他傷行為がある。入所以前からミトンの使用をしている。 〔検証期間中の身体拘束の状況〕 ○居室施錠:自他ともに安全確保が困難なためという理由で、概ね10時間以上の居室施錠を実施。 ○ミトン:他傷行為防止のため、ミトンを着用。令和2年3月以降は、自身で取り外しのできる鍋つかみに変更。 【身体拘束時の状況】 ○本当は人と接したいというのが根底にある方である。しかし、突発的な行動で人を傷つける恐れがある。強度行動障がいの方で、1対1で付き添っていないと本人や他の方の安全が守れない。 ○集団が苦手な方で、一人で過ごすことを好む。食事についても最後に食堂に来てもらい、なるべく他の方と関わらないよう工夫している。 ○居室施錠については、日中で、職員が1人しかおらず、本人に対応できない場合に行っている。令和元年度は10時間程施錠していたが、身体拘束の解消に向けて取り組んでおり、現在は計3時間程である。 ○ミトンについては、職員と一緒に過ごすことが多いため、現在は使用していない。本人自身が相手を手で突いてしまうことを分かっており、居室から出てくる際、自らミトンをしてほしいと言ってくる。自分で取り外しができる鍋つかみを使用している。 【身体拘束に対する認識】 ○法人が示した身体拘束ゼロの方針も背景にあるが、身体拘束はやってはいけないものなので、できるだけその人の生活が豊かになればという視点から、いろいろな余暇等の支援を組み立てている。みんなで、本人を見ながら良い方向にしていきたいと考えている。 ○長時間の身体拘束はいけないことだと思う。 ○これまでは、怪我をさせてはいけないという安全確保優先の考えがあった。 ○人事異動で担当職員が変更になっても、前任者から「こういう支援を行ってきた」と言われ、従来の支援を引き継いで行ってきたこともある。しかし、人が入れ替わることで、新たな視点も入るので、より良い方向に進んでいきたい。 ○身体拘束の解消が進んだ要因として、本人が加齢とともに落ち着いてきたことも考えられると思う。 (47ページ) 【軽減・廃止に向けた支援】 ○居室解錠の取組みについては、グループ会議や寮会議で話し合い、令和2年8月から行動制限判定会議が設置されたので、そこで全体で話し合った。 ○ミトンについては、令和元年度あたりから使用しないこととした。法人のネットワークシステムに申し送りという項目があるが、そこでの職員の発言やグループ会議等、職員数名で話し合ったことを試行してみて、成功したら次にというように段階を経て取り組んだ。しかし、その際の本人の様子や取組経過をしっかりと記録したものはない。 ○身体拘束の解消の取組みを進めており、令和2年10月の時点で、当該生活寮ではミトン3名、ホールディング1名と減ってきている。 bガバナンスに係るヒアリング 【身体拘束に対する認識】 〇令和2年4月から、身体拘束を軽減していく方針を示し、身体拘束をしてはいけないことについて常日頃伝えている。しかし、どうしても障がい特性により、やむを得ず身体拘束を行う場合がある。 ○なぜ身体拘束を行わなければならないのか、その原因についてアセスメントを繰り返し行うことによって軽減していくものだと思っている。そういう取組みをもう少し行った方がよかったという認識を持っている。職員は皆一生懸命にやっているが、身体拘束をしてはいけないという認識が弱かった。 ○長時間にわたるミトンの使用について、園としては、障がい特性により必要と判断しており、虐待の認識はない。ただし、一つひとつ検証して、軽減に向けた取組みをしていく。 【軽減・廃止に向けた支援】 〇従来からミトンを着用している方がいるが、しっかりとアセスメントができていなかった。本当にミトンが必要なのか、ミトンの代替となるものはないのかなど、軽減に向けた取組みを進めている。 〇利用者のエピソードも大事だと思っている。入所してきた頃からさかのぼることで、なぜミトン等の身体拘束をしていたのか確認できた。 ○これまでも身体拘束の必要性について話し合ってきたが、十分に検討していなかった。今回このような機会を持つことができ、よかったと感じる。根本の原因が分からないと次の支援ができないので、そこを中心に行うようにしている。 【組織体制】 ○身体拘束について組織的に判断することが求められているが、その部分が欠けていた。令和元年度、県の随時モニタリングや特別監査が入り、令和2年8月末に県へ改善報告を提出した。その中で、行動制限判定会議を新たに設置し、身体拘束について組織的に確認することにした。 〇3要件については、グループ会議と寮会議で検討しているため、行動制限判定会議は、その報告と組織決定の場となっている。今後、組織として、時間をかけて検討していかなければならないのであれば、きちんと反映していきたい。 ○厚生労働省の「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」を常に現場に掲示をして、身体拘束について、職員に理解を促してきたつもりである。 (48ページ) 【支援技術】 ○指定管理施設の役割として、強度行動障がい対する支援の実績や成功事例など行動障がいに特化したものは発表していない。ただし、県や民間施設で行っている強度行動障害支援者養成研修のファシリテーターなどには参加している。行動障がい以外に、地域サービス事業として、地域に向けた発信をしている。 ○原因を追究し、解決に向かっていくためには、記録が大事である。職員一人ひとりのスキルを高め、その人に合った支援をしていかなければならない、という認識はある。 【地域生活移行】 ○地域移行というのは、必ずしも施設から外の生活に移行することだけではないと考えている。グループホームや在宅への移行だけではなく、作業所に行くことも「地域移行」だと思っている。幅広く考えれば、コミュニケーションであるとか、行事に一緒に出たり、地域の掃除に行ったりすることも地域移行と捉えている。 【ガバナンスの強化に向けて】 ○法人として、コミュニケーションの部分が一番弱かったと思う。何かが起きた時に話し合ったり、人に伝えたりすることで、正確な情報なのかどうかを判断したりすることが弱かった。 ○法人の上層部の決定が園に下りてくるので、幹部職員が現場に伝えることが大事である。伝えるだけではなく、相互にやり取りすることが必要だと思うので、話合いは重要だと思っており、そのためのコミュニケーションを取っている。 (49ページ) (ウ)特定事案に係るヒアリングで確認された事実 a事案1 令和2年1月に認定された虐待事案について @概要 ○令和元年7月に、県に対し、愛名やまゆり園において、利用者に対する虐待の疑いがあるとの匿名の手紙があった。 ○園から令和元年8月にX市に通報し、令和2年1月、利用者に対する職員の次の行為が虐待に当たると認定された。 ○虐待と認定された行為(利用者は複数人いるが特定できていない)としては、次のとおりである。 (a)お風呂で利用者に対し水をかける。(心理的虐待) (b)食事制限がある利用者に対し、御飯を大量に食べさせる。(身体的虐待) (c)御飯をお盆にまき散らして食べさせる。箸1本で食べさせる。(心理的虐待) (d)夜中に長時間(1〜3時間)に渡りトイレに座らせる。(身体的虐待) ※令和元年6月職員がホットケーキを利用者の意思に関係なく、無理やり食べさせたことに対して、X市による調査の結果、上記の行為を含めて虐待と認定された。 ○虐待を行った職員については(a)〜(c)については1名の特定の職員、(d)については複数の職員が該当。 ○園では、検証委員会を立ち上げ、報告書を取りまとめている。また、X市に改善報告を提出している。 A検討部会委員によるヒアリング結果 【当該生活課の課長等の認識】 ○園自ら、当該生活課の職員が虐待に当たる行為をしているとの内容で、X市に通報した。 ○X市の聞き取り調査の中で、ホットケーキを食べさせた以外の(a)〜(d)行為が確認された。 ○ホットケーキを食べさせられた利用者、その行為を行った職員は特定できているが、他の事案については、利用者も職員も特定されていない。X市からも特定の利用者、職員の名前は聞いていない。 ○食事制限をしている利用者にホットケーキを食べさせた職員は、その人が食事制限をしていることは知っていたと思うが、一方でもう少し食べさせてあげたいという思いを持っており、それが軽々しい行動につながったと思う。 ○当該職員に聞き取りをした結果、「食べさせたホットケーキは、1枚半、2枚弱だったのでこういう結果になるとは思ってはいなかった。」とのことだったが、支援としては報告が必要であろうという話はした。 ○当該職員へは当時の課長が注意しており、他の職員に対しては、会議等で制限食の重み等について話をした。 ○(a)〜(d)の行為について、ヒアリングした職員は見てもいないし、職員からの報告もなかったため、信じられない気持ちだった。常態化した行為ではなかったのではないか。 ○(a)〜(d)の行為については、令和2年1月の職員全体会議で報告があった。 ○今回の虐待事案について、当時の支援部長が園内の担当で調査をし、職員の聞き取りを行っていた。 ○職員への聞き取りを行っているが、実際にそのような行為があったのかはっきりしない。 ○ホットケーキを食べさせた以外の(a)〜(d)の虐待行為について、詳細な内容は把握していない。そのため、本当に虐待行為があったのか、虐待行為があった場合、その原因は何なのか等については分からない。 ○当該生活課としては、年度初めに職員の入れ替わりもあり、支援をしっかりやっていくことを確認している。マニュアルの更新、利用者の概況一覧、アセスメントの見直し、食事カードの作成等にも取り組んでいる。 ○今回のことを教訓として、職員とのコミュニケーションや会議の重要性を認識して、しっかり取り組んでいきたい。 (50ページ) 【園長、部長の認識】 ○今回の虐待事案は、現場の職員のコミュニケーション不足や支援方法が統一されていなかったことが原因だと認識していた。支援マニュアルをもう一度見直して作り直している。また、職員とのコミュニケーションとして、管理職が現場を把握することが大切であるため、対応する取組みを行っている。 ○組織の中の話合いや人権意識、利用者への支援が不十分だったと感じている。 ○検証委員会を立ち上げ、第三者からの御意見をいただいている。 ○複数の職員が、夜中に長時間(1〜3時間)にわたりトイレに座らせていた背景や原因として、夜勤者が1人で、他の利用者の対応や仕事等で、トイレに座っていただいていることを忘れてしまったことも含まれる。 ○園としては、起きてしまった件について、原因を突き止めなくてはならないとは思うが、組織として事後の対応が大事だと考えているので、適切な支援についての周知等の取組みを行っている。 ○あいさつ、言葉遣い、身だしなみの徹底、人権擁護の推進、信頼回復に向けた利用者一人ひとりに対する丁寧な支援について、継続して取り組んでいる。 ○コロナの関係があり、職員とのコミュニケーションには制限があるが、朝には各寮を周り、利用者や職員に対して挨拶や声かけをするようにしている。 (51ページ) b事案2 虐待通報に係る理事長名の文書について @概要 ○匿名で、愛名やまゆり園の男性利用者に対する虐待のおそれがある事案などについて、県に情報提供があった。県は事実確認のため、令和2年9月立入調査を実施した。 ○立入調査で、当該利用者は、自傷を防止するためにミトン型の手袋を付けていること、また同利用者の居室の扉(引き戸)の取っ手には、自傷を予防するために緩衝材をガムテープで張り付けてあることを確認した。 ○愛名やまゆり園からは、当該利用者は側臥位の姿勢を取り、扉を開けることができるとの説明があったが、扉は鉄製で重く、取っ手部分には緩衝材とガムテープによって覆われているため、開けにくい扉であることは事実である。県は、本人の意思に応じて出入りすることが難しい仕様となっており、利用者の人権に配慮した対応ではなく、不適切であるとし、改善するよう伝えた。 ○Y市に通報があり、調査を実施しているが、虐待の認定は受けていない。 ○なお、この件については、関係者からの情報ということで、居室の扉の写真とともに報道機関が報道している。 ○同年9月7日、共同会は理事長名で、「職員が事実と異なる情報を外部に通報し、許可なく園内の写真を提供したのであれば、極めて遺憾であり、懲戒処分の対象にもなりうると考えております」と記載した職員向けの文書を出した。 A検討部会委員によるヒアリング結果 【利用者の状況】 〇(部屋の外にいる時間は)食事30分、お風呂30分、散歩30分で、1時間半程度は部屋の外に出て過ごしている。散歩は園内で、本人はマイクロバスが好きなので、気分転換にグランドに駐車しているバスを見に行っている。 〇居室の鉄の扉については、県立直営の頃に設置したものだと聞いている。明確な理由は分からないが、行動障がいのある方が破損した扉で怪我しないようにと、破損率の低い鉄製の扉にしたのではないかと推測している。 〇扉の取っ手にガムテープを貼っていたのは、取っ手が少し出ているため、突発的に行動して額をぶつけたり、便を詰め込んでしまうことを予防するためである。 〇本人はミトンをつけていても、取っ手に手をかけて扉を開けて、居室から出ることができる。本人は、取っ手というものを認識して使用しているわけではなく、ドアを叩き、少しずつ開いた隙間に手を入れてドアを開けている。本人が自ら開けて出てくるので、施錠はしていない。 〇(居室の外で過ごす時間は短いが)本人は自ら扉を開けて出てくることができるので、居室施錠であるとの認識はない。 〇居室では音楽を聞いて過ごしている。扉を開けて出てくることが続くこともあるが、回数を記録に取ったことはない。 〇 夜中に扉を叩くことがあるが、外に出たいとの訴えではなく、感覚刺激、叩いた時の音や振動を楽しんでいると認識している。 (52ページ) 【愛名やまゆり園の認識】 ○理事長は、障害者虐待防止法の通報を妨げる主旨の文面を出したものではないと思っている。実際に本人の意思で扉を開けることはできたので、そこは(新聞の記事と)事実は異なり、事実と異なることを新聞社に提供したことが問題であるというのが理事長の考えである。 ○職員の個人的なことを言うよりも、組織としてどうあるべきかを示したものだと考えている。 ○虐待通報について、障害者虐待防止法で言う、「虐待と思ったら通報する」というのが1番だと思う。実際には通報する際に悩んだりする方もいるので相談をしたり、組織として判断していくことが必要になってくると思う。 ○今回の通報については、組織の問題で、相談しにくい環境があったのかと反省している。 【共同会の認識】 〇理事長名文書は、新聞に虐待の疑いの記事が出たことについて、通報という言葉を使ったのは適切ではなかったが、職員に気にしないようにとの主旨で書いたものである。 ○通報することを問題にしているのではなく、新聞社に事実と異なる情報を提供したことを問題視している。居室施錠はしておらず、本人は自分で開けられるため、事実と異なる。 ○虚偽の通報は、障害者虐待防止法の適用は受けない。事実でないことを新聞社に伝えたことは虚偽である。 ○職員への威嚇とは考えていないが、言葉が強すぎた、懲戒処分というのは行き過ぎた言葉だと思っている。 ○この文書を、職員向けのメッセージとして出したことは事実である。 ○扉の状況を現場で確認し、職員からもヒアリングをしたところ、開けにくい扉だったが、本人が扉を開けられることを確認した。事実ではないことを外部に情報提供することは、様々な影響があり、よくないということを伝えたかった。「通報」という言葉を使ったことで、多くの方々に「虐待通報」と捉えられたことは大きな反省である。本来、ここは情報提供と書くべきだった。 ○障害者虐待防止法はきちんと認識しているし、当然、職員の義務であり、疑いも含めて通報する。虐待通報であれば、市町村に出してもらうのが本来である。 ○懲戒処分というのは少し大きな見方だが、法人の利益という意味では懲戒処分という言葉を使った。 ○職員には常々、虐待通報は市町村と伝えているし、これは疑いがあっても通報しなければならないということは、機会があるたびに伝えている。 ○通報前に、職員間で話し合ったり、対応策等を提案したりできるとよい。今回はそのようなことは一度もなかったが、職場内で言える雰囲気になっていなかった可能性も考えられ、そこは課題として認識している。 ○扉自体が重くて開けにくのは事実である。しかし、利用者本人が開けられるし、施錠してはいない。 ○このままでいいと思っていない。改善すべきところがあるということで、化粧板をきれいにしたり、吊り具を変えたりなど環境改善をした。 (53ページ) (エ)検討部会としての見解 a利用者支援について 【身体拘束に対する認識】 〇身体拘束を行う場合、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件全てを満たす必要があることを職員は認識しているが、個別支援計画、身体拘束実施計画、会議録等に3要件に関する記載はほとんどなかった。 ○安全確保を優先する傾向があり、また、他施設から引き継いだ支援方法や従前の支援方法を継続し、漫然と身体拘束を行っていたことが確認された。 ○原則として、身体拘束はやってはいけないものであり、利用者本人のより良い生活や豊かな生活に向けて、支援を組み立てていこうとする姿勢に変わりつつあるが、どのように取り組んだらよいか、分からないようであった。 【情報共有について】 ○虐待認定を受けた事案について、第三者を入れた検証委員会を設置し、自治体に改善報告書を出しているにもかかわらず、詳細な状況や何が原因で行ったのか等、現場の職員が理解していない。改善報告書をどのように作成し、どのように改善しているのか不明である。 【軽減・廃止に向けた支援】 ○令和元年度の後半から、身体拘束解消に向けた取組みが進められているが、その検討経過が会議録等から確認できない事例があった。ヒアリングから、職員間で検討し取り組んできたことは分かったが、どのようにアセスメントして支援計画を作成し、評価したのかが明確ではなく、記録等がない。 ○つなぎ服を脱いでしまう、施錠しても本人が開けて出てくる等、本人の状況を共有し、職員間で身体拘束解消の合意を得るまで1年半かかった事例があった。本人の状況に関する記録や検討が不十分であり、より普通の生活や質の高い生活に向けて支援していく視点が欠けていた。 ○「いかに早く情報共有し、寮や園内で検討すればよいのか分からない」との発言があったが、その「困り感」を他セクションや幹部と共有し、より多角的な視点から解決に向けて取り組めるよう、体制を整える必要がある。 ○今後の支援に活かしていくためにも、過去の支援を振り返り、検証することが重要であり、身体拘束解消の取組経過を整理する必要がある。 ○身体拘束について、令和元年12月時点の調査では37人52件だったが、令和2年12月時点では22人32件に減っており、身体拘束の解消に向けて取り組んでいる。 (54ページ) bガバナンスについて 【理念、リーダーシップ】 ○安心安全の確保や利用者の障がい特性を理由に身体拘束を行うなど、支援者側の目線に立った支援となっており、利用者を中心に、より質の高い生活や社会的な生活に向けて支援するという視点に欠けていた。 ○長時間にわたるミトンの使用等について、「虐待」に当たるとの認識がないことが確認された。長時間の身体拘束は一時性に反しており、幹部職員の身体拘束に対する認識が低い。身体拘束の解消に向けて、組織として取り組む必要があるが、現場の職員に明確な方針を示すことができるのか疑義がある。 ○人事異動による組織の活性化は大切であるが、過去をしっかりと把握する必要がある。過去の体制や支援も含めて振り返り、今後に向けて改善に取り組んでいく姿勢が求められる。 【組織体制】 ○令和2年8月に、組織として判断するため、行動制限判定会議を新たに設置したが、ヒアリングでは「グループ会議と寮会議で検討した内容を報告する場」とのことだった。身体拘束を行う場合の3要件が満たされて、手続きが守られていればよい、ということではなく、利用者本人を中心に、本人に合った支援は何か、それは自分たちの施設で支援できるのかどうかということを担当者、管理者がそれぞれ真摯に考えることが重要であり、それを行う支援体制、組織体制が必要である。支援のあり方について、様々な立場から多角的に検討する機会が必要であり、上記の「行動制限判定会議」が報告の場ではなく、検討の場となる必要がある。 ○どの事例も身体拘束解消の取組経過等に関する記録がなかったが、支援に対する説明責任、支援の評価、人材育成等、様々な観点から、しっかり記録するよう取り組む必要がある。 ○拘束をするための3要件の条件を揃えるための記録ではなく、個別支援計画で利用者の好きなことや楽しみなこと、日中の活動を活性化する計画を立て、そこをきちんと支援していくことが必要である。 ○利用者が開けにくい鉄の扉の改修など、利用者の生活の質の向上に向けて、生活空間等の環境改善に積極的に取り組む必要がある。扉が重く開けにくい環境の居室に生活をさせることは、たとえ施錠していない場合でも身体拘束と考えられ、管理職の虐待に関する認識が低い。 (55ページ) 【特定事案1 虐待事案について】 ○令和2年1月に虐待認定を受けた事案について、現場の職員が詳細を把握しておらず、管理職と現場の職員との情報共有が図られていない。また、令和2年4月に、園長や部長等が人事異動で代わったが、当該事案をしっかり把握し、改善に向けて取り組んでいるのか疑義がある。 【特定事案2 虐待通報に係る理事長名の文書について】 ○理事長名で、職員の虐待通報を抑制させかねない文書が出された事案について、法人及び愛名やまゆり園の管理職とも、利用者目線ではなく、法人目線の発言に終始した。 ○「懲戒処分」という言葉を使う文書の発出は、職員の発言を抑制し、風通しのよい職場づくりからは程遠い。ガバナンス面で重大な問題のある姿勢である。法人を守るという考えではなく、利用者を守ることを第一に考えるべきであり、それが法人の使命である。 ○本人からSOSが出せない、苦情が言えないからこそ、それに気が付いた者が、それが虐待かどうか分からなくても、虐待と思われる場合には通報するというのが、障害者虐待防止法の主旨である。気が付いた職員は、まずは上司や同僚に報告するべきという発言はあったが、それが言えない愛名やまゆり園の環境により、通報することによって何かを変えたいとの思いだったかもしれない。職員が、伸び伸びと働けるような環境を作ることも必要である。虐待通報への対応は、市町村であるが、通報先は必ずそこに限るというものではなく、最終的にその市町村に集約されるものである。この点、市町村以外への通報が障害者虐待防止法に定められた通報先ではないからといって、直ちに違法な行為として懲戒の対象とすることは、通報者は解雇その他不利益な取扱いを受けないこととする障害者虐待防止法の趣旨に反している。また、虐待が「疑われる」行為を発見した者は、速やかに市町村に通報することが、同法の要請であり、事実であるかどうかを認定するのは通報後であるので、「虚偽の通報」と決めつけることも問題である。 (56ページ)  c県の運営指導等について ○指定管理者に施設の運営を任せきりにしてきた県の監督責任も大きい。 ○身体拘束を含む利用者の状況や支援の質などに対して、県からの指導はなく、今後、指導のあり方や随時モニタリングの見直しが必要である。 (57ページ) イ厚木精華園(社会福祉法人かながわ共同会) (ア)書面で確認された事実 【3要件の検討】 〇身体拘束を行う場合は、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件全てを満たす必要があるが、身体拘束等実施計画には3要件についての記載がなく、どのように検討・判断したのか確認できなかった。 ○身体拘束を行う場合は、個別支援会議等において組織として慎重に検討・決定することが求められるが、身体拘束の必要性や身体拘束を減らす取組みについての検討や、やむを得ず行う理由などについて検討した経過が、寮会議録等から確認できない事例が確認された。 〇身体拘束等実施計画に、身体拘束を行う具体的な時間についての記載がなく、「午睡時、就寝時」や「車椅子乗車中」等の抽象的な表現のみで記載されている事例が確認された。 【組織としての検討、判断】 ○組織として慎重に検討・決定するため、令和2年8月に「行動制限判定会議」を設置した。 ○行動制限の解消に向けた取組状況や、その効果等が、身体拘束等実施報告に記載されていることが確認できない事例があった。また、身体拘束等実施報告に「今後の方針」を記載する欄が設けられているが、「必要に応じて身体拘束を実施する」や「同意書に基づき実施していく」、「拘束時間を減らすよう配慮する」等の記載しかなく、身体拘束の解消に向けた具体的な取組みの記載が確認できない事例があった。 〇身体拘束を行った場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由等必要な事項を記録する必要があるが、平成30年10月まで身体拘束について記録されていなかった。また、身体拘束等実施報告に身体拘束を行った具体的な時間等の記載がないため、身体拘束がどの程度の時間行われていたか確認ができない事例が確認された。 〇令和2年6月の運営会議及び「利用者の身体拘束にかかる行動制限からの除外について(伺い)」により、身体拘束の除外の定義について整理している。@歯科治療等の為に使用するパブーズボード、A医師の指示に基づくオーダーメイドの座位保持装置、B自らの意思で外せる車椅子ベルト、C機器浴時の機器取扱説明書内容に即したベルトである場合は、身体拘束と判断しないこととされたが、組織としてそれをどのような場で、誰が判断するのかについての記載は確認できなかった。 【個別支援計画への記載等】 ○身体拘束の原因となる状況の分析を徹底的に行い、身体拘束の解消に向けた取組方針や目標とする解消の時期等を統一した方針の下で決定していくために行うため、身体拘束を行う場合には、個別支援計画に身体拘束の態様及び時間、緊急やむを得ない理由を記載することが求められているが、個別支援計画書にその記載が確認できない事例があった。 〇個別支援計画書に支援方針として、身体拘束の時間を短縮する旨の記載があるが、その具体的な方策が記載されていない事例があった。 〇リーダー打ち合わせ会議において、ベッド柵を外しても問題ないので外すとされるまで、ベッド2点柵(片側壁)でなければ、転落を防ぐことができないとし、リスクについて観察・記録することがないなど、エビデンスに基づき支援していることが確認できない事例が確認された。 (58ページ) 【やむを得ず行った場合の本人の状況の記録】 〇個人記録に、食事摂取量や排便の状況、発作の様子などは多く記載されているが、身体拘束に関連する日々の生活の様子についての記録がほとんどない事例が確認された。 (イ)ヒアリングで確認された事実 ヒアリングを行った中で、ポイントと考えられる内容を中心に記載する。 a利用者支援に係るヒアリング @事例Iさん 肢体不自由2級。発語はない。 〔検証期間中の身体拘束の状況〕 〇ベッド柵:転落防止のためを理由として、概ね8時間以上、ベッド柵(2点)を使用。令和2年8月からベッド柵を1点に変更。 ○車椅子ベルト:車椅子からのずり落ち防止のため、車椅子乗車時に、概ね8時間以上使用。令和2年6月から、医師の指示に基づくオーダーメイドのベルトは身体拘束から除外されることとなった。 【身体拘束時の状況、認識など】 ○転倒のリスクという切迫性、手足を動かすことがあるため柵に代わるものがないという非代替性、ベッド利用の場合という一時性について判断し、ベッドの2点柵設置を行っていた。 ○代替性について、ベッド柵を柔らかい素材でくるんだらどうか、下にマットを敷いたらどうか等検討を行っていたが、その方法が本人の利益になるかどうか結論が出ず、それ以上の取組みには至らなかった。 ○車椅子のベルト装着については、車椅子からの転落防止という理由で行っていた。 ○グループモニタリング会議、課会議で検討している。開催頻度はそれぞれ月1回。グループモニタリング会議は、利用者を4つのグループに分けて、支援の方向性や日々の支援方法等について検討している。課の会議は、各グループモニタリング会議で検討してきたことを報告、検討し、最終決定する場である。 ○家族や外部機関等を含めた支援検討会議については、必要に応じて開催している。 (59ページ) 【軽減・廃止に向けた支援】 ○身体拘束解消に向けた園の方針もあり、令和2年8月から試行として、ベッドの高さを一番低く下げて、長めのクッションを柵に代わって使用し始めた。手足の動きも前に比べて少なくなってきた状況があり、本人の様子を見て、転落の危険性がなく問題ないと判断し、令和2年9月から身体拘束は行っていない。 ○車椅子のベルトはこれまで身体拘束として扱ってきたが、令和2年6月の運営会議にて、本人の姿勢を保持するために必要なものなので、車椅子利用時には装着しなければならないと説明を受け、身体拘束として取り扱わないことになった。 ○食事の時やリラックスしているとき等、職員がそばにいて安全を確認できるときは車椅子のベルトを少し緩める取組みを継続している。しかし、本人の身体機能の低下に伴い、体を真っ直ぐに維持することが難しくなり、車椅子のティルト機能やクッションを使うなど、ベルトを外さなくても本人がリラックスできる方法を検討している。 ○以前は、ベッド柵を使用することで、職員も本人から目を離しても大丈夫かもしれないという気持ちがあった。しかし、身体拘束の解消に向けて、例えば、本人がベッドの端にいたら不快なのではないか等、本人にしっかり向き合い、様々な配慮が必要になり、そうしたことを意識することが増えてきた。 ○身体拘束を解消したものの、夜間帯は職員が一人のため、緊張を感じている。 【記録、情報共有等について】 ○変則勤務であり、利用者の変化や支援方法等について情報共有することは難しい。個人記録等に記載することはもちろんだが、ネットワークの「申し送り」の項目を利用して、分かりやすく伝える工夫をしている。また、しっかり伝わっているかどうか、常日頃の介助の中で、「この間申し送りをした方法についてはどうか」など直接確認するようにしている。 (60ページ) 【支援全般について】 〇本人の表情や行動から、本人の気持ちを汲み取るようにしている。分からない職員には、分からないからとそのままにしないで、分かる職員に、こういう時にはどうしたらいいか聞くように伝えている。 〇本人の表情が穏やかになったり、職員に目を向けたり、声を上げたり等、本人なりに意思表示をしてくれる。本人がなるべく快適に暮らせるように日々工夫をして、末永く健康で厚木精華園で暮らしてほしいという考えで支援している。 〇身体機能の維持・訓練等については、理学療法士が来園した際に、姿勢保持の方法や移乗の方法などを確認して取り組んでいる。現在はコロナの関係で、理学療法士と相談ができていないため、以前教えてもらった方法で行っている。 〇看護師との連携については、看護師からの指摘だけではなく、職員のほうから気になるところを伝えて助言をもらっている。また、内科受診や精神科受診等において、看護師に医師と職員のパイプ役になってもらう場合もある。 A事例Jさん 以前は単独歩行もできていたが、歩行が不安定なため車椅子を使用することとなる。車椅子を自走して動くことも可能。 〔検証期間中の身体拘束の状況〕 ○車椅子ベルト:車椅子からの転倒防止のため使用。日中、車椅子乗車時は常に使用(概ね8時間以上)。 ○ベッド柵:尿カテーテル留置のためウロバッグが地面に付かないように、ベッドを高い位置にする配慮が必要で、午睡時と就寝時に、転落を防止するため、実施。 【身体拘束時の状況、認識など】 ○入所した当初は単独で歩行していたが、徐々にADLが落ちて、車椅子を使用している。 ○車椅子ベルトで安定させることにより、自分で車椅子を漕いで寮内を移動することができる。 ○過去に車椅子ベルトをせずに動こうとして、車椅子から落ちたことから、転落防止のためにも車椅子ベルトをする必要がある。 ○ベッドを低くすると、使用している尿道カテーテルの先にあるウロバッグが地面に付いてしまい、衛生面の確保が難しいため、ウロバックが床につかない高さを保持する必要があるほか、寝返り等もあり転落する危険性があるため、安全確保のためにベッド柵(4点柵)は必要である。 (61ページ) 【実施の判断など】 ○毎月、グループモニタリング会議と課会議で、本人の状況を確認している。 ○3要件の切迫性、非代替性、一時性に基づいて、利用者にとってどういう身体拘束が必要になってくるかを話し合っている。本人については、現状安全や命には代えられないという判断である。 【軽減・廃止に向けた支援】 ○身体の負担を減らすために、エアーベッドとしているが、フカフカしている分、寝返りを打った時に、尿道カテーテルも引っ張られることがある。ベッド柵は外して寝てほしいと思うが、困難な状況である。どうしたらよいだろというのが、職員側の一致した考えであり、悩んでいる。 【記録、情報共有等について】 ○3要件の切迫性、非代替性、一時性に基づいて話し合って、Jさんについては、車椅子乗車時の転落防止のための車椅子ベルトや、ベッドに寝ているときのウロバッグ及び転倒防止のために必要ということで会議録に記録している。 ○(拘束を外した時間は記録されているが、拘束をした時間は記録されているかとの質問に対して)車椅子で過ごした時間、ベッドで休んだ時間について記入はしている。個人記録に必ず記録するようにしている。 ○厚木精華園に入所する前の情報について、把握しきれていないものもある。 【支援全般について】 〇体重の推移や食事状況等について、定期的に医師に相談している。 〇本人に関する個別の検討会議はないが、グループモニタリング会議や課会議以外で、周りの職員や上席者に相談している。 bガバナンスに係るヒアリング 【身体拘束に対する認識】 〇高齢障がい者の施設なので、転倒すると怖いという先入観があり、特に夜間帯は利用者20人を1人の職員で対応するとなると、見守りも十分ではないので、転倒して骨折する等のリスクを考えると、ベッド柵設置を行うのは普通であるとの感覚があった。しかし、検証委員会での指摘を受けて、やはり違うと話し合い、身体拘束ゼロに向けて取り組んだ。 〇身体的な課題を抱えている中で、座位が保てない人が、少し目を離した際に車椅子から転落したという事例もあり、事故防止というところでは、少し安全を重視する傾向だった。身体拘束解消に向けた取組みと事故のリスクという面で、どうしたらよいか葛藤を抱えている。 〇共同会には、安全のために身体拘束をするという傾向があった。しかし、本人の権利擁護を考えると、安全のための身体拘束ではなく、いかに外せるかということが大事だったということに気がついた。もっと早くに気づくべきだったと思う。 (62ページ) 【記録について】 〇グループ会議、課会議の中で身体拘束の3要件は確認している。しかし、身体拘束に関する書類一式については、法人のネットワークサービスの中に保存されているフォーマットを使用していて、3要件について記載する項目がない。考え方の変化に様式の変更が追い付いてない。改善の方向で検討しているが、まだ反映できていない状況である。 〇3要件については、グループ会議等で補足する形にしている。しかし、必ず3要件を記載していくことが、まだできていない。統一した文言等も確認できておらず、発展段階にある。 【組織体制】 〇グループ会議や課会議の持ち方については、変則勤務であり、限られた時間の中で実施しなければならず、やむなく途中で打ち切らなければならないこともある。昨年からの働き方改革等もあり、やることが山のようにある中で、会議に時間を取ってしまうと記録が後回しになってしまい、今日の記録はいつ書くのかというジレンマがある。会議は、時間的には非常に少ないと思っている。 〇外部医療機関への通院が多く、転倒や体調不良等によって予定していた通院よりもさらに人手がかかる場合があるため、個別事例を検討する会議の設定も難しかった。 【家族への説明】 〇家族として、怪我をしてほしくないとの気持ちは当然なので、身体拘束の解消に向けては、家族の理解を得られるよう丁寧に説明していかなければならない。 【関係機関との連携】 〇同じ法人内の施設からヒントを得るというところには、至っていない。 〇高齢者支援セミナーという、地域の施設を含めて老人ホームの一般の高齢の方たちにも声をかけたり、講師に来てもらったりという共通の学びの場はある。 (63ページ) 【人材育成】 〇新規採用で入ってきた職員や厚木精華園で2〜3年の経験しかない職員に対して、自己研鑽のために、民間でやっているサポーターカレッジの受講を勧めている。講座数が非常に充実しており、講師陣が施設の理事長や園長、大学の専門の先生など現場を分かっている方が講師で、15分程度の短い時間なので、活用してもらい、職員が視聴したら、支援部長のところに視聴した受講票を集約している。 【軽減・廃止に向けた支援】 〇令和2年度から、身体拘束ゼロを目指し、運営会議や課会議、グループモニタリング会議で、可能な限り身体拘束を外していくという話をしてきたが、他施設で身体拘束を解消することができて、厚木精華園でできない部分は何かということで、具体的に他施設の要綱等を比べながら見直しをしたことは参考になった。 〇1回では変わらないので、毎月の運営会議等で園の方針等について、園長・部長・課長で言い続けることを意識して行い、半年続けることで、職員に浸透し、職員同士のコミュニケーションにつながっている。 〇令和元年12月の身体拘束の状況調査では21件だったが、令和2年12月では10件に減っている。 〇身体拘束解消に向けての取組みが具体的になってきたのは、令和2年夏頃である。身体拘束解消に向けての話を繰り返しながら、各セクションでの利用者個々の支援は、引き続き個別支援というところでは重視しながら、「解消する」という意識で取り組んでほしいと常々お願いしている。 〇我々の常識が世間一般の常識と離れつつあるということを職員に伝えた。施設と職員の家庭の往復だけで済ませると世の中と考え方が乖離していく。社会が変わってきたから、我々も変わらなければいけない、ということは強調して伝えた。 〇園の方針として、身体拘束、行動制限をしないということが決まって、身体拘束解消に向けた取組みが活発になってきた。職員には、身体拘束をしないことが原則であることを伝えた。本人のアセスメントを取り直し、本当にそれが必要かどうかというのをモニタリング会議で検討していった。アセスメントを見直すというところが重要だと思う。 (ウ)検討部会としての見解 a利用者支援について 【身体拘束に対する認識】 〇身体拘束を行う場合、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件全てを満たす必要があることは認識しているが、個別支援計画、身体拘束の実施伺い、会議録等に3要件に関する記載がほとんどなく、職員へのヒアリングからも3要件に関する考察が弱い。 ○車椅子のベルトについて、厚木精華園の方針として、医師の診断書等により姿勢保持に必要とされたベルトは身体拘束として取り扱わないとのことだった。その意味では本人にとって必要な車椅子ベルトであると判断できるが、一方で、「車椅子のベルトを少し緩める取組みを継続している」とあることから、何のために車椅子ベルトをするのか、それが利用者本人にとってどのような意味があるのか等が整理されていない。そこを、しっかり整理・検討する必要がある。 (64ページ) 【軽減・廃止に向けた支援】 ○身体拘束について、令和元年12月時点の調査では21件だったが、令和2年12月時点では10件に減っており、身体拘束の解消に向けて取り組んでいる。 ○医療的ケアが必要な方もいることから、身体拘束解消に向けて、容易にはいかない状況があり、職員からは「悩んでいる」との発言があった。対応が現状把握と現状分析で留まっていることもあり、施設内での議論で完結させず、積極的に他施設での取組みを情報収集し、また外部機関から助言をもらう等、連携していく必要がある。 ○ベッド柵撤去等、身体拘束が解消できた理由の一つとして、本人のADLが下がって動きが少なくなったことも考えられる。ADLが維持されている間は身体拘束をし、低下したら外すというのでは本末転倒である。加齢とともに身体機能が低下することは当然だが、利用者の状態の変化に合わせて必要なリハビリ等を提供し、身体機能の維持と身体拘束の解消を両立することは重要である。そういった経過も分かるように、記録していくことが望まれる。 bガバナンスについて 【理念、リーダーシップ】 〇ヒアリングから、「ベッド柵設置等の身体拘束を行うのは普通であるとの感覚があった」との発言にあるとおり、組織全体として、利用者の安心安全を優先し、ベッド柵や車椅子のベルト等の身体拘束を行っていたことが確認された。 ○厚木精華園は中高齢者を対象とした施設であることから、転倒による怪我等のリスクに対して、特に慎重に対応していたと思われるが、利用者にとってのより質の高い生活や社会的な生活に向けて支援するという視点が欠けていた。 〇検証委員会での指摘をきっかけに、令和2年度から園として身体拘束の解消に向けて取り組んでいることは評価できる。園長を始め、部長、課長、寮長等がそれぞれの立場で、身体拘束解消に向けた取組みについて職員に説明し、積極的に進めていこうとする姿勢がうかがえた。しかしながら、解消の取組みについて、現場職員は「園の方針」と発言するのみで、なぜ身体拘束を行ってはいけないのか、なぜ解消しなければならないのか等の説明がなく、その意義がまだ十分に浸透していないように思われた。 (65ページ) 【組織体制】 ○時間や職員体制等の制約があり、利用者一人ひとりの支援について十分に検討するだけの時間が確保されていない。パソコンのネットワーク機能を利用し、情報共有や検討をしている様子もうかがえるが、組織としてより一層の工夫が必要だと考えられる。 ○身体拘束解消に向けて、他施設の要綱等と比較・検討したように、積極的に他施設や外部機関等と連携し、生活の質の向上を目指して、良い支援を取り入れていく必要がある。 【医療との連携について】 〇外部医療機関への通院が多くなっているとのことだが、職員が、頻回に遠方の医療機関への通院に帯同し、現場を離れる時間が長くなれば、施設内に残る職員の数が減って人員不足となり、それが身体拘束につながる可能性も考えられる。通院時の支援者確保を含め、医療との連携の方法については課題がある。 ○利用者が適切な医療を受けるためにも、職員には、利用者の状況や生活実態を医療職に的確に伝えるスキルが求められる。 【施設としての役割】 ○厚木精華園は、県の中高齢の知的障がいのある方を対象に支援を提供するという、特化した施設目的がある。「年々、介護が大変で人手が足りない」という現実もあるが、時間や人の余裕、職員の力量など工夫して、身体拘束解消も含めてより良い支援ができるということを発信していく必要がある。 (66ページ) ウ三浦しらとり園(社会福祉法人清和会) (ア)書面から確認された事実 【3要件の検討】 ○身体拘束を行う場合は、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件全てを満たす必要がある。令和2年2月以降、「身体拘束の実施について」(以下「身体拘束等実施計画」という。)の「身体拘束の必要性」の欄に3要件が記載されるようになったが、令和2年1月までの身体拘束等実施計画には3要件についての記載がなく、どのように検討・判断したのか確認できなかった。 ○安心安全を確保することが困難なことを理由として、身体拘束を行っていた事例が確認された。 〇個別支援計画のモニタリング票に「他者への粗暴行為を防止する意味合いは薄れてきている」との記載があるが、身体拘束等実施計画の記載内容は以降数年にわたり「常に他利用者の危険が予測されるため」と記載され続けている事例が確認された。 〇身体拘束等実施計画において、ホールディングは「入浴・着脱時に行う」と記載されているが、同期間の「身体拘束実施状況報告書」(以下「身体拘束等実施報告」という。)には、「口腔衛生支援を行う際」にも行った旨の記載があり、記載内容に齟齬が見られた。 【組織としての検討、判断】 ○組織として慎重に検討・決定するため、令和2年4月に「身体拘束判定会議」が設置された。 〇令和2年5月以降、A、B両チームで検討したり、寮会議での検討を頻繁に行った結果、個室の確保という環境整備が進んで、居室施錠が解消されたが、それまでの取組みでは、他者とのトラブルを回避することが難しいとされていた事例が確認された。 【個別支援計画への記載等】 ○身体拘束の原因となる状況の分析を徹底的に行い、身体拘束の解消に向けた取組方針や目標とする解消の時期等を統一した方針の下で決定していくために、身体拘束を行う場合には、個別支援計画に身体拘束の態様及び時間、緊急やむを得ない理由を記載することが求められているが、個別支援計画にその記載が確認できない事例があった。 〇個別支援計画に支援方針として、余暇の充実を図る旨の記載があるが、その具体的な方策が記載されていない事例があった。 ○こだわり行動の拡大防止と日中活動への参加を目標として、こだわりへの対応が繰り返し行われていたが、こだわりの背景として利用者にどのような思いがあるのか、なぜ日中活動を嫌がるのかといった、障がい特性と環境要因の相互作用に関する検討が不十分な事例が確認された。 (67ページ) 【やむを得ず行った場合の本人の状況の記録】 ○身体拘束を行った場合には、その際の利用者の心身の状況を記録しなければならない。しかし、「身体拘束実施記録」には実施した時間が記載されているが、利用者の心身の状況については「居室内・動き」「居室内・ソファ」などの記載がほとんどで、記載内容に具体性のない事例が確認された。 (イ)ヒアリングから確認された事実 ヒアリングを行った中で、ポイントと考えられる内容を中心に記載する。 a利用者支援に係るヒアリング @事例Kさん 細かなこだわりが日常的にみられる。 〔検証期間中の身体拘束の状況〕 〇居室施錠:こだわり行動の拡大防止及び他利用者とのトラブル防止のため、(記録上)毎日、13〜18時間程度施錠している。    【身体拘束時の状況、認識など】 〇同一性の保持が顕著で、物の位置が気になって置き直す、他の利用者が聞いている音楽を変えるよう求めるなどの行動が見られる。怪我の恐れがある行為に発展してしまうため、食事、入浴、日中活動等の時間以外と、夜間入眠若しくは安眠が確認されるまでの間、施錠していた。 〇身体拘束を行う際の手続きとしては、グループで行うチーム会議、医師への状況報告、医師意見書、寮会議、家族の同意書、現在は身体拘束判定会議がある。 〇どのような生活を目指すかということは担当主体で考え、グループ会議、寮会議を経て、個別支援計画書を作成し決定している。 【情報共有など】 〇前任者から引継ぎを受けているが、書類では確認しておらず、身体拘束が行われていなかったことがあるかということや、平成26年に移寮する前の生活について把握していなかった。 〇職員は身体拘束判定会議に出席する機会がなかなか無い。 〇毎年、実践報告会が行われている。また、強度行動障がいの研修などは、順番に研修の機会がある。 (68ページ) 【軽減・廃止に向けた支援】 〇本人の気になる物を可能な限り事前に整理するなど、刺激の遮断に努めていたが、他者とのトラブルを回避することができずにいた。令和2年9月に個室を確保できたことにより施錠を解錠することができた。 〇個室となったことによって、刺激を軽減できている。 〇こだわるものの対象が絶えず変わるので、他の利用者の物を触らないように配慮するなど、こだわりへの対応に追われていた。加えてハード面の整備に時間がかかった。 A事例Lさん ドアや窓を激しく叩くなどの行動がパターン化しやすい。 〔検証期間中の身体拘束の状況〕 ○居室施錠:他利用者への危険防止と要配慮行動の拡大防止を目的として、(記録上)毎日、8時間程度施錠している。 【身体拘束時の状況、認識など】 〇トイレの壁を壊すなどした時は一度個室に誘導するが、それでも要配慮行動が止まらない場合に一時的に施錠するという説明があったが、身体拘束等実施計画の実施方法の欄には、「睡眠、食事、入浴、日中活動、寮内余暇プログラム、その他余暇活動の時間以外の施錠対応」と記載されている。 〇施錠時間は、連続ではないものの、トータルすると長くて10時間のときもあった。破壊行為がなければ、職員が見守りをしながら6時間程度にできるときもある。 〇地域での生活に向けて安定した生活を送れるようにしたい。しかし、2〜3年前にスケジュールを変えてみたが安定せず、継続して居室施錠が行われている。 【情報共有など】 〇身体拘束判定会議は、寮長や課長でないと出席ができない。医師と相談し、担当レベルで素案を作っている。素案を立てたうえで寮長とカンファレンスを行い、寮長が身体拘束判定会議にあげている。 〇利用者の活動について日中活動班と情報共有し、寮に反映できるものがあれば反映している。 〇県の強度行動障害対策事業の担当職員とも話をしながら、本人の強みを生かすためにどうしたらよいかといった意見交換をすることがある。 【軽減・廃止に向けた支援】 〇解錠できる状態であれば解錠しているが、現状は部分的な解錠である。 〇余暇の充実として、スキルルームでの余暇プログラム、ドライブ外出や昼食外出を通じて寮外に出られる時間を設けるようにしている。 〇次の日課を早められるのであれば、要配慮行動に替えて行えるように支援している。 〇夜間寝ているときは解錠している。 〇施錠が常態化しないように、職員は支援シートに基づいて、10分から30分の間で本人の様子を確認している。 (69ページ) bガバナンスに係るヒアリング 【理念、リーダーシップ】 〇施設長が、高齢者施設において身体拘束ゼロに向け取り組んだ経験があり、当施設でもゼロに向け取り組むことを意思表明している。 〇人権委員会の身体拘束ゼロ部会で取り組み、平成25年に身体拘束実施者の一覧表を作成し、半年ごとに解消するように求めてきた。 〇平成24年度は40名であったが、現在4名となった。ここ数年立ち止まっていたところがあったが、改めて意識を高めたことで、令和元年度から令和2年度にかけて11名程度が解消となっている。 〇身体拘束を行った場合の実際の時間を書き、トータル時間と1回の最長時間を細かく算出している。拘束時間を数字上で見ると、多少なりとも常態化されている期間があった。常態化してしまった期間は、寮任せで寮から「必要不可欠な身体拘束だ」と説明されれば承認する状態であったという反省がある。 〇身体拘束判定会議を令和2年4月に設置し、以前は、こうだから仕方がないという議論になっていたものを、ゼロがベースであることを管理職から周知し、ゼロから考えることで議論も活発になった。 〇非代替性、すなわちいかに身体拘束をしないで取り組めるかということが特に重要と考えている。お金をかけてもいいからゼロに向けて取り組んでいこうと生活支援部長が伝えたところ、生活寮からいろいろなアイディアが出るようになった。 〇三浦しらとり園は居室施錠をしているから強度行動障がいのある方を受け入れることができると思われると、地域移行の阻害にもなってしまう。そういう意味で施錠をしなくてもこういう支援をすれば大丈夫ということを示していかなければならない。 【関係機関との連携、協働、活用】 〇入所期間が長い利用者もおり、滞留化が課題だと感じている。三浦しらとり園の専門性のある機能をいろいろな方に使っていただくためには、通過型の施設である必要があると感じている。 (70ページ) 【医療との連携】 〇身体拘束は、福祉と医療の協力や連携を取りながら対応できることが非常に大きい。湘南病院診療所があり、精神科医をはじめ医師がいるので、三浦しらとり園のメリットと考えている。 【人材育成、人材管理】 〇3要件など、職員一人ひとりに周知するには研修が大事だったと思う。人権委員に限らず、人権に伴った身体拘束に関する内容の研修を含めて取り組んでいる。 〇身体拘束の研修は、当初は講義形式だったものをグループワーク形式に変えるなど、より身近に感じられる研修にしたところ、職員が意識を持ち始めた印象である。 〇これだけ大きい組織の意思統一を図るのは非常に大変である。意思統一を図る体系はできているが、施設長や支援部長が「こうしなさい」と言っても伝わらない。積極的に一人ひとりの職員に働きかけていくことがないと、浸透させていくことは難しいと感じた。 〇県から委託されている強度行動障害支援者養成基礎研修のファシリテーターを三浦しらとり園の職員が務める中で、職員の成長を感じている。 【支援全般】 〇地域の強度行動障がいの窓口的なところがある。自宅だけではなく他事業所から入所される方もいるので、そういう面ではアウトリーチ的な対応をしてきた部分もあるし、コンサルテーションをしたこともある。 〇重度の利用者も多い。三浦しらとり園でなければ、他の民間施設等では難しいかもしれないという方の、当施設が最後の受け皿、最後の砦という意識を持って職員は取り組んでいる。 〇地域生活への移行についてはこれからの課題であり、施設としては園が終の棲家ではないと思っている。 c県の運営指導等について 〇重度障がいや強度行動障がいの方を地域の中で見ていくことを期待されている施設なので、障がいの重い方を見てほしいという話が在宅、民間施設、グループホーム等からある。県立でなければ人の配置を増やすことはできない。 (71ページ) (ウ)検討部会としての見解 a利用者支援について 【実施の判断など】 ○身体拘束の実施についての判断は、令和2年4月に設置された身体拘束判定会議で行われるようになったが、それまでは身体拘束等実施計画を決裁することにより行われていた。また、令和2年2月以降の同計画から「身体拘束の必要性」の欄に3要件が記載されるようになったことから、過去においては3要件の検討が不十分であったと考えられる。 〇夜勤帯など職員が利用者に付き添うことが難しいなど、安全確保が困難なことを理由として身体拘束を行うことがあった。また、支援が寮任せであったことを反省しており、環境整備を含め、園として身体拘束によらない支援を検討し続けることが課題となる。 〇Lさんの身体拘束等実施計画の実施方法の記載が、要配慮行動が止まらない場合に、施錠するという記載となっていない。必要とされる最も短い拘束時間を想定して実施しなければならないことが書面上、明確となっておらず、実施時間に影響したことが考えられる。 〇また、身体拘束等実施計画に、「入浴・着脱時」にホールディングを行うとの記載があるが、身体拘束等実施報告には「口腔衛生支援を行う際」に行うと記載され、齟齬が見られた。やむを得ず身体拘束を行う場合の場面や状況については、組織の責任のもとで精査される必要がある。 〇身体拘束判定会議に担当職員が出席することはなかなかないという現状だが、支援のあり方について多角的に考察する機会であり、トップダウンとボトムアップ双方からの意見交換が重要であると思われるので、課寮長のフォローも受けながら、出席を求めることが望ましい。 〇こだわりへのその場での対応ばかりではなく、身体拘束を行わずに支援する方法の検討に当たっては、例えば、こだわる背景に何があるのかという視点に立って、心理職や医師の見解を取り入れること、また、どのような場合にこだわりが比較的少ないかという視点のもとで記録を見返して支援に活かすといった取組みが必要である。 【情報共有など】 〇前任者からの引継ぎが行われているが、書類では確認しておらず、過去の経過、とりわけ身体拘束が行われていなかったことがあるかどうかや、平成26年に移寮する前の生活について把握されていなかった。生活の質を上げるためには、過去の生活及び支援を把握する必要がある。 【軽減・廃止に向けた支援】 〇個室を確保することによって居室施錠を解消することができた事例は、環境整備の重要性を示している。生活寮の中だけで身体拘束のない支援を構築することが難しい場合、他セクションや管理職と共有する場を設けるなど、より多角的な視点から解決に向けて取り組めるよう体制を整える必要がある。 〇アセスメントの中期目標に「地域での生活に向け、安定した生活を送れるようにしたい」と記載されているが、利用者に破壊行為等があることから、入所から7年余りの期間、個別支援計画の内容にほとんど変化がない。他施設や強度行動障害対策連絡調整会議など外部の機関を活用し、アドバイスを受ける機会を持つことも検討すべきである。 (72ページ) bガバナンスについて 【理念、リーダーシップ】 〇非代替性が非常に重要だと捉えており、本人の困り感を解消するため、エビデンスに基づいて身体拘束をしないで済むような支援をするという視点が、現場の職員から施設長まで、一貫していると感じられた。そのためにも、職員間で、後輩だから先輩に言えないといったことではなく、お互いに意見を言い合える関係をつくることが意識され、チーム支援を心がけている様子がうかがえた。 〇切迫性や一時性に関して、実際に起こっていることを見える化していた。個人記録に身体拘束を行った実際の時間を厳密に書き、1日のトータルで何時間、1回の最長時間が何時間というように細かく把握し、園として経年的に皆に示していた。自分たちが行ってきた身体拘束の実態をリストアップし、共有するというこの取組みが、身体拘束の解消に向けて本格的に取り組む一つのきっかけになったと思われる。 〇3年前から重大な事故等対策会議を新たに設けていた。重篤なものに関しては徹底的に分析して改善策を出すとのこと。振り返りを行うこととともに、振り返ったものを職員にフィードバックする取組みが重要と考える。 〇個別支援計画のアセスメントの中に本人の意思をなるべく汲み取って反映できるように、家族や後見人の意思も含めて、意思を確認するように寮長が職員に伝えていた。家族の意思も踏まえながら支援を行うことは、本人と家族との関係を強化する意味で大事にすべきである。また、本人がどのような生活をしたいか本人の立場で考えることこそが重要であり、身体拘束の軽減にもつながると考える。 【人材育成】 〇三浦しらとり園では毎年、実践報告会が開催されていた。実践経過や内容を文章化して取りまとめるということは、それまでの支援を振り返り、関係者で共有し、次の取組みにつなげていくために大変重要な機会であるので、是非続けてほしい。また、研修については、職員は順番に強度行動障がいに関する研修などを受けているようだが、自身のキャリアパスを描くような形で、必要な研修を受講できることが望ましい。 (74ページ) (4)県の関与に関する調査 ア県による検証結果 県では、検証委員会から指摘された、「県立の障害者支援施設の設置者としての役割意識が不十分」、「県のモニタリングは、利用者の状況や支援の質などを積極的に把握し、改善しようとする姿勢が乏しかった」などの意見を厳しく受け止め、県自ら「県の関与」の実態を検証するチーム(以下「検証チーム」という。)を編成し、これまで行ってきた県立障害者支援施設に対する指導の実態などを自ら検証している。 ※ 詳細は、『津久井やまゆり園の支援内容に係る「県の関与」の検証 調査報告書(令和3年3月)』を参照。 (ア)調査内容 検証チームは、これまで県が行ってきた津久井やまゆり園の支援内容に係る監査やモニタリングなどについて、過去にさかのぼって関わった職員からのヒアリングと関係資料の確認を行っている。 (イ)調査結果 【監査】 ○県は、津久井やまゆり園に対して、平成25年度と同29年度に社会福祉法に基づく施設監査を実施しているが、国の指導監査基準により施設運営に関する調査項目が多岐にわたることや、国から施設監査を頻回に実施するよう求められていることから、利用者に対する支援内容は支援記録を数例確認するだけで、不適切な支援を発見することはできていなかった。 ○ヒアリング対象の職員は、異口同音に「施設監査で不適切な支援を見つけたことはない」、「プライバシーの観点から利用者の部屋には勝手に入れるわけではない」と発言している。 【モニタリング】 ○県は、指定管理者が行う業務状況を確認するため、指定管理施設に対するモニタリング(定期モニタリング、随時モニタリング等)を実施している。 ○定期モニタリングでは、施設の利用状況や利用者の満足度などを書面で確認するだけで、支援内容の確認を行っていないことが確認された。 ○随時モニタリングでは、18ページの津久井やまゆり園の検証結果に記載されている事案(「津久井やまゆり園における身体拘束等行動制限の廃止と支援の質の向上に向けた検討会報告書」に係る疑義について)についてモニタリングを行っているが、当該事案にあげた特定の利用者に限ったものであり、身体拘束が行われている他の利用者に対する支援状況のモニタリングを行っていないことが確認された。また、この当該事案に関する報告書の作成には、県職員が園に代わって主体的に検討を進めてしまったため、園自らによる具体的な改善につながらなかったことが確認されている。 (75ページ) 【日頃の運営指導】 ○県の日頃の運営指導においては、県立障害者支援施設内で不適切な支援が疑われる事案があるとの認識や、不適切な支援を把握しチェックするという観点が県職員になかったことが確認されている。常に疑いの目を持って指導に当たることは必要ではないが、障害者支援施設では不適切な支援があり得るという認識は必要であり、県と施設が協働して支援の質を高めるためには、不適切な支援を把握しチェックすることが不可欠の要素である。 【意思決定支援】 ○県では、津久井やまゆり園の利用者ごとに相談支援専門員などの関係者による意思決定支援チームを設置し、利用者が望む暮らしや生活の場の方向性を検討してきた。その中で、県の意思決定支援を担当する部署は、利用者に対する長時間の身体拘束など、不適切と思われる支援を把握し、身体拘束のリストを作成していた。 ○そのリストを県立施設の運営指導を行う部署と共有していたが、指導部署側では、不適切な支援が行われているのではないかとの認識に至らず、支援の検証などの深掘りには至らなかったことが確認されている。 (ウ)考察 ○県による検証では、運営指導に当たる県職員の身体拘束実施の3要件の解釈が非常に甘く、「身体拘束はやむを得ず仕方がない」ということが職員共通の認識だったことが明らかになり、これが、これまで身体拘束に関する認識の低さと、課題の掘り下げにつながらなかった最大の原因と指摘している。 (エ)改善策 以上の確認を踏まえ、県としては、次のとおり、改善策を講じることとした。 ○県立障害者支援施設に対して行う運営指導やモニタリングについて、持続的かつ適切に行われているか確認するため、神奈川県障害者施策審議会など障がい者支援の専門的な知見を有する場に報告し、評価を受ける仕組みを導入する。 ○身体拘束の廃止等、支援上の課題ケースについて、施設横断的に多職種が参加して支援内容を検討、研究する場を設置する。 ○利用者の居室や支援の場面における支援内容の直接確認や、各施設における自己点検の実施など、モニタリングの充実強化を行う。 ○各施設で行われている身体拘束の状況を、事例ごとに県のホームページで公表を行い、廃止に向けた取組みを見える化する。 ○障がい者支援に携わる全ての職員に対する、虐待防止や利用者目線の支援などに向けた研修を充実させる。 (76ページ)  イ検討部会としての見解 検討部会では、県の調査内容を踏まえ、県のこれまでの利用者目線の支援に対する姿勢や認識等の問題点について、次のとおり指摘する。 ○県立障害者支援施設における支援者や管理職の、身体拘束の3要件に関する認識が低いことに加え、指導する側の県職員の認識も低く、施設に対して県の見解を明確に示し指導していなかったことが、これまでの県の検証で明らかになった。 ○これまで県が通常行ってきた監査や定期モニタリングなども、書類上の確認で済まされてしまっており、個々の利用者の生活に立ち入ったものでなかったことが判明した。現場を確認することもなければ、個別支援計画や支援記録などに目を通すこともなく、利用者への支援内容や生活実態に踏み込み、支援を改善していこうという視点が、県職員に大きく欠けていた。 ○津久井やまゆり園における随時モニタリングにおいて、対象となった利用者に対する支援内容の確認のみで、他の身体拘束が行われていた利用者の支援内容の検証に広げなかったことや、県職員が中心となって報告書を取りまとめていたことが、津久井やまゆり園職員の課題認識を高めることができず、また、県立障害者支援施設での虐待の疑いの強い支援実態の改善もできず、問題を長引かせてしまったことにつながっており、県の責任は極めて重いと断じざるを得ない。 ○本来の役割で言えば、指定管理者が中心になって報告書を作成する必要があるが、県職員が中心になって作成し県に提出したことに代表されるように、県と指定管理者の関係性には問題があったと考える。サービスの水準・維持の向上を図るために県が行うモニタリングも不十分であり、指定管理者に対する運営指導が十分にできていなかったが、このことにも、県と指定管理者の関係性の問題が影響していることが考えられる。 ○県が、どういう法人に対して、どのような機能や役割を求めるのか明確に示し、指定管理者を選定するべきである。 ○改善策として研修の充実があげられているが、研修会を開催し、知識を伝授するだけでは行動変容にはつながらない。現場と一緒に考えていくプロセスが重要である。 ○また、県に対して、利用者や家族、施設関係者などから問題となる支援内容の情報提供があった際に、県庁内の縦割りの弊害から、情報共有が進まないことが判明した。不適切な支援や虐待に関する情報については、庁内で情報共有する仕組みを考える必要がある。 ○今後、県立障害者支援施設において不適切な支援をなくしていくためには、こうした実態を厳粛に受け止め、県職員の資質向上や、県立障害者支援施設の指導のあり方を抜本的に見直していく必要がある。 (78ページ) 4全体考察 (1)検討部会の検証の経過 検討部会は、令和2年1月に設置された検証委員会で対象とされた津久井やまゆり園からさらに他の5つの県立障害者支援施設にも対象を広げ、合わせて6つの県立障害者支援施設の支援内容について検証を行った。 検証委員会では、津久井やまゆり園が保有する平成27年度から令和元年度までの5年間の支援記録や虐待防止委員会等会議資料、利用者の身体拘束等行動制限取扱要領等の関係資料を調査・確認した結果、緊急やむを得ないときにのみ許される身体拘束について、いわゆる身体拘束の3要件に合致していないにもかかわらず長期にわたって行われていた事例や、不適切な支援等が確認され、その検証結果が令和2年5月の「中間報告書」において取りまとめられた。 本報告書の「はじめに」で触れているように、この「中間報告書」の取りまとめの過程で明らかとなった課題については、津久井やまゆり園だけではなく、他の県立障害者支援施設にも当てはまる普遍的な課題であると考えられたことが、検証委員会を検討部会に発展的に改組し、6つの県立障害者支援施設を対象に支援内容を検証することとした理由である。 検証委員会では、当初、関係者に対するヒアリングも予定されていたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大がみられたことから取りやめとなったため、検討部会における津久井やまゆり園の支援内容の検証に関しては、検証委員会の「中間報告書」の記載内容について再確認するという趣旨も含めて実施している。 本報告書のU「3検証結果」では、6つの県立障害者支援施設ごとにその検証結果を記載し、各施設で行われていた不適切な支援について、各施設が保有する支援記録等を調査・確認するとともに、利用者に直接対応してきた職員及びその所属する部署の管理職、さらには施設管理者及び経営責任者にもヒアリングを実施し、その背景、要因の分析を試みた。 実際のところ、本報告書のU「3検証結果」に記載した各施設における不適切な支援について、支援記録やヒアリング等によって把握した内容と検討部会の見解を縦覧すると、背景、要因として、全ての施設において完全に一致するというものではないが、およそ次のような共通点があると考えられる。これらは「現場レベル」(ミクロ)、「施設管理レベル」(メゾ)、「政策レベル」(マクロ)の局面(フェーズ)においてとらえることができ、3つの局面の相互作用によって全体状況がつくりあげられるという意味で、全体の問題でもある。 【現場レベル】【施設管理レベル】 ア障害者虐待防止法が立脚する人権擁護に関する理解の不足 イ行動障がいをはじめとする利用者特性の理解や専門的支援に関する知識・技術の不足 ウ職員間・関係者間のコミュニケーションと情報共有の不足 (79ページ) 【施設管理レベル】 エ支援内容の見直しと客観的評価の不足 オ人権擁護等の理念に基づく施設運営の未熟 カ変革に向けたリーダーシップの欠如 【政策レベル】 キ県の運営指導等の不足 ク県立障害者支援施設の役割の未整理 ケ県の障がい福祉施策の見直しの遅れ なお、今回調査の対象とした個別事例は、全数ではなく典型事例と思われるものの抽出であり、また検討部会に与えられた調査等の時間も限られていたことから、今後さらなる調査と定量的・定性的な分析等を行うことも検討されるべきであろう。 加えて、個別事例については、U「2検証の方法」にあるとおり、令和元年12月に、県が調査し確認した身体拘束の事例であって、各施設ともに、現在は身体拘束の廃止に向けて取り組んでおり、身体拘束の件数自体は、令和元年12月の調査時点から相当数減少している実態がある。本稿の記述は、令和元年12月時点で続いていた各施設の不適切な支援に着目したものであり、調査時点から一定の時間が経過していることに留意されたい。とはいえ、調査時点からさかのぼる長期間にわたって、不適切な支援が続けられてきた可能性は否定できない。 また、「障害者支援施設における利用者目線の支援」を考える上で、「私たちのことを、私たち抜きで決めないで」との言葉にあるように、現に施設入所している利用者本人から話を聴くことは必要不可欠である。しかし、今回は、検証対象の施設に入所している利用者からのヒアリングは、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のほか、効果的にヒアリングを行うための技術不足等の側面から実施には至らなかった。利用者目線の支援の観点からも、検証した施設に入所している利用者の望みや願いを聴き、利用者と一緒に「利用者目線の支援」について考えていくことが重要であることから、この点は今後の課題である。 このようなことを前提とし、この「4全体考察」では、県立6施設で不適切な支援が行われたことに共通する背景、要因について若干の考察を行い、本報告書の「V利用者目線の支援の実践に向けて」以降への結節点としたい。 (79ページから81ページ) (2)各県立障害者支援施設に共通する不適切な支援の背景、要因 ア障害者虐待防止法が立脚する人権擁護に関する理解の不足 利用者に対して、やむを得ず身体拘束を行う場合、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件の全てを満たし、それについての手続き、記録が必要とされる。しかし、この要件について誤った理解をしていた施設が見られた。また、施設や法人で定める行動制限取扱要領において、「拘束等の行動制限の可能な範囲」(危険行為に及ぼうとする場合など)が予め明記されていて、状態像に応じて検討することなく、身体拘束の必要を認める取扱いとされていたり、生活寮の職員から「必要不可欠な身体拘束だ」と主張されれば、施設の支援方針を議論する会議体において安易に身体拘束が承認され、管理者も容認するなどの事例が見られた。「見守り困難」など、正当な理由がなく障がい者の身体を拘束することは身体的虐待に該当する行為であり、その理解が組織として不足していたと言わざるを得ず、全体の意識改革が求められる。 利用者に対してやむを得ず身体拘束を行うことを決定するプロセスにおいても、一般には、個別支援計画や身体拘束等実施計画、会議録等に本来記載されるはずの上記3要件について、実際には記載がほとんどなかった。また、現場では、要配慮行動に至る状況について、障がい特性と環境要因との相互作用の結果という視点からの精査が行われておらず、身体拘束を行った際の利用者の状況も記録されていない、利用者の立場に立って話し合われることがない、身体拘束が見直されることがないなど、漫然と身体拘束を継続している事例が見られた。 ヒアリングの中でも、職員間の引継ぎで「こういう理由で身体拘束が必要」とされるとやめられなくなってしまう、職員間で身体拘束解消の合意を得るまでに1年半かかったといった発言があり、一回決めてしまうと、外部の目が入ることもなく、支援内容の見直しが進みにくい傾向があった。 加えて、支援内容の記録は、要配慮行動を改善するためのエビデンス(根拠)に基づく支援につなげるために必須のものであり、行動に起因する刺激、環境の状況、人的関わりの状況、行動の特徴、安定に至る過程などについて記載する必要がある。しかし、各施設での記録の取り方の傾向としては、身体拘束を行った理由を「こだわり行動の拡大防止の為」などと一律に記載したり、時間や回数を記載するのみで、身体拘束を行った際の利用者の状況の記録が不足していた。 また、ヒアリングでは、「代替性」に関して、「身体拘束を行わずに支援する方法を見いだすことが難しい」という発言や、「居室施錠をいかに短くするか方法が分からない」とする発言が複数あった。このため、検討部会委員から、他の利用者の部屋に入ってしまう傾向が強い時間、睡眠状況、昼間の状況との関連など、要配慮行動の動向について、記録を積み重ねて整理する方法があると助言する場面もあり、支援者の意識のレベルが高くはなかったことがうかがえた。概して、利用者本人や他の利用者の安心安全のためには身体拘束もやむを得ないというように管理を優先した支援方法となっており、利用者の安心安全の観点は必要ではあるが、代替性についての検討が乏しかった。 このように、利用者に直接支援を行う職員が、やむを得ず身体拘束を行う場合の3要件についての理解に乏しく、支援の質の管理を行う立場にある管理職、さらには施設管理者にあっても十分に理解していたかどうか疑わしいところがあった。後述するが、こういった支援の質について指導する立場にあるはずの県当局の理解や対応が不十分だったこともあり、組織全体として、不適切な支援を是正する機会が得られていなかった。 (81ページから82ページ) イ行動障がいをはじめとする利用者特性の理解や専門的支援に関する知識・技術の不足 ヒアリングでは、行動障がいが起こる原因を環境との相互作用の観点でとらえずに本人の問題とする職員が現場にいることが把握された。また、支援の内容を決定するためのアセスメントや会議では、組織的な決定を行うルールに則ってはいるものの、決定される支援の方向性が身体拘束にだけ向かっているような事例が見られた。 また、医師に身体拘束についての判断を委ね、医師の指示があることを理由として、職員側から身体拘束に頼らない支援を提案することなく継続していた事例が見られた。医師は、利用者や他の利用者の安心安全の観点から、管理を優先とした身体的拘束の必要性についての意見を述べることがある。しかし、利用者の人権や生活の質の観点から、職員側は積極的に医療との連携を進め、医療職に会議に参加してもらって、情報共有や意見交換をするなど、医療職と施設職員とが相互にコミュニケーションを図る必要がある。 さらに、強度行動障がいのある人への支援に当たる職員には、高い専門性が要求されるが、必要な研修を受講していたとしても、人事異動等によって豊富な経験を有する職員は少数しかいない状況であった。中には強度行動障害支援者養成研修の講師を担っている職員がいることが確認できた施設もあったが、その専門的な知識や技術をレポートや論文等としてまとめるなどの積極的な情報発信は行われていなかった。 県立6施設のうち4施設が県の強度行動障害対策事業の拠点施設として位置づけられている。しかし、障がい特性と環境要因の両面からアセスメントを行い、利用者にとっての良好な環境を設定すべく、外部機関等とも連携して、多角的な視点から支援のあり方を丁寧に議論し検討する機会を設けるなど、利用者の権利を擁護する視点に立った支援につなげる取組みが行われていたとは言い難い。 このことの背景、要因としては、各施設で利用者支援に関わる者が、どんなに重い障がいがあっても、利用者にはその人なりの思いや判断があり、それらをどのように汲み取るかが重要であるという認識を十分には持っていなかったことが考えられる。とりわけ、施設管理者及び管理職層が、支援プログラムを現場に任せきりにし、利用者への支援の質の向上に向けた課題の的確な把握を怠り、自らも必要な研鑽を怠ってきたのではないかと思われる点は、施設管理者及び管理職の利用者の権利擁護に対する意識が決して高くないことをうかがわせるもので、早急に改善されるべきである。 これら県立障害者支援施設はかつて、県の強度行動障害対策事業の拠点施設として、地域の他の専門職と有機的に連携しながら、県域における支援の充実に向けて有益なレポートをまとめていた時期もあったが、現時点においては、主催する強度行動障害対策連絡調整会議が支援についてアドバイス提供する会議にはなっていないなど、拠点施設としての役割を果たせていないと評価せざるを得ない。 これは、直営施設や指定管理施設が神奈川県全体において果たすべき役割に対する認識が欠如していることや、自らの施設や法人中心の閉鎖的な運営に終始しているからであることがうかがえる。加えて、拠点施設の役割を担うには、本来、担当の職員には非常に高度な専門性が要求されるところ、必要な研修を受講した職員が異動等によって入れ替わる中では専門的な知識や技術が継承されにくく、蓄積されていかない状況があるのではないかと考えられる。障害者支援施設においては、職員に備わった知識や技術についても重要な社会資源であることへの認識を高め、その蓄積と向上、公開と外部との共有を進めるという視点を持つことが必要である。 (82ページから83ページ) ウ職員間・関係者間のコミュニケーションと情報共有の不足 虐待認定を受けた事案の改善報告書の内容を、当該利用者を支援している現場の職員が知らないという事案や、他の施設から入所してくる利用者についての前施設における情報が職員間で共有されず、前施設では行われていなかった居室施錠が開始された事例等が見られるなど、職員間の情報共有が十分に図られているとは言い難かった。 また、職員に対するヒアリングでは、職員自身は利用者へのより良い支援のために環境を整える必要を感じるものの管理職に提案したことがない、職員が新たな取組みにチャレンジしづらいと感じることがあるといった発言が聞かれた。あるいは、管理職が、新しく着任した職員から、現状とは違う支援方法があると思うという声を聞くなど、支援現場において職員が自分の考えを言い出しにくい職場の雰囲気や、職員相互のコミュニケーションが円滑に進まない状況があることがうかがえた。 本人中心の支援を施設全体として進めるには、施設管理者、中間管理職、職員が相互に良好なコミュニケーションをとることが不可欠であるが、上記のとおり、それが十分に図られているとは言い難く、職員が一体となった支援チームとしての機能が弱かった。また、本人や他の利用者の安心安全等の管理を優先するあまり、施設や法人の運営が閉鎖的になり、施設管理者、中間管理職、現場の職員のいずれもが、スタンダードの支援や人権を中心とする障がい福祉の動向等に関して認識が乏しい状況にあったと推測される。これらは支援を提供している現場の職員の資質の問題だけではなく、施設管理者及び管理職の身体拘束や虐待に関する姿勢の甘さ、そして現場の職員への働きかけや情報共有のあり方に問題があると考える。施設管理者及び管理職が自ら職員に働きかけ、職員の考えを引き出し、また提案を受け止めて支援の質の向上につなげるなど、適切に施設の管理運営が遂行される必要がある。 (83ページから84ページ) エ支援内容の見直しと客観的評価の不足 支援の質を高めていくためには、施設が利用者に提供しているサービスの内容が適切なものかどうかを、現場の職員、管理職、施設管理者ぞれぞれの立場で常に振り返り、客観的に評価し、その結果を現状のサービス内容の改善につなげていくことが重要である。しかしながら、利用者が必要とするサービス内容を、権利擁護の視点からしっかりと検討し、あるべき支援過程を明確に利用者に提示し、また現場の職員あるいは組織内で共有していくといった仕組みがきちんと整備されている施設は少なかった。 また、策定された個別支援計画において、利用者に提供されるサービス内容が施設内だけで完結している計画が多く見られ、地域を視野に入れて利用者の生活環境を整え、また拡大し、生活の質を高める支援を提供するに至っていなかった。これについては、外部機関等から、利用者に即して支援内容を改善するためのアドバイスを受ける機会が確保するなど、施設内外での連携によって利用者を中心とした支援を進めるための仕組みを整えることが必要である。 さらに、個別支援計画が、要配慮行動や健康状態に偏ったアセスメントに基づいて作成されており、本人の強み(ストレングス)や生活の質の向上のための計画となってない事例も見られた。本来なら、個別支援計画は相談支援専門員が作成するサービス等利用計画と連動して作成されるべきであり、そのプロセスにおいて、相談支援専門員の権利擁護機能が発揮され、サービス管理責任者と協議・連携しつつ、提供サービスの向上を図っていくことが必要とされている。しかし、不必要な身体拘束が行われていると思われる事例において、相談支援専門員がサービス管理責任者と同一法人に所属していたことから、利用者への支援計画が客観的に検討されず、結果として相談支援事業者に求められる権利擁護の役割が果たされていなかったことが推測された。地域の専門職と連携しながらチームで支援していく体制や、外部の第三者から意見をもらい、支援を改善していく仕組みを構築すべきである。 なお、県立6施設においては、令和2年以降、身体拘束の解消に向けた取組みが積極的に行われるようになっている。これは、津久井やまゆり園において導入された多職種チームによる丁寧な意思決定支援の実施や先の検証委員会の中間報告書などが契機となったものであり、このことからも、外部機関等との連携が重要と言える。 第三者が各施設においてコンサルテーションやスーパービジョンを行うなど、支援内容を検討する場にできる限り外部の者が関わることができる体制を整えていくことが施設管理者及び法人等経営者の重要な役割であり、変革が必要である。 (84ページ) オ人権擁護等の理念に基づく施設運営の未熟 見守り困難や家族が安全を求めたということを施設側が安易に理由とし、極めて「管理性」の強い身体拘束が行われている事例があった。そこには、利用者を中心に、より質の高い支援に転換していこうという志向は見いだせず、支援現場、管理者、組織運営のいずれのレベルにおいても、人権擁護や障がい者の尊厳の尊重といった理念が十分に浸透していないことがうかがわれた。ヒアリングでは、やむを得ず行う場合の身体拘束の3要件について、施設において十分に理解がされていないことが明らかとなり、障害者虐待防止法に関する知識についても十分でないと思われる側面が見られたことは前述のとおりである。さらには、管理職が、地域生活移行について説明すべきところを地域交流に関する説明にとどまるなど、施設や法人の「閉鎖性」を反映してか、障がい福祉における脱大規模施設化や地域包括化等の動向を十分に理解していないと思われる場面もあった。 施設管理者も含め、管理職層には、障害者権利条約、障害者総合支援法、障害者虐待防止法、意思決定支援ガイドラインなど、最新の情報を収集し、それらを職員に周知して理解を促し、利用者への支援全般に反映させようとする意識や実践が必要である。今日、障害者支援施設を運営する法人等において、本人を中心とする支援を進める方針が組織全体として確立され、取り組むことは、障害者総合支援法の規定等に照らしても当然のことである。今回の検証を踏まえ、組織全体において法令順守の意識が醸成され、支援が変わっていくことが求められる。 利用者本人の望む暮らしを実現していくためには、常に支援を振り返り、利用者と一緒になって試行錯誤しながら、現状を打破していくことが求められる。しかし、長年にわたって閉鎖的な運営が継続され、利用者の個別性よりも職員・組織の都合を優先する管理的な支援に陥りやすい入所型の施設にあっては、安心安全を優先して自己完結的になってしまい、自らの組織や支援の実状について積極的に外部に発信する、あるいは、第三者から積極的に客観的な意見を聞くという姿勢が弱かったと考えられる。外部の者ないし第三者の意見には、肯定的なものばかりではなく、当然厳しいものもあるが、そういった意見にこそ積極的に耳を傾け、利用者の権利擁護や生活の質を向上させるという支援の理念を基底に改善に向けて取り組むことが望まれる。 (84ページから85ページ) カ変革に向けたリーダーシップの欠如 今回の検証では、県立6施設全てにおいて、身体拘束の軽減や廃止への取組みが進んでいることも確認できたが、それらは言わば「外部の力」によって進んだ側面が強い。身体拘束の数は着実に減少しているものの、支援の質に関する闊達な議論が行われる状態までには至っておらず、まだ途上にあると言える。 一部の施設では、施設管理者の強いリーダーシップが発揮され、身体拘束ゼロを目指して実効性のある事例検討会議等の取組みが進み、着実に身体拘束の件数が減少するとともに、職員の支援姿勢そのものに変化が生まれていることが確認された。しかし、それが6施設全てにおいてではないことは、こうした変革の難しさを示唆している。 先の「ウ職員間・関係者間のコミュニケーションと情報共有の不足」において、自分の考えを言おうとする職員が言い出しにくい職場の閉鎖的な雰囲気がうかがえることを述べたが、これは、施設管理者や管理職が、意識的または無意識的に、自らと異なる意見の表出を阻害して職員間の有益な意見交換を妨げてしまうような、支配的・専制的な形でのリーダーシップをとってきた可能性を示唆している。そうした状況下におかれた職員は、現状を変化させ、打破するための発想をしなくなるため、いわゆるボトムアップの変革は起こりにくい。 そこでは、施設管理者が、現状を刷新するための組織運営のアイデアを持ち、本人中心の支援を実現するために、適宜トップダウンで管理職のレベルと職員のレベルの双方に働きかけて「管理性」や「閉鎖性」を排した風通しのよい職場環境を創造し、みなが能動的に考え、動く人材になるように、優れたリーダーシップを持つ必要がある。 (85ページから86ページ) キ県による運営指導等の不足 県立障害者支援施設の検証結果や県の関与に関する調査結果からは、県の運営指導やモニタリング等が十分機能していないことが明らかになった。所管部署の県職員の身体拘束に対する認識が低かったことに加え、県庁内の関係各部署と連携を図り、利用者の権利擁護のために積極的に施設に対して運営指導をしていこうとする姿勢に乏しかった。また、施設設置責任者として、県自らがサービスの質の向上を図っていくとの意識や責任感も弱かったと考えられる。 例えば、18ページの津久井やまゆり園の検証結果に記載されている特定事案(「津久井やまゆり園における身体拘束等行動制限の廃止と支援の質の向上に向けた検討会報告書」に係る疑義について)など、本来の指定管理者の役割として、指定管理者が中心になって報告書を作成する必要があるが、県職員が中心になって作成し、県に提出したことに代表されるように、県と指定管理者の関係性には問題があったと言わざるを得ない。この関係性から、直ちに管理者に対する運営指導が十分に行われなかったのではないかとの指摘につなげることは早計であるが、こういった疑念を抱かれないような関係性の確保が図られなければならない。 県による適切な運営指導やモニタリング等が行われていなかったことは、直営と指定管理の別にかかわらず、県立障害者支援施設の組織ガバナンスの欠如の一因となり、結果として、長期間にわたって不適切な身体拘束が行われてきたことにつながっていると考えられる。これまでの県当局の県立障害者支援施設に対する運営指導は、書面確認主体の形式的なもので、不適切な支援を改善するための指導になっておらず、県当局にも「管理性」「閉鎖性」の問題があり、適切な対応を怠ったと言わざるを得ない。 (86ページから87ページ) ク県立障害者支援施設の役割の未整理 県立障害者支援施設は、民間施設では対応が難しい特性を有する利用者の受け入れや地域の拠点施設としての民間施設等への支援、民間施設等との連携・協力の推進といった役割が求められてきた。とりわけ、強度行動障がいなどの支援が難しいとされる利用者を積極的に受け入れてきた経過がある。 このような設置の経緯を踏まえると、県立障害者支援施設の役割としては、強度行動障がいのある人への支援の有効な手法等を開発、構築し、地域での生活も可能であるということを積極的に発信していくことが求められていると考える。しかしながら、実際には、本人と他利用者の安全確保が優先されるあまり、管理的な支援が主流となって、代替性の検討も十分に行われることなく身体拘束が長時間にわたって行われていた事例が多く見られた。 近年、行動障がいのある人への支援については、過刺激を避け、日常生活に必要な行動を構造化することで、行動への配慮の必要が大きく減少するという知見が得られてきている。一方で、大規模な入所型の施設は、集団での生活が求められる環境に利用者が置かれることから、行動障がいのある人には不向きな環境であるとの指摘が検討部会の中でもあった。行動障がいのある人への支援に際しては、個別の障がい特性と環境要因の両面から適切にアセスメントを行い、支援者側が良好な環境を設定することが重要であるが、県立障害者支援施設は従前から大舎制で運営されてきた大規模な入所型の施設であるがゆえに、集団に対する閉鎖的で管理的な支援に陥って、行動を抑制する方向へ配慮をする傾向が強まり、結果として身体拘束に頼るという非専門的な支援が繰り返されてきたものと推測できる。 行動障がいのある人に限らず、障害福祉サービスの利用者に対しては、個別的な支援が可能となるよう配慮していくことが重要であり、それが、利用者目線の支援の実践につながっていく。個別の支援を行っていく中で生活環境を整えていくには、大規模な集団の中での支援では限界があると言わざるを得ず、また外部の多様な人々との交流がしにくく、外部の者の目が入りにくい立地条件も手伝って、現状の県立障害者支援施設は、構造的に「管理性」や「閉鎖性」に陥りやすく、安易に身体拘束に頼る危険性を有するなど、利用者の人権に配慮したあるべき支援が提供されにくいと考えられる。 県立障害者支援施設が、民間施設では対応困難な重度の障がい者を受け入れてきた背景には、障がいの重い人は、入所施設ありきの考え方があったと思われる。利用者目線に立ち、本人の願いや希望を第一に考え、本人の望む暮らしを実現していくため、県立障害者支援施設の役割について見直していく必要がある。 (87ページから88ページ) ケ県の障がい福祉施策の見直しの遅れ 今日、障害者支援施設においても、利用者本人の意思を尊重して地域での生活を目指し、あらゆる試みを行っていくことが求められており、全国各地において、行動障がいのある人が、地域で生き生きと生活している事例が報告されている。県では、平成15年及び平成26年に県立障害者支援施設のあり方について検討を行っているが、その後の県立障害者支援施設の評価や、最新の障がい福祉施策の動向を踏まえた見直しは行われていない。また、国においては、障がいの有無にかかわらず、できる限り住み慣れた地域で安心して暮らすことのできるように、障害福祉サービス関係制度の充実が図られてきたところである。しかし、施策上では障害者支援施設を全て否定した制度設計になっているわけではなく、強度行動障がいのある人を受け入れる入所施設には報酬上の評価がなされていることも、こうした入所施設の役割を認め、県立障害者支援施設のあり方を積極的に見直していこうとする機運につながらなかった遠因となっていると考えられる。 言うまでもないが、我が国では、「障害者が、他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活施設で生活する義務を負わないこと」とした障害者権利条約が批准されている。このことに即した県立障害者支援施設のあり方というものを、常に念頭に置いて構築を目指していく必要がある。 今回のヒアリングでは、施設内の建築的構造や設備の確認も行ったが、開設から相当に期間が経過して老朽化したところもあり、今の時代にそぐわない、貧しい生活環境を目の当たりにした。県は、このことを十分認識し、早急に利用者の生活環境を改善していく必要がある。 さらに、検討部会委員から、「県立障害者支援施設は、民間では受け入れ困難な重度の障がい者を率先して受け入れてきたと言われていたが、今回、貧しい支援実態を目にして残念でショックだった。民間でも優れた実践が行われていることも分かり、今後、大規模な入所型である県立障害者支援施設の解体も視野に入れた議論が必要ではないか」との意見もあった。今後の県立障害者支援施設のあり方について再度議論する機は熟したのではないかと考える。 足元では、神奈川障がい福祉計画の進捗状況を見ると、重度の障がいのある人が地域で生活するための社会資源は決して十分であるとは言えない。意思決定支援が県下で広く進展し、利用者本人が望む、その人らしい暮らし方が実現できるよう、今後とも、地域のサービス基盤をしっかりと整備していく必要がある。県には、市町村と緊密に連携しながら、各地域の社会資源の整備を進めていく役割が強く求められる。 (88ページから89ページ) (3)各レベルの構造的連関 今回の調査において確認された、それぞれの施設の様々な課題については、構造的な課題があると考察する。 身体拘束について、「現場レベル」(ミクロ)においては、職員間のそれぞれの判断により実施され、身体拘束への疑問や身体拘束に頼らない支援に向けての問題意識はあったが、改善までには至らなかった。そこには、職員間のコミュニケーションの不足や、「施設管理レベル」(メゾ)において支援会議等を機能させる施設や法人全体の取組みが欠如していたと考える。 「施設管理レベル」においては、ベテラン職員等は、代替の具体的支援について現場職員と一緒に方法を見いだしていかなければならない立場であったにもかかわらず、積極的な関与はうかがえない。さらに、「政策レベル」(マクロ)においては、身体拘束は虐待であり、身体拘束に頼らない支援に向けて、県は施設や法人を指導していく立場であったにもかかわらず、具体的な関与はなかった。 このように、「現場レベル」、「施設管理レベル」、「政策レベル」の諸状況が相互に関係しながら、身体拘束による支援を長期にわたって行ってきた構造的課題があると推測する。 一方、どのレベルからも身体拘束に頼らない支援を目指して支援内容を改善していく契機があったことから、それぞれのレベル内においては、またレベル相互にコミュニケーションできるシステムを構築していく必要があった。 今回の検証においては、それぞれのレベルにおいて、障害者支援施設が陥りがちな「管理性」及び「閉鎖性」が確認されたと言える。強度行動障がいのある人たちの支援については、より個別的な支援が必要であり、感覚過敏な利用者の存在などを考えれば、集団での生活を前提とする障害者支援施設は、居住及び支援の場として適切でなく、強度行動障がいを生みだす、あるいは悪化させる構造的な課題があると推測する。 昭和63年10月24日中央児童福祉審議会精神薄弱児(者)対策部会の「精神薄弱者の居住の場の在り方について−グループホーム制度の創設への提言(意見具申)」では、施設の管理性・閉鎖性について、「それでなくとも管理されやすい精神薄弱者が、集団で生活、訓練、余暇(行事)を常に共にするために必要とされる多くのルールと定型的、画一的処遇により、ますます管理性の中に埋没する危険性は常に存在する。また、施設内の生活は外部の人との接触が極端に少なく、立地条件によっては地域社会と隔絶した別世界の観を呈することもある。」とされ、30年以上前にその課題が指摘されていた。このような施設環境を改善してこなかった行政の責任は大きく、障がい者が地域で安心して生活できるよう、個別支援が可能となる制限の少ない環境の整備を進めるべきである。 (90ページから91ページ) V 利用者目線の支援の実践に向けて 検討部会に課せられた任務は、検証委員会による検証で得られた知見を生かし、津久井やまゆり園を含む6つの県立障害者支援施設の支援内容を検証し、利用者目線の支援など、障害者支援施設における未来志向の支援のあり方を検討することである。 それぞれの県立障害者支援施設は、U「1(2)施設整備の経緯」のとおり、その時々の県民の障がい福祉ニーズに対応する形で、県が政策として設置し、運営してきた。当然のことながら、支援内容については民間の事業者をけん引するような優れた実践が要請されていたと思われるが、今般の検証結果からは、その要請に十分に応えているとは言い難い実態も見られた。 それぞれの県立障害者支援施設にあっては、本人を中心にした支援が行われるよう、引き続いて、権利擁護の視点から支援内容の評価と見直しが望まれるところであるが、現地視察やヒアリングを通じて、身体拘束の3要件についての理解が着実に進み、利用者の生活の質を高めたいという思いから非代替性をできる限り検討しようという意識が高まっている支援現場も確実に存在することが分かった。また、意思決定支援に取り組むことで、身体拘束を行わなくても必要な支援が可能という自信につながっていることも見られたところであり、未来志向の支援に向けて、この第一線の支援者の人たちの「思い」を、施設管理レベル、政策レベルにおいて、しっかりと育むことが、障がい福祉に関わる者の重要な責務の一つであると考える。 その上で、県立障害者支援施設だけではなく広く障害者支援施設においても、前述の検証結果を他山の石として、以下の視点から「利用者目線の支援」の実践を進めていくことが期待される。 ・虐待ゼロの実現を目指した取組み ・行動障がいを軽減するための支援技術の向上(身体拘束によらない支援) ・意思決定支援の推進 ・利用者目線の支援を支えるための組織的な体制づくり これらの視点は、今後、県立障害者支援施設において「未来志向の支援のあり方」、すなわち、本人を中心に本人の望みや願いを第一に考え、本人の可能性を最大限に引き出す「利用者目線の支援」を進めるためのものであり、また、U「4全体考察」に記載したとおり、虐待が疑われる不適切な支援が行われてきた背景、要因に対応した課題解決の方法につながるものである。 課題と解決方法という関係でみると、「現場レベル」及び「施設管理レベル」の背景、要因として掲げた「障害者虐待防止法が立脚する人権擁護に関する理解の不足」に対しては、上記「虐待ゼロの実現を目指した取組み」が関連しており、同じく、「行動障がいをはじめとする利用者特性の理解や専門的支援に関する知識・技術の不足」には、上記「行動障がいを軽減するための支援技術の向上(身体拘束によらない支援)」が関連していることとなる。そして、これらの課題がある中で、意思決定支援の取組みが、改善への契機となったことは重要なポイントであり、この関連から、「意思決定支援の推進」として記載した。 また、「現場レベル」及び「施設管理レベル」の「職員間・関係者間のコミュニケーションと情報共有の不足」、「施設管理レベル」の「支援内容の見直しと客観的評価の不足」、「人権擁護等の理念に基づく施設運営の未熟」及び「変革に向けたリーダーシップの欠如」には、上記「利用者目線の支援を支えるための組織的な体制づくり」が関連していることとなる。 加えて、「政策レベル」の背景、要因として掲げた「県の運営指導等の不足」については、本稿の「5県の取組み」において記載し、同じく「県立障害者支援施設の役割の未整理」及び「県の障がい福祉施策の見直しの遅れ」への対処については、検討部会の任務を超えるところではあるが、「Wさらなる検討の方向性」として、ここに若干の記載をすることとした。 障害者支援施設は、とりわけ大規模な場合には、構造的に管理的で閉鎖的な運営(「管理性」と「閉鎖性」)に陥りやすいとの指摘を行ったが、県下の各障害福祉サービス事業所等において、県立障害者支援施設での不適切な支援につながった「現場レベル」、「施設管理レベル」、「政策レベル」の背景、要因を本報告書記載の事例等を通じて振り返るとともに、局面ごとに対応した解決方法について議論を深め、必要な対応を講じていくことが期待される。 なお、記載に当たっては、意思決定支援の推進について、意思決定支援専門アドバイザーに対して、相談支援専門員・サービス管理責任者・行政等の役割、県内の障害者支援施設における意思決定支援のあり方等に関するヒアリングを行い、その内容も参考にした。 (91ページ) 1虐待ゼロの実現を目指した取組み (1)身体拘束の考え方の改善 身体拘束は、本人の尊厳を侵害する行為である。「正当な理由なく障がい者の身体を拘束すること」は身体的虐待に該当する行為であり、重大な人権侵害である。支援においては、往々にして緊急やむを得ず身体拘束を行う場合もあるが、個別支援計画には、その態様や実施時間、実施理由を記載した上で、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件について十分に検討するとともに、身体拘束の廃止に向けた取組みがなされなければならない。身体拘束ありきで支援を考えず、身体拘束を行わずに支援を提供するあらゆる方法の可能性について検討することが必要である。 検証を行った県立6施設においては、支援者側の都合等、不適切な理由で身体拘束が行われてきた事例を把握したが、意思決定支援の取組みや検証委員会の中間報告書及び検討部会の構成員との意見交換等を通じ、これらを早急に是正しなければならないという機運が生まれている。 既に、県立6施設は、虐待につながる身体拘束をゼロにするべく、支援の改革を図り、県民にその状況を開示することに着手しており、今後も身体拘束の状況を継続的に公表していく方針とあるが、こうした取組みを通して、障害者支援施設で行われている支援について、個人情報の保護に配慮しながら、外向けに明らかにしていくとともに、県民や地域社会と隔絶した閉鎖的な運営に陥ることのないように留意していく必要がある。今後、民間の障害者支援施設にも同様の取組みが広がっていくよう検討すべきである。 (92ページ) (2)虐待通報の徹底 支援現場においては、不適切な支援を早く発見して、それがエスカレートしないように、虐待通報を避けるのではなく、むしろ積極的に通報していくことによって、自分たちの組織体制を変え、支援のあり方を変えていく機会にすべきである。 虐待行為が疑われる段階で把握し、適切に通報することができれば、組織的な対応によって本人の被害は最小限で留めることができる。 その際、通報した者が誰であっても、そのことで通報者に不利益が生じないようにするとともに、小さな出来事から虐待の芽を摘むことが重要であることを認識し、支援に携わる職員も管理職ひいては施設管理者及び法人等経営者も、自らの実践を常に見直し、検証していくための体制を構築すること必要である。 今般、検証等を通じて、県及び指定管理者は、コンプライアンスの重要性を認識し、虐待を厳に戒め、障害者虐待防止法の遵守し、施設の閉鎖性を打破しようという意識改革を進めていく重要性を再確認したものと思われる。また、民間の障害者支援施設の設置者においても、同様の認識を保持し続けることが求められる。 (3)組織的な対応 不適切な支援が行われたときに、なぜそれが行われてしまったのか、しっかりチェックできる組織体制づくりが必要である。虐待防止に向けた組織体制づくりに関しては、障害者虐待防止法第15条において、障害福祉施設従事者等の研修の実施、苦情処理体制の整備などの措置を講ずることとしている。 また、「障害者虐待の防止等のための措置」として、虐待防止委員会の設置等、必要な体制の整備が求められている。虐待防止委員会には、虐待防止マネジャーのほか、家族、第三者委員等の外部委員を入れてチェック機能を持たせる等、仕組みを形骸化させない実効的な組織体制にする必要がある。 なお、こうした会議体を設置するだけの体制整備では虐待防止には効果がない。組織として、様々なレベルの会議等の中で、本人がどのような思いを持っているのかを確認し、本人の能力を活かした支援がどのようにすれば可能かを創造的に考えるというように、一人ひとりについて利用者目線の支援を追い求める姿勢が重要である。そうでないと会議はすぐに形骸化する。これは施設内のみに言えることではなく、県のモニタリング等においても形式的なチェックにとどまることなく、指導の姿勢、指導項目とその内容、方法を再検討し、支援の質の向上に対する責任を果たすべく適切に指導を行う必要がある。 利用者目線の支援を展開することで、身体拘束に代表される身体的虐待だけでなく、放任(ネグレクト)や心理的虐待等、全ての虐待がなくなることにつながると考える。 (93ページ) 2行動障がいを軽減するための支援技術の向上(身体拘束によらない支援) (1)適切なアセスメントに基づく支援 行動障がいとは、自分の体を叩いたり食べられないものを口に入れる、危険につながる飛び出しなど本人の健康を損ねる行動、他人を叩いたり物を壊す、大泣きが何時間も続くなど周囲の人の暮らしに影響を及ぼす行動が高い頻度で起こるため、特別に配慮された支援が必要になっている状態である。その行動の背景としては、重度の知的障がいや自閉症の人の障がい特性に環境が合っていないことにより、「分からない」「伝わらない」という経験が本人の中で積み重なった結果、自傷や他害といった要配慮行動が表出してしまうものと考えられている。 行動障がいのある人の生活の質の向上を図るには、一人ひとりの障がい特性や学習方法などを把握・理解し、適切なアセスメントに基づいた本人中心の支援を提供することが必要不可欠である。具体的には、生活環境の中で見通しが立たず不安を感じている状況に対して、今何をするべきか、次にどうなるのかという活動の見通しや生活の仕組みなどを本人の理解度や特性に配慮したツール等を使用して根気よく伝え、安心して生活できるように環境を整えることや、障がい特性によって環境との間でどのような相互作用が生じるのかをよく観察して記録し、分析して支援の根拠とするといったエビデンスの蓄積が必要である。 (2)利用者目線の支援と体制整備 利用者目線に立った支援には、本人の障がい特性を支援者が理解して、本人が自信を持って生活できるようになる機会を増やし、地域の中で様々な活動や参加につなげ、本人にとって過ごしやすい環境を提供することが欠かせない。 県立障害者支援施設において、利用者目線の支援を行うにあたり留意すべき点として、次の点が挙げられる。 1点目として、行動障がいとは障がい特性と環境要因との相互作用の結果であるにもかかわらず、その視点を踏まえた高い専門性に基づいたアセスメントが不十分であること。 2点目として、大規模な入所型の施設では、利用者の集団全体の安全が優先され、個別支援計画も生活の質の向上を目指したものではなく、安全確保を目標としたものとなる傾向があること。 3点目として、大規模な入所型の施設は、安全を優先し身体拘束に傾きやすいこと。 4点目として、本人の障がい特性として、環境に即応した変化が苦手であることを理由として、施設が閉鎖的になり、外部の目が入りづらいこともあって、不適切な支援の内容が表面化しにくい傾向があること。 このことから、障害者支援施設は、常に高いレベルの支援を追い求める必要がある。そのためには、支援者が強度行動障害支援者養成研修等の受講をはじめ、適切な支援方法をしっかり身に付けられるよう、組織としてサポートする体制が必要である。また、支援が施設内だけで完結するのではなく、本人が望む暮らしを実現する方向に向かうことが重要であり、地域の施設や事業所の間で支援について協議できる場を設けるなど、本人の地域生活を支援する連携体制が必要である。 (94ページ) (3)地域支援体制の充実 人との協調行動が取りにくい行動障がいのある人たちにとって、障害者支援施設は、集団生活を余儀なくさせられる生活空間であると言える。とりわけ、大規模な入所型の施設における支援は構造的に「管理性」や「閉鎖性」に陥りやすく、行動障がいのある人にとって、一人ひとりの人権擁護に基づく穏やかな暮らしを提供することは非常に難しいと考えられることから、小規模化、分散化、ユニット化、地域サポート機能強化などの検討が必要である。 また、より個別的な支援が可能となるよう配慮していくことが重要であり、地域におけるグループホーム等の機能拡充を含め、強度行動障がいなど重度の障がいのある人が地域で生活するための社会資源の充実を促進することが必要である。障害者支援施設においては、地域で生活している障がい者の暮らしを支える機能(緊急避難の短期入所、支援の再構築等)や地域生活移行に向けた段階的な体制整備(行動障がいのある人へ必要な支援内容の周知及び浸透、地域生活移行に向けた準備のための支援環境の構築、移行先の確保及び多職種連携の体制整備等)が求められる。 「適切なアセスメントに基づく支援」、「利用者目線の支援と体制整備」、「地域支援体制の充実」については、行動障がいのある人に限定されるものではなく、全ての障がいのある人にとって求められる。 (94ページ) 3意思決定支援の推進 (1)意思決定支援の重要性 意思決定支援は、障がい者支援の根幹であり、「すべての人には、それぞれに尊重されるべき意思がある」ということを前提に、本人が理解できるように説明を尽くし、日常生活や社会生活に関して自らの意思が反映された生活を送ることができるように支援していくものである。これは最も基本的な権利擁護の一つであり、支援者として常に大切にすべきものである。 今回のヒアリングでは、意思決定支援に丁寧に取り組むことが、支援者中心の支援から本人中心の支援に変わるきっかけになったことが明らかになった。このように、本人に関わる者に本人中心の支援を浸透させることが必要であり、今後、県下の障害者支援施設等において、既に入所している人はもとより、新たに入所する人についても、意思決定支援を実践していくことが重要である。 (95ページ) (2)チーム支援 利用者目線の支援を進めていくためには、本人の意思決定を丁寧に支援していく姿勢を、本人や家族も含めたチームで共有する必要がある。 特に、支援会議等の検討の場により多くの関係者が参加し、開かれた場とすることで透明性を高めると同時に、本人中心の支援のあり方を根本的に考え直し、かつ客観的に評価してもらうことが重要である。 津久井やまゆり園の取組みでは、客観性・専門性を担保するために、県職員に加えて、外部の専門家からなる「意思決定支援専門アドバイザー」が配置され、一定の成果を上げた。それは、単に外部の目が入ったからというだけではなく、チームに入った意思決定支援専門アドバイザーや県職員などが、現場の職員と一緒に考え、支援を進める共同作業があったからである。こうした外部の専門家を配置できない場合でも、地域の関係機関や専門家と連携して、外部関係者とチームを形成しながら、支援していくことが効果的であると考えられる。 一方、今回のヒアリング等からは、チームによる意思決定支援を進めたことで支援現場の意識や行動が変化したことが確認できた。これは、施設管理者の意識や行動の変化にもつながっていくものであり、適切なマネジメントによって、支援現場を孤立させず、支援現場で質の高い支援を継続していくことが求められる。 (3)支援の手法「ケアマネジメントプロセス」 本人を中心にして、一人ひとりの状況をきめ細かくとらえ、思いや希望を丁寧にアセスメントし、本人のニーズ充足を目的に個別支援計画を立てることが肝要である。そして、その計画に基づいて支援を行い、モニタリングし、定期的にその結果を評価するといった、いわゆる「ケアマネジメントプロセス」をチームで協働しながら着実に進めていくことが重要である。 障がい者の支援に携わる全ての人々が、ケアマネジメントプロセスに関する考え方や知識・スキルを定期的に学びなおし、本人中心の支援の基本に立ち返ることができる機会などを確保することが必要である。 (96ページ) (4)支援現場を支える仕組み 利用者目線の支援を実践するには、支援現場を支える仕組みが必要であり、支援会議等の検討の場に、官民かかわらず様々な事業所から参加する機会を確保することなどが効果的と思われる。 また、意思決定支援を民間施設も含め広く定着させるためには、意思決定支援専門アドバイザー等の専門家の派遣といったコンサルテーションやスーパービジョンの提供、事業所間相互の連携による情報交換や課題の検討、インフォーマルも含めた地域資源の開発など、地域を巻き込んだ仕組みづくりが必要である。 (96ページから98ページ) 4利用者目線の支援を支えるための組織的な体制づくり (1)ガバナンスのあり方  障害者支援施設の運営において、利用者目線の支援を実施する上では、ガバナンスがいかに機能しているかが重要である。 検討部会では、6つの県立障害者支援施設において、現場の職員、管理職、施設管理者及び法人等経営者に対して、身体拘束の廃止に向けた取組みについてもヒアリングを行い、それぞれの施設のガバナンスの状況を確認した。 とりわけ、身体拘束の廃止に向けた取組みが進んでいる施設では、施設管理者がリーダーシップを発揮して、身体拘束廃止の目標を明確に打ち出していた。また、なぜ身体拘束を廃止しなければいけないのか、現場の職員に繰り返し伝えており、中間管理職である部長や課長は、施設管理者とは異なる役割を理解して、現場の職員に助言や指導を行うなど、組織が一体となって同じ目標に向かって取組みが進められていることが確認できた。 一方で、管理職と現場の職員による取組みが一体的なものとなっていない、また、管理職と現場の職員や職員相互の間で情報共有が不十分な状況のある施設も確認されたが、こうしたことはガバナンスの基礎であり、利用者一人ひとりの状態を職場全体で議論していくことにより、本人の生活の質の向上に向けた支援が進むものと考える。施設間による差があるということは、県や指定管理者の組織運営のガバナンスが機能していないと考えられ、そのあり方について見直しが必要である。 ガバナンスのあり方については、「理念」「組織体制」「風通しのよい職場環境」「文化の醸成」「第三者評価の機会の確保」などが重要な要素となる。 理念については、障がい者の人としての尊厳の保持と人権擁護について理解し、職員に浸透させ、実践行動については社会福祉職の職業倫理として明確に示す必要がある。また、それぞれの組織事情に適合した形で行動基準を設けるなど、職員が自身の支援行動を考えることができるような指針を示すことが求められる。また、組織運営のあり方を示す内容として、本人が地域の中で社会的存在として生きることを支える使命を遂行できる組織であることを掲げ、その使命のために支援者が存在しているということが認識されるよう不断の取組みが必要である。 組織体制としては、理念に即した運営が行われるよう、支援現場、管理職、施設管理者、ひいては設置責任者としての県が、それぞれの役割と責務を明確にし、本人が地域社会において自らが望む暮らしを実現するために必要な取組みを、一丸となって推進できる体制を作ることが必要である。 規模の大きい障害者支援施設では、組織内での情報共有やコミュニケーションが不足する状態に陥る可能性もあることから、実際に支援を提供する寮などのセクションごとに、管理職で決定した運営方針をきちんと現場職員に伝えて浸透させるトップダウンの方向、逆に現場の実情や職員の意見を管理者に伝えるボトムアップの両方の方向において円滑な意思疎通が行われる必要がある。その際には、現場職員と施設管理者をつなぐ役割を担う中間管理職がきちんと機能することも重要となってくる。また、現場職員から意見を発信し、管理職がしっかり受け止めることのできる体制が求められる。こうした情報共有やコミュニケーションが不足し、組織全体として支援の見直しができなければ、大規模施設においては、利用者本人のネガティブな行動につながるような不適切な支援や好ましくない環境が看過され、結果的に本人の暮らしにくさにつながることになる。 風通しのよい職場環境をつくるには、支援者が本人中心の支援を目指して自身の役割遂行のために遺憾なく力を発揮できるよう、試行錯誤を重ね、その経過と内容を分析した上で、必要に応じて、従来その施設で行なわれている支援の枠組みを変えて、新たな支援を再構築すること、すなわち支援のリフレーミングができる環境が必要である。そのために施設管理者は、自らと異なる意見の表出を阻害したり、職員間の有益な意見交換を妨げないことに留意し、例えば、「Aさんは昔からこういった支援をしてきており、この支援でないといけない」といった固定観念によって根拠なく不適切な支援に陥らない体制にしていく必要がある。また、法人及び施設内外に支援者が積極的に事例検討等の発表を行う機会をつくる、会議等で支援者が意見を発言しやすくするといった取組みも重要である。 施設の「文化」については、開設以来の時間経過の中で各施設において培われたものである。それは、利用者の状況に応じて提供される支援の内容や方法のあり方、職員の姿勢や考え方、そして運営管理のあり方等によって醸成される。これまでも述べてきたとおり、6つの県立障害者支援施設においては、いつの間にか前例踏襲、現状維持、組織にとっての危機回避といった状況に陥り、「利用者目線」とは逆の悪しき文化に陥っていたと考えられる。こうした状況から脱却するのは決して容易なことではないが、障がい者の人としての尊厳と人権擁護を念頭に、現場、管理職、施設管理者及び法人等経営者ひいては県の所管部署が一体となって、第三者からの評価や外部の協力も得ながら変革に取組み、広く社会に対して新たな文化を発信していかなければならない。 もとより、障害者支援施設を設置、運営する主体は、国又は地方自治体の他、社会福祉法人に限定されている。平成28年の社会福祉法の改正により、社会福祉法人については、高い公益性・非営利性を確保し、地域社会に貢献するよう、自律的に適正な運営を確保する観点から、組織運営のガバナンスを強化することとし、評議員会の設置が義務付けられた。これにより、評議員会は、これまでの諮問機関という位置付けから、法人運営の基本ルール・体制を決定するとともに、役員の選任・解任等を通じ、事後的に法人運営を監督する機関としての位置付けに変わっている。 しかしながら、今般の検証では、指定管理者である社会福祉法人において、必ずしも十分な内部管理体制が確保されているとは言い難い事案が指摘された。社会福祉法人は、公益性の高い法人であることを意識し、質の高いサービス提供を行い、社会的な信頼を高めていくことが必要であり、県下の社会福祉法人にあっては、今後とも、理事会、評議員会が相互の牽制関係を機能させ、支援を現場任せにせず、「利用者目線の支援」を実践する、より良い施設運営に注力していくことが求められるものと考える。 (98ページから99ページ) (2)支援人材の育成 利用者目線の支援を支えるためには、障がい者の人としての尊厳や人権擁護など明確な理念や使命感に基づいた人材育成が重要である。また、そうした人材を育てることが組織の成長につながるという視点をもった組織運営が必要不可欠である。 支援者の質を高めていくには、個人、組織、政策の3つのレベルに分けて考えていく必要がある。個々の職員にどれほどの力量があっても、組織がその人を活かせる仕組みを整備できていなければ、職員の能力は発揮されず、利用者への支援も向上していかないことからも、組織のレベルでの対応は大変重要である。 具体的には、施設で行われているあらゆる支援実践が利用者目線に立っているか、適材適所の職員配置になっているか、OJT・OFF-JT・自己研鑽がどのように行われているのか、組織内のコミュニケーションが健全かどうか、建設的かどうか、同調圧力はないか、外に開かれているか、抑圧的ではないか、といったことについて、人材育成の視点からも、現状を振り返り評価することが重要である。そして、改善すべき点がある場合には、施設管理者は速やかに対応するべきである。 支援の質の向上については、現在、障がい者の支援に携わる支援者向けに様々な研修が行われている。しかし、それら研修の多くは、支援に関係する知識や方法・技術など、支援課題の解決に関するものが多い。 支援者は本人と向き合う中で、困難を感じ、いろいろな悩みや思い、考えを抱く。支援者は、利用者本人を管理するのではなく、本人と一緒に相互の人生を紡ぎ合う、そうした感性を身につけている必要がある。 その際、拠って立つ基盤となるのが障がい者の人としての尊厳の保持と人権擁護であり、それらは社会福祉職の職業倫理に表されている。県は、そうした内容を改めて認識し、障がい福祉に携わる人々が身に着けるための研修プログラムを実施するべきである。県下の障がい福祉事業者団体においては、全国に先駆けて利用者目線からの「あおぞらプラン」を掲げて職員研修を行ってきた実績があり、今後、上記の取組みが、利用者目線の支援の実践につながっていくことが期待される。 また、支援者の悩みや思いを大切に一緒に考え、一緒に取り組んでいく伴走者が支援現場には必要である。そういった役割を担うことができるのは、日常の支援を理解している経験豊かな同僚であり、身近な上司ひいては管理職である。研修では、そうした伴走者を養成すべく、スーパービジョン等に関するプログラムを研修に盛り込んで提供する必要がある。 今回の検証では、利用者支援上の不備が認められたが、そのことに気付き、現状を変えようという取組みも見られた。その結果、長時間の身体拘束が解消された事例も散見されている。これらの改善事例から支援現場で活かすことのできる取組みを学ぶことも重要と考える。事例の共有や検討を通じて、支援現場が利用者目線の支援を実践できるような施策が講じられるべきである。 障がい者支援に携わる全ての者が、利用者目線に立つことができるよう、当事者団体をはじめとする関係団体や県とも連携して研修や勉強会の機会を確保するなど、専門職等の支援の質の向上を図っていくことが必要である。 (99ページから100ページ) (3)他機関・多職種・有識者等との積極的な連携 本人に適切な支援を提供するためには、根拠となる適切なアセスメントが重要であり、それには本人の状況を多面的にとらえ、理解する必要がある。 アセスメントは施設内の支援者によって行われるが、それ以外にも本人をよく知る関係者からの意見も積極的に聴取していく必要がある。本人の生育歴においては、様々な人が関わり、生活を支えてきた経過がある。家族、親族に加えて医療や社会福祉等の専門家等、本人の生活を支えてきた様々な関係者からの情報を収集することで、施設が今まで知らなかった情報や本人が表出できない意思等を推測するヒントが得られることも少なくない。 施設内において完結する支援だけでは、対応に行き詰まったり、客観的な評価がなされないなど、利用者にとって不適切な状況に至る危険性もある。その問題意識から県内の障害者支援施設では自らオンブズマンネットワークを設置して、オンブズマンの導入を図っているが、さらに、有識者らによるコンサルテーション(課題解決のための相談・会議)の実施や外部評価委員、オンブズマンや第三者委員、ピアサポートの制度の導入等、外部の目を積極的に取り入れていく必要がある。 他機関・多職種・有識者等と積極的に連携していくことで、客観的な視点による支援の評価が得られるとともに、支援者の支援技術の向上や虐待防止のほか、何より本人の生活の質の向上を図ることができる。また、障害者支援施設において、高齢化、障がいの重度化が進んでおり、医療的ケアが必要な利用者も増加傾向にある。このため、精神科医師や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師等の医療職との連携を図ることも重要である。 本人の生活の質を高めるためには、本人、家族・後見人、支援者、相談支援専門員等で検討していくことは当然であるが、より多くの本人に関わる人も含めて、チームで支援していくことが重要である。また、積極的に地域と連携し、地域における本人の居場所や活動場所を用意していく必要がある。地域生活移行も含めて、地域におけるサービス基盤の充実が必要であり、県は、市町村や自立支援協議会と協働し、その整備を積極的に進めるための施策の立案と実行に着手する必要がある。 (100ページ)  5県の取組み (1)運営指導及びモニタリング等の見直し 県立障害者支援施設の正常なガバナンスを構築するため、速やかに県の姿勢、運営指導、モニタリングの体制や内容などを再検討し、強化することが必要である。さらに、県と指定管理者の関係性の見直しにも着手すべきである。 これまでの県立障害者支援施設に対する県の運営指導及びモニタリング等では、主に施設の利用状況や収支状況に関する施設運営の実態把握のほか、不祥事や不適切支援が発生した場合の実態把握等に留まっていた。また、県では施設所管課が行うモニタリング実施状況を第三者が確認する「指定管理者制度モニタリング会議」を設置しているが、施設管理に関することを中心に行っており、利用者支援について専門的な知見から助言を得られるものとはなっていなかった。 このように、利用者支援について、県では、客観的に実態を確認するようなことは行っておらず、各施設に任せきりにしてしまう傾向があった。県立障害者支援施設は、「ともに生きる社会かながわ憲章」を理念に掲げ、公立施設としての責務と役割を果たすため、更なる質の高い支援を目指し、利用者目線の支援を実現しなければならない。運営指導する県自身の身体拘束に対する認識が低く、適切な指導がされていなかった事実もあることから、これまでと同じような枠組みでは、利用者目線の質の高い支援の実現には限界があると思われる。 今後は、関係書類による調査だけではなく、実際に支援の現場を見る、本人や職員から話を聴き、一緒に考える等により、利用者支援の実態を確認していくとともに、県自らが、積極的に第三者からの意見を取り入れ、運営指導やモニタリング等のあり方を見直していくことが必要である。 (101ページ) (2)組織執行体制の構築 県の関与に関する調査報告では、津久井やまゆり園における身体拘束に関するリストが作成されていたにもかかわらず、個々の身体拘束の廃止に向けて有効に活用されていなかった原因としては、「身体拘束はやむを得ず仕方がない」といった県職員の認識とともに、担当部門相互の意思疎通が不足していたことが挙げられている。 今後、不適切支援、虐待に関する情報について、県内部で情報を円滑に共有する仕組みを構築する必要がある。また、県職員の専門性を担保するための長期的な視点に立った人材育成が必要である。 県は、どんなに重い障がいがあっても、利用者本人には必ず意思があるという理解に立ち、本人を中心に、本人の望みや願いを第一に考え、本人の可能性を最大限に引き出す支援を行うという「利用者目線の支援」の実現に向けて、施策の立案と実行に取り組む必要がある。 (102ページ) Wさらなる検討の方向性 1地域共生社会の実現に向けて 県では、「ともに生きる社会かながわ憲章」の理念の普及が進められているが、今後、意思決定支援や地域生活移行支援などに取り組む中では、いかなる障がいがあっても、地域に包摂される共生社会づくりにまい進していくことをあらためて決意すべきである。 地域共生社会の実現に向け、市町村では、多様で複合的な支援ニーズに対応するため、障がい福祉などの分野を超えた、包括的な支援体制の整備を進めようとしており、こうした状況を明確に視野に入れる必要がある。 2県におけるこれまでの障がい福祉行政の振り返り 今回の検証は、主に身体拘束という側面から行われたものであり、県立障害者支援施設の支援全体を俯瞰しているわけではない。今回、確認した利用者の人数においても、振り返って確認した年数においても、一定程度の検証が行われたが、なぜ、その利用者の支援がそのようなものであったのかの十分な解明に至っていない。また、これまでの支援について、制度的にも振り返る機会があったにもかかわらず、利用者目線の支援に転換できなかった原因についても明らかになっていない。 そのためには、これまでの県立障害者支援施設の支援をより詳細に調べる必要がある。県においても、これまでの障がい福祉行政を振り返り、刻々と変化していく時代の波に対応していけるような組織体制をつくる必要がある。 3県立障害者支援施設のあり方を含めた利用者目線の支援の推進方策について 県立障害者支援施設の役割として、これまで、民間施設で対応困難な重度の障がい者を受け入れてきた経過があるが、特に強度行動障がいのある人については、個別的な支援が必要なため、大規模な入所型の施設における集団の中での支援では限界があり、より個別的な支援が可能となる生活環境を考えるべきである。 また、利用者目線の支援を進めていくためには、利用者本人の希望に応じることができるよう、地域のサービス基盤をしっかりと整備していく必要がある。 今後の県立障害者支援施設のあり方については、こうした社会資源の整備状況を見ながら、民間施設や事業者を含めて県全体で検討していく必要があり、県立障害者支援施設の指定管理者の選定に当たって、求められる役割の変化に対応して、選定基準や業務の基準などの内容について見直すことも必要である。 このようなことから、今後、県立障害者支援施設のあり方を含め、意思決定支援の全県展開など、利用者目線の支援をより実践していくための方策を検討する本人を中心とした具体的な会議体を設置し、未来への工程表を示していく必要がある。 (103ページ) 委員名簿 左から、名前、所属を記載 小川 喜道、部会長、神奈川工科大学名誉教授 堀越由紀子、副部会長、東海大学教授 安藤 浩己、神奈川県知的障害福祉協会顧問 伊部 智隆、神奈川県社会福祉協議会 大塚 晃、上智社会福祉専門学校特任教員 佐藤 彰一、國學院大學教授 冨田 祐、ブルースカイクラブ会長 中島 博幸、神奈川県知的障害者施設団体連合会副会長 野口富美子、神奈川県心身障害児者父母の会連盟幹事 野澤 和弘、植草学園大学副学長 開催状況 左から、回数、日時、内容を記載 第1回、令和2年7月29日18:00〜20:10、設置及び今後の進め方について、検証作業の進め方について、利用者目線の支援について 第2回、令和2年9月7日16:00〜18:10、検証作業の進め方について、他地域における利用者目線の支援事例について 第3回、令和2年10月14日15:00〜17:15、意思決定支援の取組みについて、利用者目線の支援に求められる視点や取組みについて 第4回、令和2年12月16日16:00〜18:20、県立障害者支援施設における支援の検証状況について〔非公開〕 第5回、令和3年2月1日16:00〜18:30、県立障害者支援施設における支援の検証結果について〔非公開〕、報告書骨子案について 第6回、令和3年2月22日16:30〜18:40、意思決定支援について〔非公開〕、県立障害者支援施設における支援の検証結果について〔非公開〕、報告書素案について 第7回、令和3年3月30日14:00〜15:00、報告書(案)について (104ページ) 参考資料一覧 参考資料1、障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会設置要綱                        参考資料2、ともに生きる社会かながわ憲章(平成28年10月) 参考資料3、津久井やまゆり園再生基本構想(平成29年10月) 参考資料4、検証対象とした県立障害者支援施設の概要 参考資料5、検証対象とした県立障害者支援施設の整備経過等 参考資料6、県立障害福祉施設の将来展望について報告書(平成15年) 参考資料7、県立障害福祉施設等あり方検討委員会報告書(平成26年1月) 参考資料8、あおぞらプランV(令和元年 神奈川県知的障害施設団体連合会) 参考資料9、多くの「行動的課題」のある利用者の豊かな暮らしと社会参加を目指して(第2回検討部会・社会福祉法人北摂杉の子会理事長松上利男氏提供資料) 参考資料10、津久井やまゆり園に関連する意思決定支援の取組状況(第3回検討部会資料) 参考資料11、津久井やまゆり園利用者の意思決定支援の取組状況(令和3年3月31日現在) 参考資料12、県立障害者支援施設の支援の構造(第7回検討部会・大塚委員提供資料)