真の分権改革の実現に向けた地方税財政制度改革のあり方 −住民生活を豊かにするための神奈川県への期待− 「神奈川県地方税制等研究会」では、平成17年12月に「地方税財政制度のあり方に関する報告書」 を知事へ答申した。その中で、地方分権の本来の姿は、住民の意志を反映し、それぞれの地域の 特色を活かしながら、住民が安心して暮らせる豊かな地域づくりを行うことにあり、そのためには、 地方自治体の自主財源を充実させ裁量の余地を拡大し、地域住民のニーズに即した施策を自らの 責任によって決定、実施し、よりよいサービスの提供を行って住民生活の質の向上を図っていく 必要があると提言した。 しかしながら、現実に実施された国の「三位一体の改革」では、所得税から個人住民税へ基幹税 による3兆円規模の税源移譲がされたものの、国庫補助負担金の削減や地方交付税改革との見合い の中で、実質的には、地方財政の総額を削減する結果となっており、その充実強化に結び付く内容 にはなっていないと言わざるを得ない。 さらに、最近の地方税財政制度の改革論議をみても、真の分権改革を実現するための改革という 視点は影を潜め、国のプライマリーバランスを改善するため、地方の歳出をいかに削減するかとい った議論に終始しているのが現状である。 こうした国の改革論議の方向性をしっかりと見極め、真の地方分権を確立し、住民生活の質の向 上を実現するという視点に立ち、地方財政の充実強化に向けた改革論議に軸足を移すことが、今、 何よりも求められている。 そのためには、国と地方の仕事量に見合った税源配分となるよう、国、地方を通じた抜本的な税 体系の見直しを行い、安定的で偏在性の少ない所得税や消費税を基本として、国から地方へ税源移 譲するとともに、国庫補助負担金を縮小、廃止し、国から地方へ権限の移譲を行うことを強力に 地方自治体から発信していく必要がある。 また、いかなる税制改革を行ったとしても、地域住民に必要な行政サービスの大半を税によって 賄うことは不可能であり、自ずから、税源の偏在や財政力の格差が生じることは当然である。この ような状況は地方自治体の努力によって改善できるものではなく、必要となる財源を保障し、各 自治体の財政力の格差を是正することが必要である。加えて、地方交付税の財源は、本来、地方税 とすべきものにもかかわらず、国の徴収に委ねざるを得ないものであり、地方固有の財源である。 国は、こうした趣旨を十分認識して、地方交付税の改革に臨むべきである。 加えて、こうした改革を着実かつ継続的に推進していくためには、改革の基本理念や計画の策定、 国・地方の協議の場の設置等について、法的に根拠を明確化させることも必要である。 政府は、本年6月に策定予定の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」 (骨太の方針2006)において、国と地方の税財政改革の方向を改めて示すことが予想される。 そうした中、先般、地方六団体が設置した「新地方分権構想検討委員会」から、「分権型社会の ビジョン(中間報告書)」が取りまとめられ、地方分権の基本的な視点とともに、税財政改革に ついての提言が示された。こうした提言を地方税財政制度改革に反映させるには、地方自治体が 不退転の決意を持って政府に働き掛けるなど、取組みを強化することが必要である。 そこで、神奈川県地方税制等研究会としては、これまでも分権改革に積極的に取り組んできた 神奈川県に、以下のとおり、一層の努力を傾けていただくことを強く期待するものである。 1 今後の地方税財政制度改革が、分権改革の理念に沿った方向で行われるよう、国や関係各方面 へ強力に働き掛けること。さらに、神奈川県は、リーダシップを発揮して、地方六団体をはじめ 関係する地方自治体間の連携・協力に努められたい。 2 今後の地方税財政制度改革は、住民生活に直結する事柄であり、本来的には住民の意志を基盤 として行われるべきである。そこで、これまでの改革の中で実現した税源移譲の内容や今後のある べき姿を、分かりやすく県民へ周知するなどして、地方分権改革の必要性について県民の理解が 十分深まるよう努められたい。 こうした取組みを通じて、住民本位の真の地方分権改革が一日も早く実現することを、切に 願うところである。 平成18年5月 神奈川県地方税制等研究会 座長 神 野 直 彦