バリアフリー街づくりの推進に関する検討結果報告書 平成21年12月 バリアフリー街づくり推進検討会議 1 趣旨   神奈川県では、平成20年12月に、神奈川県福祉の街づくり条例を神奈川県みんなのバ リアフリー街づくり条例へと改正し、新たに、バリアフリーの街づくりに関する施策につ いて、障害者や高齢者、妊産婦、子ども連れなど(以下「障害者等」という。)の意見を 反映させること、適時に、かつ適切な方法により検討を加えることを盛り込んだ。   当検討会議では、この2点の項目について、より実効性のある仕組みづくりを構築す るため、検討を行い以下のとおり意見を取りまとめた。 2 現状と課題   これまで行政が障害者等から意見を聴取する場合、パブリックコメントや障害者団体 等との話し合い、インターネット、ファックス・手紙による行政への提案など、様々な手 法を用いて行われてきた。  しかしながら、多くの場合、こうした手法を活用して意見を発信できる人は、団体に所 属している人や活動に熱心な人などに限られており、それ以外の人達の多くは、行政から の情報を知らなかったり、入手が困難であったり、さらには、意見があっても公の場など で発言できない、意見を発信する手法が分からなかったりしている。バリアフリーの街づ くりを推進するに当たっては、こうした声にならない声を拾い上げる仕組みや工夫が必要 となっている。  また、パブリックコメントや団体等との話し合いなどは、意見を発信する時期が限られ ており、時期を逸すると意見が言えなくなるといった制約もある。障害者等の意見を収集 するに当たっては、随時、障害者等が意見を発信できる枠組みが必要である。  その一方で、障害者等からの意見は多種多様である。例えば、視覚障害者誘導用ブロッ クについてみてみると、当然のことながら、視覚障害者にとってはなくてはならないもの であるが、車いす使用者にとってはブロックが障害となる場合もあるといったように、障 害の種別や程度によって利益相反するケースもみられる。こうしたことに対応するために は、利益相反するもの同士が同じテーブルに着き、相互に理解しあって解決していくこと が望ましいが、これまでそのような議論を行う場面や機会はほとんど用意されてこなかっ た。バリアフリーの街づくりに関する施策に障害者等の意見を反映し、施策を推進してい くためには、こうした利益相反するもの同士が議論しあえる場が必要であると考える。  さらに、改正後の条例では、バリアフリーの街づくりに関する施策について、適時に、 かつ適切な方法により検討を加えることとされている。これまでも、施策や事業の検証と いう行為は大なり小なり行われてきたが、検証の仕方は一定の基準やルールに従ったもの ではなく、また、継続性を持ったものとは言えない。バリアフリーの街づくりを着実に進 めていくためにも、継続性を持ったモニタリングが必要と考える。 3 障害者等の意見反映及び検証の望ましい姿  バリアフリーの街づくりを推進し、実効性あるものとしていくためには、障害者等の意 見を収集し、それを集約して、障害当事者をはじめとする県民等が一体となって議論しあ い、その結果を発信し、検証していくという、バリアフリーの街づくり施策に関するPD CAサイクルを確立していくことが大事である。そのためには、一連のサイクルを継続し て議論、検証することができる仕組み、組織が必要である。  この仕組み、組織を、障害当事者や県民などが一体となって議論する場とした上で、 「バリアフリー街づくり推進県民会議(以下「県民会議」という。)」という名称を用い て記述する。  この県民会議の大きな役割としては、次の点が挙げられる。 ア 障害者等の県民からのバリアフリーに関する意見を収集・集約し、内容を検討した上 で、行政等へ発信する。 イ 生活の場において、条例の基準が活かされているかなどについてチェックを行う。 ウ バリアフリーに関する施策について、ニーズの実態に即したものとなっているかなど について検証を行う。 エ 県民会議における議論は公開とし、まとめた内容は県民へフィードバックする。  特に、アの役割においては、単に障害者等の意見を収集するということではなく、普段、 意見を発信できない人や発信しにくい人の声も広く拾い上げる仕組みとして、直接、地域 に出向いて意見を聴取する県民集会や地域懇談会なども実施していく。そのようにして収 集した意見を、例えば、車いす使用者用駐車区画の利用問題や視覚障害者誘導用ブロック の取扱いといったテーマごとに整理して、利益相反する者、しない者がそのテーマについ て議論し、お互いを理解しあった上で、神奈川県における基準やルール、いわゆる神奈川 のスタンダードを設定し、これを県民・行政・事業者等へ発信するとともに、その後の検 証を行う。  また、県民へのフィードバックについては、県民会議における議論の結果を発信するだ けでなく、障害者等から出された意見を生の声として伝えていくことも必要であり、議論 を公開することも大事である。議論の始まりから結果までのプロセスを分かりやすく県民 へ周知することが必要である。  バリアフリー街づくり推進における県民意見の集約及び検証の流れのイメージは図1 (省略)のとおりである。また、バリアフリーの街づくり施策に関するPDCAサイクル の例示を図2(省略)に示した。 4 検討結果の発信及び施策への反映   県民会議からの検討結果の発信は、県民、民間事業者、市町村・県等の行政など、そ の内容や状況に応じ、最も効果が得られる対象や方法によって、適宜実施することになる。  また、検討結果の受け手側となる県民、民間事業者、行政等にあっては、県民会議にお ける検討結果の趣旨を十分に理解し、改善のための努力をしなければ、実効性あるバリア フリーの街づくりの実現は不可能である。  そこで、県としては、施設管理者としての取組みはもとより、県民や民間事業者、市町 村等においてバリアフリー化が推進されるよう、普及啓発や相談による支援など様々な取 組みを展開していく必要がある。 5 県民会議設置における留意点 (1)構成委員    県民会議の構成委員については、学識者、各種団体、県民、事業者、行政などが考 えられるが、ここで最も留意しなければならない点は、障害当事者の参画である。身体障 害者、視覚障害者、聴覚障害者など、実際に施設を利用する人の意見なしでは議論は成し えない。また、こうした障害当事者の間でも、施設の仕様について利益相反する点もある ことから、様々な分野からの構成委員としての参画は欠かせないものである。    また、構成委員の要素は大きく2つに分かれる。それは、障害当事者や県民、障害 団体などの意見を発信する側と事業者、行政などの意見を受け止める側である。構成委員 については、県民会議において合意形成される神奈川のスタンダードが、意見を発信する 側だけのものなのか、意見を受け止める側も含めたものなのかを十分に踏まえた上で委員 構成を検討する必要がある。 (2)運営方法    県民会議の議論の進め方については、県民会議の委員を意見を発信する側だけで構 成するのか、意見を受け止める側も含めて構成するのかによって異なってくる。    県民会議での議論においては、障害者等から挙げられた意見をできるだけ生の声と して俎上にのせていく必要があるので、障害者等からの意見の集約に当たっては、意見を 発信する側で行うことが望ましいと考える。  仮に、神奈川のスタンダードを事業者や行政といった意見を受け止める側も含めて合意 形成するのであるならば、意見集約の場と議論の場は異なる組織であることが望ましい。 具体的には、次の2通りの形式になるものと考える。   ア 県民会議は意見を発信する側と受け止める側で構成し、障害者等の意見集約を行 う組織を県民会議と別に独立して設置する。   イ 県民会議は意見を発信する側と受け止める側で構成し、障害者等の意見集約を行 う組織を県民会議の中に部会として設置する。    この2つの案は、障害者等の意見集約を県民会議の外に設けるか、内に設けるかと いうことであるが、アの県民会議の外に設ける場合は、障害者等の意見集約に当たって、 組織が独立していることから、中立性を保ちながら障害者等の生の声に近い形で俎上にの せるとともに、県民や事業者等に対して発信していくことが可能となる。その一方で、組 織が2つに分かれてしまうことから、県民に対する責任の所在が不明確になることも考え られる。    イの県民会議の内に設ける場合は、意見集約と議論の場が基本的には同じ組織であ るので、中立性の確保という点では疑問が残るが、県民等へ発信する際の責任の所在は明 確となる。イの運営方法で実施する際には、部会における検討内容を尊重し、部会から情 報発信できるような工夫が必要である。 6 おわりに   実効性あるバリアフリーの街づくりを推進していくためには、障害者等からの意見を 収集・集約し、障害当事者を含めた県民等で議論し合意形成を図り、検証していく継続性 を持ったプロセスを確立することが必要である。また、こうした一連の取組みをとおして 障害者等のバリアフリーの街づくりに対するニーズを県民等へ発信し、より多くの方々に 理解され、浸透していくことが、誰にとっても住み良い街づくりにつながっていくものと 考える。こうした取組みを通じて、一日も早いバリアフリーの街づくりが実現されるよう 期待するところである。  平成21年12月 バリアフリー街づくり推進検討会議 会長  臼 井 正 樹