神奈川景観づくり基本方針 ―神奈川県景観条例第7条に基づく「景観づくりに関する基本方針」― 第1 基本方針の位置付けと役割   1 基本方針の位置付け   2 基本方針の役割    第2 景観づくりに関する目標   1 景観づくりの意義と視点   2 目指すべき目標    第3 景観づくりに関する施策の基本となる事項   1 対象となる景観の特定及び保全・創造・修復の手法の適切な選択   2 多様な主体との協働・連携による景観づくり   3 県民等への支援   4 市町村への支援    第4 広域的な景観づくりに関する事項   1 景観域及び景観軸の設定   2 景観域及び景観軸の基本方向    第5 県の公共施設及びその周辺の空間における景観づくりに関する事項   1 公共施設の整備及び管理のあり方   2 市町村景観計画への対応   3 景観づくりに関する手引書などの整備    第6 その他景観づくりに関する施策を総合的、計画的かつ広域的に推進するために必要な事項   1 県の体制の整備   2 基本方針の見直し 第1 基本方針の位置付けと役割  1 基本方針の位置付け   神奈川景観づくり基本方針(以下「基本方針」という。)は、神奈川県景観条例(以下「条例」という。)第7条に基づき、景観づくりに関する施策の総合的、計画的かつ広域的な推進を図るために定めるものであり、関係する県の施策に関する構想及び計画並びに景 観法に基づく景観行政団体である市町村の景観計画(以下「市町村景観計画」という。)と連携する。   なお、この基本方針における用語の意義は、景観法、屋外広告物法、神奈川県景観条例及び神奈川県屋外広告物条例の例による。  2 基本方針の役割   基本方針は、県民、事業者及びこれらの者の組織する景観づくりに関する団体(以下「県民等」という。)並びに市町村を支援することを基本姿勢とした県の施策を推進する方針であるとともに、市町村景観計画などに基づき市町村が推進する施策のガイドラインと しての役割を有する。ただし、市町村独自の取組みを妨げるものではない。     第2 景観づくりに関する目標  1 景観づくりの意義と視点   これまで、人口増加や経済成長に対応し、経済性、効率性及び機能性を重視した都市整備が進められてきた。しかし、成熟社会を迎え、画一的な都市景観のあり方が問われている中で、地域の特性が再認識され、人々の多様な価値観を満たす魅力ある空間の形成が求 められている。   景観づくりに当たっては、県民等と行政が一体となり、地域の自然、歴史、人々の生活、経済活動などとの調和を図るとともに、豊かな生活を追及し、未来へ継承していくことが必要であることから、次に掲げる視点にたって推進することとする。 ○ 社会・経済の変化を視野に入れた景観づくり    ○ 多彩な個性を守り育てる景観づくり    ○ 市民の生活感覚に根ざす景観づくり    ○ 県民等と行政が一体となって取り組む景観づくり    ○ 次世代に継承する景観づくり  2 目指すべき目標  (1) 市町村を主体とする景観づくり体制の構築     県は、景観づくりを推進する上で、市町村が果たす役割の重要性から、概ね5年以内に県内全ての市町村が景観行政団体となり、景観計画を策定することなどにより、地域の特性を踏まえた景観行政を推進できるよう支援するとともに、広域自治体として連携体 制を構築する。  (2) 神奈川の景観特性と共有する目標   ア  神奈川の景観特性    神奈川の良好な景観は、地域の自然、歴史、文化等と人々の生活、経済活動等との調和により形成されてきた。そこで神奈川の景観特性を自然的特性と社会的特性に分けて以下に示す。   (ア)  自然的特性 ○ 多くの渓谷や湖に恵まれ、周辺の豊かな樹林と一体となった丹沢から箱根に連なる山並みの景観 ○ 大磯丘陵、相模原台地、多摩丘陵など、中小河川や緑地が入り組んだ多様な地形をもつ丘陵や台地の景観     ○ 相模川、酒匂川、鶴見川、多摩川などの河川沿いの平野に広がる田園の景観 ○ 変化に富んだ海岸線の三浦半島、白砂青松の湘南海岸、緑と一体となった真鶴半島などの海岸の景観   (イ)  社会的特性 ○ 古都鎌倉、城下町小田原、開港の地横浜、別荘地・保養地として親しまれてきた相模湾沿岸など、地域の文化を伝える歴史景観 ○ 長い歴史の中で、人と自然との営みが創り出してきた農林水産業や地場産業の景観 ○ 産業を支える京浜工業地帯、市街地の中の商業業務地、高密度な市街地、県土に広がる住宅地など、これまで形成されてきた都市の景観 ○ 県土を貫く主要な鉄道や道路などの交通網を中心とした、沿線や沿道の景観   イ  共有する目標  県民等と行政は、以下の目標を共有し、地域の合意形成を図りながら、景観づくりに取り組むよう努めるものとする。また、これらの目標は、市町村の景観形成目標の設定に当たって参照されることが望まれる。   (ア)  貴重で多様な自然景観の保全・修復   山地、里地里山、水辺などの豊かな自然環境を保全・修復するとともに、都市機能との調和が図られること。 (イ)  後世へ伝える歴史景観の保全・創造・修復 歴史や文化を継承した景観が、保全・創造・修復され、次世代へ受け継がれること。   (ウ)  調和のとれた美しい都市景観の実現 生活空間として調和のとれた潤いとやすらぎのある快適な美しい都市景観を実現すること。   (エ) 地域ごとの多様な景観の価値の認識と空間の質の向上 地域における多様な景観の価値を共有し、自然と都市との均衡に配慮するとともに空間の質を高めること。 第3 景観づくりに関する施策の基本となる事項  1 対象となる景観の特定及び保全・創造・修復の手法の適切な選択   県及び市町村は、神奈川の貴重で多様な自然景観、後世へ伝える歴史景観、調和のとれた美しい都市景観など、それぞれの視点で景観づくりの目標を捉え、保全・創造・修復の手法の適切な選択により、それぞれの役割に応じて具体的施策の実施に努める。   (1) 良好な景観の保全   景観の保全を図るべき要素が明確になっている場合にあっては、地域住民などと連携するとともに、次に掲げる適切な措置などを講じるよう努める。   ア  良好な景観が形成されている区域の保全   法令により建築、開発行為などが一定程度制限され、保全すべき区域と位置付けられている場所など、以下に例示するような、現に良好な自然景観、歴史景観及び都市景観が形成され、地域の景観上も重要な区域は、景観計画などにより保全を図る。 ○ 市街地内に残された斜面緑地及びまとまった緑地並びにその近隣において、特に良好な景観が形成されている区域 ○ 歴史的建造物、文化財、遺跡など、歴史的街並みが保存され、良好な景観が形成されている区域 ○ 市街化調整区域、非線引き用途無指定地域などであって、良好な景観が形成されている区域     イ  景観上重要な建造物や樹木などの指定   地域の良好な景観の形成に重要な建造物、樹木、樹林地などがある場合にあっては、その優れた外観を保全するための景観重要建造物、又は、景観重要樹木などの指定について取り組む。   (2) 良好な景観の創造   新たな建築、開発行為などにより、地域の景観に一定の影響を与えるものについては、色彩、デザイン、材質などが既存の景観と調和するよう、県民等と連携するとともに、次に掲げる適切な措置などを講じるよう努める。  ア  景観計画、地区計画、まちづくり協定などによる規制・誘導   以下に例示するような区域は、景観計画、地区計画、景観地区や住民によるまちづくり協定など、地域のルールづくりにより、建築物などの規制・誘導を図る。    ○ 歴史的、文化的街並みや良好な住環境が残されている区域     ○ 公共施設の整備と地域のまちづくりを一体的に実施すべき区域     ○ 地区の個性を活かしたまちづくりを推進する区域     ○ 住民に親しまれている個性的な景観を持つ区域     イ  屋外広告物の規制・誘導   道路などの公共施設に面する屋外広告物を周辺環境と調和したものとする必要がある地区について、地域のまちづくりと連携するとともに、広告景観形成地区の指定などにより、屋外広告物の規制・誘導を図る。   (3) 良好な景観に修復   悪化した景観を良好な景観に修復すべき地区について、その実態の調査把握に努め、国、県、市町村及び県民等など、関係者の間で協議・調整し、景観を阻害する要因や修復の方向について共通の認識を高め、次に掲げる適切な措置などを講じるよう努める。    ア 屋外広告物の規制 公共空間の景観悪化が顕著な地域における屋外広告物の実態を調査・把握し、規制などを講じる。    イ 歴史的街並みの修復 景観の悪化により、歴史的街並みを修復する必要がある地区について、地域住民などと連携して、その修復に向けた措置を講じる。    2 多様な主体との協働・連携による景観づくり   良好な景観は、その地域で暮らし、活動する人々の思いや地域にまつわる記憶とともに、長い時間をかけながら形成されることから、県民等に加え、国、県、市町村など、多様な主体の関わりが重要である。   県は、各主体が相互に理解を深めながら協働・連携する仕組みの構築に努める。 (1) 各主体の景観づくりにおける役割  ア 県の役割   県は、条例に定める基本理念にのっとり、景観づくりに関する総合的、計画的かつ広域的な施策を策定し実施する。  イ 県民の役割  県民は、基本理念にのっとり、景観づくりに関する理解を深め、積極的な役割を果たすよう努めるとともに、県が実施する景観づくりに関する施策に協力するものとする。  ウ 事業者の役割   事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、景観づくりに自ら努めるとともに、県が実施する景観づくりに関する施策に協力するものとする。 エ 市町村の役割   市町村は、景観づくりを地域の課題として捉え、まちづくりに関する様々な制度を活用しながら地域の特性に応じた取組みを進めることが望まれる。 (2) 協働・連携の仕組みづくり ア 多様な主体との意見交換や情報提供の場の設置   県は、県民、専門家、市町村、県などの多様な主体が協働・連携し、神奈川の景観づくりを推進するため、インターネットの活用を含めた、情報の提供や各主体相互の意見交換などを行う「かながわ景観会議(仮称)」を設置する。 イ 広域自治体としての連携・調整   県は、景観づくりに関する情報の収集に努めるとともに、国や隣接都県との景観づくりに関する調整を行う。      3 県民等への支援   県は、景観づくりを推進する上で、県民等が果たす役割の重要性から、県民等が主体的に取り組む景観づくりに対し、必要な支援を行うよう努める。   (1) 普及啓発   すでに景観づくりに取り組んでいる人々の活動の促進を図るとともに、これから景観づくりに取り組もうとしている人々への普及啓発を促し、景観づくりが県民運動として広く展開されるよう、シンポジウムの開催、PRパンフレットの配布などを行う。 (2) 人材の育成   地域活動やまちづくりに携わる人材の発掘、育成などを通じて人づくりを支援する。 (3) 優れた取組への表彰   県民等の優れた活動実績や景観づくりのアイディアに対し表彰を行う。  4 市町村への支援  県は、景観づくりを推進する上で、市町村が果たす役割の重要性から、市町村が行う景観づくりに対し、必要な支援を行うとともに 、市町村の求めに応じ、広域的な見地からの調整を行うよう努める。 (1) 広域的な課題に対する協議・調整の場の設置   景観づくりに関する広域的な課題の協議・調整を行うために、景観行政団体で構成する会議などの充実に努めるとともに、景観行政団体が景観計画を策定し運用する場合は、市町村が組織する協議会などに参画し連携に努める。 (2) 情報提供及び意見交換の場の設置   地域ごとの意見交換会や研究会などにより情報提供を行うとともに、先進的に景観計画を策定した市町の事例紹介の場を設け、全ての市町村が景観行政団体となるよう支援する。 (3) 専門家によるまちづくりの支援   景観行政団体となっていない市町村や景観計画の策定を進めている市町村に対し、景観づくりに関する専門家派遣制度を充実する。また、人材の育成に向け、専門家や大学などとの協働・連携に努める。 (4) 景観づくりに関する調査研究   景観づくりに関する様々な情報を整理し、調査研究を行い、市町村が景観行政を推進する上で活用できるよう情報提供に努める。 (5) 地域に適した連携のあり方の検討   市町村が行う景観づくりに関する施策の推進に関し、市町村により権限の異なるまちづくりに関する許認可事務(建築確認、開発許可、屋外広告物など)に応じて、地域に適した連携や支援のあり方を検討する。 第4 広域的な景観づくりに関する事項  1 景観域及び景観軸の設定 地域の特性を踏まえた目標景観像を共有するため、景観域及び景観軸を以下のとおり設定する。   神奈川の地勢などを踏まえた地域区分を「景観域」として、また、県土の骨格となる連続性の高い緑や広域的な流域を持つ河川などで、周辺市町村にとっても景観上の影響が大きく、景観域を越えて景観づくりを進めていく必要があるものを「景観軸」として設定す る。 ○ やまなみ・酒匂川景観域 ○ 丹沢山麓景観域 ○ 相模原台地・相模川景観域 ○ 湘南景観域 ○ 多摩丘陵景観域 ○ 三浦半島景観域 ○ 東京湾岸景観域 ○ 景観軸 (みなと軸、なぎさ軸、多摩川軸、相模川軸、酒匂川軸、多摩三浦丘陵軸)    2 景観域及び景観軸の基本方向 景観域及び景観軸の景観づくりに関する基本方向の骨子を以下のとおりとし、市町村の景観形成目標の設定に当たって参照され、広域的な景観づくりに資することを目的とする。   (1) やまなみ・酒匂川景観域 ○ 山のみどりの保全 ○ 地域資源を活かした観光拠点の景観形成    (2) 丹沢山麓景観域   ○ 里地里山の保全   ○ 土地利用の整序による景観形成    (3) 相模原台地・相模川景観域 ○ 水とみどりが調和した景観の保全 ○ 住宅地の景観形成    (4) 湘南景観域   ○ 良好な風致景観の保全   ○ 拠点都市の景観形成   (5) 多摩丘陵景観域   ○ 大規模緑地などの保全   ○ 既成市街地の特性を活かした景観形成    (6) 三浦半島景観域   ○ 歴史的風土や大規模緑地などの保全   ○ 丘陵部の農地や入江に面したまちなみの景観形成    (7) 東京湾岸景観域   ○ 魅力的な水辺景観の創造   ○ 歴史を活かした都市空間の創出や中心市街地の景観形成   (8) 景観軸     ○ 豊かな自然環境と都市機能の調和      ○ 周辺地域のまちづくりとの連携  第5 県の公共施設及びその周辺の空間における景観づくりに関する事項  1 公共施設の整備及び管理のあり方  公共施設は安全で快適な生活を確保するための基盤であり、周辺の景観に与える影響も大きいことから、公共施設の整備及び管理に当たっては、次の事項を踏まえ、地域の景観づくりとの調和に配慮するよう努める。   (1) 景観的配慮の原則化   景観への配慮を、特別なグレードアップとして実施するのではなく、事業実施の際のよるべき原則のひとつとする。   (2) 先導的役割   地域の骨格となる軸や拠点として、公共空間の質の向上を図り、周辺の景観づくりの先導的役割を果たすものとする。 (3) 地域の特性を重視   自然的特性に加え、その地域の成り立ちや風土など社会的特性を把握し、地域の特性を活かした景観づくりを行う。 (4) 長期有効活用   良質なものをつくり、長く使うという意識のもと、ストックの長期有効活用を踏まえた整備及び管理を行う。 (5) 時の経過を考慮   公共施設は長期間にわたり、その場所に存在し利用されていくことから、時の経過を考慮し素材やデザインの工夫を行う。    2 市町村景観計画への対応 (1) 市町村景観計画との連携   地域主体の景観づくりに向け、広域的な景観づくりに影響を与える施設については、その整備及び管理において市町村景観計画との連携に努める。 (2) 景観重要公共施設などへの対応   市町村の景観計画において、県が管理する公共施設が景観重要公共施設や景観重要建造物などに指定される場合には、施設本来の機能との整合を図るとともに、施設管理の面や将来の利活用の視点を考慮しながら適切に対応する。    3 景観づくりに関する手引書などの整備 (1) 実務者向け手引書の作成   公共空間における景観づくりや景観法活用に関する、実務者向けの手引書を整備するとともに、その適用や運用について継続的に検討する。 (2) 屋外広告物の手引書の作成など   屋外広告物に関する実務者向けの手引書を整備するとともに、景観域や景観軸の基本方向を踏まえるなど、地域特性に応じた公共空間における良好な広告景観の形成に向けた取組みを進める。   第6 その他景観づくりに関する施策を総合的、計画的かつ広域的に推進するために必要な事項  1 県の体制の整備  景観づくりを総合的かつ計画的に推進するために、庁内の調整会議を充実し、関係部局相互の連携強化を図る。  2 基本方針の見直し  社会経済情勢の変化及び景観づくりを取り巻く環境の変化に迅速かつ柔軟に対応するために、定期的に基本方針を検証し必要に応じ見直しを行う。  見直しに当たっては、広報広聴手段を活用するなど県民意識を把握するとともに、国、市町村などとの調整を行う。