(19ページ) (2) 精神障がいにも対応した地域包括ケアシステムの構築  <現状及びこれまでの取組> ○ わが国の精神疾患の患者数は急激な増加が続いており、厚生労働省の平成29年患者調査によると、全国の総患者数は約426万人となっています。 ○ 本県の総患者数は、平成29年患者調査によると約37万人であり、平成20年の同調査時の約18万人と比べ、大幅に増加しています。 ○ 総患者数のうち入院患者の数は、全国的に減少傾向にありますが、県内の精神病床における入院期間1年以上の患者数は、令和2年6月末時点で6,439人となり、前年同時期から22人増加しています。このうち65歳以上の割合は大きく増加しており、半数超の3,545人が65歳以上となっています。 ○ 精神障がい者が、ライフステージに応じて自ら住まいの場を選択し、地域でその人らしく暮らすことができるようにするには、精神科医療の提供体制の整備等とともに、精神障がい者の地域生活を支援するための仕組みの構築が必要です。 ○ 県では、「精神障がいにも対応した地域包括ケアシステム」の構築に向け、精神保健福祉に関する地域の拠点である保健所の機能を活用して、障がい保健福祉圏域ごとに保健・医療・福祉関係者による協議の場を設置し、長期入院患者の退院に向けた個別ケースの検討や事例検討会の実施により、課題等の検討、情報共有などを行ってきました。 ○ また、入院患者の中には、症状が落ち着いても、地域で暮らすための受け皿となる社会資源の不足や、地域生活に必要な条件が整わないことなどから退院することが難しい人がいます。 ○ 県では、こうした方が地域生活に移行できるように、精神障がいに対応した障害福祉サービス等の従事者の養成や、障害福祉サービス等の実施主体である市町村と連携し、精神障がい者を対象としたグループホームの充実等に取り組んできました。 ○ また、保健所が中心となり、措置入院者の退院に向けた支援の調整を行ってきたほか、精神障がいの当事者であるピアサポーター*14の養成や、ピアサ (20ページ) ポーターによる長期入院患者への地域生活移行に向けた働きかけ等を実施してきました。 <取組による成果> ○ 第5期計画では、令和元年6月末の入院者の入院後3か月時点の退院率を69%、6か月時点の退院率を84%、1年時点の退院率を90%にするという成果目標を掲げて取組を推進してきましたが、3か月時点の退院率の実績は54.9%、6か月時点の退院率は81.6%、1年時点の退院率は90.4%となり、入院後3か月時点及び6か月時点で目標を達成できませんでした。 ○ また、令和2年6月末時点の1年以上の長期入院患者数を5,594人(65歳以上2,926人、65歳未満2,668人)にするという成果目標については、令和2年6月末時点の実績が、6,439人(65歳以上3,545人、65歳未満2,894人)となり、目標を達成できませんでした。 ○ 一方、「精神障がいにも対応した地域包括ケアシステム」の構築に向けた保健・医療・福祉関係者による協議の場を、県及び市(政令市を除く。)が設置する保健所にそれぞれ設置するという成果目標については、平成30年度末までに全ての保健所に設置し、目標を達成しました。   <課題> ○ 入院中の精神障がい者の地域生活への移行をさらに進めるためには、市町村を含めた、保健・医療・福祉の連携支援体制の強化を図り、よりきめ細かい支援の提供に向けて、「精神障がいにも対応した地域包括ケアシステム」の構築を進めていく必要があります。 〇 また、長期入院患者のうち65歳以上の割合が増加していることから、障がい分野と介護分野の連携が重要になっています。 ○ さらに、地域において精神障がいや精神障がい者に関する理解の促進を図るとともに、関係機関の支援力の向上を目的とした取組等を強化する必要があります。 ○ 入院患者の退院促進については、入院後の早い段階から個別のケースに応じた退院支援を行うとともに、入院患者の傾向等を踏まえた支援を実施して (21ページ) いく必要があります。併せて、保健所が実施している措置入院患者等に対する退院後支援の利用率を向上させていく必要があります。 ○ さらに、ホームヘルプサービスや施設等で提供される生活介護、住まいの場であるグループホームなどの整備促進など、退院後の地域生活を定着させるための支援も重要です。 〇 国の基本方針においては、地域における精神保健医療福祉体制の基盤整備状況を評価する指標として、新たに「精神障がい者の精神病床から退院後1年以内の地域における平均生活日数」に係る成果目標を設定することとされています。   なお、厚生労働省の調査によると、平成30年度に精神病床を退院した患者の退院後1年以内の地域における平均生活日数の実績は330日で、全国平均の326日を上回っています。   <成果目標>  国の基本指針及び本県の現状、課題等を踏まえ、次のとおり成果目標を設定します。 ア 精神障がい者の精神病床から退院後1年以内の地域における平均生活日数 成果目標 退院後1年以内の地域における平均生活日数 平成30年度実績 330日 令和5年度の目標 330日以上 イ 精神病床における1年以上の長期入院患者数 成果目標 令和5年度における1年以上の長期入院患者数 令和2年度実績 6,439人 令和5年度の目標 5,197人 内訳 65歳以上 令和2年度実績 3,545人 令和5年度の目標 3,026人 65歳未満 令和2年度実績 2,894人 令和5年度の目標 2,171人 (22ページ) ウ 精神病床における早期退院率 成果目標 令和2年度実績 令和5年度の目標 入院後3か月時点の退院率 54.9% 69%以上 入院後6か月時点の退院率 81.6%  86%以上 入院後1年時点の退院率 90.4% 92%以上   エ 市町村における「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」に向けた保健・医療・福祉関係者による協議の場の設置 成果目標 関係者による協議の場を設置している市町村数 令和2年度実績 20市町村 令和5年度の目標 全ての市町村(33市町村)に設置 <目標達成のための方策>  成果目標の達成に向けて、次のような方策を実施します。   (精神科医療体制の整備) ○ 精神疾患の急な発症や精神症状の悪化により、早急に精神科医療が必要な場合に、外来や入院治療に対応する精神科救急医療体制を整備し、精神障がい者本人や家族等の相談に応じ、必要に応じて医療機関につなげたり、精神保健福祉法に基づく診察等を行います。 ○ 多種多様な精神疾患に対応するため、児童・思春期精神疾患、アルコール・薬物・ギャンブル等依存症、てんかん等の専門医療を提供できる医療機関を明確化し、地域の医療機関と相談機関の連携を推進します。 (措置入院者等の退院後支援) ○ 「神奈川県措置入院者等の退院後支援ガイドライン」に基づき、措置入院等で入院した精神障がい者に対して、退院後に社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な医療等の支援を適切かつ円滑に受けることができるよう、本人の同意を得た上で、退院後支援計画*15を策定し、計画に基づいて退院後の切れ目のない支援の充実を図ります。   (23ページ) (相談支援体制の整備) ○ 精神障がい者が身近な地域で必要な支援を受けられるよう相談支援体制の充実を図ります。 ○ 精神障がい者を対象とした専門医による相談及び訪問指導、福祉職、保健師による随時の相談を行い、関係機関と連携することで地域での生活を支援します。 (精神障がい者の地域生活移行を支える人材の育成) ○ 精神障がい者の地域生活移行を支える精神科病院、障害福祉サービス事業所、介護保険サービス事業所等の職員について、人材育成や連携体制の構築を図ります。 ○ 当事者の目線に立った支援が重要であることから、精神障がいの当事者であるピアサポーター*14を養成していきます。 (ピアサポーター*14による支援) ○ 長期入院患者の地域生活移行を促進するため、ピアサポーターによる病院訪問等を実施し、退院意欲喚起、退院に向けた個別支援、退院後の地域定着に向けた支援などを行います。感染症等のまん延時や災害時においても継続的にピアサポーターが活動できるよう、持続可能な仕組みづくりを行います。また、病院職員や支援関係者、地域住民等に対する普及啓発を充実させます。 (障害福祉サービス等の基盤整備) ○ 退院後の住居の確保に係る支援など、長期入院患者の地域生活への移行に向けて必要な支援を行う地域相談支援(地域移行支援・地域定着支援)等の提供体制を、市町村と連携して計画的に整備していきます。 (精神障がいにも対応した地域包括ケアシステム) ○ 「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」について、保健・医療・福祉関係者による「協議の場」を活用し、ピアサポーターなど当事者の参画を進めながら、長期入院患者の状況把握や地域課題の共有を行うほか、市町村の障がい福祉主管課等と医療機関との連携を支援するなど、支援体制づくりを進めます。 (24ページ) ○ 精神障がい者の地域生活への移行に関する保健・医療・福祉の相互理解を促進するため、市町村職員や障害福祉サービス従事者、病院関係者等を対象にした研修を実施します。また、地域住民等を対象に、精神障がい者や精神障がいに対する理解を深めるための取組を行います。 ○ 全ての市町村に「協議の場」が設置されることを目指し、市町村における関係者との連携体制づくりを支援するとともに、保健所等が設置した「協議の場」との役割分担を図りつつ、関係機関が連携して、精神障がい者の地域生活を支援していきます。 (依存症対策の推進) ○ アルコール、薬物及びギャンブル等の依存症は誰でもなる可能性があり、また、適切な治療や支援を受けることで回復が可能であるにもかかわらず、周囲の誤解や偏見から支援につながらない実態があることから、依存症についての正しい知識の普及啓発を進め、発症の防止や早期発見、早期治療の取組を進めます。また、依存症の発症防止から相談、治療、回復に向けた切れ目のない支援体制の構築を進めるための検討を行います。