参考資料 (表紙) 中井やまゆり園元利用者の死亡事案に係る検証チーム中間報告書 令和6年12月10日 中井やまゆり園元利用者の死亡事案に係る検証チーム (目次) T 検証の概要 1 経緯1ページ 2 メンバー1ページ 3 開催状況2ページ   U 検証結果 1 検証の趣旨3ページ 2 元利用者と家族への対応の経過(園での支援を中心に)3ページ 3 検証の視点6ページ 4 これまでの検証チームの議論7ページ 5 検証結果中間取りまとめ11ページ 6 今後の対応15ページ T 検証の概要 1 経緯 県立中井やまゆり園の短期入所等を利用していた男性(以下「元利用者」という。)が、令和6年7月4日に、転居先の千葉県長生村で死亡する事案(以下「本事案」という。)が発生した。 本事案について、県では、関係する支援機関とともに、転居前の生活や支援状況を振り返り、地域での生活を支えるために必要な支援について、第三者の御意見もいただきながら検証を行うため、「中井やまゆり園元利用者の死亡事案に係る検証チーム」(以下「検証チーム」という。)を令和6年8月23日に立ち上げた。 8月27日に第1回、9月12日に第2回、10月28日に第3回の検証チーム会議を開催し、本事案に関する検証を行い、このたび検証の中間報告書を取りまとめた (注1)本報告書の内容については、家族の了解を得た上で公表しています。 (注2)関係機関の名称についても、一部を除き、各機関了承の上、記載しています。 2 メンバー 学識経験者(第三者)國學院大学 佐藤彰一名誉教授 支給決定自治体小田原市福祉健康部障がい福祉課 相談支援事業所(社福)永耕会相談支援センターういず 短期入所事業所(事業所名非公表) 県福祉子どもみらい局福祉部障害サービス課、中井やまゆり園 ※以下、小田原市福祉健康部障がい福祉課は「市」、(社福)永耕会相談支援センターういずは「ういず」、短期入所事業所は「短期事業所」、福祉子どもみらい局福祉部障害サービス課は「県本庁」、中井やまゆり園は「園」と表記する。 3 開催状況 (2ページ) 第1回開催日 令和6年8月27日(火) 議題 検証チームの進め方、支援機関ごとの検証、次回の会議に向けて 第2回開催日 令和6年9月12日(木) 議題 検証チームの進め方、支援機関ごとの検証、支援機関の連携についての検証、制度や仕組みの検証 第3回開催日 令和6年10月28日(月) 議題 中井やまゆり園元利用者の死亡事案に係る検証チーム中間報告書(案)について、今後の検証について (3ページ) U 検証結果 1 検証の趣旨 元利用者(及びその家族とは、園が平成10年から一時利用という形で関わりを開始し、平成16年には長期入所を受け入れ、退所後も再び短期入所で関わるなど、20年以上にわたって関わりを続けていたが、本事案の発生を防ぐことができなかった。 また、元利用者及び家族には、園だけでなく、様々な関係機関が関わっており、随所で家族からのSOSが発信されていたにもかかわらず、結果的に最悪の事態を招くこととなった。 このことを受けて、元利用者のような重度の知的障害者を地域でどのように支えるべきなのか検討し、今後同様の事案の発生を防ぐために、今回検証チームを立ち上げ、各機関が振り返りを行うこととした。   2 元利用者と家族への対応の経過(園での支援を中心に) 昭和57年、3歳の時、言葉が出ないためこども医療センターを受診。 昭和61年から平成10年まで小田原養護学校に通う。 平成10年4月、養護学校卒業後、生活介護事業所へ通所。その後、精神科病院で多動性障害と診断。 平成10年10月、家族の冠婚葬祭等の理由で、園を一時利用。 利用時に「服を脱いで、水につける。全裸になることがある」との記録あり。 当時から家族は「将来は兄弟で施設利用を考えている」と話していた。 以降、家族の冠婚葬祭やレスパイト等の理由で、園を不定期に一時利用。 平成12年、生活介護事業所に週5日通所。 小田原駅までは両親のどちらかが送っており父の場合は車、母の場合は電車を使っている。 迎えは父の場合が多い。 「家の中ではテレビを見ていることが多い。 休みの日は、散歩を兼ねて外出(わんぱくランド、いこいの森、21世紀の森等)することが多くあまり家にはいない。 送迎などで電車を利用する場合、中吊り広告をとってしまったり、駅に置いてあるパンフレットを持ってきてしまうことがある」との様子。 平成13年9月、父が高血圧で静養のため、同年11月、知的障害のある兄の怪我の看護のため園を一時利用など。 平成15年10月から12月、本人の行動を父が抑えられない等の理由で、園において集中療育を受け、園診療所と精神科病院と情報共有し服薬調整を行う。 集中療育中に、首のねじれが目立つ、首の曲がりがひどくなる、排尿障害の出現、上半身の傾き、腰が曲がってしまうなどの状態の変化。 (4ページ)   平成16年1月、兄弟の体重が減少。 父が兄弟の介護を一人で行っていることが原因である可能性があるとし、また、精神科に定期的に通院していない状況も踏まえ、同年7月、関係機関の働きかけにより園に長期入所。 園に長期入所の間、本人の抗精神科薬による遅発性ジストネアの可能性のある捻転姿勢及び精神科薬の調整について園診療所と精神科病院等との間で、情報共有がなされ、医療面での対応を行った。 平成16年10月、園に入所中に本人の体重が落ちたことなどから家族より退所の相談があり、その後、家族から、「病状も治りそうもなく、あとどれくらい一緒に入れるか分からない、本人を家庭で見たい」との理由から、平成17年4月、園を退所。 退所後、園職員等が家庭訪問した際、体重は減少、身体機能の低下が見られ、立つことのできない状態に。 平成17年5月から、園において主に週一回の日帰り短期入所を中心に継続。 平成18年1月、園の日帰り短期入所の際、本人の首に絞められた跡を発見し、小田原市へ報告。 小田原市は、父親から「本人が眠らない日が続き、ついやってしまった」と状況を確認した。 平成19年11月から、園の日中の日帰り短期利用でなく、隔週で宿泊短期入所を実施。 平成20年から、園と短期事業所の定期的な短期利用を開始。 平成25年5月、園の短期入所利用時、本人の左腕、左足にアザを確認。 小田原市に通報。 家では父がほぼ対応しており、睡眠不足。 平日の通所先の希望あり。 関係機関で、今後入所に向けて検討していくことを確認するとともに、施設の短期入所中の様子として、自傷(耳と額)、トイレで服を脱いで便器に詰め込む、服を脱いでしまい、裸で過ごすことが多い、睡眠リズムが不安定であることを共有。 平成27年5月、9月、父からの10日間の園の短期入所の依頼に対応。 入所時の様子として「裸で過ごすことはあるが、他利用者にあまり干渉されない環境のためか、以前と比べ、表情が豊かでのびのび過ごしている」との記録あり。    (5ページ) 平成29年5月、平日の通所先で週一回の体験を開始したが、継続できなかった。 同年6月、両下肢機能の著しい障害のため身体障害者手帳交付。 平成31年1月、父から「そろそろ無理だと思っている」、「精神的に持たない」との話あり、関係機関で、園を含めた近隣施設に入所申込を行う方向で確認。 令和2年4月からコロナ禍により園の短期入所を中止(同年11月まで)。 令和2年10月、「9月頃からイライラしどうしで、TVを今年に入り4台だめにして、外には出て行ってしまい警察に2回保護されたり夜は寝ず、寝ないのが一番辛い」といった理由により園に入所申込。 同年11月、父母が本人の対応に疲弊しており、手を上げてしまうこともあることを関係機関で共有。 同年12月から月1回の短期入所再開。 令和3年9月、家族でドライブ中に、食べ物を詰まらせ、7月から入院加療中であった兄が死亡。 同年10月、「兄がいなくなっても、本人の大変さは変わらない。短期入所の利用をコロナ前の月二回にしてもらえないか」と話があり、同年11月から月二回(一泊二日)の利用再開(令和6年5月まで実施)。 令和4年3月、全裸になる、放尿、放便、大声を出すなど家庭での問題行動が顕著になり精神科病院へ1ヵ月入院。 令和5年4月、ういずから「父から『そろそろ限界だ、入所できる施設を探して欲しい』と話があり、園の状況を確認したい」と連絡がある。 園は虐待等不適切な支援の改善中のため新規入所は停止中であることを理由に入所を現在受けていないと説明。 同年5月に父からも同様の話がある。 以降、ういずが他の県立施設を含めた入所先を探す。 令和5年6月から7月、「眠剤が新たに処方されたものの、本人眠らない」といった本人の家庭生活の状況から、服薬調整と父のレスパイトのため精神科病院へ入院。 令和5年9月、短期入所のため、来園の際、本人の体温が37℃以上のため、短期入所は受け入れられないと説明(同年8月には、同様の対応有。当時、猛暑であったが、車内でクーラーが使えず父が困っていた。体温の上昇をその影響からも検討し、本人をクーリングケアするなどの対応はなかった)。 来園当初から疲れた様子が見られ、イライラした様子があった父が本人の頬をはたいてしまった。 小田原市に状況を報告。 母の持病が悪化し、父の負担が増えていること、父は、県内の施設での入所が出来なければ、田舎(ゆっくりでき、本人が荒れても大丈夫な場所)への引っ越しを考えていることを関係機関で共有。 (6ページ) 令和5年10月、精神科病院への入院を希望するが断られる。 園に短期入所中の様子として「顎を自ら掻き壊して出血していたり、衣類の着脱を繰り返すなど落ち着かず。提供したおやつも全て吐き出してしまう為、途中で中止する。その際、持参されたアンパンマンのキーボードも投げる行為あり。他利用者が怪我する可能もあるので回収する。しばらく上半身裸の状態で過ごして頂く」という記録あり。 令和6年2月、グループホームへ体験入居をしたが、受入れに至らず。 令和6年5月、園を短期利用中、本人が顎をひっかき、受診の必要性もあるほど出血がひどく、本人の状態は悪かったが、父に早めに迎えに来るよう依頼。 同年5月30日で園の利用終了。 3 検証の視点 検証の趣旨を踏まえ、県内の支援機関とともに、次の視点から検証を行った。 (1)支援機関ごとの検証 ・本人や家族の希望や生きづらさを把握できていたか。 ・本人や家族と信頼関係を築き、悩みなどに寄り添った対応ができていたか。 ・家族の高齢化や体調不良、介護疲れ、さらに、本人の家庭生活のリスク(虐待リスク)など、本人や家族の助けを求める声に、どれほど危機意識を持っていたか。 ・本人、家族に対して、どうアプローチしていたか。 また、それをどのように共有したり、継続してモニタリングできる仕組みを作っていたか。 ・本人の身体機能や健康を守り、在宅生活を支えるための医療機関の受診や服薬管理等、適切な医療に繋げられていたか。 ・入所申込みにあたって適切に対応できていたか(過去入所していた園では、なぜ令和2年に入所に至らなかったのか)。 ・転居先への引き継ぎは十分だったか。 (7ページ)  (2)支援機関の連携についての検証 ・本人の辛さを見ておらず、本人の辛さへの認識はなかったのではないか。 ・家族の疲弊や辛さは認識していたが、本人の家庭生活のリスクがあるとの認識があるにもかかわらず対応方針に一貫性がなく、関係機関で支援方針が共有できていなかったのではないか。 ・転居後の生活状況の確認など、転居後の対応はできていたか。 ・各機関の制度上の枠を超えて、本人や家族のいのちに係るつらさを共有し支援することができなかったのはなぜか。 (3)制度や仕組みの検証 ・相談支援事業所だけで抱えない仕組み ・長期入所(入所調整や入所判断など)のあり方 ・短期入所のあり方 4 これまでの検証チームの議論  (1) 支援機関ごとの検証     【検証結果の主な内容】 <園・県本庁> ・本人の生き辛さや人生を理解しようせず、ケースワークの視点を持った支援がなく、親身になって本人に寄り添う職員がいなかった。 ・短期入所や長期入所を家族が求めた際の機械的な対応が、家族を追い詰め、家族が将来に希望を持てなくなってしまった。 ・県本庁は、 方針は示すが、施設入所を待機する方への対応についてなんら関与しなかった。 ・いのちに係ることが想定される重要な問題として、組織でしっかりと共有し対応することができなかった。 <短期事業所> ・短期入所以外のサービス利用を提案する余裕はなかった。 ・父親の本人への行為は、継続的に行われたものではないという認識で、親子を引き離すまでの危機感はなかった。 <ういず> ・家族の介護疲れから来る本人の家庭生活のリスクに対し、虐待事案との認識はあったが、関係機関が同じ意識、目線を持てていなかった。 ・転居先の基幹相談支援センターからは、計画を作り、サービスを組み立てていくということだったので、特に関与しなかったが、その後の状況を確認すべきだった。 (8ページ) <市> ・過去、関係者でケース会議を実施し、本人への虐待のリスクに気付くようにしていくことを共有していたが、そうした対応が関係者内でどのように引き継がれていったのかは不明である。 ・市に対する、本人の行動障害の強さや家族の介護負担、本人へ虐待のリスクなどの報告がある中、施設入所やグループホームを目指していても、つながらない状況下で、地域のネットワークで活用できるものがないか計画相談や基幹相談と協議する必要があった。 <園・県本庁> ・本人が歩んできた人生を理解しようとせず、本人の希望や生きづらさを理解することができなかった。 ・長期入所後に体重が減少したことに十分なフォローアップをせず、また、短期利用時に、裸で過ごすといった行動や自傷により怪我を負っている状況を漫然と放置しているような対応に対して、ネグレクト(虐待)に当たるという意識や認識が職員になかった。 ・園が元利用者と関わってから、ケースワークの視点を持った支援や、親身になって家族に寄り添う職員がおらず、組織としてもその重要性を共有し、職員に適切な関わり方を指示しなかった。 ・虐待事案等の改善のため新規入所受入れを停止すると判断した際に、短期入所だけでなく、通所を受け入れるなど、日中活動の支援をするなど元利用者をはじめ、在宅で生活している方への支援について、園としてどう対応していくのか検討していなかった。 ・短期入所や長期入所を家族が求めた際の機械的な対応が、家族を追い詰め、家族が将来に希望を持てなくなってしまった。 ・父親との関わりの中で「手を上げることはあっても本人への想いは強い。顕著な暴力を振るうような父ではない」との認識があり、本質的な家族の苦しみまで踏み込んで対応することができなかった。 ・千葉県への転居後、生活状況の確認など対応をしなかった。 ・県本庁は、方針は示すが、施設入所を待機する方への対応についてなんら関与しなかった。    <短期事業所> ・生活全般に支援が必要との認識はあったが、当事業所で日中の受け入れを行うなど、短期入所以外のサービス利用を提案する余裕はなかった。 (9ページ)   ・本人の意思に反して短期入所を利用させられていた可能性はあるが、当事業所に来れば、本人はゆっくり過ごせていた。 ・父親の本人への行為は、継続的に行われたものではないという認識で、本人の家庭生活のリスク(虐待リスク)に対する認識はあったが、親子を引き離すまでの危機感はなかった。    <ういず> ・家族と家で過ごしたい本人の希望も念頭におき、在宅サービスの提案を行い、通所先の見学や体験に向けた調整を行っていたが、利用につながらなかった。 ・相談員の立場として、家族の介護疲れから来る本人の家庭生活のリスクに対する認識はあったが、関係機関が同じ意識、目線を持てていなかった。 ・入所候補者として受け入れてくれる施設も見つからないまま、見学先ばかりが増えることで、本人のストレスは高まり、両親も疲弊していた ・転居時には関係機関に必要な情報を伝え、引継ぎを行った。 転居先の基幹相談支援センターからは、転居後は、センターが見つかり、計画を作り、サービスを組み立てていくということだったので、特に関与しなかったが、その後の状況を確認すべきだった。     <市> ・市に対する報告は、本人の行動障害の強さや家族の介護負担、本人の家庭生活のリスクであり、本人の強みや好んで行うこと、穏やかに過ごせるタイミング等、本人のことを理解するための情報は集まりにくい状況にあった。 ・過去、関係者でケース会議を実施し、不自然な傷を確認した際には市に連絡することを確認しており、本人の家庭生活のリスクに気付くようにしていくことを共有していたが、そうした対応が関係者内でどのように引き継がれていったのかは不明である。 ・施設入所やグループホームを目指していても、つながらない状況下で、地域のネットワークで活用できるものがないか計画相談や基幹相談と協議する必要があった。 (10ページ) (2) 支援機関の連携についての検証 【検証結果の 主な内容 】 ・本人の行動だけに着目し、生き辛さを理解、共感し、本人と家族の暮らしを支えていくという認識で支援機関が十分に連携していなかった。 ・家族の介護疲れなど家庭で生活する本人のリスク(虐待リスク)を含めて、本人の在宅での支援に向けて支援機関が十分に連携していなかった。 ・本人の生き辛さを見ていない、十分に把握できていない。 ・家庭での本人のリスク(虐待リスク)に対する認識を持って将来の施設入所先の確保に動きつつ、在宅生活を支えるための日中の通所先や移動支援の導入を検討した。 しかし、日中の通所先としての生活介護事業所では対応することが難しい等の理由で、2か月程度で利用を終了した。 また、移動支援については、事業所と契約をするも、利用開始には至らなかった。 その他のサービスについても利用にはつながらず、なぜ在宅支援が実現しなかったのか、検討課題は残っている ・県内どの地域にも、地域生活支援拠点があるが、緊急時に相談を受け、手を差し伸べることができていなかった。 (3) 制度や仕組みの検証 【検証結果の主な内容 】 ・短期入所は、一般的な利用と同様に制度上の月 15 日以内と支給決定するなど、本人の家庭生活上のリスクを考慮できておらず、地域生活の支援として十分に機能していなかった。 ・家族の高齢化や体調不良、介護疲れや本人の家庭生活のリスク虐待リスク)に対し、自立支援協議会や地域生活支援拠点の動きにつながらなかった。  <短期入所> ・施設支援の現場では、個別支援計画が必要とされないとなると、担当職員も付かないということになり、短期入所の場合には、本人のことを考える中心となる職員がいない状況になっている。 短期入所について、個別支援計画の作成が必要でない理由を確認する必要がある。 (11ページ) ・施設から地域へという流れの中で、短期入所の利用日数の制限が、在宅生活を支える上で、本人と家族、地域の関係機関の状況に応じた柔軟な支援の妨げとなっている。   <地域生活支援拠点等> ・市の地域生活支援拠点は「療育手帳を所持しているが、サービス利用につながっていない方」を対象に、緊急時の受け入れ等をしており、元利用者は該当しなかったため、利用対象に挙がらなかった。 ・家族の高齢化や体調不良、介護疲れなど本人の家庭生活のリスクがある、精神科病院への入退院を繰り返していた本事案を緊急に対応が必要なケースとして、地域生活支援拠点の対象にするといった検討が必要ではないか。 ・行動障害が強い本人を支えることができる第一候補が園だと断定的に考えるべきではなく、園も含めた地域の社会資源の中で、自立支援協議会、地域生活支援拠点、施設及び精神科病院の役割も検証しながら、地域で支えるためにどうすればよいか考える必要がある。 5 検証結果中間取りまとめ 検証の視点を踏まえ、第1回から第3回の検証チーム会議を開催し議論した結果、中間取りまとめとして、次のとおり整理した。 (1)考察 本人と家族との関わりの中では、各機関とも、その当時の制度に従って対応を行いつつ、この家族に日中サービス等の導入を働きかけていたが、本人の意思決定や家族の意向、地域の資源不足によりサービスにつなぐことができず対応に苦慮していたことが窺われる。 今回の中間報告書では十分に検証しきれていない事項も多く、最終報告書までに検討を深め、課題点等をさらに議論し、本検証の趣旨である同様の事案を二度と起こさないために必要な取組を明らかにする。   (12ページ) (2)同様の事案の発生を防ぐための各論点 ア 在宅支援(短期入所を含めた地域生活支援) 【課題点等】 ・本人の地域生活のために必要な取組は何か ・本人の地域生活支援のために短期入所はどうあるべきか 短期入所を除くと、日中サービスにつながっておらず、日中の活動先がないことが、家族を追い詰めた可能性もあり、その点も検証し、課題を検討する必要がある。 元利用者は、平成15年から園の短期入所の利用を開始し、平成20年からは、短期事業所の短期入所の利用も開始したが、園では、短期入所者への対応として、個別支援計画の策定が必要ないことから、策定されていなかった。 また、ケース担当の職員が設定されておらず、園全体として、本人及び家族の地域生活について共有・検討する機会がなく、主体性が生じなかった。 また、短期事業所においても、2泊3日を何とか安全に過ごしてもらうという考えで、父親が悩んでいるとの話も聞いていたものの、積極的に話を聞くことはしていなかった、といった課題が明らかとなった。 短期入所については、上記の課題のほかにも、利用日数に上限があるといった制度面の課題もあり、短期入所を使いやすくするような制度面での対応や、短期入所を利用する際も、個別支援計画を策定、ケース担当職員を設定するなど、長期入所者同様の個別アセスメントを行い、単なる一時預かり、家族のレスパイトという面を超えた対応の必要性を関係機関が認識し、今後の短期入所のあり方を検討すべきである。    イ 施設入所支援 【課題点等】 ・施設入所支援の公正な判断に必要な取組は何か ・県立施設が連携して果たすべき役割は何か  施設入所支援について、園での支援、施設での暮らしに関して本人がどのように感じていたのかを検証し、本人と一緒に希望する暮らしや将来の生活について検討し、可能性や選択肢を提案しながら支援していくといった、本人の意思決定支援の課題を検討する必要がある。 (13ページ) 関係機関は暮らしや生活の選択肢を、本人と家族と一緒に検討し支えてきたが、本人の意思決定や家族の意向による施設入所が実現しなかったことが、結果的に本人と家族に負担感を抱かせなかったか、今後確認する必要がある。 元利用者は、令和2年に園に入所申込みを行っているが、園では入所の必要性について具体的な議論を行った形跡がなく、どういった理由から入所に至らなかったのか確認ができない。 令和4年度から、園は現利用者への虐待事案等の支援改善のため新規入所を停止した。 家族は他の県立施設に入所申込みを行っているが、入所には至っておらず、元利用者のように、家族の高齢化や体調不良、介護疲れなど本人の家庭生活のリスクがあり、入所の必要性が高いと思われる方に対する県立施設の入所選考のあり方、連携した取組について、検討する必要がある。 ※ 入所待機者の課題について、現在での県の対応 ・令和6年7月25日、県立施設の法人理事長、各園施設長と臨時の施設長会議を開催)し、元利用者の事案について共有 ・8月6日、13日、施設長会議、9月4日に県立施設支援部長会議を開催し、各県立施設において同様の事案が起こっていないか検証するため、入所待機者の状況の把握及び緊急介入の必要な方の状況について確認。 結果、早期介入の必要に迫られている方は確認できなかったが、各県立施設の課題と対応の徹底に関して以下について確認 @リスクが高まる可能性を踏まえて、各園が現況について主体的に把握し、係属機関がなければ家庭訪問するなどし、当事者のSOSを取りこぼさないようにすること。 Aリスクが高まった場合を想定した関係機関の役割分担についてすり合わせを行うこと。 B入所相談の対応にあたっては適切に対応し、組織として入所の受入れ可否の判断を行うこと。 受入れが困難な場合には、受入れ困難のみで終わらせずに継続的に相談に乗ったり、他機関へつなぐ等すること。 ・なお、緊急性の判断においては、行先がなく関係機関ともつながっていないなどの命の危険のあるケースと、居所はあるが次の居場所の検討が迫られているケースがあり、各園で連携して検討が必要な場合には、カンファレンスの場を設定していく。 (14ページ) ウ 家族への支援 【課題点等】 ・家庭での家族の介護に対し必要な取組は何か ・施設はレスパイトケアの受入れをするだけでなく、家族に対してどのような支援が求められるか 家族は短期入所のレスパイトを使いながら在宅で支援を行っていたが、本人の介護に疲弊している家庭に対し、外部からの支援がなかった。 在宅で支援するのであれば、訪問介護等家庭への外部からの支援が必要であった。 本人を支援している施設職員による、例えば、家庭に訪問して、在宅での家族の介護等に対して相談支援を行うなどのアウトリーチによる地域生活支援が必要ではなかったか。 入所相談を受けた施設は、単に施設入所受入れの可否を応答するだけでなく、例えば、日中活動に受け入れたり、他)の施設や地域の事業所に掛け合うなど、入所相談という家族からのSOSに対して、主体的に関わることが必要ではなかったか。 エ リスクのある家庭への緊急対応 【課題点等 】 ・リスクのある家庭を地域で支えるための取組は何か ・リスクのある本人の意思決定支援をどのように行うか   本人の在宅生活において家族から受けるリスク(虐待リスク)については、単に行為のみに着目して対応するのではなく、家族が追い詰められているという、家族からのSOSと認識すべきであったが、家族からのSOSと認識している機関は無く、地域において連携会議を開催して対応を協議する、一時的な本人の居場所を確保し分離を含めて検討する、措置として本人を保護するなどの緊急対応が必要であったが、それがなされず、関係機関のSOSに対する認識が甘かった。 (15ページ) 基幹相談や一般相談といった相談機関の連携で本事案のようなリスクがあるケースに対応するだけでなく、地域生活支援拠点の機能を充実させ、どのように障害者の地域生活を支えるのか、検討していく必要がある。 地域のみでは解決できない課題については、広域的な視点で県の方針を示すべきではないか。 リスクのある家庭に対しては、本人の意思決定や家族の意向を踏まえた上で、より安全面に配慮した対応が必要である。 こういったリスクに対し、関係機関が共通した認識を持つために、検討会、研修、ガイドラインの作成等を通じて、国や県が意思決定支援の認識を改める取組を推進する必要がある。 6 今後の対応 これまでの検証において、強い行動障害の状態にある重度の知的障害の方の地域生活を入所施設としてどのような支援をしてきたのか、また、何が出来て、何が十分でなかったのか、整理できていない面が多い。 これまでの検証では、家族の就労状況、身体の状況、他に頼れる親族の有無などが、元利用者の家庭での支援にどのような影響があったなど、整理できていない面が多い。 また、転居後の対応についても、引継ぎは適切だったのか、なぜ障害福祉サービスにつながっていなかったのかなど、確認する必要がある。 したがって、引き続き、入所施設での支援について検証を行うとともに、本中間報告後の対応として、家族に対するヒアリング調査や他の県立施設に対する入所調整の確認、転居先の長生村に対する引継ぎ時の対応、転居後のサービス利用状況、家族への支援の状況を確認するなど、本事案について、さらに検証を深めていきたい。 上記の確認等を踏まえ、最終報告書を取りまとめることとなるが、公表時期については、検証チームで議論の上、今後検討することとする。 以上