資料17 〇「愛名やまゆり園虐待事案に関する第三者委員会中間報告書」を受けての対応について 社会福祉法人かながわ共同会(以下「共同会」という。)が設置した第三者委員会が公表した、「愛名やまゆり園虐待事案に関する第三者委員会中間報告書」(以下「中間報告書」という。)を受けての県の対応等について報告する。   (1) これまでの経過 令和5年11月元職員による利用者の骨折事案が発生、共同会が県に改善計画(第1次)を提出 令和5年12月別職員による利用者の額をスプーンで叩く事案が発生 令和6年3月県が共同会に対して行政処分(新規入所者の受入停止6か月間)を実施 令和6年4月共同会が第三者委員会を設置、共同会が県に改善計画(第2次)を提出 令和6年6月元職員が、公判で「自分の部署では半数程度の職員が虐待に関わっている。」などと証言 令和6年9月第三者委員会が共同会に中間報告書を提出(30日) 令和6年10月第三者委員会が県へ虐待疑い事案38件を情報提供(4日)、県が関係自治体へ虐待通報(7、8日)、第三者委員会が中間報告書を公表(10日)、県及び共同会が支援改善チームを立ち上げ (2) 第三者委員会による中間報告書の要旨 第三者委員会がとりまとめた中間報告書の要旨は次のとおり。 ア 課題・問題点 (令和5年に発生した元職員による虐待行為の原因) ・本人の専門的支援力のなさに加え、怒りの感情をコントロールできない気質などに起因して発生した。 ・一部の先輩職員ら(全員が異動済み)の虐待行為が横行し、元職員を含む一部職員が模倣させられる形で虐待行為に加担した。 ・管理監督する職員らは、支援の実態等を何ら把握せず漫然と問題を放置し、結果として防ぎえた本件行為を防ぐことができなかった。 (愛名やまゆり園における他の虐待行為の存在) ・平成26、27年頃から令和4年度までの間に、一部職員らによる利用者に対する身体的、心理的並びに性的虐待を含む虐待行為が常態化していた。 ・過去の虐待行為の一部は、寮を管理監督する職員に対して報告されていたが、園として虐待行為に対する適切な対応はされていない。 ・法人幹部はそれらの事実について全く了知していなかった。 (愛名やまゆり園及び共同会の支援上並びに組織運営上の問題性) ・支援方法は、勤務歴の長い先輩職員の手法や方針が優先されがちで、支援の方針決定や改善施策は園任せであった。 ・現場職員の欠員が恒常化している。 ・職員によれば、現場は、「綱渡りの支援」の状況が続いている。 ・園管理職も、問題が発生しても責任を取るべき者が存在しない。 ・職員には「上に言っても無駄」という認識が蔓延している。 ・法人幹部の専門性は乏しく、現場の実態や問題点を把握する仕組みはなく職員が訴える現場の問題は放置されたままとなる。 ・職場に不満を持つ退職者が発生して経験を有する職員は減り、さらなる欠員が増えるという悪循環が発生している。 ・共同会には、根本的な組織の機能不全が認められると言わざるを得ず、抜本的なガバナンスの改善・再構築が不可欠である。 (愛名やまゆり園の設置主体たる神奈川県の責任) ・県は、愛名やまゆり園を設置する主体として責任は免れない。 ・愛名やまゆり園の個室化を達成せず放置している。 ・過去、県直営施設内で行われていた利用者への虐待、居室施錠、身体拘束等の事実に対して、その原因究明と抜本的な改善を自ら行ったとは言いがたく、県直営から指定管理に移行した際に引き継がれた現場での「不適切な支援」を放置した。 ・強度行動障害対策事業の総括をすることなく、事業を終了した。 ・県の無反省と責任回避の姿勢が現在の指定管理施設に悪影響を与えていないのかどうか、更なる検証が必要である。 イ 結語と改善提案 (ア)結語 ・個々の利用者に対して適切な支援が実施できるか、疑義があり、法人内の意思疎通ができていないので、改善するのは容易ではない。 ・虐待事例に真摯に向き合って来なかった。事実関係は不明、事実誤認だと主張し、声をあげようとする職員に対しては懲戒処分の威嚇まで行い、法人全体の意思疎通をはぐくむ努力をしなかった。 ・法人全体に隠蔽体質が蔓延しているというべきである。 (イ)改善提案 (現状の職員数に見合った利用者数にしていく) ・新規入所・短期入所の停止 ・利用者の他施設への移動促進 ・一部寮の閉鎖による欠員対策 (大規模施設支援の限界を乗り越え、職員のやる気を喚起するため、利用者の地域移行を推進する) ・将来的には、短期利用中心のセンター機能と、グループホームのバックアップ機関とする方向を志向すべき。 (法人の規模の縮小と法人運営の抜本的改革) ・抜本的な対策として法人規模の縮小は視野に入れるべき。 ・人事制度の改革は専門機関の支援を借りてでも行うべき。 ・県は、職員や利用者及び家族の不安を解消するためにも、早急に地方独立行政法人化の具体的なシナリオを公表すべき。     (相部屋の解消) ・4人部屋を早急に解消すべき。 (看護課との連携の改善) ・外部医師の協力や調整が不可欠である。 (利用者も支援者も生きがいをもてる良い支援の工夫を) ・虐待防止委員会等が機能していない。「良い支援の検討委員会」にする意識が必要である。 (研修の改革と法人全体の情報開示の必要性) ・現場に精通した外部有識者による研修が必要である。その前提に、現場の実情の情報開示が必須。また、法人の状況を職員に伝える必要がある。 (ウ)まとめ 上記に例示した改善策を実現することは容易なことではない。 しかし、共同会が真に改革を企図し、全ての利用者を守り、また利用者のためにあろうとする職員達を守っていくという意思があるのであれば、実現に向けて努力しなければならない課題であると考える。 (3)共同会の対応状況 ア 共同会による支援改善チームの立ち上げと改革実行プランの策定 共同会は、法人内に支援改善チームを新たに設置し、愛名やまゆり園(以下「園」という。)の改善に向けた取組を開始した。 第三者委員会の了承を得た上で、令和7年1月、「かながわ共同会法人改革・愛名改善等実行プラン」(以下「改革実行プラン」という。)を作成し、令和7年2月10日に県に提出した。 イ 改革実行プランの概要 改革実行プランは、@組織を変える、A意識を変える、B暮らしを変える、の3つの目標のもとに、中間報告書での指摘にすべて対応する計画となっており、進捗管理のため、新たに「(仮称)法人改革アドバイザリー会議」を設置することとしている。 また、共同会の第6期中期計画と令和5年度に起きた虐待事案に対する改善計画(第1次、第2次)の取組も総括・整理した上で、抜本的な法人改革及び園の改善等に取り組むこととしている。 (4) 県の対応状況 ア 中間報告書で指摘された虐待が疑われる事案への対応 県は、令和6年10月8日以降、「障害者虐待防止法」に基づき、関係自治体と合同で加害が疑われる職員等へヒアリング調査等を実施した。 令和6年10月28日からは、「障害者総合支援法」第48条の規定に基づく特別監査に切り替え、調査を進めた。 その結果、利用者への虐待や、不適切支援があったことを確認しており、令和7年2月、共同会に対し監査の実施結果を伝達した。 イ 中間報告書で県が検証すべきとされた事項等への対応 県は支援改善チームを立ち上げ、検証、考察の上、その内容と対応策を「『愛名やまゆり園虐待事案に関する第三者委員会中間報告書』による県への指摘に係る検証結果報告書(案)」としてまとめた。 (ア) 事実確認 中間報告書で指摘された3項目と、県が必要と判断した2項目について、当時の職員へのヒアリングなどにより、事実確認を行った。 a 中間報告書で県が検証すべきとされた3項目 (a)かながわ福祉プラン基本計画の未達成(個室化等について) ・園の施設整備は、昭和55年度からの「やまゆり計画」で実施され、かながわ福祉プラン基本計画の実行計画(平成3年度〜)には位置付けられていなかった。 ・県は、共同会に委託した平成12年度以降、個室化等の生活環境の整備をせず、現在、各寮に多床室が残っている。 ・住居部だけでなく、地域サービス棟の改修もしておらず、日中活動に利用できていない。 ・共同会は、多床室に簡易的な間仕切りを設けるなど、利用者の生活環境の工夫をしていた。 (b)県直営施設で行われていた支援内容とその影響について ・県直営時は居室施錠等の身体拘束が行われ、当時を知る家族から、利用者が職員を怖がる様子について話があった。 ・園の運営を引き継いだ共同会は、支援を見直し身体拘束の減少につながった、と引継ぎをした県職員、引継ぎを受けた共同会職員の双方から話があった。 ・令和2年度の県立施設の支援検証の結果を踏まえ、身体拘束の解消等、県は、当事者目線で改善を進めたが、現場に理念等が十分に伝わらず、支援環境の見直しもしなかった。 (c)神奈川県強度行動障害対策事業の総括について ・県は、平成9年度から強度行動障害対策事業を開始したが、施設の中で行動障害の点数を下げることが目的化し、地域生活移行は進まず、利用者の生活は改善されなかった。 ・事業が身体拘束や過剰な刺激の抑制に至ったと考えられ、県は事業を廃止したが、廃止の理由や、行動障害等により地域での生活に困っている方をどう支えるべきか、示すことができなかった。 b 県として検証が必要と判断した2項目 (a)県の関与について ・県は身体拘束の状況を見える化し、各県立施設の自己点検とその結果を踏まえた新たなモニタリングを実施するなどにより、身体拘束は減少した。 ・各県立施設の現場からは、こうした取組について、負担は大きいが効果的であった、との声があった。 ・しかし、こうした県の取組は、当初に定められた内容の一部しか実行できていなかった。 (b)個別事案の対応状況について ・令和元年度以降、園から県が収受した全ての事故報告65件のうち、収受後に、県の対応が不明確なもの、園の再発防止策を県が把握していないものが計15件あった。 (イ) 考察 中間報告書の項目等に沿って確認した事実をもとに、生活環境面における課題、生活支援面おける課題、県による運営指導上の課題及び地域生活支援の課題の4点に整理し、考察を行った。 a生活環境面における課題 県は、施設で暮らす利用者の生活の質に対して対策を講じず、その結果、利用者から暮らしを奪い、閉鎖的な空間の中で利用者間のトラブルが増えるなど、利用者に負担をかけてしまった。 また、職員にとっても負担となり、何よりも、「こうした生活環境で障害者が暮らすことを県が容認している」との現場職員の人権意識等に影響を及ぼしていた可能性がある。 地域サービス棟の老朽化により日中活動の場所が不足していることも含め、早急な生活環境の改善が課題である。 b生活支援面における課題 県直営時から管理的で閉鎖的になりやすいとされる大規模な県立施設の中で、居室施錠の対応も行っていたが、事業受託当時の園職員は、そうした支援を改善しようと施設運営にあたっていた。 しかし、県の指導や法人による施設運営が管理的になり、利用者への支援も安心安全が優先されるようになった。 その後、県は、当事者目線の支援の実現に向け、身体拘束の廃止など、園に求める支援内容や取組を大幅に変更したが、指定管理上の業務基準を見直さなかったため、指定管理者は自らの努力や現場職員の工夫で対応せざるを得なかった。 現場職員間では、「いくら言っても聞き入れてもらえない」と無力感が広がり、業務に受け身になるなど、支援に対する主体性が損なわれ、身体的・精神的な負担が増加した。 こうした状況を改善し、当事者目線の支援を進めていくには、当初想定していた民間の柔軟性を活かした施設運営や利用者支援の創意工夫、専門的な職員の育成に至っていない現状も踏まえ、県が、支援に必要な条件を整えることが課題である。 c県による運営指導上の課題 令和3年3月に県が策定した運営指導等の改善策について、現場からは、一定の効果があると認識されていた。 見直しによる継続的かつ効果的な運営指導等の実施や、事故報告収受後の適切な対応により、虐待や不適切な支援の早期察知と未然防止が課題である。 d地域生活支援の課題 県は、強度行動障害対策事業に関し、結果的に、本人を施設に入所させ、身体拘束や過剰な刺激の抑制に至ったとの認識から事業を廃止したが、行動障害に苦しむ本人やその家庭への支援について新たな取組を示しておらず、現場の混乱を招いた。 早急に、事業廃止の理由を現場職員や地域の関係者へ説明するとともに、行動障害などにより地域生活が困難とされる障害者を支えるといった、強度行動障害対策事業の本来の目的を果たせるよう、これに代わる事業を検討、実施することが課題である。 (ウ) 具体的な対応策 a 生活環境面における課題への対応 ・多床室の解消等 ・日中活動の活性化 ・短期入所の代替策の検討、実施 ・長期入所の受入停止及び短期入所の新規受入制限の検討 ・職員数と利用者数の適正化 b 生活支援面における課題への対応 ・日中活動の活性化(再掲) ・県福祉職の派遣を計画 ・県職員と利用者との交流の機会の確保 ・利用者の地域での暮らしの場の確保 ・障害当事者等外部人材の活用 ・意思決定支援への県職員の関与 ・職員研修の充実 ・既存補助事業の更なる活用等 ・職員数と利用者数の適正化(再掲) c 県による運営指導上の課題への対応 ・県の監査及びモニタリングの改善 ・障害当事者等外部人材の活用(再掲) ・事故報告書等を収受した後の対応手順の策定 d 地域生活支援の課題への対応 ・県強度行動障害対策事業の代替策の検討、実施 ・短期入所の代替策の検討、実施(再掲) ・長期入所の受入停止及び短期入所の新規受入制限の検討(再掲) (5) 今後のスケジュール 令和7年3月  家族会への報告、市町村への説明、報告書の策定 以上