更新日:2018年7月24日

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働き方改革と企業にとっての意義

民間企業の動き
 政府が働き方改革実現会議を立ち上げてから約1年3ヶ月、日本社会における「働き方改革」は、言葉だけでなくその意味するところについてもこの1年で随分と浸透したように感じられます。働き方においては、特に、長時間労働が引き起こす身体的/精神的健康への影響が社会問題としても深刻に受け止められるようになり、長時間労働への対策は、多くの企業において優先テーマの筆頭に挙げられています。
 長時間労働に対する取り組みは企業において様々行われていますが、大きく、(1)社員に対して努力を強いること(退社時間/残業時間の上限設定など)、(2)社内的な業務を見直すこと(会議時間短縮化、業務効率化など)、(3)対外的な業務内容を見直すこと(営業時間の短縮化、顧客との取引条件変更など)の3つのカテゴリーに分けられると考えています。
 (1)では、「19時退社」「月残業時間45時間」などの制限を全社的に導入し、時間管理を厳しくしている企業が多く出てきています。早朝出勤に残業代を支給したり、朝食を配布したりしている例は、マスコミなどでも取り上げられました。
 また(2)は、業務内容に無駄はないかを再点検し、慣習となっていた仕事のやり方自体を変えていくことにより、労働時間を短縮するというものです。例えば、会議や打ち合わせの時間を短くするため、タイマーを設定したり、立ったまま打ち合わせをしたり、参加人数を限定したりするというような様々な工夫がされています。
 更に踏み込んで、(3)では、対顧客へのサービスや商習慣を変えるというような動きも出てきています。例えば、外食や小売業、運送サービスなどでは、営業時間を短縮化したり、業務時間外の問い合わせには対応しない、といった一見、企業の収益にマイナスの影響を及ぼしかねない改革を行っている企業もあります。

企業にとっての改革のメリット
 このように、長時間労働に対する施策ひとつをとっても、単に早く帰るように社員を促すだけでなく、長時間労働の要因になっている根本的な課題にまで踏み込んで改革をしようという動きが多くの企業で出てきています。一時的な利益を犠牲にしてまで、企業はなぜ働き方改革を行うのでしょうか。
 それは、「ブラック企業」といった負のレッテル貼りを回避する企業の危機管理意識の表れに留まるものではなく、この機会に当たり前のこととして行ってきた業務を見直し、ライバル企業に先駆けて新たな仕組みを取り入れることで、企業間競争を勝ち抜こうという前向きな意思があるのではないかと私は考えております。例えばある企業では、時間的なゆとりができたら、商品やサービスの付加価値を上げることに社員の時間を使ってもらうことで、中長期的には企業の収益へも好影響があるとの考えのもとで、改革を推進しているとお聞きしました。
 多様な価値観が存在する現代社会の中で、多様な顧客ニーズに対応するためには、働き方改革を契機に、今までの慣習にとらわれずに業務そのものを見直す方向に舵を切るという判断が必要な時期に来ているのではないでしょうか。

乗り越えるべき課題
 ここまで、主として長時間労働について述べてきましたが、より多様な人材獲得や生産性向上のためには、長時間労働以外にも、短時間勤務や在宅勤務といった多様な働き方が選べる制度の導入や、女性や高齢者に活躍の場を提供できるような仕組みづくり、社員の健康維持に対する取り組み等が必要です。その手法自体に「正解」はなく、職種や規模、企業風土の違いにより打ち手は多種多様であるため、改革を進めている企業においても試行錯誤の日々です。
 慢性的な働き手不足が見込まれる日本において、働き方改革は大企業だけでなく中小企業や自治体など、あらゆる職場にとって重要なテーマです。とはいえ、もともと社員数の少ない中小企業などにとっては、改革は容易ではないかもしれません。しかし、改革が他社に遅れることになれば、競争に取り残される、人材が全く集まらないという事態に陥るリスクも十分に考えられます。働き方改革は、乗り遅れてはいけない企業変革の大きな波と言えるのではないでしょうか。

(執筆:株式会社大和総研 主任コンサルタント 宮内 久美氏)

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