更新日:2018年7月24日

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従業員の介護リスクに備える働き方改革

改正育児・介護休業法施行

 先月から育児・介護休業法が施行され、仕事と介護の両立支援については大幅な改正がされています。介護休業は3回まで分割取得が可能になり、介護休暇は半日単位に、勤務時間短縮等の措置は3年に拡大され、所定外労働免除が新設されました。
筆者は、人事担当者がグループディスカッションをするワークショップに何度か講師として参加したことがあります。しかし、その議論において介護休業のような「上物」の制度はあまり問題になりません。それより通常の働き方が問題になります。実は、家族の介護を担っていても両立支援制度は利用しないで、日々の働き方を調整しながら仕事と介護の両立を図っている労働者は少なくありません。

仕事と介護の両立実態

 家族の介護をしながら働く労働者の多くは、介護休業を取らずに年次有給休暇(年休)で介護に対応しています。介護休業制度が想定する介護発生直後の時期は、実際に仕事を休む労働者が少なくありません。しかし、数週間も休めば職場に復帰できるケースが少なくないので、未消化の年休があれば介護休業を取らなくても対応できます。その後もまずは年休を消化しながら、介護休暇が想定する通院の付添やケアマネジャーとの面談のために仕事を休んだり、自らの裁量で残業を調整したりしながら日々の介護に当たっています。そのため、当の労働者が家族の介護をしている事実を会社は知らず、アンケート調査をしてみて「隠れ介護者」の存在に驚いたという企業もあります。
 介護は育児ほどには大幅に働き方を変えなくても仕事と両立することができます。一つには、介護の場合、たとえ寝たきりの要介護状態にあっても付きっ切りで見ていないといけないケースは多くないということが挙げられます。乳幼児は常に誰かが見ている必要があり、保育サービスを利用できなければ家族が子どもを見ないといけません。そのため、保育園に入るまで休業が必要ですし、保育園の利用時間に合わせて短時間勤務や残業免除の必要が発生します。しかし、要介護者には、数時間程度であれば一人で過ごすことができる人は少なくありません。それだけ仕事に出られるということです。また介護サービスは介護保険制度がはじまってから利用手続きが円滑に進むようになり、介護発生から短期間でサービスの利用を開始できるようになっています。もちろん、特別養護老人ホームのような介護施設は足りているとはいえず、すぐに利用できないケースもあります。ですが、在宅介護サービスに関してはほとんど待つことなく利用できます。長期休業を取る人が少ないのはそのためです。

信頼感の醸成を

 このように、仕事と介護の両立を図る労働者の多くが、両立支援制度を利用しないで通常どおり勤務しています。裏を返せば、特別な両立支援制度の充実を図る前に、普段から残業削減や休暇取得促進に取り組むことが実質的な両立支援につながるといえます。その意味で、働き方改革は介護リスクへの備えになるのです。
 しかしそうはいっても、毎日忙しくてそんな余裕はないという企業は少なくないでしょう。何も理由を言わずに「残業できません」「休暇を取ります」と言って、「はい、どうぞ」とそのようにできる職場は少ないと思います。上司や同僚は何かしら理由を聞くでしょう。それが従業員の介護の実情を把握するきっかけになります。仕事と介護を両立するためには、一人で課題を抱え込まないことが大事です。最初は一人でやりくりできても、介護が長期化すると難しくなっていきます。そうならないために、差し当たり介護休業のような制度を利用する予定がなくても、会社が従業員の介護の実情を把握しておいた方が良いです。中には介護のことを言い出しづらいという労働者もいます。「会社の人に言っても仕方がない」という労働者の声を聞いたこともあります。そうした意識を変えるために、今後介護に直面する可能性がある従業員を対象に研修会を開くことにも介護離職を予防する効果があります。仕事と介護の両立を支援する姿勢を従業員に示すことで働き方改革に取り組む目的も明確になるでしょう。
 そのようにして、気兼ねなく介護のことを話しやすい雰囲気をつくり、会社は頼りになるという信頼感を醸成することが重要です。

(執筆:独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 池田 心豪氏)

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