更新日:2018年7月24日

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「働き方改革」の必要性と考え方

 安倍総理は、新たに「働き方改革」の担当大臣を任命しました。

 人口減少社会では、一人当たりの業務量はどんどん増えていきます。すなわち、これまでの働き方を変えない限り、労働者の負荷は高まる一方です。特に、日本の職場は欧米の職場(「仕事に人をつける」)と異なり、「人に仕事をつける」という特徴があります。したがって、エース社員ほど、負荷がかかってしまいます。こうした状況を放置してしまうと、エース社員はパンクしてしまい、燃え尽きてしまうことでしょう。
 筆者は、二十数年、ワーク・ライフ・バランスの研究に従事してきました。十年ぐらい前から、企業から業務改善コンサルティングの依頼が増えています。そうした中で、たとえ経営トップが働き方改革を主導したとしても、現場レベルでは大きな抵抗が起きることを知っています。これは、会社ピラミッドの中間に多く生息している現場の部課長レベルである「粘土層」が妨げていることがあるからです。現場が抵抗する理由は多岐にわたります。
 以下社員のタイプ別の攻略方法をお伝えします。

 1 カミ粘土
 実は、粘土層の中にも、「水」で溶ける「カミ粘土」がいます。
 あらゆる組織の中高年世代は若い頃は、超ワーク・ライフ・アンバランスな働き方をしてきました。そうでなければ出世ができなかったので仕方がなかったのです。しかし、彼らは今もそういう価値観かというと、そういう人ばかりではありません。たとえば愛娘がワーキングマザーで、苦労している場合、父としてとてもよい理解者となっているケースもあります。
 上司の家族構成を見て、奥さんは働いているか、お子さんはいるか、お嬢さんは働いているか、といったことをチェックし、総論の話ではなく、ご家族の話題として振ると、けっこう話に乗ってきて味方になってくれることがあります。家族水いらずで「カミ粘土」は溶けていきます。

 2 「カタ粘土」
 一方で、ガチガチに固着している「カタ粘土」も少なからずいます。以前、ある金融機関でワーク・ライフ・バランスはお互い様、思いやりと講演した際に、アンケートで「ビジネスは真剣勝負だ。同僚は仲間であるとともにライバル。そんな生ぬるいことを言っていたら、ライバルに蹴落とされてしまう」と書かれていたことがありました。その会社の人事部長は、「うちの管理職はカタ粘土どころか、永久凍土です……」と愚痴っていましたが、その会社はその後、相次ぐ不祥事で大揺れに揺れました。
 「カタ粘土」は自分たちが一生懸命働いて成果を上げてきて、会社が大きくなった、日本が豊かになったことに誇りを持っています。自身の働き方のベースとなっている人生観や価値観にかなりプライドをもっていますし、年齢的に「周囲からほめそやされた」過去の美酒が忘れられずに、どうしてもかつての成功体験に執着する傾向があります。したがって、「今はもうそういう時代ではない」「考え方が古い」などと否定すると、全力で反発してきます。あるいは表面的には理解者のふりをしても、見えないところで足を引っ張ろうとしたり、始末に負えません。
 では、カタ粘土タイプの理解を得るのは難しいかといえば、決してそんなことはありません。彼らは基本的に優秀なので、データとロジックで、ある程度までは説得ができます。
 たとえば、私が保有する4000社のデータでは、過去5年間に不祥事を起こした企業は、同業他社と比べると長時間労働という特徴があります。この理由としては、会社が残業代を払わないサービス残業が横行していると、「会社も法律違反しているし、自分もいいだろう」と、善悪の観念が麻痺しやすかったり、会社の常識は社会の非常識ということにさえ鈍感になってしまうことなどが考えられます。こういったデータを提示することによって、興味を示してくれることもあります。

 3 ワカ粘土
 代表的な粘土層は中高年・管理職の男性ですが、それ以外にも様々な粘土層が存在します。まず、ワカ粘土タイプ。「若手社員」の中には、ワークは楽しいし、家に帰っても、やることがない。結婚も子育てもまだ先だから、ライフは必要ないという「ワカ粘土」がいます。仕事大好き人間で、家庭は二の次、あるいは独身貴族です。
 ワカ粘土は若いうちに楔を入れておかないといけません。まだ若く柔軟性があるので、一章でも述べたように、オフに自己研鑽・自己投資する時間を作り、スキルを磨くことが今の仕事にもメリットになると説くと、味方になります。

 4 ヒラ粘土
 次に、「ヒラ粘土」タイプ。残業で生活費を稼いでいる平社員に多く、業務の見直しや効率的な働き方といった提案に抵抗を示します。
 以前、筆者がコンサルした物流会社では、ドライバーの月あたりの時間外労働は3桁を超える状況で、このままだと大きな事故が起きてしまうのではないかという安全面のリスクから、経営者は本気でワーク・ライフ・バランスに取り組みたいと考えていました。しかし、現場サイドは「生活費が減ってしまうから、時間外削減に取り組みたくない」とドライバーたちが猛反対。
 頭を抱える社長に、「いくら目的がよいことでも、自分が損すると思ったら、人間はやろうとしません。自分も得をすると思わせないといけません。キャッチフレーズを作りましょう」と提案しました。
 「これまでは残業代で稼いでいた人も、これからはボーナスで稼ごう」と標語を掲げることにし、業務改善の提案箱を設置し、1提案につき1000円ずつ、波及効果が大きいと考えられる提案を毎月審査し、社長賞を授与してボーナスに上乗せしました。こうして、社員に業務改善を競わせることで、時間外労働が徐々に減ってきました。社長には、浮いた人件費を原資として、福利厚生制度を整えてもらったり、さらにボーナスを上乗せするなどのインセンティブを提示してもらったので、社員はさらに業務改善を競い合うようになりました。こうして「ヒラ粘土」も軟化したのです。

(執筆:渥美 由喜氏)

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