更新日:2022年1月13日

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アートのミライ

東京2020 NIPPONフェスティバル Our Glorious Future KANAGAWA2021のアートのミライ映像です

アートのミライ

 前川國男が設計し、1954年に建てられた音楽堂と図書館。
その8年後に建てられた青少年センター。
時代も役割も構造も異なる建物のそれぞれの場に呼応するように、5組のアーティストの作品は、人・生物・光・音・風など有形無形のものたちと創られていきます。


 無観客開催と決まり、作品設置するのではなく、展示するはずだった空の空間の様子を映像配信し、見る人なしに存在しない展示を想像させることに舵を切った津田道子
カメラ、スクリーン、鏡などを用いて、その場に存在する人、すでにその場を過ぎ去った人など、現在と過去を巧みに空間に存在させる作品により、出会うことのない他者や普段見ることのない自分の姿との遭遇を予定していました。
今回は展示予定であった青少年センターの作品が無い会場と、かつて他の場所で展示し撮影した作品とを映像の中でつなぎあわせることで、時空をこえる「不在の存在」をみせます。


 知と言葉の宝庫である図書館の一室で、微生物との共創をみせるのは岩崎秀雄
自身が書いた生物学の論文と五輪に関連する資料に切り絵を施し、切り口にバクテリアを植え付け増殖させていく作品です。
時間をかけゆっくりとバクテリアがつくりだす複雑な模様は、過去から現在に至るまでに作家が捉えた様々な矛盾や複雑さと呼応するように表現されていきます。


 風の動きを作品に反映させるのは三原聡一郎
屋上のセンサーで捉えた風のリアルタイムデータを基に室内の空気の流れが連動しています。
図書館と音楽堂をつなぐ宙に浮かぶ部屋の中で作り上げられる目に見えない気流のドーム内に存在するビニールの輪は、捩れ、絡み、解かれ、生き物のように宙をゆらめきます。
「空気を読む」という言葉に代表される日本における空気の正体について静かに考察しつづける作品です。


 木のホールと呼ばれる音楽堂の空間を使って作品としたのはMATHRAX〔久世祥三+坂本茉里子〕。
舞台と客席に置かれた円形の木製のオブジェに手を近づけると音が空間に放たれ、周りに置かれた木製のキューブ型オブジェも呼応するように光が瞬き、音が奏でられます。
音と光を通じて離れた相手とのコミュニケーションをとることで創り上げられる美しい空間は、自身と他者の存在について今一度考える時間をもたらしてくれるでしょう。


 建物に囲まれた広場に作品を展開するのは佐久間海土
一帯のシンボルツリーである楠木の奥に見える約1.5mに及ぶ円形の鏡面は、空や周囲の建物をうつしこみながら音を視覚化させる作品です。
視覚の認識を超える速さの振動により鏡面から音がつくり出される様子は、見るものの身体感覚を揺さぶり、うつし出されたモノと音の存在を同時に顕在化させます。
人の心拍や鳥の囀りをもとにした作品には、あらゆる生命に対する想いが込められています。


 人の居ない空間に佇む5組の作家の作品を通し、変わりつづける今を捉え、本来であれば迎える予定であった人間の存在に深く思いを馳せ、ささやかな存在と多様なものたちとの共生について考えを巡らせるひとときを、さまざまな想いを抱える映像の先の人々とともに過ごすことができればと願います。


キュレーター: 藤川 悠

MOVIE / CONTENTS

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津田道子「あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。」

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岩崎秀雄「Culturing <O/Paper>cut」

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三原聡一郎「空気の研究」

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MATHRAX〔久世祥三 + 坂本茉里子〕「ステラノーヴァ」

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佐久間海土「Ether - liquid mirror -」

 

プロフィール

tsudaPhoto: teppei kobayashi

アーティスト

津田 道子 TSUDA Michiko

アーティスト。インスタレーション、パフォーマンスなど多様な形態で、鑑賞者の視線と動作によって不可視の存在を示唆する作品を制作。主な個展に2020年「トリローグ」(TARO NASU)、主な展覧会に2020年「インター+プレイ」(十和田市現代美術館)、「あいちトリエンナーレ2019: 情の時代」など。

iwasaki

アーティスト/研究者

岩崎 秀雄 IWASAKI Hideo

アーティスト,生命科学・生命美学研究者。生命美学プラットフォームmetaPhorest主宰,早稲田大学理工学術院教授。科学および芸術の一筋縄ではいかない界面・関係性に興味を持ち,科 学研究と作品制作を行っている。著書に『<生命>とは何だろうか:表現する生物学,思考する芸術』(講談社2013)。文部科学大臣表彰若手科学者賞,文化庁メディア芸術祭優秀賞など受賞。

mihara

アーティスト

三原 聡一郎 MIHARA Soichiro

世界に対して開かれたシステムを提示し、音、泡、放射線、虹、微生物、苔、気流、土、水そして電子など、物質や現象の「芸術」への読みかえを試みている。2011年の東日本大震災より空白をテーマにプロジェクトを国内外で展開。芸術の中心からバイオアートラボ、極限環境、軍事境界に至る計8カ国12箇所を渡ってきた。

mathrax©kenji kagawa

アーティスト

MATHRAX [久世祥三+坂本茉里子]

MATHRAX [Shozo KUZE + Mariko SAKAMOTO]

電気、光、音、香り、また、木や石などの自然物を用いたオブジェやインスタレーションの制作を行う、久世祥三と坂本茉里子によるアートユニット。デジ タルデータと人間の知覚との間に生まれる現象に注目し、人が他者と新たなコミュニケーションを創り出すプロセスを探る作品を制作している。

 

sakuma

サウンドアーティスト

佐久間 海土 SAKUMA Kaito

1992年生まれ。ブラジルと日本の両国で幼少期を過ごす。#ライフサイズインストゥルメントをテーマに「その場に音を出現させる」ことで、認知拡張を目指すサウンドオブジェクトを制作している。音と空間と人に関する知見をベースに多岐にわたる体験の制作を行う。

 

fujikawa Photo: Ben Matsunaga

アート部門キュレーション / 茅ヶ崎市美術館学芸員

藤川 悠 FUJIKAWA Haruka

現代美術と教育普及を専門とし、環境や空間を活かし人の五感に働きかける事業を数多く企画。アーティストや障がいのある人と共に地域をリサーチして企画した「美術館まで(から)つづく道」展は、多様な人々に向けるアートの新たな試みとして、高い評価を受ける。第20.21.22回文化庁メディア芸術祭選考委員、女子美術大学非常勤講師を務める。

 

作品紹介

tsudawork

「あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。」津田 道子

展示する予定だった本作は、カメラ、プロジェクタ、枠、鏡、スクリーンなどの映像装置がある空間を自由に歩き回りながら体験するインスタレーションです。その空間にいて、映像や鏡に映り込む「観客」の存在が作品の重要な要素の一つです。無観客展示となった今回、展示をしないことにしました。展示するはずだった空間と、過去に展示した作品を合わせて見ることで、どのような展示になるはずだったか想像する助けになるような動画を配信します。

映像は、現実を写し取っているようですが、現実の一部が切り取られたもので、見るということはとても曖昧です。どこを切り取るかによって事実はすり抜けていき捕らえることが困難な今日で、実際に展示ができることを願っています。

 

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「Culturing <O/Paper>cut」岩崎 秀雄

この作品は、ライフワークの“Culturing <Paper>cut”シリーズを基調とし、今回の特殊な「展示」のために新たに制作された。このシリーズは、もともと科学(者)が生命をどのように捉えるのか、その記述様式に着目していた。客観的とみられがちな論文には、実はとても人間くさい部分がある。光合成微生物(シアノバクテリア)を研究して論文を書き、主観的な部分を切り取る。そこから、論文の観察対象となっていた微生物が論文を覆うように増殖し、複雑な模様を描く。こうして表裏はメビウスの輪のように反転していく。

今回の<O/Paper>cutバージョンは、五輪に関する文書を切った<Olympic>cut =<O>cutを併せている。五輪の招致や開催には、コロナ禍以前から、様々な疑問を持っており、この出展には個人的に多くの葛藤があった。その背景にまつわるいくつかのモチーフ(五輪憲章、東京オリンピックの開催都市契約書の文章や、議論を呼んだ過去の五輪にまつわるエピソードたち)を刻み、微生物と共存させている。

会場となった図書館は、知の堆積と向き合うとともに、五輪が象徴する集団的な動員とは異なり、個人が個人のままに集う場だ。今回の主題となった科学雑誌や社会の契約に関わる文書も保管されている場所でもある。会場には江戸後期から現在までの、自然観・生命観に関する様々な文書や論文を配置し、切り絵には県立図書館の意匠も刻んだ。

事前に開催日時を告知できず、同時中継すら禁じられた逆説的な「無観客展示」の闇は深い。「鑑賞されない作品、読まれざる蔵書、感得されぬ生命、気付かれざる者たち、行き場のない責任、立ち会えぬ葬儀」といった、身の回りの膨大な「不在たち」に改めて思いを馳せるべき時なのだろう。

 

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「空気の研究」三原 聡一郎

空気の研究 / Study of Air [2017]

マイク、ローパスフィルタ、制御回路、DCファン、フィルム、鉛

ひらひらと移ろう浮遊体の動きは、目に見えない気流の変化による。気配や存在感と関連付けられるこの現象は超低周波の空気振動であり、風として体験しているものである。これを数値化する為に小型マイクを応用したセンサシステムが屋外に設置され、この地のデータを常に計測している。これに基づき床上のファンはリアルタイムに風量を制御されている。風を捉え、再構成する一連のシステムは日本における空気と呼ばれる概念についての実践的考察を目的としている。

本作のきっかけは、山本七平著「空気の研究」を2011年以降、幾度か本棚から引っ張り出してきたことによる。集団的な意思決定に関して日本には「空気を読む」という独特の言葉がある。この言葉を検証する為に、まず比喩対象である空気、それ自体を客観性に基づき定量的に捉える装置の開発から始めた。

その後、この作品を観測者のように眺めながら、私は移ろう浮遊体の動きが目に見えない気流の檻によって維持されることを意識し、またどこの国にも属さなく言葉を発せない空気は迷惑しているのではないかと申し訳なく想像する。10年後の2021年6月某日、私は梅雨の湿った空気に包まれながらこのテキストを書いている。世界的なパンデミックの中で空気を基に語られる国民による平和の祭典が、復興をテーマに行われようとしている。

 

mathraxwork

「ステラノーヴァ」MATHRAX〔久世祥三+坂本茉里子〕

ステラノーヴァは、「新星」という意味をもつインスタレーション作品です。「新星」という言葉は、まるで新しい星が誕生するイメージを想起させますが、すでに活動を終えた暗い星が、別の星の接近によって化学反応を起こし、明るく輝く現象をさします。かつて人はその様子を見て、新しい星の命が生まれたのだと想像したのだそうです。この作品「ステラノーヴァ」は、惑星をイメージした円形のインターフェースに体験者が手を近づけたり、ふれることで、音を媒介とした自他とのコミュニケーションを図るものです。音は、その人の所作や意識の働きを象徴し、様々な関係性を紡ぎます。この作品におけるステラノーヴァとは、人が他者との出会いによって新しく生まれ変わっていく時の音の現象をさしています。

 

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「Ether - liquid mirror -」佐久間 海土

本作は鑑賞者と呼応する1対1の鏡。スピーカーのように音を鳴らす姿、万物の根源である水のように、規則的に混沌を交えながら姿を変化させます。本展示では、楠木と呼応する形で、2日間に渡りその「呼吸」を鳴らし続けます。 covid-19の時代、死亡者数が連日のように報道され、その一方で、報道されない死もうまれている現在。死との距離は日々遠くなってきている気がしてなりません。そんな時代だからこそ、改めて、生き物同士の1対1の関係を問いたい。まず目の前の不動の楠木の命を感じ取ることが、死を取り戻す一歩になると考えています。東京オリンピック2020が未来への希望として行われるのであるならば、本展示は現在地を確認するものであって欲しいと願います。

制作:CG-ARTS(脇本 厚司、莇 貴彦、原 英里子)
映像・写真:西野 正将(全体)、冨田 了平(全体)、大野 隆介(撮影助手)、玄宇民(津田 道子作品)、三上 亮(津田 道子作品)
設営:東京スタデオ(玉村 大樹、中里 浩明、楠本 祥子、長尾 和典)、田部井 勝彦(MeAM studio)、中路 景暁、高橋 遼平
協力:和久井 真糸、TARO NASU


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