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更新日:2021年6月4日
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トマトは、神奈川県の主要な農産物です。しかしながら、神奈川県に限らず多くのトマト産地では、「アザミウマ類」という微小な害虫(微小害虫)の被害が問題となっています。
アザミウマ類は、植物を「食べる」ことで加害するだけでなく、植物にウイルスをうつし(媒介し)、病気も発生させるため、確実に防除しないといけません。
しかし、アザミウマ類には多くの農薬が「効かない」状態(抵抗性を示す)なので、その防除は極めて難しくなっています。近年、赤色防虫ネットなど新たな被覆資材による防除も開発、検討されてきていますが、被覆資材の内部への侵入を100%防ぐ資材ではないため、ウイルスによる被害を防ぐことは難しい現状があります。
一方、従来のような殺虫剤でアザミウマ類を直接「殺す」ことで防除するのではなく、ある種の植物ホルモンを処理することで、植物が元々持っている害虫に対する防御反応(害虫の忌避効果)を誘導し、害虫を植物に「寄せ付けない」ことで防除しようとする試みがされています。
そこで、植物成長調整剤(植調剤:農薬)として登録されている植物ホルモン類縁体のプロヒドロジャスモン液剤(PDJ:以下略)を植物ホルモンの代替剤として利用することを共同研究機関とともに考案し、「殺虫から制虫へ」を合言葉にトマトのアザミウマ類(ミカンキイロアザミウマ)に対する世界でも類を見ない忌避剤としての農薬登録を目指しました。
ミカンキイロアザミウマ食害痕(トマト)
ジャスモメート液剤(PDJ)のコンセプト
防除資材として利用する上で必要なPDJの処理条件が不明であったので、まず忌避効果が表れ、かつ薬害が認められない濃度設定について調査しました。その結果、植調剤としてすでに農薬登録されている濃度の500倍が有効であることを明らかにしました。
また、PDJ自体には殺虫効果がないため、アザミウマ類がすでに寄生している植物にPDJ処理しても即効的な密度抑制効果(特に幼虫の密度低下)は認められないこと、その一方で、アザミウマ類が作物に寄生する前にあらかじめPDJ処理しておけば忌避反応が誘導され、寄生を低密度に抑え続け、アザミウマ類に対して卓効な農薬と比較しても高い防除効果を維持することが可能であることを明らかにしました。
さらに、古くなってきた葉での忌避反応誘導が低いことや、他の葉への忌避反応が伝達されない(ホルモンのように他の部位に刺激が伝達するようなことはない)ことについても明らかにしました。
このような結果を踏まえ、アザミウマ類が寄生する前にPDJを植物に複数回処理することが効果的な処理条件であると推察し、トマトのアザミウマ類(ミカンキイロアザミウマ)に対する防除試験を実施した結果、農薬登録に必要な防除効果のデータを得ることができ、令和3年3月26日に農薬登録が拡大され、トマトでのアザミウマ類に対する忌避剤として使用可能となりました(忌避剤としての農薬登録は国内2例目、害虫に対する植物の「誘導抵抗剤」としては世界初)。
ジャスモメート液剤(PDJ)の効果
現在、PDJが使用できるのは、トマトのアザミウマ類に対する防除に限定されています。このような環境負荷が小さい、新たな防除資材のニーズは高く、PDJによる忌避効果はアザミウマ類以外の害虫にも効果があるのか、あるいはPDJを他の作物に処理してもトマトと同じような効果が表れるのか等、多くの問い合わせをいただいています。現在、このような声に応えるべく、新たに共同研究組織(コンソーシアム)を設置して、トマト以外の農作物に適した処理条件等を明らかにする研究を各研究機関と協力して進めており、一部、新たな結果もすでに得られています。この研究が終了する際には、様々な農作物、あるいは多くの害虫種に適した処理方法が明らかとなります。そして、研究結果に基づき農薬登録が拡大され、消費者の皆様にもより「安全・安心」な農作物をお届けでできるようになると考えています。
病害虫研究歴:15年(研究歴:20年)
受賞(本研究):植物化学調節学会「技術賞」(外部研究チーム)令和元年11月
特許:「植物の育成方法」(赤色防虫ネットの開発)
(登録番号 第6873422号)
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