神奈川県水産技術センター メルマガ491
神奈川県水産技術センターメールマガジン 491号 2016年2月5日号
□ 研究員コラム
1 共生関係? (相模湾試験場 加藤充宏)
2 台湾南部漁港めぐり・その2 台湾のシラス水揚港 枋寮(ぼうりょう) (企画資源部 山本貴一)
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1 共生関係? (相模湾試験場 加藤充宏)
冷え込みが厳しくなってきた12月の早朝、私は小田原市国府津沖でヒラメ刺網の漁船に乗船していました。この日は漁業就業希望者を対象とした漁業体験研修を開催しており、小田原の漁業者にお願いして、参加者にヒラメ刺網漁業を体験させてもらっていたのです(ここで宣伝。県水産課と水産技術センターでは、漁業へ就業を希望する方のために「漁業就業支援事業」を実施しています。詳しくは水産課のサイトをご覧ください)。幸い、当日はヒラメやホウボウなどの高級魚がたくさん獲れ、参加者も漁業の喜びが実感できたことと思います(写真1)。
ところで、ヒラメ刺網には食用魚以外にも色々な生物がかかってきます。その日もキメンガニやシャチブリといった変わった姿のカニや深海魚等がかかってきましたが、漁業者にとって「売り物にならない」生物は邪魔者に過ぎません。これらは普通そのまま捨てられてしまうのですが、「職場の展示コーナーに使えるかも」と思った私はそれらの「ゴミ生物」をもらってきました。その中のひとつが、今回紹介するケスジヤドカリとヤドカリイソギンチャクです(写真2)。
持って帰ったケスジヤドカリは大人のこぶしほどもある大きな個体で、その宿貝についていたヤドカリイソギンチャクも、これまた夏ミカンくらいある大きなヤツでした。ヤドカリとイソギンチャク・・・「ヤドカリはイソギンチャクの刺胞により外敵から身をまもり、イソギンチャクはヤドカリのエサのおこぼれを頂戴したり、あちこち連れていってもらったりする」・・・生物の共生関係の例としてよく紹介される組み合わせですね。
ところがこのイソギンチャク君、展示コーナーの水槽に入れてしばらくの間は、触手をほとんど伸ばさず丸く縮こまったままでした。急に環境が変わったのでしょうがないといえばしょうがないのですが、あまりにもシャイな振舞いに思わず「ガードマン失格だね」とつぶやいてしまいました。
ところがある日、このシャイなやつが触手を広げる条件に気がつきました。それは・・・「エサの匂いを感じたとき」です。同居している魚や雇い主?のヤドカリにエサをあげ、しばらくしてから覗いてみると、まるで花が咲いたかのように触手を広げているのです(写真3)。貝のむき身など匂いが強いエサをあげた時には、ひときわ大きく触手を伸ばしているようでした。なによりもまず食欲が優先する態度は、ほほえましいというかなんというか・・・しかしこれで本当にヤドカリのガードマン役が務まるのでしょうか?
今回の話はごく短期間かつ断片的な観察例に過ぎないですが、「ヤドカリとイソギンチャクの共生関係」がどのように進化してきたのか、ふと思いを巡らせたくなる出来事でした。
写真1 漁業体験研修の様子
写真2 ケスジヤドカリとヤドカリイソギンチャク
写真3 ヤドカリイソギンチャクの触手が開いたところ(左)と閉じたところ(右)
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2 台湾南部漁港めぐり・その2 台湾のシラス水揚港 枋寮(ぼうりょう) (企画資源部 山本貴一)
前回はマグロの水揚港である東港をご紹介しましたが、今回はシラスの水揚港である枋寮についてご紹介します。枋寮は東港から南東へ約20km(高雄からは南東へ約45km)に位置し、東港から路線バスを利用して約40分程で行くことができます。ちなみに、高雄からは鉄道でも行くことができ、所要時間は列車によって異なりますが、特急列車(自強号)で概ね1時間程度です。
枋寮は東港に比べると小さな漁港で、停泊している漁船も比較的小規模なものが多いです。漁港の様子を見ていると、一隻の漁船が岸壁に付けられ、コンテナ状のケースに入った漁獲物を水揚げし始めました。中を見ると、シラスがたっぷりと入っていました。水揚げが終わるとすぐに、シラスを買い付ける業者の人達が集まってきました。買い付け業者の人達は、コンテナに入っているシラスの中に、腕を肘ぐらいまで入れてぐるぐるとかき混ぜていました(写真1)。暫くして腕を引き上げると、腕にくっついてきたシラスの状態を入念にチェックして、シラスの品質を確かめているようでした。その後、シラスは直ぐにセリにかけられ、あっという間に落札されました。漁港の近くにはシラスの加工場が何軒かあり、落札されたシラスは加工場(写真2)へと運ばれてゆきました。加工場には大きな釜と多数のザルがあり、釜揚げの加工をしているようでした。神奈川県のシラス漁業者は、自家加工を行うことが多いですが、台湾の枋寮では漁業者と加工業者で分業が行われているようでした。
漁港の周りでは観光客を対象とした屋台や鮮魚の販売が行われていて、屋台ではシラスを材料とした食べ物も売られていました。「○仔魚煎」(○は、うおへんに勿)という食べ物で、見た目はシラスを使ったお好み焼き、といった感じです(写真3)。作り方は、生姜等の薬味が入った生地を熱した鉄板に円形に流し入れ、その上に生シラスをたっぷりと載せます。さらにその上に生卵を割り入れ、ひっくり返して裏面も焼くと完成となります。シラスの風味がよく分かるシンプルで美味しい料理なのですが、やや塩味が薄いように思いました。テーブルの上にある調味料等で味付けをすれば、より美味しく食べられると思います。
前回ご紹介した東港と枋寮を併せて回れば、高雄から日帰りの漁港めぐりができます。高雄から路線バスで東港へ向かい、マグロとサクラエビを楽しんでからさらに路線バスで枋寮へ行き、シラスを味わって鉄道で高雄に戻ると、高雄からの日帰りにちょうど良い行程になると思います。有名な観光地も良いですが、台湾の地元の人達の生活を垣間見ることができるローカルな旅行もおすすめです。
写真1 水揚げされたシラス
写真2 枋寮のシラス加工場
写真3 シラスを使ったお好み焼き
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