神奈川県水産技術センター メルマガ231

掲載日:2014年2月3日

神奈川県水産技術センターメルマガ VOL.231 2008-02-01

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/KN/ 神奈川県水産技術センターメールマガジン  VOL.231 2008-02-01
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□研究員コラム

○まぐろ海援隊  (栽培技術部  一色 竜也)

○続けるということ  (資源環境部  田島 良博)

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○まぐろ海援隊

 前回、「まぐろ資源を守るもの」で資源管理に関する三崎のまぐろ漁船の取り組み姿勢を書きましたところ、業界の重鎮の方から励ましのお手紙をいただきました。ありがとうございました。今回は、もうひとつのエピソードをご披露したく筆をとりました。題して「まぐろ海援隊」です。

 司馬遼太郎の「竜馬がゆく」という小説のなかで、勝海舟が竜馬に国土防衛のグランドデザインを示す場面があります。それは六艦隊、計三百隻、乗務員六万人と壮大なものでもはや江戸幕府にはその力がないとしました。竜馬は海援隊という私設艦隊を組織し、平時にはこれら艦隊で海外との貿易を行って艦隊自らを維持し、一朝ことあればこの艦隊を持って祖国防衛にあたるとの構想に至ります。

 当時の日本の脅威は欧米列強でしたが、現代の日本、いや人類にとっての脅威は地球温暖化や異常気象といえましょう。特に異常気象は、ハリケーン カトリーナに見るような巨大な暴風雨等による高波や洪水、山崩れ、日照不足や日照りによる農作物の不作等といった目に見える脅威として認識されると思います。

 太平洋域の異常気象の要因のひとつに、ENSO(エルニーニョ・南方振動)と呼ばれる海洋と大気の相互作用が挙げられております。エルニーニョ現象は東部熱帯太平洋の海水温が例年より高くなる現象として知られていますが、大気にも大きな影響を与え、熱帯各地から中高緯度の様々な地域に異常気象をもたらすことが知られています。

 つまり異常気象のメカニズムを解明するには、気象変動だけでなく海洋の構造の変動をも知ることが重要なのです。海洋の構造を知るためには、そこに赴いて観測を行う必要があります。

 人工衛星によるリモートセンシングは気象変動のモニタリングにとって強力なツールとして使われておりますが、海洋観測の分野では海表面の水温や高低等の観測には力を発揮しますが、海の中までは観測することはできません。海の中は水深水温計などのセンサーをその場にいって投入し観測する他なく、解析に必要なデータ数を得るには多数の観測船を対象海域に長期間連続的に配置する必要があります。

 しかし、これには多大な財政的負担が生じます。現在は、赤道域に観測ブイを設置する方法で日米が協同で観測を行っていますが、熱帯域全体に及ぶデータ収集は困難な状況にあるといえます。

 これら海洋観測を三崎の遠洋まぐろ漁船に依頼するという活動を、十数年程前に国の遠洋水産研究所に協力して当水産試験場が携わっておりました。三崎のまぐろ漁船の多くはメバチの主漁場である東部熱帯太平洋に出漁し、まさにエルニーニョ現象が起こる中心海域で、1航海ほぼ毎日連続300回以上の操業を繰り返しておりました。

 これら漁船が三崎から出港する際に水深水温計等の海洋観測機器を預け、操業時に海洋観測を行っていただき、帰港時に機器とデータの回収を行えば、かなりのデータ数が得られるというわけです。水産試験場は海洋観測をまぐろ漁船に依頼し、水深水温計を預けるところと、機器とデータ回収、遠洋水産研究所への送付を担当しておりました。

 水産試験場の依頼に対し、三崎のまぐろ漁船の方々は快く引き受けてくださり、海洋データの回収はスムーズに進みました。まぐろ、特にメバチを効率良く漁獲するには海中の鉛直的な水温を把握することが決め手になるため、まぐろ漁船の漁撈長にとっても知りたい情報であったというわけです。

 漁場を探す際、よく「潮目を探せ」と言われます。これは、潮目では異なる流れがぶつかり合い、魚の餌となるプランクトン等が溜まりやすいこと、海水温が急激に変化して回遊してきた魚の障壁となること等、魚が集まりやすい場所となるためです。

 潮目は水平的な海表面だけにみられるのではなく、鉛直的にも形成されます。海中に水深水温計を下ろしていくと、水温が顕著に変わる層があります。これが水温躍層です。メバチは熱帯域に生息するまぐろで、水温躍層下の10-15℃の層に多く分布するとされております。まぐろはえなわ漁具でメバチを効率良く漁獲するには、その水温層を把握し、できるだけ多くの釣針をその水温層に仕掛ければ良いのです。

 しかし、この水温層を知るには海中の水温を鉛直的に観測する他なく、漁撈長たちにとっても水深水温計が使えることはメリットと思われたようです。水産試験場としても海洋観測データと漁獲データがセットで得られ、メバチの漁場形成要因研究にとってこの上ない情報となりました。

 さらに、その解析結果をデータの回収時に漁撈長にフィードバックしたところ、漁撈長からは門外不出の資料である漁撈長ノートを見せていただくことができ、情報の質が高まっていく相乗効果が生まれました。

 三崎の遠洋まぐろ漁船団は、まぐろ漁業という経済活動を繰り広げながら海洋構造のモニタリングにも一役買う。その海洋構造のモニタリングデータは異常気象や地球環境の変動をモニタリングするために役立つ。つまり、まぐろを釣りながら現在人類が抱える脅威に備えるデータを収集していたのです。これぞ現代の海援隊、「まぐろ海援隊」というべきものでしょう。

 その後三崎のまぐろ船は激減してしまい、水産試験場はメバチの研究から撤退を余儀なくされました。大変残念なことです。しかし、地球環境の異変が叫ばれ始めた90年代のある時期、気象のメカニズムの中枢域における海洋データを三崎の遠洋まぐろ漁船が収集し、地球環境保護のために一役買ったことは事実なのです。 

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○続けるということ 

 私は、シャコやマアナゴといった東京湾の重要水産物の資源調査を担当していますが、それと平行して、東京湾の底生生物のモニタリング調査を行っています。この調査は、小型の底びき網を使用した定点調査により、どのような種類の生物がどのくらいいるかといった情報を蓄積して、長期的な生態系の変化を把握することが大きな目的のひとつになっています。

 底びき網の調査では、魚類のほかにもエビやカニなどの甲殻類、イカやタコなどの軟体類など、多様な生物が採集されます。採集した標本は、種類ごとに個体数や重量を記録しますが、引き継いだ当初は生物の種名がわからず、標本の測定にもかなりの時間がかかりました。

 しかし、最近は顔馴染みが多くなったおかげで、測定もスムーズになってきました。

 昨年9月に、シンポジウムで東京湾のシャコと小型えび類の資源動向についてお話しする機会をいただきました。そのときは、サルエビとアカエビという小型のクルマエビの仲間2種類について、データを整理してお話しました。

 東京湾では、底びき網漁業が盛んですが、これら小型えび類を主な対象とした操業は無く、漁業からの情報は得られないため、十数年分のモニタリング調査のデータが貴重な情報を提供してくれました。今回取りまとめたデータでは、この2種類のえびについて特筆すべき変化は認められませんでしたが、現状を記録することが、将来の変化を検出する基礎になると考えています。

 この調査は、1990年に始まり、今年で19年目に入りました。19年というと非常に長い気がしますが、大きな増減を繰り返すことで知られるマイワシ資源の増減周期は、概ね30-60年(諸説あります)、レジームシフトと呼ばれる急激な生態系の変化は、十数年から数十年間隔で起こっているといわれています。

 このような変化の周期を考えると、19年ではようやく1回の変化を捉えることができるかどうかというスケールになります。また、何か起きてしまった後にデータをとっても、起きる以前のことはわかりません。そういう意味でも、現在を記録し続けることは重要なのです。

 モニタリング調査は地味な仕事ですが、いろいろな生物を見ることができるので、自分にとっては楽しい仕事のひとつであり、長く続けたい仕事の筆頭といえます。

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