神奈川県水産技術センター メルマガ275
神奈川県水産技術センターメルマガ VOL.275 2008-12-05
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/KN/ 神奈川県水産技術センターメールマガジン VOL.275 2008-12-05
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□研究員コラム
○-ヒメイカの話し- (企画経営部 臼井 一茂)
○水産技術センター難解語解説シリーズ(その1)「アンドン」 (栽培技術部長 武富 正和)
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○-ヒメイカの話し-
研究所の目の前には堤防があり、風や波によって海藻やゴミが着岸することがよくあります。その海藻を目の細かい網ですくってみると、実に様々な生きものが見られます。
ダンゴウオを飼育していたときの事ですが、餌となる海藻に付いている小さなワレカラやカニなどを獲っていたときです。流れてきたアカモクをすくっていたところ、網の一部が黒色に染まっていくのです。よくよく見てみると、透き通ったゼリー状で、小指の爪程の長さの生きものがヒクヒクとしていました、更によーくよーく見てみると、なんと、ちーさなイカでした。
早速、アカモクとアマモを植えた水槽をセットし、一緒に捕まえたオチビちゃんのイカさんを入れて、じっくりと観察をしてみました。
まず、体が沈むのを堪えるように小さなエンペラで大きく上下させ、まるでエイのヒレを波経たせた泳ぎのようなホバーリングをして、水槽の端や海藻の間を泳いでいました。2、3分もしたところでですが、水槽の角のガラス部分に、ピトッてくっついてしまいました。しかも体をくの字に曲げて、茶色から透明になったり、小さな点々の色素胞の色も七色に変えたりと、目まぐるしく模様を変えた後、透明な色に落ち着いたところで、真っ直ぐに体を伸ばしてじっとしてしまいました。
しばらくすると、さすがどん欲なイカさんですね、海藻に付いていたワレカラを捕らえ、抱きかかえて体液を吸っています。食べ終わると、今度はスイスイと海藻の間を泳いでいき、海藻の葉にピタッと付いてしまいました。その時には海藻の色に合わせて茶色になり、一度目を離したら全然見分けが付かず、見つけられない程です。凄いですね-。
生物に詳しい職員に尋ねたところ、この小さな捕食者は「ヒメイカ」と言うそうです。イカ類は世界中で約450種が知られていて、私たちがよく知っているスルメイカやヤリイカ、そして十数メートルもあるダイオウイカなど、大きさは様々です。ですが胴長がわずか2センチ程であるヒメイカ、世界最小のイカなんだそうです。
ピタッとくっつくのは、外套膜の背中側にある粘着細胞から、くっつくための粘着物質をだしているのです。ヒメイカは3ヶ月程の寿命だそうで、ゼリー質の卵を数十個海藻やアマモに産み付けて生涯を閉じるそうです。 観察している水槽もいつしか10杯のヒメイカが同居し、数カ所に卵を産み付けて居なくなりました。その後、残念ながら稚イカは誕生しませんでしたが、卵が産み付けられた海藻は、半分ですが海に戻しておきました。
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○水産技術センター難解語解説シリーズ(その1) 「アンドン」
さて、この「アンドン」と聞いて、直ぐ「ああ、あれだな。」と判る方は、これはもう相当の通、それも種苗生産に詳しい方でしょう。
新星出版社の「実用国語新辞典」では、「木のわくに紙を張り、中に油ざらを置いて灯心に火をともす照明器具」と書かれています。我々が使っているアンドンは、仔魚を育てる時に使う道具で、その形が「木の枠に紙を張った行灯」に似ていたので、こう呼ばれるようになったのでしょう。
それでは、このアンドンの正しい使い方を解説させていただきます。まず、我々が使っているアンドンは、木の枠に「紙」ではなくて細かな目合いの「網」を張ったものです。
仔魚の飼育では、成長に伴って飼育水の交換が必要となります。ところが、遊泳力が少ない仔魚はホースで水を捨てる時に、水と一緒にホースの口から吸われ、排出されてしまいます。そこで、このアンドンの登場です。すなわち、水面にアンドンを3/4程度沈めておき、その中からホースで水を捨てれば、魚はホースに吸われずに済みます。
飼育水の交換は、汚れた水と一緒にゴミも排出するのが目的ですから、魚が抜けない程度に大きい目合いの網に交換されているのが理想です。そこで、各種苗生産機関では、多数の目合いのアンドン(枠は同じで、網の袋を交換する所もあります。)を用意することになります。魚の成長に合わせて交換しても、やはり網の表面にはゴミが付きますので、最低1日に1回はアンドンを抜いて水で洗ってから、水槽に戻します。
さて、ここで水槽に入れる時にどの位早く(いや、ゆっくりかな。)戻すかが問題となります。アンドンが水槽からなくなった時点で、魚たちは邪魔物がなくなって伸び伸びと水槽中を泳ぎ回る訳ですが、ここでいきなりアンドンを入れると、アンドンが入る水域にいた魚はアッという間にアンドンの底に寄せられてしまい、傷ついてしまいます。従って、アンドンを入れる時には、仔魚が泳ぎ去るのをイメージしながらゆっくり入れることになります。うっかりアンドン洗浄の仕事をアルバイトさんに頼んだ時など、随分、ヒヤリとさせられたものです。
また、仔魚に遊泳力が無いうちは、夜間の暗くなる時にエアレーションの流れでアンドンに仔魚が寄せられて傷つきます。このようなことがないように、アンドンを外してから帰りました。そう、仔魚期の「夜アンドン」は役に立たないのです。
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