神奈川県水産技術センター メルマガ502

掲載日:2016年10月7日

神奈川県水産技術センターメールマガジン  502号    2016年10月7日号

□ 研究員コラム

1 相模湾のマアジ(相模湾試験場 高村正造)

2 「ボウズコンニャク」じゃ売れません と 紫のインクの正体は?(イボダイ亜目のお魚にまつわる2つのお話) (船舶課 中村 良成)
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1 相模湾のマアジ(相模湾試験場 高村正造)

 今回はマアジについてお話します。マアジは小田原市の魚に指定されていて、一昔前は春になるとマアジがたくさん港に水揚げされていました。しかし、最近では小田原漁港での水揚げ量もガクンと減っており、太平洋側全体でもマアジの漁獲が減っている地域が多くなっています。現在マアジの資源は減少傾向にあるので、状況が好転するにはまだしばらく時間がかかる見通しです。しかし、相模湾の中でも、未だにある程度のマアジが漁獲され続けている漁場があります。相模湾で漁獲されるマアジは、東シナ海で生まれたマアジが回遊してきたものと、相模湾内や近隣地で生まれて成長した地付きの2パターンであると考えています。全体量から見ると東シナ海産のマアジが多いと思いますが、その比率などはほとんど分っていません。東シナ海産のマアジが減少している中、地付きのマアジ資源は今後更に重要になるので、相模湾試験場でも地付きマアジの調査・研究を進めていきます(写真1は大型の地付きマアジ、写真2は同サイズの回遊型マアジ)。

 大型の地付きマアジ

 写真1 大型の地付きマアジ

 大型の地付きマアジと同サイズの回遊型マアジ

 写真2 大型の地付きマアジと同サイズの回遊型マアジ

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2 「ボウズコンニャク」じゃ売れません と 紫のインクの正体は?(イボダイ亜目のお魚にまつわる2つのお話) (船舶課 中村 良成)

(1)「ボウズコンニャク」じゃ売れません

 オジサン、ヤマノカミ、コンペイトウ、ネジリンボウ、チカメキントキ、ヨダレカケ、ヨゴレ・・・・みんな図鑑に載っている魚の名前(標準和名)です。面白い名前ですねー。

 そんな珍名魚の筆頭格といえば「ボウズコンニャク」でしょう。イボダイ亜目エボシダイ科の、メダイを小さくして鱗を粗くしたような、鈍いメタリックの黒灰色の魚です。相模湾でも夏になると南から黒潮に乗ってやって来た10cm位の幼魚が定置網に紛れ込みます。毎年8月第一週の「小田原みなと祭り」でその日に取れた定置網の魚の展示を長年行ってきましたが、小さなボウズコンニャクの展示は定番でもありました。

 エボシダイ科の魚には身(肉質)が柔らかいものが多く、例えばハナビラウオの成魚は全長50cm以上になり一見メダイそっくり、見るからにおいしそうなのに、肉は白くてぶよぶよした脂肪の塊のような状態です。そんなことから「ボウズコンニャク」と言う名前が付けられたようです(ただ、この魚の頭が丸いというわけでもなく、「ボウズ」の由来はよく分かりませんが・・・)。

 さて、ちょうど10年前のことです。小田原のなじみの干物屋さんから「下関から仕入れた干物の小魚を売りたい。ボウズコンニャクだと思うんだが確認して欲しい」との連絡がありました。

 送られてきた魚を見ると、15cm位の小ぶりの魚で、メタリックな黒灰色の姿はまさにボウズコンニャクでした。早速、「御指摘のとおり、ボウズコンニャクですね」と連絡すると、「やっぱりそうですか、しかし、こんな名前じゃあ売れないですよ、結構美味しいんですが何とかなりませんか・・・」との返事(半干し状態になっていたボウズコンニャクは、焼いて食べると独特の旨みがあり、確かに美味しかったです)。

 「うーん、JAS法を違反するわけにいきませんからねえ」。2003年にJAS法が改正されて以来、勝手な名前をつけて魚を売ることは厳しく制限されるようになりました。

 なんとかならないものか・・・・といろいろと図鑑や文献をあたってみると、どうやら昔はボウズコンニャクは「チゴメダイ」とも呼ばれていたことが分かりました。昭和30年代の図鑑にはっきり「ボウズコンニャク(チゴメダイ)」と併記している事例も見つかり、「これならOK!」と、干物屋さんに報告しました。ただし、誤解を避けるためにもラベルには両名を併記したほうがいい旨伝えると、干物屋さんもそれは納得し、無事、ボウズコンニャクの干物はショーケースに並んだようでした(残念ながら、その売れ行きまでは確認できませんでした(笑))。

 エボシダイ科の魚には、もともと○○メダイと称するものが多く、混同を避けるためにも、ボウズコンニャクという名前に取って代わったようですが、その間の詳しい経緯は私も分かりません。魚の名前というのは学名(ボウズコンニャクならCubiceps whiteleggii (Waite 1894))のみが正式なもので、和名については特に「これにする」という決まりは無く、同一種が図鑑によって異なる名前になっている例も多々あります。JAS法の改正に伴って魚類学会でも「標準和名」について整理・統一していくこととなりましたが、まさか「ボウズコンニャク」が店頭に並ぶとは想定していなかったでしょう。

 ところで、このメルマガの読者なら、いろいろな魚や貝の食味を掲載している「ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑」のサイトはご存知でしょう。ここでは、なんとハナビラウオが「きわめて美味」と紹介されています(http://www.zukan-bouz.com/suzuki/ibodai/hanabirauo.html)。ちょっと信じられません。私も実物を数度確認していますが、ぶよぶよの白身はどうみても美味しいとは思えません。実際に県内の魚市場ではどこも「身がぶよぶよで売り物にならない」と、引き取らないのです。機会があれば、是非私も試食してみたいと思いますが、魚市場で引き取らないために浜で捨てられてしまうため、なかなか入手するチャンスがありません。永遠の課題になってしまいそうです。

(2) 紫のインクの正体は?

 次は今から約20年前のお話です。この年も猛暑で連日35℃近い日が続きました。ある昼休み、泳ごうかと思って水技Cの前の海をみると、大量の小型のクラゲが漂っていました。体が透明で一見するとアンドンクラゲのようですが、触手や内臓が鮮やかな赤紫色をしており、採集して調べた結果オキクラゲと判明しましたが、ミズクラゲやアンドンクラゲよりも毒が強いとのことで、泳ぐのをやめました。 

 一方、この年は東京湾の底曳網では梅雨明けごろからイボダイの豊漁にわいていました。シャコの不漁が漁業者の皆さんを悩ませていた中での数少ない明るい話題でした。ちょうど春頃から黒潮が接岸傾向にあったため、これに乗って東京湾へ来遊したのではと考えられていました。

 ヒラメの市場調査の際に漁業者に聞いたら、オキクラゲは東京湾にも多く、「こんなクラゲはじめてみた」とか、「結構痛いクラゲだ」とか話題になっていることがわかりました。

 オキクラゲも黒潮に乗ってまさに沖からやってきたのは間違いないでしょう。「イボダイはクラゲを食べるから、ひょっとしたらオキクラゲを追いかけてやってきたイボダイもいるだろうな・・・・・・・・。」

 こんなことを考えていたある日のこと、横浜中央市場の保健所の研究員が水技Cを訪ねてきました。たまたま私が対応することになりお話を伺うと「東京湾産のイボダイを買ったら、肛門から紫色の液体が出てきた。インクか何かの薬品ではないか?こんな魚を売っていいのか、その正体を調べて欲しい、と市民から検査依頼が来たが皆目見当がつかない。何か手がかりを教えて欲しい。」というのです。

 これはオキクラゲを食べたからに違いない、紫色の液体はオキクラゲの触手や内臓に由来する色だろう、と即座に思いつきました。保健所の研究員も「確かにこの紫色の液体を検鏡すると刺胞の残骸のような棒状のものが見えます」といいます。

 クラゲとなれば江の島水族館(エノスイ)の出番、研究員氏にエノスイさんを紹介しました。

 その後、保健所から、「やはり紫色の液体はイボダイが食べたオキクラゲに由来するものでした。インクや薬品などではない、イボダイを食べても全く問題はない、と説明したところ、依頼者も納得しました。当初、依頼者はかなりの剣幕で持ち込んできてこちらも苦慮していました。まさかイボダイが食べたクラゲが原因とは思いもよりませんでした。」とお礼の電話がありました。

 保健所-水産技術センター-江の島水族館 の連係プレーで見事に魚屋さんとイボダイの濡れ衣を晴らすことができました。

 しばらくすると「今年は大発生・海水浴はオキクラゲにご用心」という記事が新聞各紙を賑わしました。

 これも日々海を見て漁業者の方々とお話しをしていたからこそ即座に思いついた次第です。自然を相手にする職業につく者として、当たり前ながら日々の観察が重要なことを改めて再認識させられたお話でした。

 こんな原稿を書いていて久しぶりに浜回りがしたくなりました。やっぱり我々はどこにいようがしょせんは「浜を回って何ぼ」の職業ですよね。 最近は城ヶ島でくすぶることが多い自分を少し変えないといけません。

 なお、いろいろと画像を添付しようと思ったのですが、なにぶん昔のお話で写真類を過去の資料から探し出すことができませんでした。「ボウズコンニャク」とか「オキクラゲ」で検索するといろいろな画像がヒットしますのでそれらをご覧ください(便利な時代になりましたね。)

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