松田知幸(オリンピック・ライフル射撃) 「精神力」で戦えるスポーツ 瀬賀亜希子(パラリンピック・ライフル射撃) 「指一本」だけで出来る競技 ■お二人の面識はありますか? (瀬賀)私は知っています(笑)すごく有名な選手なので。国体でも良く見ています。でも、会うのは初めてです。 (松田)はい、ちゃんと対談みたいなものをするのは初めてです。 ■射撃の魅力・見所、あとアピールポイントとかあればお聞きしたい。 (松田)そうですね。まず射撃の魅力は、見て楽しむものではなく、やって楽しむものだと思っています。その射撃するという行為が、どうしても抵抗感があったり、知らない部分が多いので、まずはそこに興味を持っていただいて、体験してもらいたいなって思います。射撃は「メンタルのスポーツ」と言われていますので、自分をコントロールして、技術を高める競技なので、それを体験していただいた上でないと、その、プレッシャーがあると外れるとか当たるとか、そういうのがわからないので、まずはそこを体験してもらいたいなと思います。あとは、魅力としては、10点のど真ん中に当たった時は、めちゃくちゃ気持ちいいと言うか、爽快感が得られます。     的に当たった時は気持ちいいじゃないですか!空き缶を置いて石を投げて当たったら気持ちいいのと同じ体験ができます。あとは、やっぱり銃という、普段、普通に手に取れない物を扱うので特殊かなと思います。ただ、許可のいらない銃もあるので、是非興味を持っていただきたいと思います。 ■松田選手の種目は、2時間で60発も撃つ競技とのことですが、他の競技も同じなのでしょうか? (松田)私の競技はそうなんですけど、種目によって違います。 ■自分の「この射撃を見てほしい」というところを教えてください。 (松田)神奈川県警のおまわりさんだよというのを知って、見てもらえれば(笑)「あ、おまわりさんってすごいんだな」っていう。 射撃ってやっぱり見てもあんまり面白く・・・って言っちゃおかしいんですが、そんなに興奮して「やったー!」というのがありません。決勝だけは、一発一発順位が変わるんですけど、予選のときは60発ひたすら打ち続けるだけなので、面白みがそれほどないので、イケメンを探してもらったり、かわいい女子選手を探してもらったり(笑) ■瀬賀選手のアピールポイントを教えてください。 (瀬賀)パラリンピックというのは、私みたいに手が悪い選手でも、銃をスタンドに乗せて撃てるんですね。自分で銃の重さを感じないで撃てる、指一本だけで出来る競技なんです。なので、結構重度(の障害)の方でも、指が動いて、的が狙えれば、できる競技です。ビームライフルもあるので、まず、そちらから体験していただければ、難しさとか楽しさ、そういうのがわかると思います。 ■神奈川県内にそういったビームライフルを体験出来るところがありますか? (瀬賀)伊勢原でできます。 (松田)横須賀でもできます。 (瀬賀)ぜひぜひ皆さんに体験していただきたいですね。 ■集中力を非常に必要とする競技ということですが、集中力を高めるためのトレーニングや習慣とか、そういうものはありますか? (松田)私は特段集中力を高めることに繋げた、これというものはないんですけれど、集中力って、私個人的な意見ですけど、あくまでも勝利に対する思いというか執着心というか、「勝ちたい」という思いが集中だと思います。「途中で諦めると集中力が切れる」と一般的に言われています。ということは、(集中力が切れたときが)勝利を諦めた瞬間です。その勝利に対する思いが強ければ強いほど、集中度合いというのが高くなっていくので、その思いを大きくするために日々努力しているというのが、私は集中力を高めるトレーニングだと思って毎日過ごしています。 (瀬賀)私は今日、松田選手の(集中力のトレーニングの)話を聞いて、すごく勉強になりました。私は(集中力のトレーニングについては、)特にないんですけれど、普段ぼーっとしていることが、集中力につながったり、あと、メダカを見るのが好きで、メダカのひらひらした感じとかを見て、没頭していると30分とかあっという間に過ぎていったりします。そういうことが集中力に繋がっているのかもしれないと思います。 ■お二人がお互いに質問したいことはありますか。 (瀬賀)今日松田さんが目の前にいらっしゃるだけで緊張しちゃうんです。 (松田)もっと交流があったらいいんですけどね。なかなか交流がないので。同じ競技でもこれだけ交流が少ないと、ちょっとさびしいなと思いました。 ■オリンピックの選手同士とか、パラリンピックの選手同士とかは交流がありますか? (松田)大会の後とかで、式典が多くなってきたりすると。田口さん(パラリンピック射撃選手の田口亜希さん)とかは、北京のときに一緒だったので、会えばっていうかたちなんですけど。瀬賀選手は、所属は日本ライフル射撃協会ですか? (瀬賀)日本障害者スポーツ射撃連盟です。 (松田)あ、違うんですね。協会が違うこともわからないくらいでした(笑)。なので、交流がもっと増えればいいなと思います。 (瀬賀)射撃場では、話してくださる健常者の方もたくさんいて、指導していただいたりとかもしています。 (松田)どこで練習しているんですか? (瀬賀)伊勢原と、藤枝(静岡県)と、世田谷(東京都)です。 ■今後リオが始まってきますが、いつリオに行かれるのでしょうか? (松田)私は(7月)20日に日本を出発しますが、ヨーロッパで合宿してからなので、リオに入るのは7月31日とか、8月1日とかになると思います。 ■射撃という競技は、早く現地に入って気候に慣れたり、会場に慣れたりするものではないのでしょうか? (松田)制限がかかっているので、あんまり早く行っても会場が使えないんですね。公平性を持たせるために。早く入れば、練習がずっとできるというわけではないです。なので、皆場所を変えて合宿をします。ブラジルに入って、違う都市、サンパウロとか地方都市で練習してからリオに入るという国もあると思います。我々はヨーロッパで合宿して、リオに行きます。 (瀬賀)8月30日に出発です。 ■競技によって現地に入る時期はだいぶ違うんですね。 (松田)そうですね。まあでも、早く入れればそれが一番いいですよね。競技性にもよるとは思いますが。 ■神奈川県の思い出とか、ここのご飯がおいしいとか、ありますか? (松田)私は神奈川の横浜生まれ横浜育ちで、仕事も神奈川県警ですし。最初の赴任先も加賀町警察署だし、ずーっとここにしかいないので、ゆかりもなにもないです、神奈川以外を知らないので(笑) (瀬賀)私は東京の三鷹出身で、4年くらい神奈川に住んでいます。好きな場所は箱根です。あと、箱根駅伝が大好きです。毎年箱根駅伝で(私の1年が)始まっていくんです。 ■実際に箱根駅伝を見に行かれたりはしますか? (瀬賀)見に行ったこともあります。住んでいるのは読売ランドの方なので、ほとんど東京寄りなんですね。なので、やっぱりついつい東京の方に足を運んでしまう。 ■神奈川県民の皆様にメッセージをお願いします。特に、東京オリンピック・パラリンピックを目指す世代に向けて、お願いします。 (松田)私がオリンピックに出るようになったのは、神奈川県警に入ってからです。競技を26歳から始めて、3大会連続でオリンピックに出ているので、年齢・体格・性別問わず戦える競技が射撃だと思います。パラの方でも銃を台に置いて、という話がありましたが、筋力を必要としないという部分があるので、集中力だったり、精神力で戦えるスポーツだと思います。まず子どもたちには、射撃を行うという道もあるし、早く始めればそれだけ優位に立てることにも繋がるし、逆に遅くても全然勝負できる競技なので、そういうのも、射撃競技の魅力の1つだと思います。 あとは、自分が経験して、夢だったり目標だったりを持っていると強いと思います。是非、夢や目標を見つけてもらいたい。スポーツじゃなくても、おまわりさんになりたいとか、看護婦さんになりたいとか、そんな希望や夢を、1つでも多く持ってもらいたいなと思います。 (瀬賀)私は、動くことが好きだったんですけれど、17歳の時に病気になりまして、動くことができなくなってしまい、運動することを諦めていたんですね。 でも、ある日テレビを見て、ビームライフルに出会い、自分ができないって思っていても、他の人が情報を与えてくれることで、諦めていたことができるようになりました。つまり、いつもアンテナを張っていれば、希望はかなうということです。 ■リオ大会に向けての意気込みと、東京2020大会に向けての思いを教えてください。 (松田)リオ大会での目標はメダル獲得です。 東京2020大会も、東京が決まった時点で「やろう」というふうには思っていましたが、東京に出る頃には、上から数えた方が早い年齢になっていますので(笑)。今でも(上から数えた方が)早いくらいなので。 どうせなら、注目されるかなと思いますので、年齢でも1番上を目指したい(笑)。4大会連続、5大会連続というのも、連続している限りは、可能性があるので。途切れない限りはやろうかな、と思っています。 (瀬賀)目指すところは、自己新記録とファイナル(決勝戦)進出です。 東京2020大会に関しては、最近ちょっとモチベーションと体力の関係で、無理かなと思っているんですけれども。多分、最初は目指していると思いますけど、途中でお手伝いに回る可能性もあるかもしれません(笑) 松田知幸(まつだ ともゆき) 1975年12月12日、神奈川県生まれ。警察学校へ入学、射撃テストで好成績を残し特別訓練生に選ばれる。2007年ワールドカップで5位となり北京五輪代表に初選出、8位に入賞。2012年にロンドン五輪に出場するも、惜しくも予選敗退。2016年1月のリオ五輪アジア予選では50mピストルで1位になり、リオネジャネイロオリンピックでのメダル獲得が期待されている。 瀬賀亜希子(せが あきこ) 1965年10月12日、東京都生まれ。17歳の時に関節リウマチを発症し、人工関節の手術を受ける。昔から好奇心が強く、手術後「何かを始めたい」という思いから障害者射撃を始める。わずか2年でアテネパラリンピックに出場し8位に入賞。