3 やむを得ない事由による措置 (1) やむを得ない事由による措置の概要 ・やむを得ない事由による措置は、高齢者の生命や身体に関わる危険性が高く、放置しておくと重大な結果を招くことが予測された場合に、市町村が老人福祉法に基づき実施します。 やむを得ない事由による措置を実施するうえでのポイント ○市町村が、高齢者虐待等を理由により、介護サービスの利用が著しく困難な65歳以上の高齢者を、介護サービスの利用につなげる。 ○老人福祉法に基づく介護サービスに限り、介護サービスを利用することができる。 ○高齢者の身体の安全を優先として、措置を検討する。 ○本人の同意があれば、養護者が反対していても、措置することができる。 (2) やむを得ない事由による措置の法的根拠 ・高齢者虐待防止法第9条により、措置の実施が規定されています。 高齢者虐待防止法第(通報を受けた場合の措置) 第9条2 市町村又は市町村長は、第7条第1項若しくは第2項の規定による通報又は前項に規定する届出があった場合には、当該通報又は届出に係る高齢者に対する養護者による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護が図られるよう、養護者による高齢者虐待により生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者を一時的に保護するため迅速に老人福祉法第20条に規定する老人短期入所施設等に入所させる等、適切に、同法第10条の4第1項若しくは第11条の第1項の規定による措置を講じ、又は、適切に、同法第32条の規定により審判の請求をするものとする。 ・老人福祉法では、次のサービスがやむを得ない事由による措置で利用できることとされていいます。 訪問介護、通所介護、短期入所生活介護、小規模多機能居宅介護、 認知症対応型共同生活介護、特別養護老人ホーム ・「やむを得ない事由」とは、厚生労働省老健局通知により、介護サービスの契約や介護保険認定の申請を期待することができず、介護サービスを利用することができない場合や、高齢者虐待のからの保護、養護者支援のために必要性がある場合とされています。 老人ホームへの入所措置等の指針について (平成18年3月31日付け老発第0331028号厚生労働省老健局長通知) 第1 入所措置の目的 法第11条の規定による養護老人ホームへの入所等の措置は、65歳以上の者であって、在宅において日常生活を営むのに支障があるものに対して、心身の状況、その置かれている環境の状況等を総合的に勘案して、適切に行われるよう努めなければならない。 なお、同条第1項第2号の規定による特別養護老人ホームへの入所措置については、やむを得ない事由により介護保険法(平成9年法律第123号)に規定する介護老人福祉施設に入所することが著しく困難であると認められるときに限られるものであるが、「やむを得ない事由」としては、 (1) 65歳以上の者であって介護保険法の規定により当該措置に相当する介護福祉施設サービスに係る保険給付を受けることができる者が、やむを得ない事由(※)により介護保険の介護福祉施設サービスを利用することが著しく困難であると認められる場合 (※)「やむを得ない事由」とは、事業者と「契約」をして介護サービスを利用することや、その前提となる市町村に対する要介護認定の「申請」を期待しがたいことを指す。 (2) 65歳以上の者が養護者による高齢者虐待を受け、当該養護者による高齢者虐待から保護される必要があると認められる場合、又は65歳以上の者の養護者がその心身の状態に照らし養護の負担の軽減を図るための支援を必要と認められる場合が想定されるものである。 老人福祉法施行令(昭和38年7月11日政令第2417号) (居宅における便宜の供与等に関する措置の基準) 第5条 やむを得ない事由により同法に規定する通所介護、認知症対応型通所介護、介護予防通所介護又は介護予防認知症対応型通所介護を利用することが困難であると認められる場合において、又は当該65歳以上の者が養護者による高齢者虐待を受け、当該養護者による高齢者虐待から保護される必要があると認められる場合若しくは当該65歳以上の者の養護者がその心身の状態に照らし養護の負担の軽減を図るための支援を必要とすると認められる場合において、その生活の改善、身体及び精神の機能の維持向上等を図ることができるよう、当該者又はその養護者の身体及び精神の状況並びにその置かれている環境に応じて適切な法第5条の2第3項の厚生労働省令で定める便宜を供与することができる施設を選定して行うものとする。 ※他のサービスは第5条第2項以降を参照して下さい。 ・しかし、やむを得ない事由の想定は、あくまでも想定ですので、高齢者の生命又は身体の安全を優先し、柔軟に解釈をすることも考えられます。 ・なお、各市町村において要綱、要領や施行細則等により、老人福祉法による措置に関する取り決めがありますので、それらを確認したうえで対応します。 (3) 分離保護の判断 ・分離保護は、対象者を高齢者虐待防止法では「養護者による高齢者虐待により生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者」とされています。 ・その必要性は、相談・通報の内容、事実確認調査の結果など、随時、市町村として組織的に判断をします。 ・そのため、分離保護が必要と判断されるような状況がみられた場合は、担当者が個人的に判断するのではなく、コアメンバー会議、個別ケース会議などを随時開催し、判断の根拠、決定の経過などを記録として残しておきます。 ・保護の必要性の判断は、次のような内容について総合的に検討する必要があります。 例) ○高齢者が、虐待を原因として、家を出たいなど、保護を求めている。 ○頭部外傷、腹部外傷、重度の褥瘡などで、重篤な外傷がある。 ○衰弱状態である。 ○意識混濁があり、意識レベルが低い状態にある。 ○重い脱水症状、栄養失調がある。 ○高齢者が、強く自殺を訴えている。 ○養護者が、高齢者に対して、殺意等を訴えている。 ○養護者が、高齢者に対して、暴力をふるっているところを発見した。等 ・なお、平成15年9月8日開催の全国介護保険担当課長会議において、やむを得ない事由による措置の適正な実施と高齢者が措置に関する費用負担ができない場合でも、必要な時は、まず、措置を実施することとされています。 「平成15年9月8日開催 全国介護保険担当課長会議資料」 6.連絡事項 (3) 計画課関係事項 ウ「やむを得ない事由による措置」について ○老人福祉法上、市町村は職権による措置(やむを得ない事由による措置)を行うことができることとされているが、介護保険の施行後、こうした措置制度への認識が希薄な市町村が出てきているのではないかとの指摘がある。 一方、要介護高齢者の中には家族から虐待を受けている事例があるとの報道があり、このような場合には、「やむを得ない事由による措置」の実施が求められるところである。 したがって、各都道府県におかれては、管内の市町村に対し、必要な場合には適切に措置を行うよう指導の徹底を図られたい。 なお、一部の市町村において、家族が反対している場合には措置を行うことは困難であるとの誤った見解が示されているが、「やむを得ない事由による措置」は、高齢者本人の福祉を図るために行われるべきものであり、高齢者本人が同意していれば、家族が反対している場合であっても、措置を行うことは可能である。 また、高齢者の年金を家族が本人に渡さないなどにより、高齢者本人が費用負担できない場合でも、「やむを得ない事由による措置」を行うべきときは、まず措置を行うことが必要である。 更に、高齢者本人が指定医の受診を拒んでいるため要介護認定できない場合でも、「やむを得ない事由による措置」を行うことは可能であるので、これらの諸点について、管内の市町村に周知徹底願いたい。 ○高齢者虐待は、特に痴呆性高齢者の権利擁護と密接な関係を有する問題であり、必要に応じて成年後見制度の活用に結び付けていくための支援が求められる。 各都道府県におかれては、管内の区市町村に対して、成年後見等開始審判の市町村長申立制度や、成年後見制度利用支援事業(介護予防・地域支え合い事業のメニュー事業)の積極的な活用が図られるよう指導願いたい。 ・やむを得ない事由による措置は、高齢者虐待防止法の第9条第2項により、「養護者による高齢者虐待により生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者」を対象としており、また国のマニュアルでは次のようなフローで検討するとされています。 ・ただし、高齢者の生命又は身体の安全を第一に考えますので、高齢者の判断能力等について、柔軟な対応が必要な場合もあります。 (4) やむを得ない事由による措置の手順 ・各市町村の要綱、要領や施行細則等で、やむを得ない事由による措置の対応を確認のうえ、対応します。 ・例として、次のような手順があります。 @事実確認調査・立入調査 A分離保護の必要性の判断 B要介護認定の確認 措置を行おうとしている高齢者が、要介護認定を受けているかどうかを、市町村が確認します。 Cサービス提供の調整 どのサービスを利用し、やむを得ない事由による措置を行うかを検討するとともに、措置で利用する施設・事業所に、空き状況や利用の可否について問い合わせます。 Dやむを得ない事由による措置の要件の確認 高齢者の状況、利用するサービスが、各市町村で定めている要綱等で、やむを得ない事由による措置を行うことが可能かどうかについて、確認します。 Eやむを得ない事由による措置の決定 やむを得ない事由による措置は、市町村として実施しますので、組織的に決定します。ただし、緊急性が高い場合は、一旦決定をしてから、後日決裁を取る必要がある場合もあります。 Fサービスの提供 施設・事業所が適切なサービスを利用者に提供します。 サービスを提供する中で、養護者等による面会制限が必要な場合は、施設・事業所と事前に対応方法を協議しておきます。 G費用の支弁 24ページの「(5) やむを得ない事由による措置の費用」を参照してください。 H高齢者等からの費用徴収 各市町村で定めている要綱等に基づき、高齢者または家族等から費用を徴収します。 Iやむを得ない事由による措置解除に向けた支援 やむを得ない事由による措置は、対応の終了ではありません。 やむを得ない事由による措置解除に向けて、成年後見制度の利用や養護者への支援などを行います。 Jやむを得ない事由による措置の解除 原則、契約によりサービスの利用が可能となった時点で、やむを得ない事由による措置は解除となります。 しかし、高齢者や家族の状況により、やむを得ない事由による措置が解除となったとしても、支援が必要な場合があります。 措置が解除になり、あとは事業所に全てまかせてしまうことにより、再度、高齢者虐待が発生することも考えられますので、事業所と連携を継続して取っていく必要があります。 (5) やむを得ない事由による措置の費用 ・やむを得ない事由による措置の費用は、各市町村の要綱、要領や施行細則等により、老人福祉法による措置に関する取り決めがありますので、それらを確認したうえで対応します。 ・措置に関する介護費は、要介護認定の結果に基づき、要介護に応じた介護報酬の9割相当分は介護保険給付が行われます。 ・残り1割を、高額介護サービス費の適用、本人の負担能力を考慮したうえで、本人に請求します。 「平成12年3月7日開催 全国高齢者保健福祉関係主管課長会議資料」 3 平成12年度以降の措置の取り扱いについて (3) 措置の場合の費用負担関係 ア 特別養護老人ホーム 「やむを得ない事由」により特別養護老人ホームに措置された者の費用負担については、9割(+食費)相当分は、介護保険給付が行われることから、残りの1割(+食費の標準負担額)相当分について、措置費を支弁することになる。(改正後の老人福祉法第21条の2) 老人福祉法第28条に基づく費用の徴収については、この1割程度相当分を対象として、高額介護サービス費の適用を勘案した介護費及び食費に関する利用者負担と同水準の費用徴収を行うこととする。 (保険給付の場合の利用者負担と措置の場合の費用徴収を同一水準とする。) イ 在宅サービス 基本的に特養の場合と同様、9割相当分は介護保険給付が行われ、1割相当分について措置費を支弁した上で、この1割相当分を費用徴収することになる。 (市町村が一旦支払った上、市町村が利用者から当該額を費用徴収する。) やむを得ない事由による措置に関するQ&A Q:本人が施設入所を拒否した場合でもやむを得ない事由による措置で対応することができますか。 A:全国介護保険担当課長会議(平成13年9月8日開催)において、やむを得ない事由による措置は、本人や家族が拒んでいたとしても、行うことが可能であり、適切に措置が行われるように連絡事項としてあげられました。 「平成13年9月8日開催 全国介護保険担当課長会議資料」 6.連絡事項 (3)計画課関係事項 (3) 「やむを得ない事由による措置」について 老人福祉法上、市町村は職権による措置(やむを得ない事由による措置)を行うことができることとされているが、介護保険の施行後、こうした措置制度への認識が希薄な市町村が出てきているのではないかとの指摘がある。 一方、要介護高齢者の中には家族から虐待を受けている事例があるとの報道があり、このような場合には、「やむを得ない事由による措置」の実施が求められるところである。 したがって、各都道府県におかれては、管内の市町村に対し、必要な場合には適切に措置を行うよう指導の徹底を図られたい。 なお、一部の市町村において、家族が反対している場合には措置を行うことは困難であるとの誤った見解が示されているが、「やむを得ない事由による措置」は、高齢者本人の福祉を図るために行われるべきものであり、高齢者本人が同意していれば、家族が反対している場合であっても、措置を行うことは可能である。 また、高齢者の年金を家族が本人に渡さないなどにより、高齢者本人が費用負担できない場合でも、「やむを得ない事由による措置」を行うべきときは、まず措置を行うことが必要である。 更に、高齢者本人が指定医の受診を拒んでいるため要介護認定ができない場合でも、「やむを得ない事由による措置」を行うことは可能であるので、これらの諸点について、管内の市町村に周知徹底願いたい。(市町村が一旦支払った上、市町村が利用者から当該額を費用徴収する。) Q:高齢者が入院治療を必要な状況ですが、預金通帳等を養護者が保管しており、費用負担ができない場合、どのような対応をすることができますか。 A:やむを得ない事由による措置は、老人福祉法に基づく福祉サービス利用に関する措置となるため、入院等の医療に関する利用はできません。また、医療法等に、老人福祉法における「やむを得ない事由による措置」のような制度はないため、市町村等が職権で、高齢者に医療サービスを受けさせ、医療費を支弁するような制度はありません。そのため、家族を説得し、必要な医療を受けさせることが基本となります。 低所得者などの生計困難者に対しては、社会福祉法第2条第3項の規定により、無料・低額診療を行う病院があります。病院によって、減免の基準などが異なるため、事前に病院の医療ソーシャルワーカー等に相談し、協力が可能かどうか調整をしておく必要があります。 Q:特別養護老人ホームに措置を依頼する際、定員を超過してしまうことがわかりましたが、定員を超過した入所を依頼することはできますか。 A:厚生労働省のマニュアルでは、定員超過について次のような考え方があげられています。 ○指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生労働省令第39号)(抜粋) 第25条 指定介護老人福祉施設は、入所定員及び居室の定員を超えて入所をさせてはならない。ただし、災害、虐待その他のやむを得ない事情がある場合はこの限りではない。 ※ 「虐待」の文言は平成18年4月施行に併せ改正することとしているものです。単なる特別養護老人ホームへの入所措置であれば、介護報酬上の減算の対象外となるのは定員の5%増(定員50人の特別養護老人ホームでは2人まで)ですが、虐待に関わる場合であれば、措置による入所であるかどうかを問わず、かつ、定員を5%超過した場合であっても、介護報酬の減算対象とはなりません。 ・そのため、やむを得ない事由による措置による入所である場合は、一定の基準により定員を超過することができます。 ・ただし、やむを得ない事由がなくなった場合は、速やかに定員を超過する利用を解消する必要があります。 ・また、居室に空きがない場合、原則はやむを得ない事由による措置は、居室を使用することとなっていますが、虐待発生時は、高齢者の保護を優先し、措置を行う居室がない等、真にやむを得ない場合は、居室が使用できるまでの短期間であれば静養室等を用いることも選択肢の一つとして考えることができます。 厚生労働省「国民の皆様の声・集計結果報告票(地方自治体・本省受付分)」平成22年8月13日〜8月19日受付分 問:「虐待の理由により、やむを得ない事情として定員超過している特別養護老人ホームに入所していただく場合、静養室を用いることは可能であるか。」 答:「居室以外の部屋を用いる場合に、静養室を用いることは手段として選択されうるものであるが、退所等の理由により入所者数が減少した場合は、速やかに居室に移動していただく必要がある。」