神奈川県衛生研究所

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[2011.9.16更新]


放射性物質と健康への影響に関する
基礎知識について

  3月11日の東日本大震災に伴い福島第一原子力発電所事故が発生し、放射線被ばくについて大きな関心が寄せられていますが、神奈川県衛生研究所では従来から環境放射線量や食品・水道水・海水などの放射能濃度を測定してきました。
   「県民の皆様の健康と安全を守る」ことをミッション(使命)としている私たちは、各種測定を的確に行うとともに、県民の皆様が測定結果を適正に判断し、冷静に行動していただけるよう情報提供を行ってまいります。
  そこで、今回は「健康への影響」をキーワードに、改めて基礎的な事項をお伝えいたします。

放射線と放射性物質

  すべての物質は原子でできています。多くの原子は安定していますが、中には不安定でエネルギーを放出して別の原子に変わるものがあります。その時に出る強いエネルギーが「放射線」です。
   「放射線を出す物質」を「放射性物質」といい、「放射線を出す能力」が「放射能」です。「ヨウ素」や「セシウム」は自然界にも存在する原子ですが、ヨウ素 -131 やセシウム -137 などはウランの核分裂によってできる人工の放射性物質です。
  「放射線」には、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線などがあり、アルファ線は紙1枚で遮断できますが、例えばエックス線は人体を通過するため、医療に利用されていることはよく知られています。

放射線が体に与える影響

  放射線のエネルギーで細胞を作るたんぱく質など分子を破壊します。分子は原子と原子がつながってできており、このつなぎ役をしているのが電子です。放射線はこの電子をはじき飛ばして原子同士の結合を切ってしまいます。
  また、放射線は細胞や核の中の DNA (デオキシリボ核酸)を壊しやすく、 DNA は少し壊れても元にもどるが、たくさん壊れると細胞ががん化することもあります。

ベクレル (Bq) とシーベルト (Sv) の違い

  ベクレルは放射線を出す物質の側からみた放射能の強さを表す単位で、放射線を出すのに 1 秒間に何個の原子核が変化をしたかを意味します。
  例えば「野菜から○○ベクレル検出」というのは、その野菜から○○ベクレルの能力をもった放射性物質が見つかったということです。ベクレルはウランから放射線が出るのを発見したフランスの学者の名前です。
  一方、シーベルトは放射線を受ける側を主役にした単位で、放射線のエネルギーをどれくらい吸収し、影響を受けたかを表します。人体への放射線の影響は、受けた放射線の種類(アルファ線、ガンマ線など)によって異なるため、放射線の種類ごとに定められた放射線荷重係数を吸収線量値(グレイ、 Gy )に乗じて線量当量(シーベルト、 Sv )を算出します。
  したがって人体への影響を考える時はシーベルトを参考にします。シーベルトは放射線が人体に与える影響を研究したスウェーデンの学者の名前です。

ベクレル (Bq) とシーベルト (Sv) の換算式
受ける放射線量(ミリシーベルト、 mSv )=換算係数×放射能の強さ(ベクレル / キログラム Bq/kg )×飲食量
    《例1》
      水道水にヨウ素 -131 ( 8.59Bq/kg )セシウム -137(0.45Bq/kg) 、セシウム -134 ( 0.28Bq/kg )が含まれていると仮定し、この水を成人が1日あたり 1.65 リットル、 29 日間飲んだ場合。
   
      ヨウ素 -131  : 0.000022( 換算係数 ) × 8.59 × 1.65 × 29 =
0.009 mSv
 

セシウム -137 :

0.000013( 換算係数 ) × 0.45 × 1.65 × 29 =
0.00028mSv
  セシウム -134 : 0.000019( 換算係数 ) × 0.28 × 1.65 × 29 =
0.00025mSv
   
合計      0.00953mSv
   
(=約10μSv)
  *この値は健康に影響を与えるレベルではありません。
  《例2》
    放射線医学総合研究所では、東京に住む人が 1 ヵ月間に受けた累計放射線量 (3月14 日~4月11日) を推計し、外部被ばく線量は 0.016mSv 、内部被ばく線量は 0.1mSv で合計約 0.12mSv だったと公表しています。
   
外部被ばくとは… 身体の外にある放射性物質からの被ばく
内部被ばくとは… 消化器や呼吸器から体内に取り込まれた放射性物質による被ばく
この値は東京とニュヨーク間を航空機で往復したときに浴びる自然放射線量( 0.2mSv )より少なく、健康に影響を与えるレベルではありません。
       出典: 放射線医学総合研究所ホームページ https://www.nirs.qst.go.jp/data/pdf/i14_j6.pdf
 
検診による被ばく線量など

  胸部CT検査1回につき 6.9mSv 、マンモグラフィー1回につき 1~2mSv 、胸部 X 線検査1回につき 0.05mSv 、日本人の医療被ばく線量の年間合計は平均で 2.3mSv です。
  また、私たちは日常的に自然界から絶えず放射線被ばくを受けており、これを自然放射線といいます。日本人は1人あたり年間約 1.5mSv の自然放射線量を浴びているといわれています。

【その他の被ばく線量】
     JCO 事故で死亡した作業員 2 人の被ばく線量 : 6,000 ~ 20,000(mSv)
  99% 以上の死亡するとされる被ばく線量 : 6,000 ~ 7,000(mSv)
  約 50% の人が死亡するとされる被ばく線量 : 3,000 ~ 4,000(mSv)
  吐気などの症状 : 1,000(mSv) 以上
  リンパ球減少 : 500(mSv)
 

福島第一原発事故での緊急作業従事者に限って適用される被ばく線量限度

: 250(mSv)
  がん発症リスクが 0.5% 程度増加するとされる被ばく線量 : 100(mSv)
(解説)
    ・ 被ばくした放射線量がおよそ 100mSv 未満では、がん発症率が高まるというような明らかな証拠はありません。がん発症には食生活や喫煙など被ばく以外の要因も加わり、放射線の影響かどうかは特定できません。
また、 100mSv の放射線量では、わずかにがんで死亡する人の割合を高めると考えられています。日本人は元々約30パーセントががんで亡くなっています。仮に1,000名の方が100mSvの被ばくを受けたとすると、がんで亡くなる方が300名から305名に増加する可能性があります。
出典: 量子科学技術研究開発機構ホームページ  https://www.nirs.qst.go.jp/publication/rs-sci/e_learning/index.html
国際放射線防護委員会 (ICRP) は、放射線から人を守る国際基準として原発事故など緊急時は、一般人の場合で年間 20 ~ 100mSv の間に目安線量を定めています。その後回復期、復旧の時期に入ると、緊急時の目安線量よりは低く平常時の線量限度よりは高い、年間 1 ~ 20mSv の間に設定することもあります。
   (「放射能から人を守る国際基準~国際放射線防護委員会 (ICRP) の防護体系~(平成23年4月27日)より)

なお、児童生徒については、今後できる限り受ける放射線量を減らすという方向のもと、年間1~20mSvを暫定的な目安としていますので、20mSvをもとにすれば毎時3.8μSvが屋外活動の判断基準になります。具体的には、この値(毎時3.8μSv)で毎日8時間校庭に立ち、残り16時間を木造校舎に居ると仮定すると、放射線量は年間20mSvに到達することになります。ちなみに、暫定的な目安の下限である1mSvから導き出すとすれば、屋外活動の判断の目安は毎時0.19μSvということになります。
   (「福島県内の学校等の校舎・校庭等に利用判断における暫定的考え方について」文部科学省通知(平成23年4月19日)より)

  その後、学校が開校されている地域の校庭等については、毎時3.8μSv以上の空間放射線量率が測定される学校がなくなっていることから、夏季休業終了後、学校において児童生徒等が受ける線量については、原則年間1mSv以下とし、これを達成するため、校庭等の空間放射線量率については、児童生徒等の行動パターンを考慮し、毎時1μSv未満を目安とするとされました。
(「福島県内の学校・校庭等の線量低減について」文部科学省通知(平成23年8月26日)より)

小児甲状腺被ばく調査

 この調査は、小児への健康影響を把握するため、原子力安全委員会緊急助言組織からの依頼(平成23年3月23日付)により、福島県(いわき市、川俣町、飯館村)の子ども(0~15歳)1,149人を対象に、原子力災害現地対策本部が3月24日から30日にかけて実施した調査です。
 原子力安全委員会は、精密検査の基準値として甲状腺被ばく線量毎時0.20μSv以上としましたが、対象者のうち条件が整い測定できた1,080人は全員毎時0.10μSv以下でした。これを受けて、原子力災害対策本部原子力被災者生活支援チーム医療班では「問題となるレベルではなく、精密検査の必要はない」と判断しました。具体的には全体(1,080人)の55.4%が検出限界も含み測定値が「0」、「0」~0.01μSvが26.1%、0.02μSvが11.4%、最高値は0.10μSv(以上すべて毎時)でした。
今後の対応としては、3月11日に福島県に在住していた0歳から18歳の全員の方たちに対して、福島県が実施する県民健康管理調査において甲状腺の超音波検査を実施することとしており、原子力災害対策本部では調査への協力を呼びかけています。
 なお、甲状腺がんの大半は進行がゆっくりで、治療成績も比較的良好です。評価によってリスクの高低がわかれば、より注意深く、継続的に検診を行っていくものと考えます。

放射線被ばく対策

  ビタミンCなど活性酸素を抑える抗酸化作用のある物質が放射線被ばく対策に効果があるかということに関しては、放射線が細胞の中の水分にあたると水分子の電子を飛ばし、活性酸素を作るということがわかっています。
  ただ、低線量の放射線被ばくで出てくる活性酸素の量は、日常生活で出ている量に比べて桁違いに少ないので、ビタミンCなど抗酸化作用のある食べ物や健康食品をとっても、放射線被ばくによる健康影響の観点からはあまり意味がないと考えられています。

神奈川県衛生研究所 所長 岡部英男
  * 最後に、放射線の基礎知識や関連情報をわかりやすくまとめたホームページを紹介しますので、こちらもご覧ください。

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