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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.233

麻痺性貝毒(まひせい かいどく)について
― 安全に貝を楽しむために知っておきたいこと ―

2026年5月発行

1.貝毒とは?

貝毒は、海の中にいる特定のプランクトン(表1)が作り出す毒が、貝の体内にたまることで毒化した状態であり、食中毒の原因となります。しかし、貝そのものが毒を作るわけではありません。毒がたまった貝を人が食べると、口のしびれや手足の麻痺などの症状が出たり(麻痺性貝毒)、下痢や吐き気や腹痛の症状が出る(下痢性貝毒)ことがあります。この毒は加熱してもなくならないため、ゆでても焼いても安全にはなりません。見た目やにおいで判断することもできません。今回は麻痺性貝毒について掘り下げて説明します。

表1. 麻痺性貝毒を産生する主なプランクトン

2. どんな貝で起こるの?

麻痺性貝毒による毒化は二枚貝等で確認されています。身近なところでは、アサリ、ホタテ、カキ、ムラサキイガイ(ムール貝)及びアカザラガイなど二枚貝類の他、ホヤ類、一部のカニ類でも検出例があります(図1)。特に春から初夏にかけて、海の環境が変わりやすい時期に発生しやすい傾向があります。一方でその原因となっているプランクトンの種類によっては、秋や冬にも麻痺性貝毒が発生することがあります。

3. 食べるとどんな症状が出るの?

食べてから30分〜数時間以内に、口や舌のしびれ、手足のしびれ、体が動かしにくくなる、重い場合は呼吸がしづらくなる、といった症状が出ることがあります。命に関わる可能性もありますが、適切な医療を受ければ回復するケースが多いとされています。そのため、慎重な判断と迅速な対応が重要です。

4. 地域によって発生のしやすさは違うの?

麻痺性貝毒の原因となるプランクトンは、海の環境によって増えやすい場所と時期があります。そのため、地域ごとに発生のしやすさに違いがあります。

(1) 北海道・東北
日本で最も発生が多い地域です。春から初夏にかけて毒が出ることがあり、二枚貝の出荷が止まることもあります。海底に「シスト」と呼ばれる休眠状態のプランクトンが多く残り、翌年以降も発生しやすい環境が続きます。
(2) 関東〜中部
発生は北海道・東北ほど多くありませんが、春先に散発的に毒が出ることがあります。潮干狩りの時期と重なるため、自治体が特に注意喚起を行っています。
(3) 西日本
冬から春にかけて毒が出ることがあり、二枚貝の出荷が止まることもあります。

5. 市販の貝は安全なの?

スーパーや飲食店で販売されている貝は安全です。それは貝の毒性検査だけでなく海のプランクトンの監視など、自治体が定期的な取り組み(表2)を行っているからです。ただし、自分で海岸で採った貝や、友人や知人が採ってきた貝、規制中の海域で採取された貝などについては検査を受けておらず、毒が含まれている可能性があるため、注意が必要です。

表2 主な取り組みとその詳細

6.神奈川県の取り組みは?

神奈川県でも食の安全・安心のために、東京湾と相模湾を対象とした二枚貝の貝毒検査と貝毒原因プランクトンのモニタリング*1を定期的に行っています。過去約十年間では、麻痺性貝毒は不検出*2、プランクトン基準値超過もありませんでした(最新の貝毒情報2))。もし可食部の毒量が規制値を超えた場合には、県から生産者(漁業協同組合)に対して当該生産海域における二枚貝等の出荷自主規制を要請します。併せて、一般の方が二枚貝等を採捕して摂食しないよう、貝毒の発生状況について広く周知を図ります3)

  • *1神奈川県水産技術センター
  • *2不検出とは試験方法で正確に定量出来る最低濃度未満のことをいい、麻痺性貝毒は1.75MU/g未満

7. 麻痺性貝毒の化学的な性質は?

麻痺性貝毒は、熱や酸に強い性質を持っています。一般的な調理温度では分解されず、ゆでても焼いても毒は残ったままです。また、貝の見た目やにおい、味では毒の有無を判断できません。安全かどうかは、適切な検査を行って確認する必要があります。特徴についてもう少し詳しく説明しますと、麻痺性貝毒の主成分はサキシトキシン(図2)という化学物質で、「小さくて水に溶けやすく、分子構造が熱に強い」ため、普通の調理加熱では分解されません。また、毒が煮汁に溶け出すためスープを飲んでしまうと体内に毒成分をとりこんでしまいます。化学的にアルカリ性で分解されやすい事は分かっていますが、食品として食べられる条件ではありません。また、一部の毒成分は酸・加熱処理で別の形に変わり、毒性が強くなる場合もあるため、調理で「無毒化」するのはむしろ危険とされています4)



8. まとめ

麻痺性貝毒は、海のプランクトンが作る毒が貝にたまることで起こります。加熱しても毒は消えませんし、見た目でもわかりません。地域や季節によって発生のしやすさが異なるため、自治体は年間を通して監視し、基準を超えた場合は出荷を止めています。そのため市販の貝は安全ですが、自分で採った貝は特に注意が必要です。潮干狩りは楽しいレジャーですが、「毎年大丈夫だから今年も大丈夫」とは限りません。特に春先は毒が出やすい時期ですので、潮干狩りの前には自治体のホームページで必ず最新の「貝毒情報」を確認するようにしましょう。

神奈川県衛生研究所では、海外産、県外産を含め県内で流通している二枚貝の貝毒検査(麻痺性貝毒及び下痢性貝毒)を毎年実施しています。今後も検査と研究を通して、県民の食品の安全・安心に努めて参ります。

参考リンク

注:リンクは掲載当時のものです。リンクが切れた場合はリンク名のみ記載しています。

1) 食品安全委員会 麻痺性貝毒のファクトシートをご紹介外部サイトのPDFが別ウインドウで開きます
2) 令和8年度 貝毒原因プランクトンモニタリング結果外部サイトを別ウィンドウで開きます
3) 神奈川県 貝毒安全対策外部サイトを別ウィンドウで開きます
4) 厚生労働省 自然毒のリスクプロファイル:二枚貝:麻痺性貝毒外部サイトを別ウィンドウで開きます

(理化学部 萩尾 真人)

   
衛研ニュース No.233 令和8年5月発行
発行所 神奈川県衛生研究所(企画情報部)
〒253-0087 茅ヶ崎市下町屋1-3-1
電話(0467)83-4400   FAX(0467)83-4457

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