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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.230

畜水産物中のニトロフラン類の検査

2025年9月発行

お店にはおいしそうな肉や魚がたくさん並んでいますね。これらの畜水産物には医薬品が使われていることがあります。動物に使用する医薬品は動物用医薬品と呼ばれ、感染症、寄生虫の駆除、抗炎症及び成長促進など動物の様々な病気の治療や予防などに使用されています。一方で、使用された動物用医薬品は動物の体内に残留することがあり、その肉などを食べることで、薬剤耐性菌の出現、ホルモン作用及びアレルギーの誘発の原因となるなど、人の健康に影響を及ぼすことが懸念されています。そのため、当所では県内で流通している畜水産物の安全性の確保を目的とし、食品中に残留する動物用医薬品の検査を行っています。
今回は、当所で検査を実施している動物用医薬品の中でも、「ニトロフラン類」の検査についてご紹介します。

ニトロフラン類とは

ニトロフラン類とは、主に動物用医薬品として細菌性感染症の治療等に使用されるフラン系合成抗菌薬の総称です。ニトロフラントイン、フラゾリドン及びフラルタドンなどがあり、以下のような構造を持っています(図1)。現在は日本及び多くの諸外国において食用動物への使用が禁止されており、当所ではニトロフラントイン、フラゾリドン及びフラルタドンの3種類について検査を行っています。

過去の違反事例

日本では、飲食による健康被害の発生の防止を目的として、食品衛生法が定められています。この法律に関係する規格基準の中で、ニトロフラン類は、『食品において「不検出」とされる農薬等の成分である物質』に該当します。そのため、食品中からニトロフラン類が検出された場合、食品衛生法違反となります。違反となった食品は、廃棄や積戻しとなり、すでに流通している場合には回収等の措置を講じます。
検疫所における2006~2024年度の輸入時における輸入食品のニトロフラン類の違反事例1)を調べると、ニトロフラントインは2009年度以降、フラルタドンは2012年度以降検出されていませんが、フラゾリドンは毎年度検出されています(図2)。

違反があった食品の内訳を見ると、フラゾリドンはえびが7割以上を占めています。フラルタドンは、鶏肉やうなぎに多く見られ、次いでえびからも検出が確認されています(図3)。ニトロフラントインは2006年度に3件と2008年度に2件の計5件の事例があり、この内4件はえびからの検出でした。

検査の方法

ニトロフラン類について、当所では県内で流通しているえび、うなぎ、鶏肉を対象に厚生労働省の定めた試験法2)に基づき検査を行っていましたが、昨年度、有機溶媒の使用量の削減及び操作性の向上を目的に検査法を一部改良し、検査に適用しました。当所で実施している検査方法について、簡単にご説明します。

① 抽出
フードプロセッサーで細切均一化した試料を天秤で量ります(図4)。
試料に抽出溶液を加え、ホモジナイザーで更に細切し、目的の成分を溶液に抽出します(図5)。これを遠心して液体部分と沈殿物に分離します(図6)。

② 誘導体化
上層の液体部分を採り、誘導体化します。誘導体化とは、分析対象に別の化合物を結合させることで、分離の改善や分析感度の向上を目的に行います。

③ 精製
誘導体化した液体から有機溶媒を用いて脂肪成分を取り除き(脱脂操作)、さらに抽出カラムにより精製して不純物を取り除きます(図7)。不純物は抽出カラムに残り、目的の成分は溶出されます。

④ 測定
溶出液を乾固させた後、測定用の溶媒に溶解し、測定を行います。測定には液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)という高精度な分析機器を使用します(図8)。これにより食品中の残留量を調べることができます。

おわりに

今回は動物用医薬品である「ニトロフラン類」の検査についてご紹介しました。
従来の検査方法に脱脂操作を追加し、さらに、小さな抽出カラムを使用することで精製方法を改良しました。これにより、有機溶媒の使用量の低減、精製効率の向上、検査時間の短縮に繋がりました。
今後も研究を継続して、正確性や効率性が向上した検査の実施を目指し、県民のみなさまに安心した食生活を送っていただけるよう努めて参ります。

(参考リンク)

注:リンクは掲載当時のものです。リンクが切れた場合はリンク名のみ記載しています。

1) 違反事例(厚生労働省)外部サイトを別ウィンドウで開きます
2) 食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)ニトロフラントイン,フラゾリドン及びフラルタドン試験法外部サイトのPDFが別ウインドウで開きます

(理化学部・田代 愛実)

   
衛研ニュース No.230 令和7年9月発行
発行所 神奈川県衛生研究所(企画情報部)
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