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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.222

大麻の基本的な知識と
大麻由来製品の注意点について(第2報)

2024年5月発行

昨年は、いわゆる「大麻グミ」の事件や75年ぶりに大麻取締法が改正されたこともあり、大麻に関心が集まった年でした。昨年5月に発行された衛研ニュース(No.216)では「大麻の基本的な知識と大麻由来製品の注意点について」紹介しました。今回は、その続報として、連日ニュースで取り上げられた大麻グミについて、改めてその事件の詳細とその後の法規制、含有成分の危険性や近年急増する大麻由来製品とその注意点について説明します。

大麻グミ事件と国の法規制

2023年11月以降、東京都や大阪府で、大麻グミを喫食し、めまいや嘔吐だけでなく、一時的に意識を消失したことにより救急搬送された事件が複数件起こり、大きなニュースとなりました。これを受け厚生労働省では、大麻グミに含有されていた成分のヘキサヒドロカンナビヘキソール(以下、HHCH)を含む6種類の類似成分を「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、薬機法)」上の指定薬物に、包括的に指定しました。これにより、これら成分は、医療等の用途以外の目的での販売、所持、使用等が禁止されました。また、図1に示すような同類似物質等を含む製品を、薬機法上の「生産及び流通を広域的に規制する必要があると認める告示禁止物品(以下、広域禁止物品)」として、これら製品の生産及び流通を規制しました。しかし、このように国が重大な公衆衛生上の問題として規制したにも関わらず、これら類似製品の使用や、流通はなくなりません。

図1 国が規制した広域禁止物品(左:グミ 中央:クッキー、右:ジョイント)
(厚生労働省ホームページを加工・編集)

大麻グミと危険ドラッグ

大麻に含有される成分には、カンナビノイドと呼ばれる化合物群があります。カンナビノイドの主なものには、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(以下、THC)とカンナビジオール(以下、CBD)があります。化学物質(合成品)としてのTHCは麻薬として厳しく規制されています。一方でCBDは、現在日本国内で治験が実施されている難治性てんかんに施用される治療薬であるエピディオレックスの有効成分として、医療への活用が期待されています。THC(図2a)やCBD(図2b)の化学構造を基本骨格として、その構造を一部変化させた化学物質は半合成カンナビノイドと呼ばれ、HHCH(図2c)もその一つです。一方、合成カンナビノイドと呼ばれる成分の化学構造は、例えば5-fluoro-AMB(図2d)のように、その多くは、CBD、THC、HHCHなどとは大きく異なります。これまでに、数多くの合成カンナビノイドが指定薬物や麻薬に規制されてきましたが、規制されるたびに化学構造を一部変え、未規制成分として流通しています。規制を逃れるため、規制成分の構造を変化させた化合物を含む製品は「危険ドラッグ」と呼ばれ、大麻グミもその一つです。

危険ドラッグ販売実店舗数は、2015年に0になりましたが、2023年では報道によると、300以上に増えたと言われています。そのほとんどは実店舗ですが、インターネット上の店舗もあり、どこに住んでいても危険ドラッグを容易に購入できてしまいます。そのため、今回の大麻グミ事件のように、広範囲で健康被害が発生することが懸念されます。

図2 カンナビノイド類の構造式

カンナビノイド類の生体影響

カンナビノイド類は、身体依存及び精神依存などの生体影響や体内動態など、いまだ、多くの点で不明です。合成カンナビノイドは、本来、医療等の研究の目的で合成された成分です。しかし、THCと同様に合成カンナビノイドに幻覚等の作用があるとして、これをハーブなどの製品に混ぜ流通させたことで、世界的に乱用されました。日本国内でも、過去に、このような製品は脱法ハーブとして販売されており、これを吸ったことが原因とされる交通事故や死亡事例が発生しました。半合成カンナビノイドの生体影響については、大麻グミの事件からわかるように、めまいや嘔吐などが想定されます。また、インターネット上では、半合成カンナビノイドを含む大麻由来製品を摂取後、「陶酔感」、「脱力感」、「口渇」、「空腹感」、「音、知覚の変容」など多くの体験談が確認できます。これら薬物は合成カンナビノイドやTHCと同様に作用するおそれがあるため、それらと同じ危険性をはらんでいます。

様々な大麻由来製品と注意点

近年、アメリカの農業法の改正によりTHC濃度が低い産業用大麻の栽培が可能となり、CBDなどが容易に入手できるようになりました。そのため、アメリカにおいて多くの大麻由来製品が生産され、日本国内にも流通されました。大麻由来製品はグミだけでなく、チョコ、クッキー、ビール、オイルなどの食用や、電子タバコのような吸入用、その他、シャンプー、フェイスマスクなどその種類、用途は多岐にわたります。また、これらの製品はインターネットを通じて誰でも購入が可能です。これらすべての製品に違法な成分が含まれるとは限りませんが、過去には、大麻由来製品の中からTHCが検出された事例や、当時規制外であったHHCHを表示した製品から指定薬物であるヘキサヒドロカンナビノール(HHC)が検出された事例もありました。現在も規制外の大麻由来成分及び類似成分を表示する製品が多く流通しています。それらには、個人での所持が禁止される違法成分を含有し、図3のように警察に押収される製品であるおそれもあります。安易に不審な製品に手を出さないように注意してください。

図3 神奈川県警が押収した大麻由来製品
(神奈川県警察ホームページをもとに加工作成)

怪しい薬物には手を出さないように

インターネットやSNS等には、大麻をはじめとする違法な薬物について様々な情報があふれており、過去に比べ薬物が若者の生活に近い存在になっています。近年、大学生が大麻を所持・使用した事件が発生しています。大麻などの薬物の使用は、自分一人の問題だけでなく、周りの人、社会を巻き込んだ大きな問題となってしまいます。衛研ニュース(No.216)で、「自分の身を守るため、出回っている情報を鵜呑みにせず、よく考え、手を出さない、近づかないようにしましょう。」と注意喚起しましたが、大麻グミの事件のように、こちらから近づかなくても、薬物の方から近寄ってくる、また、意図せずに近寄ってしまっている場合もあります。正しい知識を得て、怪しいと感じたら距離をとり、信頼のできる人に相談するなど、自分の身を守りましょう。

神奈川県衛生研究所では、大麻グミの事件のような公衆衛生を揺るがす問題が発生した場合、速やかに状況を確認し、必要に応じ、新たな検査法の開発など体制を整えるように努めています。また、調査研究の過程で得られた検査法は、他の検査機関と情報共有し、県民のくらしの安全・安心に貢献できるよう努めます。

[参考リンク及び文献]

注:リンクは掲載当時のものです。リンクが切れた場合はリンク名のみ記載しています。

(理化学部 外舘 史祥)

   
衛研ニュース No.222 令和6年5月発行
発行所 神奈川県衛生研究所(企画情報部)
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電話(0467)83-4400   FAX(0467)83-4457

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