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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.219

つつがなくお過ごしでしょうか?
~つつが虫病のお話~

2023年11月発行

よく挨拶や報告で用いられる「つつがなくお過ごしでしょうか」や、「つつがなく執り行うことができました」。これらはいずれも健康である、問題が無いことを示す表現です。「病気などの災難」を意味する古語の「恙(つつが)」から来ており、1899年に秋田県の田中敬助医師が病気の原因だと明らかにしたツツガムシも、「病気を起こす虫」として命名されたのではと言われています。この病気自体は古くは江戸時代から知られており、これまでたくさんの呼び名(「日本洪水熱」「七島熱」「土佐のほっぱん」等々)がありました。
今回は、つつが虫病がどのような病気なのか、どうやって予防すればいいのかについてご紹介します。

図1 ツツガムシ(大きさは約0.3mm)の写真(神奈川県衛生研究所)

ツツガムシって何?

ツツガムシとはダニの一種です。ダニにはたくさんの種類が存在し、卵から生まれたらずっと同じ動物の体にくっつき続けるもの(オウシマダニ)、成長すると他の動物に乗り換えるもの(チマダニ)、何回か血を吸ったら他に移っていくもの(ヒメダニ)、食べるのが血ではなく組織液(血液の一部が血管から漏れたもの、栄養を細胞に与える役割をもつ)や皮膚(ヒゼンダニ)、皮脂(ニキビダニ)といったものと、実にバラエティに富んでいます。その中でツツガムシはというと、卵から生まれて幼虫になるとネズミや人に1~2日間くっついて組織液を吸っています。その後は地面に戻って昆虫を食べる生活で一生を終えます。

そんなツツガムシは秋~初冬の時期に幼虫が多く発生しますが、寒さに強い一部のツツガムシ(フトゲツツガムシなど)は逆に春~初夏の方が多く発生します。
つまり、春から初夏、秋から初冬と二つの時期においてつつが虫病は多く発生します。

図2 つつが虫病の週別患者報告数(2021年、感染症発生動向調査に基づく)

*感染症発生動向調査(IDWR):国立感染症研究所(厚生労働省所管)が感染症法で決められた感染症(届出感染症)の患者の発生状況を調査し、週一回国民に情報提供しています。

何で病気になるの?

原因となるリケッチア(病原体)に感染しているツツガムシに刺されることで感染します。病原体の名前はOrientia tsutsugamushi(オリエンチアツツガムシ)といい、およそ0.1~3%のツツガムシがこの病原体を体の中に持っており、保有したツツガムシに刺されてから6時間ほどで感染するといわれています。

どんな症状なの?

つつが虫病の症状は、かゆみのない1cm程の特徴的な刺し口(黒いかさぶたのようなもので周りが赤くなっている)、発熱、全身のかゆみのない赤い発疹です。この3つが特徴的ですがそれだけでなく、倦怠感や頭痛、関節痛などといった風邪のような症状が出ることもあります。また半数の患者では、刺し口近くのリンパ節または全身のリンパ節の腫脹が見られます。これら症状は感染してから1~2週間前後で発熱、発疹の順番で発症します。

ここで、症状からでは区別のつきにくい日本紅斑熱についても紹介したいと思います。Rickettsia japonica(リケッチア ジャポニカ)に感染した、ダニの一種であるマダニに刺されることで感染する日本紅斑熱ですが、症状はつつが虫病とほとんど同様です。両方とも、治療が遅れると最悪の場合死につながることもあります。つつが虫病との違いとしては、発疹が手足の先に出やすく、刺し口が小さいことがあります。東北地方や南九州での報告が多いつつが虫病と比較すると、日本紅斑熱は北海道や一部の東北地方を除き、全国的に報告されています。

ここまで感染した際の症状について紹介してきましたが、注意が必要なポイントとして、刺し口が確認できない事例があるということをぜひ覚えてください。

図3 全国のつつが虫病と日本紅斑熱の年別患者報告数の比較
(1999年~2021年、感染症発生動向調査に基づく)

日本紅斑熱の患者数は、つつが虫病の患者数に追いつく勢いで増加しています。

図4 神奈川県のつつが虫病と日本紅斑熱の年別患者報告数の比較
(1999年~2021年、感染症発生動向調査に基づく)

日本紅斑熱患者は西日本に多い傾向にあるので、神奈川県の報告数は少ないです。

どうすれば予防できるの?

一番の対策は、ダニに刺されることを防ぐことです。そのためには、雑木林や河川敷といったダニが多く存在する場所には入らないことが大事です。実際、患者さんには農作業や山登りをしていた中高年の方が多いです。もしそういった場所に立ち入る際には、下記の対策が有効です。

また、くっついているダニを発見したとしても除去には注意が必要です。無理に引っ張りダニの口がくっついたままはがしたり、ダニのお腹の部分をつかむとその力で体内にダニの成分が入ってきたりしてしまう恐れがあります。先のとがったピンセットなどで口元の部分をつまんでゆっくりと引き抜くのがうまく除去できる方法とされています。除去できたならば、捨てずに保管しておき、後日何らかの症状が出たときに持参したうえで医療機関を受診すれば診断の助けになります。

衛生研究所の取り組みについて

当研究所では保健所などの依頼による、つつが虫病疑いや日本紅斑熱疑いの患者さんの検体を用いた検査を行っています。他にも、神奈川県での発生状況について感染症情報センターによる情報提供も行っています。

【参考資料】

(微生物部 渡邉 大地)

   
衛研ニュース No.219 令和5年11月発行
発行所 神奈川県衛生研究所(企画情報部)
〒253-0087 茅ヶ崎市下町屋1-3-1
電話(0467)83-4400   FAX(0467)83-4457

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