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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.209

細菌が引き起こす食中毒

2022年3月発行

食中毒とは、食中毒を引き起こす細菌やウイルス、有毒物質が付着した食品を食べることにより、下痢や腹痛、発熱、吐き気などの症状が表れる健康被害のことをいいます。このうち、細菌が原因となる食中毒を細菌性食中毒といい、患者数は食中毒全体の約66%を占めています(令和2年)1)。今回はこの細菌性食中毒について、全国と神奈川県の発生状況を踏まえながらご紹介いたします。

細菌性食中毒

細菌性食中毒は一般的に、感染型と毒素型に分類されます。感染型の食中毒は、原因となる菌が腸管内で増えることで起こる食中毒です。原因菌の増殖に時間が必要なため、潜伏期間は約8時間~数日間となります。毒素型の食中毒は、原因菌が食品中で作り出した毒素を摂取することで起こる食中毒です。原因菌が増殖する時間は必要ないため、潜伏期間は短く、約30分~8時間となります。表1は、発症機序別に代表的な食中毒菌を分類したものです。

表1 感染型食中毒と毒素型食中毒

発生状況の変遷と対策



図1 細菌性食中毒発生状況(全国)

図1は全国における平成10年から令和2年の細菌性食中毒発生状況です1)
件数は平成10年以降減少傾向にあり、近年ほとんどの細菌性食中毒は年間30件を下回っています。これは食品汚染や腐敗、食中毒といった食品の事故を防止するため、厚生労働省や農林水産省の次のような取り組みが寄与していると考えられます。平成13年に腸炎ビブリオによる食中毒の原因となる生食用鮮魚介類、生食用かき、ゆでだこ、ゆでがになどの食品に対して、新たに「腸炎ビブリオの規格基準」が設けられました。この規格基準では、「保存基準」、「加工基準」、「成分規格」がそれぞれ定められており、生産から消費までを通じた総合的な対策をとった結果、腸炎ビブリオによる食中毒は激減しました2)。また平成14年には、食品の安全性を確保するための衛生管理方法であるHACCPの導入及び普及を推奨するため、「衛生管理ガイドライン」が策定され、鶏卵に起因するサルモネラ属菌による食中毒を対象とした具体的な対策が設けられました。これにより平成11年には過去最多である825件を記録したサルモネラ属菌による食中毒は激減し、現在は年間約20件~30件ほどで推移しています1,3)



図2 細菌性食中毒1件あたりの患者数(神奈川県、平成19年~令和2年)

図2は神奈川県における平成19年~令和2年の主な細菌性食中毒の件数と1件あたりの患者数を表したものです4)。神奈川県において、細菌性食中毒1件あたりの患者数が最も多い食中毒菌はウェルシュ菌となっています。発生件数は他の食中毒菌と差はありませんが、非常に大規模な食中毒となる傾向があります。原因食品の多くは、カレー、シチュー、スープなどで、肉や魚介類を原料として加熱調理された食品です。これらが深底の鍋で大量に調理され、室温で放置された場合、嫌気状態となった食品の内部でウェルシュ菌が増え始めます。一度に大量の調理をする給食施設や飲食店で発生しやすいため、1件あたりの患者数が多くなりやすいです。調理後は可能な限り早めに食べること、速やかに冷却することが重要となります。
図1、図2からカンピロバクター・ジェジュニ/コリによる食中毒件数は全国、神奈川県ともに細菌性食中毒の中で最も多くなっています。発生件数は減少傾向にありますが、近年はその傾向の鈍化が目立ち、全国では現在も年間約200件~300件ほどで推移しています。鶏レバーやささみといった鶏肉の生食や加熱不足が原因となります。また、わずかな菌量で感染を引き起こすため、鶏肉を扱った後の包丁やまな板等、調理器具からの2次感染にも注意が必要です。

※酸素が存在しない状態を指します。ウェルシュ菌を含む一部の細菌は、発育に酸素を必要としない偏性嫌気性菌に分類されます。

最後に

新型コロナウイルスが感染拡大を起こし始めた令和2年以降、感染予防として手指消毒が徹底され始めましたが、細菌性食中毒の発生は続いています。飲食店でデリバリーや持ち帰りをする機会の増加により、室温で長時間食品が放置されること、キャンプなどアウトドアの増加により、肉を加熱不十分の状態で食べてしまうこと等が原因として挙げられます。このように、コロナ禍の影響で増加してきた食中毒にも注意が必要です。また、食中毒と思われる症状が表れた場合、自己判断で医薬品を服用することは大変危険です。特に下痢止めは食中毒の原因菌の排出を遅らすことになり、症状が長期間継続する恐れがあります。症状が重篤な場合は医療機関を受診しましょう。
 当衛生研究所地域調査部では細菌性食中毒が発生した場合、保健所等の依頼により、症状が表れた患者さんの便や患者さんが口にした食品から食中毒菌の分離、同定を行っています。食中毒菌の分離は菌の特徴に応じて、対象となる菌の発育に適した様々な培地を使い分けて行います。食中毒菌と疑われる菌が発育した場合、生化学的性状、血清による型別、遺伝子、毒素産生等の試験を実施し、食中毒菌の同定を行います。今後も迅速かつ的確な検査を心掛け、食中毒の予防や食品衛生についての情報提供に努めていきます。

(地域調査部 岩井 宏樹)

   
衛研ニュース No.209 令和4年3月発行
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