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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.198

アレルギー疾患について
-花粉症を中心に-

2020年5月発行

近年、アレルギー疾患の罹患者数は増加傾向にあり、社会問題として大きく取り上げられています。なかでも花粉症の有病率は、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした疫学調査によれば、2008年は29.8%で1998年と比較すると約10%増加しており、毎年、春になると白いマスクを着用した人で溢れかえる状況は、もはや国民病と言っても過言ではないかもしれません。そこで今回は、花粉症について最新の治療法も含めてご紹介したいと思います。

花粉症とは

花粉症は植物の花粉によって引き起こされるアレルギー反応で、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目の痒みといった症状が現れます。春先のスギ花粉症が最も有名ですが、夏にはイネ科の植物であるカモガヤ、秋にはキク科のブタクサやヨモギなど、他にも原因となる花粉があります。したがって、スギ花粉の飛散時期が過ぎても、また別の花粉症に悩まされる患者さんもいます。

花粉症はどのように起こるのか

私たちの体には免疫と呼ばれる防御機構が備わっています。花粉が目や鼻から侵入し、体がそれらを異物と認識すると、花粉に対するIgE抗体1)が作られ、目や鼻の粘膜にある肥満細胞(マスト細胞)2)の表面に結合します。再び花粉が侵入して、IgE抗体に結合すると、肥満細胞からヒスタミンなどのアレルギー原因物質が放出され、目や鼻に入り込んだ花粉を涙や鼻汁で洗い流し、くしゃみで吹き飛ばそうとするわけです。

1) IgE抗体:アレルゲン(アレルギーの原因となるタンパク質)や寄生虫に結合する抗体です。アレルギー患者さんでは血中のIgE濃度が高いことが明らかになっています。
2) 肥満細胞:細胞内にヒスタミンなどのアレルギー原因物質が詰まっていて、太って見えるために肥満細胞と呼ばれます。アレルギーに関与している細胞で、肥満に関与しているわけではありません。

なぜ花粉症が増えたのか

スギ花粉の飛散量そのものが増えたことが原因の1つと考えられます。第二次世界大戦後、復興に向けた森林資源の回復を目的に、加工しやすく、幅広い用途に使えるスギを大量に植林しましたが、そのスギが成長して、花粉の生産に適した樹齢に達したために、大量の花粉が飛散されるようになったのです。現在はスギ花粉の少ない品種が開発され、花粉を大量に飛散させるスギ人工林を伐採、利用し、花粉が少ない品種への植え替え作業が進められつつあります。

口腔アレルギー症候群

ただでさえ辛い花粉症ですが、花粉症患者さんのなかには、食物アレルギーを合併する方もいるので注意が必要です。例えば、シラカバ花粉症の患者さんでは、リンゴやモモを食べた際に、またスギ花粉症の患者さんではトマトを食べた際に口やのどに腫れや痒みを生じることがあります。これは口腔アレルギー症候群と呼ばれるもので、花粉に含まれるタンパク質(アレルゲン)とトマトに含まれるアレルゲンの構造(形)が似ているために引き起こされるものです。果物や野菜に含まれるアレルゲンは、消化酵素で壊れやすく、胃や腸で分解されやすいために、多くの場合は、口腔のみの症状で治まる傾向にありますが、なかにはアナフィラキシーショック3)を起こした例も報告されているので、油断は禁物です。

図 花粉と関連がある果物や野菜

花粉 飛散時期 果物や野菜の例
シラカバ 4~6月 リンゴ、サクランボ、モモ
スギ 2~4月 トマト
イネ科 5~6月 メロン、スイカ、オレンジ
ヨモギ 8~10月 メロン、セロリ

3) アナフラキシーショック:アレルゲンなどの侵入により、全身性のアレルギー症状が引き起こされる重篤な過敏反応をアナフィラキシーといい、アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合をアナフィラキシーショックといいます。

検査法

花粉症の検査法としては、次のようなものがあります。

血液検査:花粉症を引き起こすIgE抗体は血液中に存在します。そこで採血を行い、様々な花粉アレルゲンと反応するIgE抗体の量を測定することで、どの花粉と反応するかを特定します。
皮膚テスト:皮膚にアレルゲンを含んだ液を少量滴下して、針で微小な傷をつけ、15分後の膨疹(痒みを伴う赤い斑点)の大きさを基準に評価するものです。

花粉症の検査を受ける際は、花粉だけでなく、果物や野菜に対するアレルギーも調べてもらい、自分の体がどのようなものにアレルギーを起こしやすいのか把握しておくと良いでしょう。

治療法-減感作療法について-

アレルギー疾患は花粉などに含まれるタンパク質(アレルゲン)が、IgE抗体を介して肥満細胞を刺激することで放出されるヒスタミンが原因となります。したがって、抗ヒスタミン薬でヒスタミンの働きを抑えれば、アレルギー症状を緩和することができます。最近は抗ヒスタミン薬の代表的な副作用である眠気が少ないもの、作用時間が長く1日1回の服用だけで効果があるものも開発されています。これらは医療用医薬品として用いられていましたが、一般用医薬品に移行され、ドラッグストアで購入できるものもあります。しかしながら、対症療法であるために、根本的な治療にはなりません。そういった中で、最近注目されているのが「減感作療法」です。減感作療法は患者さんにアレルギー症状を引き起こす花粉抽出物を徐々に濃度を上げて繰り返し投与することで、体質を改善し、症状の寛解を目指す治療法です。以前は注射剤のみで、患者さんにとっては注射による痛みや頻回な通院が負担となっていましたが、近年は花粉エキスを舌の裏の粘膜から吸収させる舌下免疫療法が登場し、痛みを伴わず、自宅での服用も可能となりました。また2014年には保険適用も認められ、より利用しやすい治療法となっています。気になる治療効果についても、8割前後の患者さんで有効性が認められているようです。その一方で、長期間の治療を行ったにも関わらず、効果が認められなかった患者さんが2割前後いるのも事実で、すべての患者さんに効果が得られるとは限らないので注意が必要です。また数年間は治療を続ける必要があり(WHOは3~5年を推奨)、医師の指導の下、根気よく続けることが大切となります。

最後に

当衛生研究所では減感作療法の治療効果を評価する検査法の確立に向けて研究を行っています。また2001年に食品衛生法が改正され、加工食品にアレルギーを引き起こしやすい物質を含む際は、表示することが義務付けされましたが、当衛生研究所では加工食品に含まれるアレルギー物質検査を実施することで、製品表示の監視に役立て、健康被害の予防に繋げています。今後も検査及び研究を通して、県民の生活の質の向上に努めていきます。

(参考資料及び参考リンク)

(理化学部 田所 哲)

   
衛研ニュース No.198 令和2年5月発行
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