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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.194

有毒植物イヌサフランによる食中毒について

2019年9月発行

近年、有毒植物の誤食による食中毒が増加しています。なかでも、イヌサフランの誤食による食中毒は、ここ数年で死亡事例が複数報告されており、今年だけでも、全国で2件の死亡事例が報告されています注)。今回は、イヌサフランを中心に、有毒植物による食中毒やその防止対策について紹介します。

注:2019年8月19日までに厚生労働省に報告のあった事例

イヌサフランとは

イヌサフラン科、ヨーロッパ中南部~北アフリカ原産の多年草で、園芸名でコルチカムとも呼ばれ、観賞用として日本各地で栽培されています(写真1)。球根を土や水のないところで放置していても秋ごろに花を咲かせることができ、耐寒性が高く、何年も植えたままでも開花するため、育てやすい園芸植物として人気があります。アヤメ科のサフランと名前も花の形も似ていますが、別の植物です。



写真1 イヌサフランの花

イヌサフランと似ている植物

イヌサフランは、開花後の冬から春にかけて葉が成長しますが、夏ごろには葉は枯れ、翌秋に花を咲かせるころには葉はなくなっています。そのため、葉が出る春ごろに、葉をギョウジャニンニクやオオバギボウシ(ウルイ)と間違えて食べる事例が発生しています。また、球根が出回る夏から秋ごろに、球根をニンニクやタマネギ、ジャガイモと間違えて食べる事例が発生しています。

食用植物とイヌサフランの見分け方として、ギョウジャニンニクには全草にニンニク臭がありますが、イヌサフランには臭いがありません。また、ギョウジャニンニクは、1つの芽から出る葉の数が少ないですが、イヌサフランは、1つの芽から葉が重なり合って多数出ます(写真2及び3)。オオバギボウシ(ウルイ)は、成長するとしっかりとした葉柄が伸びてきます(写真4)。



写真2 イヌサフラン(有毒)



写真3 ギョウジャニンニク(食用)



写真4 オオバギボウシ(食用)

イヌサフランの有毒成分

全草に有毒成分のコルヒチンというアルカロイドが含まれており、球根には0.08%~0.2%含まれていると言われています。症状は、嘔吐、下痢、皮膚の知覚減退、呼吸困難等で、重篤化して死に至ることもあります。最小致死量は、体重50kgの人の場合、4.3mg程度です。仮に1個10gの球根に0.2%のコルヒチンが含まれているとすると、球根1個に20mg含まれていることになり、1/4個程度で致死量に相当することになります。葉の含有量は球根よりは少ないとされていますが、1枚約2gの葉を4~5枚食べると致死量近くに相当するとの報告もあります。なお、コルヒチンは医薬品成分として痛風薬等に使われていますが、副作用が強く、服用には医師の判断が必須です。

イヌサフラン誤食による食中毒事例

今年(2019年)4月、群馬県において、知人から受け取った野草(イヌサフラン)をギョウジャニンニクと思って食べたことにより、食中毒が発生しました。2人が食べ、2人とも発症し、うち1人が死亡しました。また、6月には秋田県において、自宅敷地内に生えていたイヌサフランをウルイと間違えて採取して食べたことにより、食中毒が発生しました。1人が食べ、発症し、死亡しました。

表1に2016年から2018年の3年間の食中毒発生総数と、有毒植物(イヌサフランを含む全ての有毒植物)が原因と断定又は推定された食中毒発生数を示しています。有毒植物による事件数や患者数は食中毒発生総数に比べて少ないですが、死者数の割合が大きくなっています。また、イヌサフランによる死亡事例はここ数年で毎年のように発生しています。イヌサフランをはじめとする有毒植物による食中毒には今後も注意が必要であり、食品衛生上重要な問題です。

表1 過去3年間の食中毒発生状況(全国)

その他の有毒植物

イヌサフランのほかにも、スイセン、バイケイソウ、トリカブト、チョウセンアサガオ等の誤食による食中毒が発生しています。それぞれ異なる有毒成分が含まれており、コルヒチンのように食中毒症状が重篤化することもあります。いずれも家庭菜園や山菜採りでの採取間違いによる事例が多くを占めています。採取間違いは、新芽の出る4~5月ごろに特に多く発生していますが、球根の誤食事例などは秋以降にも発生していることから、季節を問わず注意が必要です。

有毒植物の誤食による食中毒を防ぐために

有毒植物の誤食を避けるために、食用であると確実に判断できない植物は、絶対に採らない、食べない、売らない、人にあげないようにしてください。家庭菜園や畑などでは野菜と観賞植物を一緒に栽培しないようにすること、また、球根は台所や子供の手の届くところには置かないことが重要です。もし、採取した植物を食べて体調が悪くなった場合には、すぐに医療機関を受診してください。また、原因究明のため、食べ残した食品はできる限り取っておいてください。
有毒植物による食中毒のほとんどは家庭内で発生していますので、上記の内容を各家庭で気を付けることが食中毒の発生を減らすことにつながります。

最後に

当所では、有毒植物による食中毒の原因究明や被害拡大防止のために、様々な毒性成分について機器分析を実施しています。検体となる植物から毒性成分を抽出し、高速液体クロマトグラフ-タンデム質量分析装置(LC-MS/MS)等の分析機器を用いて毒性成分の種類の特定、推定や含有量の測定を行っています。今後も、有毒植物による様々な食中毒事例に対応できるよう、調査研究を継続します。

〈参考資料及び参考リンク〉

(理化学部 福光 徹)

   
衛研ニュース No.194 令和元年9月発行
発行所 神奈川県衛生研究所(企画情報部)
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