神奈川県衛生研究所 |
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水道水の水質基準 |
2019年1月発行 |
水道水は飲用のほかに料理、食器の洗浄、洗濯、風呂、トイレ等に広く使用される、私たちの生活になくてはならないものです。水道水の安全性の確保は、私たちの健康を維持するためにとても重要であり、安心で安全な水道水を供給するための水質基準が定められています。今回は、水道水の水質基準の中でも、特に広く関心の持たれている農薬類について説明します。
水道水の水質基準について
水道は昭和32年に制定された水道法によって管理され、水道事業者は水道水が水質基準に適合しているか検査することが義務づけられています。
水質基準は人の健康に悪影響を生じさせないこと、異常な臭味や洗濯物の着色などにより生活に利用する上で支障を与えないことという観点から設定されているものです。
水質基準は時代の変化や水道の利用状況に合わせて改正を続けてきました。現在の水質基準は水道水として適合しなければいけない「水質基準項目」の他、これを補う項目として、「水質管理目標設定項目」及び「要検討項目」から成り立っています(表1)。
表1 水道水質基準(平成30年3月時点)
農薬類とその取扱い
農薬類とは病害虫や雑草等を防ぐために使われる化学物質で、殺虫剤、殺菌剤、除草剤などその使用目的ごとに多くの種類が存在しています。水田や畑地、鉄道や道路周辺で使用された農薬類は土壌からの流出や降雨などによって水道水の水源となる河川に流入するおそれがあることから、水質検査の対象になっています。
水道における農薬類の基準
水道水質基準では、農薬類は「水質基準項目」を補完する「水質管理目標設定項目」26項目のうちの1つに区分されています(表1)。平成25年に農薬類の大幅な見直しが行われ、各農薬類の出荷量、水道水の水源となる水(水道原水)や水道水からの検出状況、毒性の観点から一日に許容される摂取量に基づいて規制対象項目や目標値(水中の濃度)が整理されました。この結果、農薬類は水道原水から検出される可能性の大きさから「対象農薬リスト掲載農薬類」「要検討農薬類」「その他農薬類」に分類されました(表2)。その後、全国の水質調査結果や人体への影響の新しい評価結果、新規の農薬類の登録に合わせて、分類は毎年見直されており、項目の追加・削除、検査法の変更、目標値等の改正が行われています。これらの農薬類は個別の目標値が設定されるとともに、測定する農薬類のそれぞれの検出値を目標値で割った値の和が1を超えないこととする「総農薬方式」で規制を行っています。
表2 水道水質基準における農薬類の分類(平成30年3月時点)
測定を行う農薬類の選定について
農薬類は農作物への利用のほか、道路や公園で除草剤として使用されるなど、地域ごとに使用量や利用状態が異なっています。したがって、場合によっては対象農薬リストに掲載されている農薬類以外の農薬類が検出されるおそれがあります。
そのため、水道水質検査において測定を行う農薬類は、水源となる河川の流域で使用されている農薬類の種類や使用時期等を常に把握して項目を選び、比較的高濃度で検出されるおそれのある地点及び時期を重点的に測定することとされています。
水道水中の塩素処理と農薬類
水道水は塩素による消毒が行われています。塩素消毒によって農薬類の多くは分解され無毒化されますが、有機リン系農薬の一部などは塩素処理の際に毒性のある物質を生成することが分かっています。そこで、これらの農薬類は塩素処理で生成する物質(塩素処理副生成物)についても測定し、目標値を超えていないことを確認するように定められています。
このような農薬類の塩素処理副生成物については社会的にも関心が高まっており、実態の把握や毒性について多くの研究が進められています。それらの研究成果は新たな農薬類の基準設定に反映されています。
神奈川県衛生研究所の取り組み
当所では、「神奈川県水道水質管理計画」等に基づき、水質基準項目、水質管理目標設定項目及び一部の要検討項目の検査を実施しています。また、標準となる検査法がない農薬類などの化学物質について検査法の検討、県内水道水源の実態調査及び浄水処理工程での挙動の解明等の調査研究を行っています。そして、これらの研究結果は新しい水質基準等へ反映されています。これまで当所が行った県内の河川や水道水の実態調査では一部の農薬類がごく微量検出されていますが、人体に影響はない濃度であると考えられます。 |
![]() 高速液体クロマトグラフ 質量分析システム |
(参考資料および参考リンク)
(理化学部 佐藤 学)
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