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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.175

空気中のカビ

2016年7月発行

私たちの生活環境中には多くの微生物が存在しています。これらの微生物として、細菌、ウイルス、菌類などがあげられます。菌類の仲間の一つであるカビも私たちの生活に深く関係しており、あまりよくない面では、食品に生えて腐らせたり、建物の壁、カーテン、浴室などに生えてきてカビ独特の臭いを出すものもいます。これらの原因は、空気中に浮遊しているカビが関与していることが多いです。


カビはどこにいるの?

図1 カビの生息場所

カビの多くはその起源が土壌と考えられていて、風や雨などにより空気中を浮遊し、図1のような場所でそれぞれの環境に適応した種類のカビが生息しています。

空気中にカビはどのくらいいるの?

カビの基本的な形態は、細胞が糸状につながったものが伸びて食品などの表面や内部に進入して栄養分の吸収や運搬を行う「菌糸」と、仲間を増やすために作られた細胞である「胞子」(植物でいえば種子)からできています。空気中には、胞子の状態あるいは菌糸の一部が浮遊しています。
空気中のカビを測定する方法には、大きく分けて2つあります。一つは培地(寒天中にカビが発育するのに必要な栄養が入っている)が入っているシャーレのフタを20分間開けて培地上に落ちてくる胞子を測定する方法(落下法、図2左)です。他の一つはエアーサンプラーを使用して一定量の空気をファンにより培地上に吹き付けることによって測定したカビの数で空気1立方メートル中にどのくらいいるか測定する方法(エアーサンプラー法、図2右)です。


図2 空気中のカビ測定法(左:落下法、右:エアーサンプラー法)

カビの数は、いずれの方法も培地を25℃で7日間培養して発育してきたカビの集落数により算出します。

空気中のカビの調査結果

食品の製造場所と販売場所を併設している3施設で、製造場所と販売場所において落下カビ数と浮遊カビ数を測定しました(表1)。
施設や場所によってもカビの数は異なっており、浮遊カビが多いと落下カビも多くなる傾向があります。各製造施設の同じ場所でも常に同じカビ数になるわけではなく測定する時間や季節によっても数は変わってきます。

表1.3施設の落下カビ数と浮遊カビ数

さらに、検出されたカビの割合を見ると(表2)、施設や場所によってカビの種類は異なっていることが分かります。3施設に共通しているのは、クラドスポリウム属のカビが検出される割合が高いことです。このことは、食品の製造施設だけでなく一般の家庭においても認められています。

表2.3施設から検出されたカビの割合

空気中からよく検出されるカビ

空気中からよく検出される2種類のカビをみてみましょう。
図3は、空気中から最も多く検出されるクラドスポリウム属のカビです。日本ではクロカビとも呼ばれており、風呂場の目地や洗濯機の洗濯槽などにいる黒色のカビです。左の写真は1週間培養したカビの集落です。表面はオリーブ色ですが裏側が黒色になっています。右の写真はカビを青い染色液で染めたものを顕微鏡で観察したものです。

図3.クラドスポリウム属のカビ

図4は、アスペルギルス属のカビで種類がたくさんあります。日本ではコウジカビと呼ばれており、このカビの特定の種類のものは名前のとおり麹を作るときに利用されているカビです。また、カビ毒を出す種類のカビも含まれています。左の写真は1週間培養したカビの集落です。右の写真はこのカビの胞子を作る部位を約400倍に拡大した顕微鏡写真です。

図4.アスペルギルス属のカビ

最後に

空気中には、カビの胞子が浮遊していますので、食品を包装などをしないで置いておくと、カビが付着して生えてくる原因になりますので、保管には注意が必要です。

空気中のカビをゼロにすることはできませんが、カビの数を増やさないような環境にすることが大切です。

当所では保健福祉事務所の職員と協力して、食品製造施設における環境中のカビ分布状況調査を実施し、製造施設の衛生管理の向上のための資料としています。


(参考リンク)

(微生物部 相川 勝弘)

 
   
衛研ニュース No.175 平成28年 7月発行
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