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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.171

麻しん(はしか)の排除達成
-今後も油断はできません-

2015年11月発行

2015年3月27日、世界保健機関西太平洋事務局(WPRO)は、日本、カンボジア、ブルネイ・ダルサラーム国の3か国を新たに麻しん排除国と認定しました。これにより既に認定されているオーストラリア、マカオ、モンゴル、韓国の4か国と合わせ、西太平洋地域における麻しん排除国は7か国となりました。日本に対する麻しん排除国の認定は、2007年の麻しんの大流行以降、様々な取り組みが行われた成果であり、大変よろこばしい出来事です。
日本の麻しん排除状態が認定されたとはいえ、麻しんの患者発生が全く無くなったということではありません。世界のいくつかの地域では、現在でも麻しんの流行が続いており(図1)、日本にこれが持ち込まれ、流行する恐れがあります。排除状態を保つためには今後も様々な取り組みが必要です。今回は、日本の麻しんとワクチンについてお話します。

図1 WHO地域事務局ごとの麻しん患者発生状況(2008年1月-2015年7月)

(WHO, Measles Surveillance Data)

麻しん輸出大国から麻しん排除国へ

2007年、10歳代から20歳代の若い世代を中心に全国で麻しんが大流行し、各地で学級閉鎖、学校閉鎖などの措置が取られ、大きな社会問題になりました。この頃の日本は、麻しん排除を達成していた先進諸国から「麻しん輸出大国」と呼ばれる不名誉な事態となっていました。
この事態に対応するため、厚生労働省は「麻しんに関する特定感染症予防指針」を策定し、2012年までに麻しんを排除することを目標としました。麻しんの発生や流行の拡大を防ぐために、医師には届出を義務づけ、ワクチン定期接種のスケジュールを見直し、1992年4月1日以降に生まれた人にはワクチンの接種機会を2回に増やしました。これは、流行の主体となった若い世代に複数回ワクチンを接種することで、麻疹ウイルスに対する抗体を十分保有できるようにするためのものでした。このような積極的なワクチン対策により、2011年以降の麻しん抗体保有率(PA抗体価16倍以上)は95%以上となり、患者数は減少しましたが、目標とした2012年にはWPROから麻しん排除認定を受けられませんでした。
そこで厚生労働省は、2015年までに麻しんを排除することを新たな目標とし、「麻しんに関する特定感染症予防指針」を見直して、ワクチン接種の推奨を継続するほかに、医師から麻しんの届出があった場合には、全国の地方衛生研究所で麻疹ウイルスの遺伝子検査による病原体検査診断を実施することになりました。

図2 麻疹ウイルス遺伝子型分布状況(2014年)

(WHO, Measles Surveillance Data)

患者から検出された麻疹ウイルス遺伝子を解析し感染経路の推定を行った結果、日本で流行している麻しんは、フィリピンなどアジアの麻しん流行国から持ち込まれたウイルスが発端となり、国内で二次感染を起こしたものであることが明らかになりました(図2)。このような取り組みによって、2015年3月27日、日本は麻しん排除国であると認定されました。

麻しんはワクチンで予防できる病気です

麻しんは、咳やくしゃみによって感染する、とても感染力の強い病気です。有効な薬や治療法はありませんが、通常は自然に治癒します。まれに肺炎や亜急性硬化性全脳炎(中枢神経系疾患)など死に至る合併症を起こすこわい病気でもありますが、ワクチンで予防することができます。
「ワクチンで予防できる病気」をVPD(Vaccine(=ワクチン) Preventable(=予防) Diseases(=病気))と呼びます。VPDは世界中に存在する感染症のうちごく一部ですが、ワクチン接種により個人の感染や後遺症の予防ができます。また、社会全体の流行を抑えることができる有効な手段です。

日本でも起こるかもしれない
-ワクチン先進国(米国)が陥った事態-

米国では、麻しんワクチンの強制的接種により、2000年に麻しん排除国に認定されました。しかし、近年では州によってはワクチン接種を拒むことができるようになり、一部の州ではワクチン接種率が低下し、接種歴のない人を中心に感染が起きています。
2015年1月、米国疾病予防管理センター(CDC)は、国内で麻しんの集団発生があったことを発表しました。2014年12月中旬にカリフォルニア州のテーマパークの来園者や従業員50人以上が麻しんに感染し、患者発生はカリフォルニア州以外の複数の州まで広がりました。患者発生の発端は、ワクチン未接種者が海外で麻しんに感染し、ウイルスを持ち込んだものとされています。テーマパークのように、多くの人が集まり、人同士の距離が近いところでは、感染の拡大するリスクが非常に高くなります。
2000年以降、米国では国外から持ち込まれた麻疹ウイルスによる患者数は年間100人程度でしたが、2014年にはこのカリフォルニア州での集団発生により、麻しん患者数は664人に急増しました。

今後も油断はできません

ワクチン接種率が低下すると、抗体をもたない人が増えます。このことは、患者発生や流行の拡大につながります。麻しんは今後も海外から日本へ持ち込まれることが多いと予想されます。麻しんの流行の拡大防止には、ワクチン接種により多くの人が抗体を保有することが重要です。
県内の保健福祉事務所ではワクチン接種の推奨や患者発生時の疫学調査を行い、衛生研究所では遺伝子検査による病原体検査診断を実施し、今後も麻しんの流行拡大防止に努めていきます。

 
(参考リンク)

(微生物部 鈴木理恵子)

         
 
衛研ニュース No.171 平成27年11月発行
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