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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.169

感染症を媒介する蚊

2015年7月発行

2014年8月、日本で約70年ぶりにデング熱の国内感染が起こりました。身近に生息する蚊が感染症を広めるということで、東京を中心に関東地方において非常に注目されました。しかし、これまで蚊が媒介する感染症が日本国内で発生していなかったわけではありません。三日熱マラリアは1950年頃まで、日本脳炎は現在でも発生しています。また、チクングニア熱やウエストナイル熱が海外から侵入してくるのではないかと心配されています。今回は、これらの感染症を媒介する日本の蚊を紹介します。

蚊の一生

蚊の卵は水辺や水面に産み落とされ、卵から孵化した幼虫(ボウフラ)は水中で有機物や微生物を餌にして育ちます。蚊の幼虫が好む水域(発生水域)は種によって異なります。例えば、広い水域を好む種類、水の流れている水域を好む種類、きれいな水を好む種類などがあります。
次に幼虫はサナギになります。サナギの期間も水中に生息しており、泳ぎ回ることができます。しかし、口がないので餌をとることはできません。
そしてサナギから羽化して成虫になります。多くの成虫は羽化後24時間以内に成熟し、交尾、受精が行われます。通常、メスは1匹のオスとの1回の交尾で貯精嚢に精子が満たされ、その場合メスは二度と交尾しません。メスはその後、吸血して産卵します。産卵するためには、どうしても吸血しなくてはなりません(一部の種に例外があります)。血液が卵を発育させる栄養になるほか、吸血で満腹になることが卵の発育を始める刺激になります。吸血時間は普通5分以内、長くても10分を超えないといわれています。オスは羽化後数日で死んでしまいます。オスの口(口吻)は軟弱なため、動物の皮膚を切る機能がなく、吸血することはありません。

 
感染症を媒介する蚊

日本には100種以上の蚊が生息しています。それらのうち、感染症の媒介が知られている、または媒介することが危惧されている主な5種(表1)について説明します。

ヒトスジシマカ

ヒトスジシマカ(図1)は庭先にも多い、ポピュラーな蚊です。体色は黒色で、胸部背面や側面、脚に白い鮮明な紋様があります。
青森県より南に生息しています。流れの少ない小さな水域、人工の器物(空き缶、ビン、放置タイヤなど)のたまり水が発生水域になります。
成虫は4月下旬~10月頃まで発生し、卵で越冬します。昼間、特に朝夕に活発に吸血活動をしますが、夜でも人などが近づくと吸血するため寄ってきます。
日本では成虫が越冬することができないため、2014年にデングウイルスを保有していたヒトスジシマカの成虫は年内に死滅しています。また、感染した蚊から卵にウイルスが移ることはないとされています。

図1.ヒトスジシマカ
a:側面、b:背面
コガタアカイエカ

コガタアカイエカ(図2)は全身茶色の蚊で、口吻の一部に白い部分があります。
日本全国に生息しています。水田、池、沼など広い水域が発生水域になります。
成虫は4月~9月頃に活動し、メス成虫が越冬します。夜間に吸血活動をします。


図2.コガタアカイエカ
アカイエカ

アカイエカ(図3)は全身茶色の蚊で、コガタアカイエカと異なり、口吻に白い部分がありません。
九州以北に生息しています。下水や汚水だまりのような流れの少ない、有機物を含有する水域が発生水域になります。成虫は4月~10月頃まで活動し、メス成虫が越冬します。夜間に吸血活動をします。

図3.アカイエカ

シナハマダラカ

シナハマダラカ(図4)は、翅に白と黒の鱗片で形成された紋様がある蚊で、日本全国に生息しています。
水田、池、沼など広い水域が発生水域になります。成虫は4月~10月上旬頃に活動し、メス成虫が越冬します。夜間に吸血活動をします。
日本にはマラリア原虫がいなくなり、1950年頃から国内でのマラリア感染は見られなくなりました。

図4.シナハマダラカ

衛生研究所の取り組み

2012年から県内(横浜市、川崎市、横須賀市、相模原市、藤沢市を除く)の蚊の生息調査と蚊媒介感染症ウイルスの保有状況調査を進めています。2012年~2014年に採集された蚊からは、デング熱、チクングニア熱、日本脳炎、ウエストナイル熱の原因となるウイルスは検出されていません。

 
蚊に刺されないために

長袖、長ズボンを着用し、忌避剤を使用しましょう
蚊が生息しているような場所に行くときには、肌をできるだけ露出しないように、長袖、長ズボンを着用しましょう。生地の薄いものは、その上から刺されてしまうことがありますので、注意してください。忌避剤(虫除けスプレー等)も併用するとよいでしょう。塗りむらがないように塗布してください。国内で市販されている忌避剤のほとんどには、10%ほどのディートという有効成分が含まれています。忌避剤は、塗った直後は90%ほどの効果がありますが、徐々に効果が薄れていき、汗をかくとさらに早く効果は低減します。長時間蚊の発生する場所に滞在するときには、3時間を目安に塗り直した方がよいでしょう。ただし、生後6ヶ月未満の乳児には使用しない、2歳未満では1日1回、12歳未満では1日3回以下を目安に使用するといった使用上の注意があります。

 
蚊の発生源を作らないようにしましょう
身の回りに蚊の発生源を作らないように注意しましょう。庭先に置かれたままの小さな容器に水がたまり、蚊の発生源になるかもしれません。ときどき、家の周りに水のたまった容器などがないか確認しましょう。
 
(参考リンク)

(微生物部 稲田貴嗣)

         
衛研ニュース No.169 平成27年7月発行
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