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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.152

”脱法ハーブ(いわゆる脱法ドラッグ)”の怖さ
絶対に手を出さないで!!

2012年9月発行

昨年から今年(2011~2012年)にかけ、脱法ハーブが原因と思われる救急搬送や自動車事故などが急増し、神奈川県では死亡事故も起こっています。脱法ハーブは“合法ハーブ”と表示され、インターネットや店舗で販売されています。巧みに法の網をすり抜けている脱法ハーブとはどのようなものなのか、なぜ取り締まりが難しいのか、乱用防止に向けた法的規制や神奈川県の取り組みなどについて解説します。

脱法ハーブの実態
脱法ハーブは、その名のとおり、一見、乾燥した植物(葉、茎、花など)にしか見えません。外観上は、いかにも天然素材だけからなる製品というように見えます。しかし、その実態は、いろいろな植物に興奮作用や幻覚作用がある合成化学物質を添加して作られています。ですから、脱法ハーブとは、大麻やケシ等のような精神作用を有する成分を持った新たな植物ではありません。これらは植物の形態をとっているだけで、数年前から問題になっているいわゆる脱法ドラッグの一種です。写真のように、脱法ハーブの中身は野草茶の様な葉や、ハーブティーのような花弁です。
脱法ハーブに添加される化学物質には多くの種類がありますが、法律で所持や使用が規制されている麻薬や覚せい剤、または大麻の幻覚成分などに化学構造が似ており、これらの規制薬物と同じような精神毒性作用や精神依存性を持つものがほとんどです。

写真 脱法ハーブの中身


脱法ハーブの危険性
脱法ハーブは、“合法大麻”として欧米で流行したものが始まりです。これは、乾燥した植物に大麻に含まれる幻覚成分であるテトラヒドロカンナビノールに類似した化学合成物質(合成カンナビノイド)を添加したものです。日本では、2009年ごろから同様の製品が見つかっています。流行当初は1種類の成分が配合されている製品が多かったのですが、最近では数種類の成分が配合されるものが多く、合成カンナビノイドだけではなく、覚せい剤に構造が似ているカチノン系の化学物質も配合されているものもあります。

脱法ハーブに添加されている合成カンナビノイドやカチノン系の化学物質の大半は新たに出現した化学物質であり、人体に摂取された経験が全くない薬物です。従って、脱法ハーブなどのいわゆる脱法ドラッグを使用することは、毒性が分からない物質の人体実験をしているということになります。実際に、これらの化学物質の中には精神依存性や精神毒性が極めて強い物質があり、新たに麻薬に指定されたものもあります。毒性も規制薬物より強いものが見つかっており、“合法”などと称していますが、とても危険なものです(図1)。

 
脱法ハーブの取り締まりが難しい理由
2011年ごろから、脱法ハーブを合法ハーブやお香と称して販売する店舗が急増しています。自動販売機による販売も行われ、なかにはカプセルトイ*による販売まで出現しました。商店街など身近な場所でも販売され、パッケージもデザイン性が高く、また、警戒心を抱かせないようなかわいいものにするなど、脱法ハーブは未成年や20代の若者の好奇心をあおり、急速に浸透しています。

*カプセルトイ:小型の自動販売機で、硬貨を入れレバーを回すとカプセル入りの玩具がでてくる。一般にガチャガチャ、ガチャポンなどとも呼ばれている。

 

法律で所持や使用が規制されている覚せい剤、麻薬や大麻などの薬物には多くの種類がありますが、どれも法律で化学構造が規定されています。脱法ハーブなどに添加されている化学物質は、法規制を逃れるために、規制薬物の化学構造を一部変えて合成されたものです。しかもやっかいなことに、このような化学物質は数千種類以上あると言われています。
いわゆる脱法ドラッグなどの乱用薬物をより迅速に規制するために、2007年に薬事法が改正され、指定薬物制度が始まりました。この制度が発足した当初は販売店舗数が激減し、規制効果が上がったように見えましたが、最近では再び店舗数も増加し、十分に規制効果を上げることができていません。
法律でこのような乱用薬物を規制するためには、販売実態を把握し、場合によっては有害作用などの科学的証明を行っており、国内での流通を確認してから規制するまでには時間がかかってしまいます。そして、ある薬物が規制されると構造が似ている新たな薬物を添加し、その薬物が規制されるまでの間、業者は、“合法”と称して製品を販売し続けるという、いたちごっこが続いています。国による平成23年度違法ドラッグの調査でも、製品を買った時点で指定薬物等の規制薬物が配合されていた製品は、76製品中12製品でした。しかし、その後新たに規制された薬物を含めると、59製品から指定薬物が検出されています。
脱法ハーブなどの薬物は、吸引したり、経口的に摂取するなどして、人体に使用されています。これらの製品が明らかに摂取を目的とした形態で販売されていれば、無承認無許可医薬品とみなされて取り締まりの対象となります。しかし、販売業者は、「人体に使用しないでください」などといった注意表示を製品等に貼付しており、巧妙に法規制の対象から逃れています(図2)。


図2 脱法ハーブのパッケージ

 

今後の脱法ハーブ対策
最近の新規乱用薬物の出現数や出現サイクルが法規制の速度を上回っていることから、一部の府県では、国に先行して2005年に知事指定薬物を条例によって指定した東京都にならい、独自に条例を制定して新規乱用薬物を規制することが検討されています。
国は、2012年11月上旬に、今までで最多の17種類の化学物質を新たに指定薬物として規制する方針です。うち5種類は欧州で流通や健康被害が確認された国内未流通の薬物で、水際で流通を阻止することが目的です。今後、指定薬物を決定する薬事・食品衛生審議会指定薬物部会の開催数を増やし、規制がかかるまでの期間を短縮する方針を打ち出しました。さらに、指定薬物と化学構造が似た物質をまとめて規制できる「包括指定」についても検討しており、対象薬物を絞り込み、来年にも導入する予定です。
神奈川県では、知事を本部長とする県薬物乱用対策推進本部が、2012年6月13日に販売店に対する指導の徹底など対策強化に乗り出す方針を決めました(平成24年度神奈川県薬物乱用防止対策実施要綱)。実施要綱には、警察や行政、関連団体などの連携強化や、必要に応じて試買検査を実施し、含有成分を特定して新たな指定薬物や麻薬などにも迅速に対応することが盛り込まれました。また、薬物教育の一環として、脱法ハーブの危険性についての啓発活動を行っていくことがうたわれています。
神奈川県衛生研究所では、県内で販売されている製品について、毎年検査を実施しています。また、違法ドラッグに関係した講演なども実施しています。今後も関係機関と連携し、県民の皆様の安全・安心な生活に役立つよう努力してまいります。
おわりに
脱法ハーブなどのいわゆる脱法ドラッグは、法の網をすり抜けている“脱法”であり、“合法”ではありません。販売業者は、“指定薬物が入っていない=合法=安全”という誤ったイメージを流し、製品を販売しています。そのような情報にだまされず、人体に害を及ぼす危険な化学物質が混入されていることを理解し、決して脱法ドラッグに手を出さないでください。
 

注:リンクは掲載当時のものです。リンクが切れた場合はリンク名のみ記載しています。

参考:  平成24年度神奈川県薬物乱用防止対策実施要綱
  危険!脱法ドラッグ
   
   

(理化学部 宮澤 眞紀)

   
衛研ニュース No.152 平成24年9月発行
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