トップページ > 刊行物 > 衛研ニュース > No.142

印刷用はこちら(PDFダウンロード形式)pdf

衛研ニュース     No.142      
神奈川県の放射能・放射線監視体制
2011年2月発行
神奈川県衛生研究所
    衛生研究所では、私たちの身の回りにある放射線・放射能レベルを調べています。近年、原子力空母ジョージ・ワシントン(以下GW)が米海軍横須賀基地に寄港するようになり、滞港日数が大幅に増加している状況で、どのような調査が行われているのか紹介します。

どうして神奈川で原子力艦の放射能・放射線監視なの?

  日本に初めて原子力艦が寄港したのは、1964年11月12日で、米原子力潜水艦「シードラゴン」が長崎県佐世保港に入港しました。現在、わが国における米原子力艦の定常的な寄港地は、佐世保、横須賀、金武(きん)中城(なかぐすく)(沖縄県)の3港です。
 横須賀には、1966年5月30日に原子力潜水艦「スヌーク」が初めて入港して以来、2010年12月末で寄港回数は826回、通算滞港日数は6,404日に達しています(図1)。GWは、2008年9月25日に米海軍横須賀基地へ初めて入港しました。GW配備以前の原子力艦の寄港回数は、世界情勢や時代の流れとともに変動しているようでした。2006~2008年はGW配備の準備のためか寄港回数は減少し、滞港日数も100日を下回る年もありました。しかし、本格配備となった2009年以降、原子力艦の滞港日数は大幅に増加し300日を超えました。そのうちの6割をGWが占めています。このことから分かるように、現在ほぼ1年を通して原子力艦が横須賀基地に滞港する状況になっています。

  私たちの身の回りには、地球誕生以来、自然の放射線(宇宙線など)や自然放射性核種(ウラン、トリウム、カリウム-40)が存在し、さらには1960~1980年代に実施された大気圏内核実験や1986年旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故等で放出された人工放射性核種が存在しています。そのため、ある放射線量や放射能濃度を検出しても、それが原子力艦に起因するか否かを判断するためには、日頃から周辺環境の平常時における放射能レベルを確認しておく必要があるのです。


原子力艦に関わる国の現地放射能調査

   国は、原子力艦寄港地周辺住民等の健康と安全を守るために、原子力艦寄港地周辺の環境の放射能水準の調査を行い、その結果を公表しています。
 文部科学省(以下文科省)は、海上保安庁、水産庁及び横須賀市、神奈川県の協力を得て、原子力艦寄港地周辺のモニタリングを実施しています。GW配備に伴い、2008年にモニタリング体制の強化を図りました。滞港日数が大幅に増えることに対応するために、これまでのモニタリングボート*1に加え、モニタリングカー*2による調査を追加しました。さらに、横須賀港周辺の放射線を常時監視するモニタリングポスト*3をこれまでの主に基地内の4局から市街地を含めた10局に増やしました。また、JR横須賀駅近くに新たに常設モニタリング拠点として「横須賀原子力艦モニタリングセンター」を建設しました。
 神奈川県は、1969年より県民の健康と福祉を守る立場から、国が編成する現地放射能調査班に職員を派遣しています。現在、基地対策課、環境衛生課・食品衛生課、当所職員が原子力艦寄港中は、毎日交代でモニタリングに参加し、異常がないことを確認しています。
*1 モニタリングボートは、原子力艦停泊地点や周辺海域を航行しながら空間の放射線量(γ線)と海水の放射線測定をするための船です。
*2 モニタリングカーは、原子力艦停泊地点やその周辺陸域を走行しながら空間の放射線量(γ線)を測定するための車です。
*3

モニタリングポストは、空間の放射線量(γ線)を連続測定する固定施設です。10局のうち5局は海水の放射線測を、さらに2局は気象観測も行っています。

 

神奈川県の取り組み

 

   神奈川県は、県民の生命や財産を守るための態勢を強化してきました。原子力艦が原因の原子力災害が発生した場合に備え、2003年「神奈川県地域防災計画-原子力災害対策計画-」に原子力艦に係る事故災害対策を盛り込み、さらに2008年「神奈川県原子力艦災害対策初動マニュアル」を策定しました。
  衛生研究所では、原子力災害が発生すると、県民への放射線影響が懸念されることから、平常時の放射能調査を実施しています。調査項目ならびに調査試料の選定は、原子力安全委員会が決定した「環境放射線モニタリング指針」に則っています。これまでの調査結果を以下にまとめました。


①県の食品科学調査事業で行っている放射能調査
 
県生活衛生課(現食品衛生課)の食品科学調査事業として、2003年から三浦市、横須賀市の東京湾で水揚げされる魚類を、2008年からは横須賀市に隣接する三浦市、三浦郡葉山町で栽培される野菜類の放射能調査を開始しました。県内流通魚類中のセシウム-137(Cs-137)*4の年平均濃度を図2に示しました。三浦市、横須賀市の東京湾で水揚げされた魚類中のCs-137の年平均濃度は、相模湾や日本海で獲れた魚類と同じ濃度レベルにあり、原子力艦に起因する放射能レベルの上昇はこれまでに認められていません。また、調査した全ての魚試料についてCs-137以外のγ線を出す人工放射性核種は検出されていません。三浦半島産の野菜類(ダイコン、ホウレンソウ、コマツナ)からは、Cs-137等のγ線を出す人工放射性核種は検出されず、原子力空母の入港前後で変化は認められません(表1)。

*4  セシウム-137(Cs-137)は、原子力事故等で検出されるγ線を出す人工放射性核種の1つです。


 

②国の委託を受け行っている放射能調査
  2002年、国の防災基本計画第10編原子力災害対策編に「原子力艦の原子力災害」が新たに追加されたことを踏まえ、文科省は、原子力艦に関わる平常時及び緊急時の放射能調査の考え方を示す目的から「原子力艦放射能調査指針大綱」および「原子力艦放射能調査実施要領」を2005年に改訂しました。これを受け、当所ではそれ以前から国より委託されている環境放射能水準調査に含め、原子力艦に関わる平常時における陸上試料の放射能調査を同年より開始しました。

  試料は、主に横須賀市と当所所在地の茅ヶ崎市にて採取しています。表2に示すように、大気浮遊じん、飲料水、ホウレンソウ、ダイコン、精米からはCs-137をはじめγ線を出す人工放射性核種は検出されていません。一方、土壌、一部の降下物、牛乳からCs-137が極微量検出されていますが、これは大半が1960~1980年代に実施された大気圏内核実験時に放出されたもので、原子力艦に由来する影響は現在まで認められていません。
 
③神奈川県における空間放射線量の分布に関する研究
 原子力災害は、その影響が広範囲に及ぶ可能性もあることから、県内全域の平常時の放射線量を予め把握しておく必要性があり、2006年から神奈川県における空間放射線量の分布に関する研究に着手しました。2006~2009年までの空間放射線量率の結果は、12~57nGy/h(宇宙線の寄与を除く)、平均値25±5.7nGy/h、中央値23nGy/hです。神奈川県は全国のレベル(2008年度12~102nGy/h、年間平均値55±20nGy/h、中央値56nGy/h)に比べると空間放射線量率が低い地域です。しかし、図3に示すように、県内でも地域による差は大きく、北東部が高く、西南部は低い傾向がこの調査で分かりました。
 

  県内には、原子力関連施設が川崎市と横須賀市にそれぞれ1つずつ存在しています。また、北朝鮮による地下核実験実施、さらに世界的に高まる電力需要と地球温暖化を背景にアジア周辺国による原子力発電所の建設、計画が進む昨今、環境への放射能汚染を懸念する声も聞かれます。これらの不安に、科学的に応えていけるよう、調査研究を今後も行っていきます。

(理化学部 桑原 千雅子)
参考:文科省のホームページ「日本の環境放射能と放射線」(http://www.kankyo-hoshano.go.jp
 
   
衛研ニュース No.142 平成23年2月発行
発行所 神奈川県衛生研究所(企画情報部)
〒253-0087 茅ヶ崎市下町屋1-3-1
電話(0467)83-4400   FAX(0467)83-4457

トップページへ戻る衛研ニュースへ戻るこのページのトップへ

お問い合せはトップページ:お問い合わせまたは下記までご連絡ください。

神奈川県衛生研究所 神奈川県ホームページ
〒 253-0087 神奈川県茅ヶ崎市下町屋1丁目3番1号
電話:0467-83-4400
ファックス:0467-83-4457

本ホームページの著作権は神奈川県衛生研究所に帰属します。
Copyrightc 2004 Kanagawa Prefectural Institute of Public Health. All rights reserved.