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2009年12月発行 神奈川県衛生研究所

新型インフルエンザパンデミック
~神奈川県衛生研究所の取り組み~

No.135

  2009年4月にメキシコにおけるインフルエンザ様患者および肺炎による死者の増加が世界保健機関(WHO)に報告されました。次いで、アメリカでこれまでヒトから分離されたことの無いインフルエンザウイルスが発見され、メキシコの患者から分離されたウイルスと同一のウイルスであることがわかりました。こうした状況をふまえて、WHOは、インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)警戒レベルをそれまでのフェーズ3からフェーズ4、フェーズ5と順次引き上げ、流行がさらに拡大した6月にはフェーズ6に引き上げてパンデミックを宣言しました。

 

インフルエンザパンデミックの歴史

  インフルエンザウイルスのパンデミックは、A型インフルエンザウイルスによってもたらされ、B型やC型では起こりません。20世紀には3回のパンデミックがあり(1918年、1957年、1968年)、その経験から10~40年くらいの周期で新型ウイルスが出現するのではないかと考えられてきました。具体的には、1918年のスペイン型、1957年のアジア型、1968年の香港型であり、それぞれの亜型は(H1N1)、(H2N2)、(H3N2)です。それぞれの亜型は、新しい亜型の出現とともに消えていきましたが、1977年に(H1N1)亜型のウイルス(ソ連型)が再出現しても、香港型は消えずに共存してきました。

A型インフルエンザ流行年表

新型インフルエンザウイルスの出現メカニズム

  新型ウイルスは、A型ウイルスの自然宿主である鳥類から供給されると考えられてきました。実例を挙げると、香港型ウイルスは、それまで人で流行していたアジア型ウイルスと鳥由来のウイルスが豚の体内で遺伝子交雑(遺伝子の混ざり合い)を起こして新型ウイルスとして出現したことがわかっています。アジア型ウイルスも同じように、スペイン型ウイルスと鳥由来のウイルスの遺伝子交雑で出現したと考えられています。
 
 今回の新型ウイルス※1は、予想とは違う経過をたどって出現しました。1998年に当時人で流行していた香港型ウイルスと北米系統豚が保有していたスペイン型ウイルスと鳥類のウイルスの3種類が交雑を起こした(H3N2)亜型のウイルスが出現しました。次いで、時期は不明ですがそのウイルスと北米系統豚のスペイン型ウイルスが交雑を起こし、さらにユーラシア(欧州)系統豚のウイルスと交雑を起こして今回の新型ウイルスが出現しました。つまり、過去1~2年のうちに人で流行しているソ連型や香港型ウイルスと鳥類のウイルスが豚で遺伝子交雑を起こしたわけではなく、北米系統豚の中で保有されていた(H1N1)亜型のウイルスが人で流行しているのです。
※1;WHOはinfluenza A(H1N1)2009pdmと命名

 

新型インフルエンザ発生状況

  日本では、5月9日に成田空港の検疫所でカナダから帰国した高校生から新型インフルエンザが検出され、次の週には神戸市と大阪府で海外渡航歴の無い人からも検出されて、新型が国内に侵入していたことがわかりました。その後、兵庫県や大阪府では高校生を中心に流行が拡大しましたが、休校や集会の中止などの公衆衛生学的対策により、短期間で患者数が減少しました。しかし、6月以降は全国で患者発生報告が相次ぎ、大都市圏を中心に患者数が増加して、7月16日までに全都道府県で患者が確認される事態となりました。神奈川県では、5月20日に川崎市、6月6日に横浜市で患者が確認され、6月9日には、厚木保健所管内で県域初の患者が確認されました。その後、7月上旬までにほぼ全域で新型インフルエンザ患者が確認されました。

   

新型インフルエンザの検査態勢と検出状況

  衛生研究所ではRT-PCR法により新型インフルエンザのウイルス遺伝子検査を行っています。検査項目は、A型共通、AH1pdm(新型)、季節性のAH1(ソ連型)およびAH3(香港型)の4種類で、同時に検査を行うことができます。

  全数把握期間(7月23日まで)は新型インフルエンザが疑われた全ての症例について24時間体制で検査にあたりました。7月24日以降は、クラスター(集団発生)サーベイランス、入院(重症例)サーベイランス、ウイルスサーベイランス(通常の病原体定点調査)について検査を行っています。

  神奈川県域では、5月から6月上旬までは、季節性インフルエンザ(主に香港型)が検出されていました。6月9日に初めて新型が検出され、この週に確定した7名全員が同じ中学の生徒であり、県域初の集団発生事例でもありました。その後は次第に新型の検出割合が増え、7月以降に検出されたウイルスのほとんどが新型になりました。患者数の推移は、全数把握時には発熱外来で対応していたために定点医療機関※2からの報告数は少なかったのですが、一般医療機関での診療に切り替わった後は、夏休み期間にもかかわらず緩やかな増加を続けました。夏休み期間の集団発生調査では、学校関係の集団(部活動、合宿、交流試合など)だけでなく、水泳教室、ダンス教室などの学校以外の集団でも感染が広がっていたと思われました。新学期が始まった9月以降は報告数が増え、10月には注意報レベル(定点あたり10)を越えました。

※2;週毎のインフルエンザ患者数を報告する医療機関(小児科定点およびインフルエンザ定点)
新型が検出された人の年齢構成は、10-19歳が全体の半数以上を占め、中高生を中心に流行していました。しかし、時間の経過と共に他の年代にも次第に広がっていくと考えられ、低年齢層や高齢者層はより注意が必要と思われます。

  衛生研究所では、遺伝子検出と並行してウイルス分離も実施しています。県域の分離株からは、新型インフルエンザの標準株と比較して大きく抗原性が異なった株はありませんでした。また、一部の分離株についてタミフル耐性変異を調べましたが、タミフル耐性ウイルスはありませんでした。

  すでに44週(10月28日~11月1日)の患者報告数は県域で37.93、県全体では38.39となり、警報レベル(定点あたり30)を超えました。今後、衛生研究所では、新型と共に季節性インフルエンザ(ソ連型、香港型、B型)に対しても監視態勢を続け、検出ウイルスの割合の変化、分離ウイルスのHI抗原性や薬剤耐性変異の把握を通じて流行予測に反映できるよう努力していきます。




(微生物部 渡邉寿美)
 
   
衛研ニュース No.135 2009年12月発行
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