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2009年7月発行 神奈川県衛生研究所
医薬品成分を含有する違法健康食品 No.133

  近年の健康意識の高まり、また、ライフスタイル、食生活の多様化などに伴い、各種「健康食品」がドラッグストアー、インターネット等で販売されています。表示されている作用も栄養素の補充から生活習慣に関連する内容など様々であり、また、医薬品とは異なり包装もカラフルなものが多く、手に取りやすい身近な存在になっています。
   このような製品には、作用が穏やかで安全というイメージがあるかもしれませんが、注意すべき点もあります。また、その一部には違法に医薬品成分を添加した製品があり、重篤な健康被害の原因にもなっています。今回は、健康食品の位置付けと問題点、特に、我々の違法健康食品による健康被害を防ぐための取り組みをお話します。

健康食品??

  私たちが口にするものについて、法律上では「食品」と「医薬品(医薬部外品を含む)」に分類することが出来ます。この中で、健康食品については法律上の定義はなく、一般的に健康の保持増進に役立つ「食品」と考えることが出来ます。
  また、健康食品には滋養強壮、ダイエットなどの医薬品に近い作用を表示した製品があり、また、錠剤、カプセルなど医薬品のイメージに近い形態として販売されていますが、医薬品の様に病気を治療するものではありません。「食品」と「医薬品」の違いを正しく理解することが重要です。

違法健康食品による健康被害を防止する取り組み

  健康食品は「食品」ですので、医薬品成分を添加することは出来ません。しかし、効果を高めるためか、違法に医薬品成分が添加されている場合があり、死亡例、肝障害等の重篤な症状を含む健康被害の原因にもなっています。このような危険な製品を外観で見分けることは困難です。また、植物・天然成分の配合を強調している製品であっても例外ではありません。
  そのため、私どもはこのような健康被害の未然防止を目的として、インターネット、ドラッグストアーなどで販売されている健康食品について検査を実施し、違法に医薬品成分が添加された製品の発見に努めています。また、万が一、健康被害の発生時には、その原因究明のための検査も行っています。

医薬品成分の検査・検出の事例

過去に国内で健康食品より検出された、医薬品成分等の一部を下表に示しました。このように、多数の医薬品成分が検出されています。

 

  重篤な健康被害を引き起こした中国製ダイエット用健康食品では、食欲抑制薬である
  「フェンフルラミン」、「シブトラミン」、「マジンドール」、基礎代謝を亢進させる「甲状腺末」、さらにフェンフルラミンの類似化合物である「N-ニトロソフェンフルラミン」などが検出されました。この化合物はフェンフルラミンの構造を一部変化させた“新規”の類似化合物であり、分析・確認が大変困難でした。また、マジンドールは食欲抑制薬であると同時に向精神薬に該当するほか、フェンフルラミン、シブトラミンは国内では承認されていない医薬品成分です。
  医薬品成分が含まれているものは違法健康食品となりますが、このように、ダイエット用途の製品一つとっても検出される医薬品成分は様々であり、検査をせずに医薬品成分が添加されているか、されていないか、見た目では推測することは出来ません。また、全ての医薬品成分を一斉に検査する方法はないため、検査が煩雑となっています。
  糖尿病の緩和目的の健康食品では、血糖値を降下させる医薬品成分グリベンクラミド」の検出事例が多数報告されており、一部の事例では副作用による低血糖症を引き起こした疑いがあります。また、海外ではグリベンクラミド以外にも様々な血糖降下薬の検出事例が報告されていますので、今後の動向が気になるところです。

<医薬品成分を含有する中国製ダイエット用健康食品>
  近年、強壮・強精用途の健康食品から、「シルデナフィル」、「タダラフィル」などの勃起不全(ED)治療薬の検出事例が増加しています。さらに、この様な既存の医薬品成分に類似した構造を持つ化合物、例えば「ヒドロキシホモ シルデナフィル」、「アミノ タダラフィル」など様々な類似化合物が健康食品から数多く検出されています。
シナデルフィル
 
ヒドロキシホモ シルデナフィル
<既存医薬品成分の類似化合物>
(で囲んだ部分のみ構造が異なります)
  神奈川県衛生研究所では、検査によってシルデナフィルと類似した作用を持つ化合物を健康食品から新たに検出し、「キサントアントラフィル」と命名しました。このような化合物は既存の医薬品成分とは化学的性質が大きく異なる場合があり、既存の分析法のみでは発見できない可能性もあります。また、発見された場合も当初は未知化合物として発見されますので、NMR(核磁気共鳴装置)による構造決定などの高度な機器分析では、国と共同して対応する必要があるなど、検査がより困難になっています。

新しい手口の健康食品の発見!!

  健康食品でも医薬品でも、カプセル形状の製品であれば、有効成分は一般的にその内容物に含有していると考えられます。そのため、検査法ではカプセルの内容物が主な対象となっていました。しかし、最近、複数の強壮・強精用途のカプセル形状の健康食品を検査したところ、驚くことに、内容物ではなくカプセルの殻自体に医薬品成分を含有していた製品が発見されました。このカプセルは通常のカプセルと見た目では違いはありません。汎用されている検査法の裏をついた事例であり、医薬品成分を添加する手法がますます巧妙化されていると考えられます。

健康被害の防止には・・・・

  このように、一旦、新たな化合物が発見されれば、次の新たな化合物が合成され、さらには新たな混入手法が開発されるという状況が繰り返されています。その目的は、検査のかく乱とすり抜けであると考えられます。しかし、既存医薬品成分の類似化合物には元の医薬品には無い副作用を引き起こす可能性があるなど、その危険性が指摘されています。
  また、医薬品同士、または食品と医薬品の飲み合わせが問題となっている中、製品中に医薬品成分が知らずに添加されているという状況では、危険な飲み合わせによる健康被害が発生することも十分に考えられます。このことは消費者の安心・安全を守る上で重大な懸念です。健康被害を未然に防止するためにも、検査の強化のほか、新たな事例にも柔軟に対応できる検査法を開発するなどの対策が必要と考えられます。
  ここまで健康食品の危険性について説明してきましたが、健康食品は、本来、正しく活用すれば、私たちの健康の維持・増進に役立つものです。潜在的なリスクを理解すると共に、正しい情報に基づいて適切に使用することが大切です。

 
健康食品に関する参考情報 (インターネット-ウェブサイト)
○ 厚生労働省 健康被害情報・無承認無許可医薬品情報 <http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet.html>
○ 独立行政法人 国立健康・栄養研究所 <http://www.nih.go.jp/eiken/>  
(理化学部 熊坂謙一)
   
衛研ニュース No.133 2009年7月発行
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