神奈川県衛生研究所

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NO.120

2007年6月発行 神奈川県衛生研究所


神奈川県における食品GLP体制と将来展望

  食の安全・安心は重大な関心事です。食品の安全性に関する問題は複雑化、多様化し、食品を汚染する病原微生物や、食品に残留する農薬、動物用医薬品等の検査の重要性が増大しております。
  神奈川県では、衛生研究所や食肉衛生検査所、保健福祉事務所で、食品検査や食品の収去を行い、食の安全確保に取り組んでおります。平成9年からは、食品衛生法に基づく食品衛生検査を行うこれら検査施設に、食品GLP(Good Laboratory Practice=業務管理基準)を導入し、検査の信頼性を高めてまいりました。GLPが導入されてから、今年で満10年を迎えました。
 今回は、神奈川県のGLP体制を紹介するとともに、現行の課題と将来展望についてお話しします。


○GLPのしくみ

  図1はGLPに基づいた食品衛生検査の流れです。食品の収去、検査は以下の基本的遵守事項に従って動いています。
  • 去及び検査を行う施設ごと責任者を設置し、組織体制及び責任体制を明確にする。
  • 収去及び検査に当たって、サンプルの取扱い、搬送の方法、検査機器の保守管理試薬等の管理、検査方法の手順、記録の保存等を示した標準作業書(以下、SOPとする。)を作成して、常にそれに従った検査を行う。
  • 検査担当者の技能水準を確保し、検査の精度を適正に保つため精度管理を行う。
  • これらの実施状況が適正で確実に行われているか、信頼性確保部門による点検、確認を行い、必要がある場合には改善措置を講じる。簡単に言えば、収去から検査までをマニュアル化し、人も含めた全てを管理し、その実施状況を独立した監査部門(信頼性確保部門)が点検することで、食品衛生検査の信頼性を保証するというシステムです。
 
  
  図2は、神奈川県のGLP組織体制です。食品サンプルを採取(食品衛生法では収去といいます。)する収去部門は、保健所食品衛生主管課と食肉衛生検査所衛生監視課に置かれています。収去部門責任者は、保健所長及び食肉衛生検査所長が、収去区分責任者は、それぞれ食品衛生主管課長と衛生監視課長が当たります。検査部門は、衛生研究所の微生物部、理化学部及び地域調査部の3部と食肉衛生検査所の精密検査課に置かれています。
収去部門から持ち込まれた食品中の農薬、抗菌性物質、食品添加物等の化学的分析や病原性細菌等の微生物学的検査を実施します。検査部門責任者は衛生研究所では各部の部長が、食肉衛生検査所は所長が、また検査区分責任者は、衛生研究所では各部の副部長及び地域調査部各分室(小田原・厚木・茅ヶ崎)の責任者が当たり、検査の精度向上に努めております。
  GLPのシステムで重要な役割を果たすのが、信頼性確保部門です。  
  この部門は、収去部門、検査部門とは完全に独立した組織であることが要求され、第三者として収去及び検査が各SOPに則って実施されているかを定期的に点検し、必要に応じて業務の改善指導を行います。信頼性確保部門はGLP導入当初は、県庁生活衛生課に置かれていましたが、試験検査の高度化に対応して、より綿密な点検を実施する目的で、平成18年度から衛生研究所企画情報部に移されました。
 
   
  

図3は、保健所の試験検査部門を衛生研究所に集約した平成15年度以降、4年間の信頼性確保部門による点検の実績です。ポジティブリスト制度の導入を始めとする高度な検査の導入に伴い、各SOPも複雑となり、点検業務も大幅に増加してきております。

 ※ポジティブリスト制度とは、基準が設定されていない農薬等が一定量以上含まれる食品の流通を原則禁止する制度です。

 

○現行の課題

  GLPは、国際的にも認められた検査施設の信頼性を保証するための有効なシステムです。しかし、日本では、その導入後に大きな社会問題に発展する複数の事故が発生しています。後に行われた原因調査の結果は、いずれも人為的ミスが誤った検査結果に結びついたとの報告となっています。
  人間はミスを犯すものということは、一種自然の摂理です。そして、検査にどんなに高度の機器が使用されるようになっても人間の手が入る以上、ヒューマンエラーのリスクはゼロにはなりません。
  今後、さらにGLP体制を強化し、行政検査への信頼を確固たるものとしていく上で、ヒューマンエラー防止と小さなミスを大きなミスにつなげないリスク管理に重点をシフトした業務管理が今後の課題です。次に、現在注目されている新たな取り組みを紹介します。
 

○監査方式からリスクアプローチ方式へ

   現在、信頼性確保部門が行う内部点検は、規程やSOPどおりに作業が進められているかを事後に確認し、欠陥を指摘していく、いわゆる監査方式が中心になっています。この方式は、リスクの適切なコントロールについて評価を行っていないため、検査の工程に重大なミスを起こす要因が含まれていても事故が発生するまでは、発見されにくいという欠点があります。この欠点をカバーする方式として、リスクアプローチ方式(図4)による監査手法が注目されています。この方式は、①リスクアセスメント(リスクの洗い出し、リスクの順位付け)、②リスクコントロールの把握(コントロール手段の把握、コントロールデザイン評価、コントロール状況の確認)、③リスクベースの点検報告という手続きで行われます。
 
  従来の監査手法と比べると、リスク管理に重点を置いた効率的、効果的手法であり、検査施設としての信頼性の保証とリスク管理の両面での進化が期待できます。
  この新手法の導入には、検査のあらゆる面での状況を把握するという困難な作業が必要ですが、これまで培ってきたノウハウを活用することで比較的短時間での導入が可能と考えています。

○組織管理から自主的改善へ

   GLP体制は、検査部門に責任者を置き、さらに独立した監査部門に点検を行わせるという徹底した組織管理によって成り立っています(図2)。しかし、検査法が複雑化し、要求される技術レベルが高度になるにつれ、少数の管理者が、現場全ての詳細を把握して管理を徹底するのは困難な状況が進んでいます。
   この状況に対処していくには、従来の管理体制に加えて現場が中心となって行うボトムアップ活動を導入し、上からの命令で実行するのではなく、あるべき姿に向けて組織全体が進化しようと取り組む風土作りが欠かせません。
   食の安全に対する消費者の関心の高まりから、関係者が一丸となって取り組んでいく必要があります。食品衛生行政は食品安全基本法の制定や食品衛生法の大改正が行われるなど大きな進化を遂げています。しかし、一方ではBSEの国内発生や企業倫理が問われるような社会的問題が露呈するなど、食の安全をめぐる様々な問題も依然発生し続けています。
   当所では、食品衛生行政は科学的知見に基づく合理的な対策をとることにより、飲食に起因する衛生上の危害防止を図るという理念に忠実に、試験検査の充実の一環としてGLPの適切な運用に取り組んでまいります。

企画情報部 橋爪 廣美

   
衛研ニュース No.120 平成19年6月発行
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