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衛研ニュースNo.112

2005年12月発行
  1. HIV検査をより受けやすく・・・“HIV即日検査”が始まりました!
  2. シックハウス対策への取組み

HIV検査をより受けやすく・・・“HIV即日検査”が始まりました!

           

嶋 貴子

 みなさん、12月1日は“世界エイズデー”であることをご存知ですか?
  この“世界エイズデー(World AIDS Day)”とは、WHO(世界保健機関)が1988年に世界レベルでのエイズ蔓延防止とHIV感染者・エイズ患者への差別や偏見をなくすために、この日を中心にエイズに関する啓発活動の実施を提唱したものです。日本においても、毎年12月頃になると、テレビや新聞で“HIV/エイズ”に関する特集や報道が増加するので、何となくご存知の方も多いと思います。
   しかし、普段は“HIV/エイズ”について、直接身近に感じる機会が少ないせいか、社会的にHIV/エイズに対する関心が低下してきていることが懸念されています。その一方で、HIV感染者数は年々増加しており、日本において昨年1年間(平成16年)に新たに報告されたHIV感染者は780件、エイズ患者数は385件、合わせて1165件と、HIVに感染した人の年間の総数がこれまでで初めて1000件を超え、また、HIV感染者とエイズ患者数の累計報告数は今年4月に1万人を突破しました。HIV感染症は、現在では有効な抗HIV薬が多く開発されてきており、早期発見・早期治療を行えば、エイズ発症をコントロールできる慢性疾患となってきているにもかかわらず、エイズを発症してからHIV感染に気づく人が新規報告数の3分の1を占めているのが現状です。このためHIV検査をいかに受けやすくして、早期発見につなげていくかが大きな課題となっています。HIV検査はこれまでも全国の保健所で“無料・匿名”で実施されてきましたが、保健所でのHIV検査実施日の多くが平日昼間などの限られた日時に設定されており、また検査結果を聞くために再度来所しなくてはならないことから、仕事のある人や学生などにとっては利用が難しいという問題が挙げられてきました。その問題点を解消するために、保健所等のHIV検査機関では夜間検査や土日検査といった利便性の高い日時に検査を実施するとともに、新たなHIV検査体制として注目されている“即日検査”を取り入れる検査機関が増加しています。
 
【HIV即日検査とは?】
   即日検査とは、15分で結果判定が可能なHIV抗体迅速検査キットを用いて、検査当日(約1時間後)に受検者にスクリーニング検査結果をお知らせする検査法です。この抗体迅速検査キットは、これまで使用されてきた通常検査の抗体検査キットと同程度の検出感度ですが、偽陽性(HIVに感染していないのに、たまたま検査キットで反応する抗体を持っているため陽性となってしまうこと)が少し多い傾向にあることが、当所の検討の結果で分かっています。このため、陰性の場合にはその日で結果通知が終了しますが、迅速検査で陽性の場合には、HIV感染か偽陽性かを確認するための検査が必要となるため、後日(通常1週間後)、改めて確認検査の結果を聞きに行くことが必要となります(図1)。現在、当所では、偽陽性が少ない迅速検査キットの検討や、偽陽性を除外するための検査方法の研究を積極的に進めています。

【即日検査の試験的導入で受検者が急増!】
 この即日検査を全国の保健所に本格的に導入する前に、研究事業として即日検査の導入研究が行われました。栃木県の保健所では、HIV検査受検者数が即日検査導入前(平成14年)は130件であったのに対し、即日検査導入後(平成15年)には455件(3.5倍)に、さらに導入後2年目(平成16年)には814件(6.3倍)に増加しました。また、江戸川区の保健所では即日検査導入前(平成15年)が152件であったのに対し、導入後(平成16年)は1595件(10倍)に増加し、また一回当たりの受検者数の平均は73名となりました。これらの増加の背景は、即日検査の実施による影響はもちろんですが、受検者へのアンケート調査結果から、即日検査の実施情報をホームページ“HIV検査・相談マップ”(http://www.hivkensa.com)(図2)から得た人が多いことが分かりました。このような情報提供により、即日検査でHIV受検者数が増加することから、ホームページの活用の重要性も示されました。
 
【神奈川県でも即日検査を実施しています!】
 神奈川県においても、毎月第2、4日曜日に本厚木駅から徒歩5分の横浜YMCA(厚木)において、“HIV即日検査センター”を新設し、本年8月より即日検査を開始しています(図3)。また、イベント検査として、平塚保健福祉事務所で12月上旬に即日検査を実施する予定です。平成15年に国内で1か所の保健所から試験的導入が始まった即日検査は、平成17年10月現在、全国の保健所122か所、特別検査機関5か所(22都道府県33自治体)の合計127か所で実施されるようになりました。本年度はさらに、世界エイズデーに合わせて、保健所等検査機関やイベント会場での即日検査実施の計画が全国的に進んでいます。これらの検査情報は、ホームページ“HIV検査・相談マップ”に掲載してありますので、是非ご活用下さい。
【来年度からHIV検査普及週間も始まります!】
   HIV感染者とエイズ患者の増加傾向が続くエイズ感染拡大の事態悪化に歯止めをかけようと、厚生労働省はHIV検査体制を強化する“HIV検査普及週間”を来年度に新設します。この普及週間は、12月1日の世界エイズデーの半年前の毎年6月1日から1週間が予定されています。保健所や特別検査機関において、即日検査、土日検査や夜間検査等の利便性の高いHIV検査や住民に向けてHIV検査の普及啓発活動を実施します。
   HIV検査をより受けやすい体制にしていくことが、検査希望者本人のためにも、また感染拡大を防ぐためにも、ますます重要となっていきます。
    衛生研究所は、HIV検査技術を常に最高水準に保ち、信頼性の高い情報を提供し、保健福祉事務所のHIV検査体制をサポートすることにより、これからもHIV検査普及に貢献していきます。
(微生物部)


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シックハウス対策への取組み

           

辻 清美

はじめに
住宅の高気密化ととともに建材から揮散する化学物質が原因で室内の空気が汚染され、居住者に様々な体調不良が発生しています。このように、住まいが原因となって発生する様々な症状をシックハウス症候群と呼んでいます。症状は目がチカチカする、のどが痛い、頭痛やめまい、鼻水や涙、せきがでる、皮膚が乾燥する、赤くなるなど多様です。
シックハウス症候群は住宅の高気密化や建材からだけでなく、家具、家庭用品、カビ、ダニ等生物由来のアレルゲン、化学物質に対する感受性など様々な要因が複雑に関係して発症すると考えられています。シックハウスは個人住宅だけでなく、オフィスビル、学校などでも問題となっています。(シックハウスは和製英語で、英語ではSick buildingといいます。)
室内濃度指針値
国では、厚生労働省・国土交通省等の関係省庁が協力して、原因分析、基準設定、防止対策等のシックハウス対策を行っています。厚生労働省は平成9年から現在までにホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、クロルピリホス、フタル酸ジ-n-ブチル等13物質について室内濃度指針値を設定しています。また、文部科学省は学校内の教室等の空気について、平成14年2月、平成16年2月に学校環境衛生の基準の改定を行い、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン等6物質を対象に判定基準を設定し、定期検査を義務づけています。

表 室内濃度指針値
物質名 主な用途 厚生労働省   文部科学省の学校
環境衛生の基準
室内濃度指針値*   判定基準
ホルムアルデヒド 合板、接着剤、防かび剤 100 mg/m3   0.08 ppm   100 mg/m3  
トルエン 塗料、接着剤、塗料用溶剤 260 mg/m3   0.07 ppm   260 mg/m3  
キシレン 塗料、接着剤、油性ペイント 870 mg/m3   0.20 ppm   870 mg/m3  
パラジクロロベンゼン 衣料用防虫剤、トイレ用防臭剤 240 mg/m3   0.04 ppm   240 mg/m3  
エチルベンゼン 塗料用溶剤、接着剤 3800 mg/m3   0.88 ppm   3800 mg/m3  
スチレン 断熱材、畳、接着剤、発泡スチロール 220 mg/m3   0.05 ppm   220 mg/m3  
フタル酸ジ-n-ブチル プラスチック可塑剤、塗料、顔料、接着剤 220 mg/m3   0.02 ppm   -  
クロルピリホス 殺虫剤、防虫剤、防蟻剤 1 mg/m3
小児の場合 0.1mg/m3
  0.07 ppb
0.007 ppb
  -  
テトラデカン 灯油、塗料 330 mg/m3   0.04 ppm   -  
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル プラスチック可塑剤、壁紙、床材 120 mg/m3   7.6 ppb   -  
ダイアジノン 殺虫剤 0.29 mg/m3   0.02 ppb   -  
アセトアルデヒド 接着剤、防腐剤 48 mg/m3   0.03 ppm   -  
フェノブカルブ 殺虫剤、防蟻剤 33 mg/m3   3.8 ppb   -  
               
総揮発性有機化合物(TVOC) 室内空気中の揮発性有機化合物の総量
室内空気質の目安
暫定目標値
400 mg/m3

(トルエン換算値)
   
*両単位の換算は25℃の場合
当所の現在までの取組み
1.住まいと健康サポート推進事業H13~
県民の方から、家庭内でのシックハウスとみられる症状などについて、保健福祉事務所に相談があったとき、保健福祉事務所ではその内容について聞き取り調査を行います。その結果、原因物質についての調査が必要と判断されたとき、衛生研究所に依頼があります。家庭内での試料採取は保健福祉事務所が担当し、分析は衛生研究所で室内濃度指針値が示されている物質について検査を行います。
平成13年度から現在までに138件の調査を行いました。そのうち、指針値を超えて検出された物質は、ホルムアルデヒド(8件)、パラジクロロベンゼン(8件)、アセトアルデヒド(4件)、トルエン(2件)でした。総揮発性有機物(TVOC)暫定目標値を超えたものは18件でした。
ホルムアルデヒドの発生原因は、合板や内装材、壁紙に使用される接着剤、家具、カーペットからの放散が考えられます。パラジクロロベンゼンは、衣類の防虫剤やトイレの芳香剤として使用されていますが、使いすぎには注意が必要です。アセトアルデヒドは接着剤、防腐剤で使用されています。また、喫煙によっても発生します。トルエンは内装材等の接着剤、塗料からの放散が考えられます。TVOCの暫定目標値は、毒性学的見地から決定されたものではなく、室内空気質の状態を示す目安として設定されましたので、目標値を超えてもすぐに問題ということではありません。
2.自動車におけるシックハウス予防調査H17
自動車は鉄、アルミニウム等の金属だけでなく、プラスチックや合成皮革など様々な化学材料で構成されており、塗料や接着剤も使用されています。今後の予防対策の一助として、現在、衛生研究所では自動車室内の化学物質濃度を調査しています。
3.光機能材料を活用したシックハウス症候群物質などの簡易定量法に関する研究(政策推進受託研究事業)H15~17
有望な研究成果を実用化まで育成するという考えのもと、産学官連携の共同研究で行っている事業です。現在、公定法として定められている方法は操作が煩雑で、結果が出るまでに時間がかかります。そこで、主要な原因物質であるホルムアルデヒド等について、現場での濃度測定を簡便に行うことができるよう簡易法の開発を大学、民間企業と行っています。
4.防蟻剤による室内空気汚染に関する研究(経常研究)H15~16
防蟻剤中のクロロピリホス等指針値が決められた物質を中心に室内空気からの捕集方法、分析法を検討し、GC/MSによる同時分析法を確立しました。 
新たな取組み
県立高校におけるシックハウス症候群の発生を契機に、シックハウス対策に対する体制の強化が図られました。現在までの取組みをもとに、緊急の課題として「シックハウス症候群原因物質としての農薬成分による室内環境汚染に関する研究」(H17~19)を行うことになりました。 
指針値は定められていないがシックハウス原因物質となることが危惧される防蟻剤や家庭用殺虫剤等に使用されている農薬成分に注目し、室内空気中からの捕集方法、検査法を確立し、その汚染実態の把握、さらにモデル実験による室内空気への放散量や挙動の把握、最終的にはシックハウス症候群原因物質の低減化対策について検討していく予定です。
(理化学部)

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