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衛研ニュースNo.108

2004年12月発行

ウエストナイル熱について

           

古屋由美子


   2004年7月末、アメリカから帰国した人が頭痛・発熱などの症状を示し、ウエストナイル熱患者ではないかと疑われました。検査の結果、ウエストナイルウイルス(WNV)感染は無かったと判定され、関係者一同ほっとしたところです。しかしアメリカでは2004年もWNVが流行し、ウエストナイル熱患者が多数発生しています。このためWNVに感染している蚊が日本にも侵入し、WNVが流行するのではないかと心配されていますが、幸いなことに現在まで日本での患者発生はみられていません。しかし交通機関の発達で、アメリカから短時間で移動できることを考えると、日本でいつWNVが流行してもおかしくない状況です。そこで神奈川県でもWNVの流行予測のために、死亡カラスや蚊の調査を行っています。ここではWNVやこのウイルスが起こすウエストナイル熱という病気、アメリカでの患者発生の状況や県での取り組みについて説明します。

【WNVとはどんなウイルス】

   WNVは1937年アフリカのウガンダのウエストナイル地方の発熱患者から最初に分離されました。このウイルスはフラビウイルス科のフラビウイルス属に分類されており、日本脳炎ウイルスと近縁であります。

【WNVが起こす病気】

   WNVに感染している蚊に刺されることによって起こる病気ですが、人から人へ直接感染することはありません。また感染した人のうち、ほとんど(約80%)の人は何の症状も示しません。約20%の人がウエストナイル熱になると言われています。蚊に刺されて2~14日たつと発熱(39℃以上)、頭痛、筋肉痛、時には発疹、リンパ節の腫れが見られます。また感染した人の約1%の人が重症化して、ウエストナイル脳炎になります。ウエストナイル脳炎になると、ウエストナイル熱の症状に加えて筋力低下、意識障害、けいれん等の症状があらわれます。脳炎になるのは、高齢者に多いと言われています。

【アメリカでの発生状況】

   ウエストナイル熱患者はこれまでアフリカ、ヨーロッパ、西アジアで発生し、アメリカでの発生はありませんでした。ところが1999年にアメリカのニューヨークで患者が発生した後、3年間でアメリカ全土やカナダの一部に広がり、2003年にはアメリカでの感染者は9862名(うち死亡264名)、カナダでの感染者は1315名(うち死亡10名)が報告されています。2004年では11月8日現在、アメリカでの感染者は2282名(うち死亡77名)、カナダでの感染者は29名(うち死亡0名)が報告されています。

【自然界でのWNVの動き「伝播様式」】

   WNV は自然界では鳥と蚊のあいだで感染の環が作られています。WNVに感染している蚊の吸血によりウイルスが鳥に伝搬されます。鳥では感染後1~4日の間に体内でWNVが大量に増え、たくさんのウイルスが血液中に存在します。その鳥を吸血した蚊がウイルスに感染することにより感染の環が維持されます。
  人や馬はWNVに感染した蚊に刺されて、感染しますが、鳥と比べて人や馬の体の中ではウイルスはおよそ10,000~100,000分の1程度しか増えることができません。そのため感染した人や馬を吸血した蚊がウイルスに感染することはなく、人や馬を介してWNVが広まっていくことはほとんどありません。
  アメリカでWNVが検出された蚊の種類は40種以上あり、地域によって異なりますが、重要な媒介蚊はイエカ属のトビイロイエカやヤブカ属のキンイロヤブカ等であります。日本にも近縁な蚊(アカイエカ、ヒトスジシマカ等)が分布していますので、WNVが日本国内に入ってきた時にはこれらの蚊がWNVを広めてしまう可能性があります。

【予防方法】

   WNV感染を予防するためのワクチンはまだありません。症状を軽減する治療が中心です。そこで、最も有効な感染予防法は蚊に刺されないことです。そのためには蚊が多いところは避けるか、外出の際には長袖のシャツや長ズボン等を着用し、肌の露出を少なくするか、露出している皮膚には忌避剤、虫よけを塗布して、蚊に刺されないようにすることが重要です。また網戸などを使用し、室内への蚊の侵入を防ぐことも大切です。
   WNVを媒介する蚊を標的とした有効な対策としては蚊を駆除すること、蚊の幼虫の発生場所をなくすことです。身近でできることは、古タイヤの裏の水たまりや雨水のたまりやすいところから水を抜くというようなことを心がけ、浄化槽や排水溝等の水が抜けない場所には殺虫剤を散布することも有効です。
   ウエストナイル熱が流行している地域へ渡航する場合は、蚊に刺されないようにすることが大切ですが、蚊に刺されたのち、2週間以内に39℃以上の発熱、頭痛、筋肉痛などの症状が現れた場合には、最寄りの医療機関を受診し、ウエストナイル熱流行地に行ったことを医師に伝えることが大切です。 

【県の取り組み】
   県ではWNV流行予測のため死亡カラスの調査、蚊の調査を行っています。
   アメリカではウエストナイル熱流行の前にカラスの死亡数の増加が報告されており、カラスの死亡情報がウエストナイル熱の侵入監視と流行予測に有効とされています。そこで7カ所の県立公園でカラスの死亡数の調査を行っています。死亡カラス数が通常以上に増えた場合はWNV検査を実施する体制を整えています。
   現在までに、実施された県内の死亡カラスの検査ではWNVは検出されていません。
  またWNVの侵入監視、流行予測のために媒介蚊の調査を行っています。今年は7月から10月まで、月2回県内2カ所に捕虫器(ライトトラップ)を設置し蚊を捕獲し、WNV検査を行っています。捕獲された蚊はヒトスジシマカ、アカイエカ、オオクロヤブカ等で、現在のところ蚊からもWNVは検出されていません。
   今のところ日本でのウエストナイル熱やウエストナイル脳炎患者の発生はありません。また死亡カラスや蚊からもWNVは検出されていません。日本国内にはまだWNVは侵入していないと考えられますが、いつウイルスの侵入があるかもしれません。今後も死亡カラスの調査、蚊の調査を続け、WNVの流行予測監視を行い、情報の提供をしていきたいと思っています。

(微生物部)



食の安全をめざして-放射能編-

           

飯島 育代


 残留農薬、BSE、遺伝子組み換え食品、鳥インフルエンザなど、食に対する不安が消費者間で高まっています。国は農林水産省・厚生労働省などが中心となり、「食の安全・安心」のため、リスクコミュニケーション、トレーサビリティなどについて情報発信するとともに、食品衛生施策に国民の意見を反映させるため様々な取り組みを進めています。神奈川県でも生活衛生課に食の安全推進班を設置し、様々な取り組みを展開中です。当衛生研究所では県が進める食の安全・安心対策に基づき、担当グループが食品の調査・検査を実施しています。放射能グループでは食品の放射能調査を実施しています。ここでは放射能の観点から食の安全の状況について報告します。

1.輸入食品
  1986年に起きた、旧ソ連チェルノブイリ原発事故後、主に東ヨーロッパ産の食品の放射能濃度が高く、日本国内への影響が懸念されました。厚生省(現厚生労働省)は輸入食品に関する暫定限度としてセシウム-137(以下Cs-137)+セシウム-134(以下Cs-134)が370Bq/kgを超えないことと定めました。検疫所及び国立衛生試験所(現国立医薬品食品衛生研究所)の検査で限度を超えたものは食品衛生法第4条違反として、輸入業者に対し積み戻しが指示されました。当所では1986年度後期から県内流通輸入食品の調査を開始しました。1990年度から県保健所検査課(現衛生研究所分室)にNaI(Tl)放射能測定器を設置し、検査課で200Bq/kgを超えた検体について当所でクロスチェックするという体制で臨みました。2002年度からは検査課の行政検査内容の変更に伴い、当所での調査を再開致しました。2003年度までに、神奈川県では暫定限度を超えたり、クロスチェックを要した食品はありませんでした。2003年度までの当所での調査結果を図1に示しました。

図1 輸入食品中の放射能濃度


Cs-137が約80Bq/kgを示したのは、スパゲッティ、65Bq/kgを示したのは香辛料です。2002年度からは年間6試料で、野菜加工品、穀類加工品、ミネラルウォーター、乳製品を対象としています。この2年間ではチーズ1試料からCs-137が0.6Bq/kg検出されたのみです。なお、検疫所では今年8月にロシアのキノコ(カバノアナタケ粉状製品)からCs-137が387Bq/kg検出され、積み戻しの指示が出ています。
 事故後18年経過した現在、放出されたCs-134は半減期が約2年ですから、単純に計算すると、(1/2)18/2=0.00195と、当初の0.2%程度しかありません。しかしCs-137は半減期が約30年のため、(1/2)18/30=0.660と、事故当時の7割弱が残っていることになります。地面に降ったCs-137は雨水等とともに表層土から地中へ浸透していくと考えられています。一方で森林土壌などでは、腐葉土や、その中の微生物等により、Cs-137がトラップされて表層土にとどまるため、そこに生息するキノコ類の放射能濃度が依然として高いのだと考えられてきています。事故の影響は現在でも残っています。

2.国内食品
 県内に流通する国内食品中の放射能濃度レベルの把握を目的として、コメ、野菜・キノコ、乳類について放射能濃度調査を実施しています。2003年度の食品中の放射能濃度を表に示しました。

表 国内食品の放射能濃度(2003年度)
試料名 試料数 単位 Cs-137 Cs-134 I-131
野菜 2 Bq/kg生 <LOD <LOD -
キノコ 2 Bq/kg生 0.41~1.9 <LOD -
コメ 1 Bq/kg生 0.024 <LOD -
牛乳(生乳) 12 Bq/kg生 <LOD~0.052 <LOD <LOD*1
牛乳(市販乳) 1 Bq/kg生 0.032 <LOD -
粉乳 2 Bq/kg生 0.092~1.6 <LOD -
日常食 2 Bq/(人・日)*2 0.055~0.063 <LOD -
*1:I-131については試料数6,*2:摂取量

全体としては前年度と同じ濃度レベルでした。チェルノブイリ事故のあと、キノコの放射能汚染が問題となり、当所でもシイタケの調査を実施しています。

図2 シイタケ中の放射能濃度

1989年度からの調査結果を図2に示しました。30Bq/kgを超える2試料は図示したように、乾しシイタケです。濃度が高いように見えますが、灰分は生シイタケの灰分の10倍程度で、生重量に換算した場合の放射能濃度は生シイタケとほぼ同レベルになります。1994年度からは県内産の生シイタケ2試料を定点観測しています。図2から経年的に漸減傾向にあることがわかります。
 なお、国内食品には輸入食品のような放射能濃度限度はありませんが、原子力災害対策上、飲食物の摂取制限指標値が定められています。万一原子力災害が起きた場合、例えば牛乳・乳製品の場合は放射性ヨウ素が300Bq/kgもしくは放射性セシウムが200Bq/kgを超えると災害対策本部が摂取制限を行います。これまで当所が実施している牛乳中の放射能濃度レベルは上記指標値に比べ十分に低く、他食品も含め、安全性が保たれています。

3.旧ソ連による核廃棄物海洋投棄問題に係る魚介類調査
 1993年10月に、旧ソ連時代に核廃棄物が北海、日本近海等に廃棄されていた事実が明らかになりました。このため、国は調査団を派遣し、日本海沖の魚介類についての調査を実施しました。県でも県内流通魚介類について日本海側への水揚げ分の調査を実施しています。図3に採取地ごとの魚介類中のCs-137濃度を年間平均値で示しました。現在までの所、日本海側と県内産では有意差は認めらず、核廃棄物の影響はないと考えられます。
図3 県内流通魚介類中の放射能濃度
 以上述べましたように、県内流通の各食品の放射能は安全が確認されています。しかし、日本の食糧自給率は現在40%程度で、生鮮品、製品、原材料等多様な食品を輸入しています。また、価格破壊、食のグローバル化などにより、輸入食品の割合は上昇が予想されます。また、海洋投棄された核廃棄物中にはCs-137、ストロンチウム-90等、長半減期の人工放射性核種があること、廃棄物容器の劣化による漏洩の恐れがあることなど、今後も輸入・国内とも食品の放射能に関する安全性の確認が必要です。

(理化学部)

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