血清型別検査
(微生物部)
血清凝集反応
確認培養等による生化学性状から属及び種が決定されたら、次に免疫血清に対する凝集反応により血清型を決める。ここでは、腸内細菌及び類似菌(ブドウ糖を分解する菌として、サルモネラ、赤痢菌、チフス菌、腸炎ビブリオ、コレラ菌など)の血清型別検査の方法について述べる。なお、病原菌の血清型の決め方は各種診断用免疫血清の説明に従って行う。
1.血清型の決定
血清型の決定は各種診断用免疫血清により行う。各種診断用免疫血清と被検菌を混和させたとき、免疫血清と対応する菌との抗原抗体反応により菌体の凝集塊が生じる。この反応を目視にて観察することで血清型の決定を行う。被検菌は普通寒天培地やHI寒天培地等に接種した純培養菌を用いて凝集反応を行うが、腸内細菌及び類似菌では確認培地のTSI寒天斜面培養菌を用いることもできる。
(1)O抗原*1(菌体抗原)、K抗原*2(莢膜抗原)の型別
*1:O抗原の由来 ohne Hauchbildung *2:K抗原の由来 Kapsel
- ① 被検菌として生菌を用いる場合
- サルモネラ、赤痢菌、コレラ菌のO抗原、腸炎ビブリオのK抗原、チフス菌のVi抗原の血清型を決めるときは、生菌を用いる。
- 普通寒天培地、HI寒天培地等に接種した純培養の生菌*3を使用し凝集反応(スライド凝集反応)を行う。
*3:生化学性状試験に使用したTSI寒天斜面培養菌を使用すると時間の短縮になる。
- ② 被検菌として加熱死菌を用いる場合
- 菌体の周囲に形成された莢膜様物質を不活化するために、加熱死菌を用いる。
- 大腸菌、チフス菌のO抗原、腸炎ビブリオのO抗原の血清型を決めるときは、加熱死菌を用いる。
- 純培養菌を生理食塩水に濃厚接種した浮遊液を作成し、100℃で30‐60分間加熱した加熱死菌を使用し凝集反応(スライド凝集反応)を行う。
- 加熱温度・時間は菌により異なるので、各種診断用免疫血清の説明に従って行う。
(2)H抗原*4(鞭毛抗原)の型別
*4:H抗原の由来 Hauchbildung
- サルモネラ、大腸菌のH抗原の血清型を決める。
- 被検菌としてHIブイヨンやBHIブイヨンに接種した純培養の液体培養菌液に1%ホルマリン加生理食塩水を等量加えたもの(最終濃度0.5%ホルマリン液)を使用し凝集反応(試験管内凝集反応)を行う。
- サルモネラのように2つのH抗原をもつ菌(複相菌)は、通常一方の相にのみ凝集がみられ、他の相とは反応しない。従って、最初に凝集したH血清に対するH抗原の他に、もう1つのH抗原を確認しなければ、血清型は決定できない。それには、後述するH抗原の相の誘導法に従って被検菌液を作り、それを使って再度凝集反応(試験管内凝集反応)を行う。
|
2.凝集反応
凝集反応には、スライド凝集反応と試験管内凝集反応とがある。通常はスライド凝集反応で血清型を決めるが、サルモネラのH抗原は試験管内凝集反応で血清型を決める。
(1)スライド凝集反応
(2)試験管内凝集反応
① 小試験管を用いる場合
- 小試験管(できるだけきれいなものを選ぶ。)にH血清0.02mlとホルマリン処理の液体培養菌液0.4mlを混和し、50℃の恒温槽で30分間静置する。
- 蛍光灯などの光にかざし、凝集の有無を確認する。非常にもろい凝集塊なので注意して取り扱う。
② マイクロプレート(V型)を用いる場合
- 5倍希釈したH血清10μlとホルマリン処理の液体培養菌液30μl*5を混和(プレートミキサーで30秒程度)し、36℃のインキュベータで30分静置後、各ウェルについて凝集塊の有無を確認する。(凝集が認められない場合はさらに30分延長)
*5)マイクロプレートを用いる場合は、生化学性状試験に使用したリジン脱炭酸試験培地に1%ホルマリン加生理食塩水を等量加えたものを使用すると時間の短縮になる。 - 下から光を当て、ルーペで見ると分りやすい。
3.H抗原の相の誘導法(相誘導)
(1) サルモネラの相誘導
|
(2)誘導後の被検菌の調製
|
同定時間を短縮するため、生化学性状試験で使用したリジン脱炭酸試験培地をホルマリン処理して、マイクロプレートを用いた簡易法で1相目を決定する。次に生化学性状試験で使用したTSI寒天斜面培養菌で相誘導を行い(夕方接種)翌朝BHIブイヨンに接種し、4-5時間培養した後、ホルマリン処理し、同様に2相目を決定する。この方法だと血清型決定に1日の短縮が可能である。 |