ダウン症のある青年ジュンゴの素顔
2017.7.7

ジュンゴ23歳。
ダウン症のある青年です。

好きなのは
お芝居をすること 歌をうたうこと、
そして 白いご飯
ジュンゴさんの写真

居心地のいい場所

ジュンゴは23歳。
学びの場に通い、目下就労にむけて修行中です。

ジュンゴは、舞台で演じることが大好きです。といっても、しゃべることは苦手なので、長いセリフは覚えられません。
でも、「役になりきる」お芝居の空間が好きです。「鎌倉アクターズワークショップ」という市民劇団に入って、お芝居の練習をしています。何よりここのメンバーみなさんが、ジュンゴのことを自然に受け入れ、仲間のひとりとして接してくれていることが、とても居心地がいいみたいです。

おっと、申し遅れましたが、私はジュンゴの母です。
性格はかなりアバウト、抜けていますが、ダウン症のある子の母親を23年間やってます。

ある時、ジュンゴに聞きました。
「鎌倉アクターズに行って何が一番楽しい?」
答えは、意外にも「会話すること」でした。

そんなに会話を楽しめるほどの会話できたかしら・・・?

「あ、そうか。」すぐわかりました。
メンバーのみなさんが、気軽に「ジュンゴ、ジュンゴ」と声をかけてくれるのです。

「ジュンゴ、おなかすかない?」 「へいき!」
「ジュンゴ、さっきのセリフ、上手に言えてたよ」 「うん!!」

みんな、気を遣い過ぎたり、構えたりしません。そして、いいところをほめてくれます。それは、彼にとってとても嬉しいことなのです。

「がんばったね」
「よかったよー」
「すごいね!」

もしかしたら、言うにはちょっと照れくさいようなほめ言葉が、彼らには本当に素直に嬉しかったりします。花の芽は、光と水でぐんぐん伸びて花を咲かせますがダウン症のある人は、ほめシャワーをあびると信じられないほどパワーが増幅して、笑顔の花を咲かせます。そして、またほめられたいので、もっとがんばっちゃいます。

2016年末の公演演目のひとつ、「モモ」という短編は登場人物が3人だけ。郵便配達員役のジュンゴは、短いセリフが数回で、あとは「モモ」と「ユキ」の、超長いセリフのやりとり、というお芝居。公演後の打ち上げのとき、「ユキ」役のAちゃんが感想の発表で「稽古中、セリフがうまく言えなくて、途中でもうダメって、何度も思いました。でも、ジュンゴの笑顔に救われました。ジュンゴ、またいっしょにお芝居やろうね」

みんなの前でほめてもらったジュンゴはまたとびきりの笑顔で応えていたのでした。
  • 「モモ」に出演した3人での集合写真

    「モモ」に出演した3人で

  • 劇団のメンバーと公演後の集合写真

    劇団のメンバーと公演後の集合写真

夢は秋川雅史さん

ジュンゴは、歌うことも大好きです。ただあんまり上手とはいえません。
というのは、ダウン症のある人は、筋力が弱く、音程をとるための声帯の筋肉をコントロールすることさえとても難しいのです。ジュンゴは以前、音程がまったくとれない・・というより、音程というものが存在しないという状況でした。本人は歌っているつもりでも、お経を読んでいるようにしか聞こえませんでした。それが、小学校5年か6年のときに、テレビで秋川雅史さんが「千の風になって」を歌うのを見て、「カッコいい」と真似して歌うようになりました。

「ドレミレド・・」とひとつずつ音階を上がったり下がったりという、超基本的なボイストレーニングでも、音がビミョウにずれる・・・。彼の「ド」と「レ」の間には無数の音が存在するのです。
でも、あきらめずに練習をするうちにずいぶんと音程がとれるようになりました。彼の歌には、「歌が好き」という想いがあふれています。自分も舞台で秋川さんのようにカッコよく上手に歌いたい、そしていつか秋川さんといっしょに舞台で歌いたい、そんな夢をもってがんばっています。

ジュンゴは今、歌以外にも週末ドリプロスクール(※)で、ダウン症や知的ハンディのある仲間たちといっしょに、ダンスや英会話、美術や書道、タブレット講座など、楽しくがんばっています。

ダウン症のある人は、興味のないことにはまったく知らん顔ですが、好きなことには俄然がんばります。伸びる可能性は十分あるんです。
舞台でのジュンゴさんの写真

これはすごい!
ダウン症のある人って…

ダウン症のある人って・・・、白いご飯が大好きなんです。
その大きな理由は、「噛めば甘くて美味しく、噛まずに丸飲みしても大丈夫」だから。
ダウン症のある子は、噛む力も弱く、舌の使い方も上手くないのです。
ジュンゴは小さいとき、白いご飯しか食べないという時期がありました。
成長すれば、噛む力もついてきますが、ジュンゴは今も、毎食、まず先に白いご飯をじっくり味わい全部食べ終わってから、おかずを食べにいきます。

それから、ダウン症のある人って・・・、驚愕の特技があるんです。
この写真のようなことができちゃうんです。
ダウン症のある人たちによる開脚前屈の写真

ダウン症のある人たちによる開脚前屈

身体が柔らかく、開脚前屈がベターとついてしまう、という人がけっこう多いです。
それは、筋肉の緊張が弱く、関節が柔らかいからなのですが、反面、ダウン症のある人の中には、頚椎を痛めやすい人もいますので「でんぐりがえし」を強制しないでくださいね。

さらにもうひとつ、ダウン症のある人って…、約9割の人が毎日を幸せに感じているんですって。
2015年に厚生労働省が行った12歳以上のダウン症のある人約850人のアンケート結果からです。
以前、「ダウン症のある人は自分のことを可哀そうだと思っているの」と聞かれたことがありました。
ジュンゴは、一けたの足し算しかできないし、小学校1年生程度の漢字しか読み書きできないし、できないことだらけですが、本人は「可哀そう」とか「惨め」とか思っていません。

もちろんそれは、まわりが「何でできないの」と言わなければ。

彼らは生来、とってもhappyな人たちです。

と、ジュンゴのこと、ダウン症のこと、今は普通に語れますが、私も最初は戸惑い、受け入れられませんでした。
医者から、ジュンゴがダウン症だと告げられたとき、頭がまっしろになって「先生、ダウン症って治るんですよね!」なんて言ってました。

でも、一日一日育っていくその姿と笑顔を見ているなかで
「ダウン症の子どもを授かってしまった」から「かわいい我が子にダウン症がある。じゃあ、どうしたらいいか」になり、「何か好きなことを見つけてあげよう」と、変わっていったのです。

ちなみにですが、最近の言い方として「彼はダウン症です」という言い方ではなく、「彼にはダウン症があります」というようにかわってきています。その人すべてが障がいというのでなく、「喘息がある」的な言い方ですね。

コミュニケーションを
とるツールは、
言葉だけではありません

ダウン症のある子の表情や、
口にするいくつかの単語や、
声の様子をあなたの思いやりのフィルターに
通してみると、
きっと言いたいことが見えてくる

ともに過ごした時間は宝物

ジュンゴは、中学時代、地元の中学校の特別支援学級に通いました。
支援学級と普通学級との交流がとても盛んな学校で、朝読書や、体育、給食の時間や、体育祭や合唱祭、修学旅行も、交流先のクラスの友達といっしょでした。
生活のなかで、いっしょに過ごす時間を重ねていくと、手を貸すべきか、見守るべきか、どんなときにどんな手助けをするのがいいのか、友達もジュンゴのことをよくわかってくれたと思います。

交流先のクラスで、班別に掲示ニュースを書く課題がありました。
ひとりずつがそれぞれ調べて書くのですが、ちゃんとジュンゴも参加して、幼稚な字で数行書いたあと、誰かが最後をまとめてくれていました。
できないから仲間に入れないのではなく、困っていたら助ける、そういう距離感を学べるのが、「インクルーシブ教育」のよさだと思います。

「ジュンゴがいてくれたので、いろんなことに気付かされた」何人もの友達が言ってくれました。
ジュンゴを「お客様」扱いせず、ひとりの仲間として付き合ってくれた友達。そして、「お荷物」と思わずにどんどん交流させてくれた先生方に感謝です。
ジュンゴと過ごした体験が、例えばその後、障がいのある人に優しくなれたり、さらには外国籍の人といっしょに仕事することになったり、家の隣にLGBT(性的少数者)の人が越してきたりしたとき、多様性を受け入れることにつながってくれたらと思います。

卒業するときに、ジュンゴが「仲良くしてくれてありがとう」と手書きのハガキを友達に渡すと、その返事をたくさんの友達が書いてくれました。
  • ジュンゴさんと同級生の卒業式での写真

    卒業式には、いっしょにパチリ。

  • 友達から送られた手紙の写真
そして、5年後の成人式の日、市の成人式会場に行くと、小学校中学校の友達が「おー、ジュンゴ、久しぶり!」と声をかけてくれました。

「今のは誰?」と聞くと、ジュンゴは友達の名前を全部覚えていました。
ジュンゴの最高の笑顔に、地域でともに生きるありがたさを感じさせてもらいました。
  • 成人式でのジュンゴさんと友達の写真 1枚目
  • 成人式でのジュンゴさんと友達の写真 2枚目

それをやっちゃ…まずいでしょ

最近、ジュンゴは遅ればせの思春期ではないのですが、小さいころとは違う心配事が出てきました。必要がないのに、何かにこだわったり、「儀式」をしないと先に進まなかったりします。
例えば、朝、流水で顔を5~10分洗わないと気がすまない。そして、朝ご飯を食べる前に、必ず目を見開いてギョロっとさせる目の体操(?)をしばらくやります。
「早くしないと遅刻する~」とせかしても、マイペースを崩しません。
ひとつひとつに、時間がかかります。目を覚ますための、本人なりの努力というのはわかるんですが、傍で見ていて、「おいおい」と思います。

他にも、自分ひとりの世界に入ってしまうことが多くなりました。大好きな「警察官」になったつもりでひとりでぶつぶつ。
「前の車、止まりなさい。待ちなさい。」とか、「よおし! よおし!」 と指さし確認。
これを、家の中だけでなく街でもやるのです。
駅ホームで指差し確認をするジュンゴさんの写真

駅ホームで指差し確認をするジュンゴ

知らない人が見たら「おかしな人」と映るでしょうね。
親として止めさせたい気持ちはあるのですが・・・。

ちょっと思い出していただくと、イチロー選手や五郎丸選手が試合でここぞというとき気持ちを落ち着けるため、ルーティンを大事にしますよね。それと同じではありませんが、ジュンゴや他の知的に障がいがある人は外界の刺激から自分を守るため、自分の世界に入って、ルーティンをすることで、心の平穏を保つことがあります。

一見奇異な行動にも彼らなりの理由がある、そう理解してもらえたら嬉しいです。

そうそう、まだあります。以前よりしゃべることが少なくなったことです。
自分がうまく話せていないことに気がついてしまった、ということはあると思います。

ダウン症のある人は、言葉でうまく表現することが苦手です。
短い言葉で、ゆっくり話しかけて、落ち着いて話せるよう、ゆったり待ってくださいね。
そして、言葉だけでなく、表情や手ぶり身振り、一生懸命伝えようとしている思いを、あなたの優しさのフィルターに通してもらえると、きっと、彼らの言いたいことが伝わってくると思います。

多様性を認め合う
共生社会にむけて

それぞれの個性を尊重し
お互いが笑顔になれる
障がいのある人もない人も
誰もが住みよい社会へ

困っている人に
手を差し延べる街

ジュンゴが高校生のとき、半年間、バスに乗って通っているところがありました。
あるとき、ジュンゴから電話がありました。
「バス間違えた」
こちらが「えー!」と言っていると、運転手さんが出てくれて、「本人から間違えたという申し出があったが、どうしましょう」と。
他に乗客の人もいるはずなのに、わざわざバスを止めて、電話をくれているのです。
私は、「近くの停留所に降ろしてくれれば、迎えにいきます」と言ったのですが、「それは危ないので出来ません」そして何やらむこうでいろいろ話している様子。「近くに〇〇公民館があります。いっしょにいてくれるという女性の方がいらっしゃるので、その人と待っていてもらいましょう」。
本当にありがたくて、涙が出ました。
ひとりのダウン症のある男の子が困っているときに、街の人がみんなで手を差し延べてくれる…。
バスに乗っていた人のなかには、余計な時間をとられたことに不満をもった人がいたかもしれません。でも、もし自分に何かあっても、この街は安心だ」と思ってくれた人もいたのではないでしょうか。

共に生きる社会

前の章で、ダウン症のある人って…、と、書きましたが、もちろん白いご飯が好きでない人もいるし、身体が硬い人もいます。
ダウン症だからみんな同じ、ではありません。身体をつくっている染色体が、通常より1本多いことで、心臓に穴が空いていたり、指が少し短かったり、目や顔つきに特徴があったりします。
同じ顔に見えるかもしれないけれど、みんな違います。
やっぱり親にも似てるし、ひとりひとり、性格も違います。
個性のある、ひとりの人間です。
だからもし、ダウン症のある人を見かけたら、どうか、自分の世界とは違う世界に生きる人と思わないでくださいね。

最近は、ダウン症のある人たちと触れ合うイベントも多く開催されています。
遠慮の壁をくずして、笑顔で話しかければ、きっと笑顔で応えてくれるはず。

国籍も、性差も、障がいのあるなしも超え、多様性を受け入れてともに生きる社会は、誰もが住みよい社会です。
あたたかな想いに満ちた社会になってほしいと、心から願っています。
一般社団法人Get in Touch「Warm Blue キャンペーンつながる委員会」での集合写真

一般社団法人Get in Touch(東ちづるさん代表)「Warm Blue キャンペーンつながる委員会」での集合写真。
誰もが自分らしく生きられる"まぜこぜの社会"をめざして活動しています。(写真提供:Get in Touch)

<この記事を書いた人>

内海智子さん

特定非営利法人ドリームエナジープロジェクト理事長
学びや体験の場(※ドリプロスクール)の提供、お仕事体験、インクルージョンライブなどを通じて、ダウン症をはじめとする知的障害のある人たちの社会参加を推進

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