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呼吸器外科・病気について
肺がんの手術治療自然気胸の手術治療縦隔腫瘍の手術治療肺がんとは

肺がんの手術治療

1 肺がんの一番有効な治療法は早期発見です
 いまや日本人の死亡原因の第1位ががんとなり、なかでも肺がんが臓器別の第1位となりました。ところが、肺がんは予防も治療も胃がんなど他の臓器のがんに較べて遅れているのが現状です。現段階で、肺がんの根治が期待できる唯一の治療法は手術なのですが、肺がんと判った人のなかで、手術が出来る段階の人はなんとたった2割程度です。残りの8割の人々は既に手遅れで、抗がん剤や放射線治療を行いますが完全に治ることはほとんど期待できません。一般に肺がんは進行が速く、早期発見の困難ながんの一つなのです。しかし、発見が早く治療が早いほど治癒率は向上します。早期発見や健診の重要性が叫ばれるのはこのためです。
 しかし最近、現在行われている胸部レントゲン写真による健診では早期発見が十分にできないことが新聞やテレビでも報道されています。通常のレントゲン写真による健診では、ある程度進んだ段階の肺がんなら発見できても、本当の意味の早期の肺がんを発見することは困難です。現時点では、早期発見にもっとも有用な診断法は、ヘリカルCT痰の細胞診と言えます。
 肺がんを発生した場所から二つに分類する方法では、肺の端の方にできたものを末梢型と言い、肺の中心となる気管支にできたものを中心型と言います。末梢型の早期発見にはヘリカルCTによる健診がもっとも有効です。これに対し、中心型の早期発見には、痰の細胞診検査と気管支鏡が有効です。喫煙歴が長いなど、肺がんにかかっていないか心配な方は、当センターの肺がん専門CT検診をご受診ください。すでに胸の痛み、咳、痰、呼吸困難などの自覚症状がある、又は胸部X線写真で影を指摘されたなどの不安を抱えている方は、呼吸器科一般外来にお越しください。なお、当センターでは医療機関からのCT検査のご依頼も数多く承っています。
【肺がんについての詳細はこちらをご覧ください。】

2 当科の治療方針:当院では胸腔鏡下手術に力を入れています
 私達は肺がんの治療において、「早期発見」と同時に、「低侵襲手術」をとくに心がけています。その最大の武器が胸腔鏡です。
 通常、肺がんの標準手術は、肺葉切除と言って片側の肺の1/3ぐらいを切除します。当センターでは、かなり進行している場合を除き、ほとんどの症例で胸腔鏡を用いて肺葉切除を行っています。従来の開胸の手術では、筋肉を切り、肋骨を切り、万力を逆にしたような道具で肋間を大きく開いて手術します。しかし、胸腔鏡下手術は筋肉をほとんど切らず、肋骨を全く切りません。完全にモニターだけを見る手術(完全鏡視下手術)では、3cmぐらいの傷1ケ所と、1cmの傷3ケ所で行っております。モニターだけでは困難な場合は、傷を5〜8cm位に延ばして、肋間を少しだけ拡げて、大事なところは直接目で見ながら、見にくいところはモニターを見ながら手術を行います(胸腔鏡補助下手術)。いずれの場合も、開胸手術に較べて、手術の傷は小さくなり、手術後の痛みが軽くなります。また、体へのダメージが少なく(低侵襲)なったために、大部分の方は手術からの回復も早くなって入院期間も短くなります。また、肺の手術をすると、肺の一部を切りとるために、どうしても肺活量などの呼吸機能が手術前より悪くなるのですが、胸腔鏡手術では従来の開胸の手術に較べて機能低下が軽くなりました。そのため手術前の生活への復帰が早くなっているようです。
(胸腔鏡手術の詳細はこちらをご覧ください)
 以前は、胸腔鏡下手術は良性の疾患と比較的早い時期の肺がんの患者さんを中心に行なっていましたが、最近では、ご本人やご家族のインフォームドコンセントが得られれば、比較的進行した症例にも胸腔鏡を使用し、低侵襲の効果を得ています。
 また、今まで診断が困難であった小型(10o以下)で非常に早期の段階の肺がんが、CTの発達によって診断が可能となりました。当院でも高性能のCTを用いて数多くの早期肺がんを発見しています。このような早期の小型の肺がんの一部は、通常行うように肺葉(片側の肺の1/3から1/2)の全体を切除するのではなく、もっと小さく、腫瘍とそのまわりだけ切除する部分切除(楔状切除)でも再発はほとんど起きないことを訴えてきました。しかも、胸腔鏡を用いれば、大きく胸を開けることなく、1p程の傷3カ所ぐらいで切除が可能です。これは、早期発見された小型の胃がんや大腸がんのなかで、ごく早期のものは内視鏡を使った粘膜切除が行われていることと似ています。最近では学会でも同様の見解が多くなっています。当科では、説明に納得をいただき、患者さんからインフォームドコンセントが得られた場合には、従来の標準的な手術(開胸下の肺葉切除)より縮小した手術として、胸腔鏡下の肺部分切除(楔状切除)術または肺区域切除術という低侵襲な手術も行っています。
 一方、残念ながら既に進行してしまっている場合でも、手術が可能な段階であれば、できる限り根治的な手術を検討します。昔なら手術不可能であったケースでも、技術の進歩に伴い手術が可能となる場合がかなり増えています。当センターでは、気管・気管支形成や血管形成のみならず、心臓血管外科と連携して、大血管・心浸潤例の切除も豊富に経験しています。しかし、進行例は手術だけでは十分と言えないケースが多く、抗がん剤や放射線治療を組み合わせて追加治療を行っています。副作用やメリットをご本人やご家族と十分に話しあって、その方にもっとも適していると思える治療を選択していただくよう努力しています。

肺ガンの胸部X線写真 肺癌のCT像
肺癌切除標本
右側肺がんの症例
(左上)肺がんの胸部X線写真
(右上)肺がんのCT像
(左下)肺がん切除標本
<矢印が肺がん部分>

 



自然気胸の手術治療

  1 自然気胸とは
 自然気胸とは、肺表面から空気が漏れ、胸腔内に逃げ場のない空気が溜まり、肺が縮む病気です。症状は胸痛や呼吸困難で、たいていの場合、病院でレントゲン写真を撮って初めて診断がつきます。放置すると肺の機能を大きく損なうばかりか、場合によっては生命の危険もある病気です。原因は肺の表面にブラとかブレブと言われる風船のようなものができて、そこが裂けて空気が漏れる場合がほとんどです。このようなものがなぜ出来るかは正確には分かっていません。また、なぜか痩せていて胸の薄い若い男子が多いのが特徴ですが、高齢者の肺気腫患者にも多い疾患です。女性も決してならないわけではありません。

2 治療
 治療は、軽い場合は注射器で空気を抜いたり、皮膚を少し切って管を胸の中に入れて、簡単な機械を使って持続的に空気を抜いていれば、半分ぐらいの人は空気の漏れが止まり治ります。残りの半分の人は、漏れが止まらないか、止まってもいずれ再発してしまいます。このような方は手術が必要だと考えています。手術はブラとかブレブと言われる肺の表面にできた風船のような部分をそっくり切り取って縫い合わせるのですが、以前の開胸手術は腋の下を10p以上も切って、肋骨と肋骨の間を万力の逆さまのような道具を使って拡げて手術していました。当然、手術後も結構きつい痛みが続くわけです。今では、これも胸腔鏡を使って5o〜1pぐらいの傷3ヶ所ほどで、肋骨と肋骨の間を拡げずに手術を行いますので、痛みが軽くなり傷跡も小さくなりました。若い人なら術後は2〜5日ほどで退院可能です。しかし、残念ながら胸腔鏡手術も良いところばかりではありません。胸腔鏡を用いた自然気胸の手術は、従来の開胸の手術に較べて再発が多いと言われています(2〜5倍)。原因はまだはっきり分かっていませんが、私たちは胸腔鏡の長所を生かすために、再発を予防する独自の工夫を試みて成果を挙げ、開胸の場合と同等の成績を実現しています。現在では、高齢者の肺気腫をベースにした難治性気胸でも、全身麻酔が可能であれば、胸腔鏡下手術で対応します。

田尻は、自然気胸に対する胸腔鏡下手術は今日まで300例以上施行しております。自然気胸に対する胸腔鏡下手術は低侵襲で多くのメリットが有り、今ではほとんどの病院で行われておりますが、当科では5oのスコープを用いて、より小さい傷で、より痛みの少ない、しかも安全で確実な手術を目指しています。自然気胸に対する胸腔鏡下手術の最大の問題点は、開胸下の手術に較べて気胸の再発率が高いことです。一般に開胸術の再発率は0.5〜3%と言われ、私たちの経験でも3.13%ですが、これに対し胸腔鏡で切除しただけの再発率は5〜10%と言われ、私たちでは10.6%です。そこで、再発率低下の試みとして、気胸の原因となるブラと言う肺の表面に風船の様に膨らんだ胸膜を切除した痕に、体内で吸収される材質の不織布を、生体糊や自己血を用いて貼り付けて補強しています。その結果、再発率は2.5%に低下しました。また、自然気胸に対する胸腔鏡下手術で発生した、何らかの処置を必要とした合併症は13例で、最も多かったのは術後の肺からの空気の漏れで8例ありました。そのうち2例に癒着療法を行いました。その他の合併症は、呼吸不全や肺炎でそれぞれ1例でしたが、もともと低呼吸機能、肺気腫、高齢等の危険因子を持っていたご高齢の患者さんでした。今後もより良い手術を目指してさまざまな工夫を検討していく所存です。

肺表面に発症したブラ
肺表面に発症したブラ
ブラ再発予防のための補強
ブラ再発予防のための補強

 



縦隔腫瘍の手術治療

   縦隔腫瘍とは、胸のほぼ真ん中の縦隔と呼ばれる場所に出来た腫瘍の総称です。ちなみに横隔膜は胸と腹の境という意味ですが、縦隔というのは左右の胸の境という意味です。縦隔腫瘍で多いのは神経由来の腫瘍と胸腺由来の腫瘍です。当科では縦隔腫瘍も、良性腫瘍の場合はなるべく胸腔鏡下手術を行うよう努力しています。とくに良性の胸腺腫瘍で腫瘍が小さい場合は一般的な胸骨正中切開(前胸部の真ん中を胸骨とともに縦に切り開胸する方法)でなく、胸腔鏡を用いてみぞおちと側胸部の小さな傷だけで手術を行う方法で好評を得ています。
 田尻は74例の胸腔鏡下の縦隔腫瘍の手術を経験しています。そのうち、胸腺腫瘍が23例、神経原性腫瘍が14例、転移性腫瘍が11例、気管支原性嚢胞が10例。心膜嚢胞が6例、サルコイドーシスが5例、縦隔内甲状腺腫が2例などです。また、胸腺腫瘍に対する胸腔鏡下の拡大胸腺摘出術を20例に施行し、従来の胸骨正中切開による拡大胸腺摘出術に比べ、傷跡の見た目や術後疼痛などの点で好結果を得ています。また、縦隔腫瘍に対する手術中の偶発症・合併症はほとんどなく、出血などの理由による胸腔鏡下手術から開胸への転換例はありませんでした。また、術後合併症は、術後の肝機能障害が1例、原因不明の下肢痛が1例であり、いずれも入院中に軽快しています。

胸腺腫に対する胸腔鏡下拡大胸腺摘出術
胸腺腫に対する胸腔鏡下拡大胸腺摘出術



肺がんとは

  概念
 肺がんとは肺から発生するがんの総称で、肺を構成する肺胞や末梢気道から発生するもの、気管支から発生するものがあります。

原因
 肺がんの発生する原因は完全には分っていません。喫煙、大気汚染、アスベストやクロム等の職業暴露、放射線等が発がん因子であることは判明していますし、いくつかの発がん遺伝子も同定されています。しかし、全ての肺がんの原因が説明できるわけではありません。しかし、少なくとも喫煙は止めるのが良識でしょう。

分類
 肺がんは発生部位や組織型によって分類されています。発生部位で末梢型と中枢型に分けられます。末梢型は、早期は無症状で、中枢型は、早くから咳や血痰等の症状が出るのが特徴です。組織型では、腺がんがもっとも多く、次いで扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がん、腺扁平上皮がんがつづき、その他、様々な分類があります。腺がんはほとんどが末梢型ですが、扁平上皮がんは中枢型と末梢型があります。

症状・経過
 前述のごとく、末梢型は早期では無症状であることが多く、進行すると周囲に肺炎を引き起こし、胸痛や肩痛、発熱、咳嗽が出現します。中枢型は、早期より著明な咳嗽や血痰がみられ、進行すると発生部位よりも末梢の気道が閉塞し無気肺や肺炎となり、胸部単純写真でも無気肺像や肺炎像が出現します。どちらも、脳、骨、肝等に遠隔転移を起こせば、それぞれの部位によって特有の症状が出現します。

治療
 肺がんの治療は、組織型と進行度によって異なります。組織型では、小細胞がんと非小細胞がん(小細胞がん以外の組織型)に分けて考えられます。小細胞がんの治療は化学療法が中心であり、T期や一部のU期症例に手術が行われますが、その場合でもたいてい化学療法が追加されます。また、進行度によっては、化学療法と放射線照射の同時併用も行われることがあります。非小細胞がんは、T期とU期は通常手術が行われ、VA、VB期は一部が手術の適応とされ、W期は手術は行われないのが普通です。現状では、残念ながら、完全に治る可能性のある治療法は外科的切除のみであり、放射線治療と化学療法は、例外的なケースを除いて延命や症状改善を目的としていると言えるでしょう。

 肺がんの進行度を表す病期は、以下のようにT期からW期までに分けられます。

T期 リンパ節転移がなく、隣接の他臓器への浸潤もない。原発巣の最大径が3cm以下か3cmを超えるかでAとBに別れる。
U期 リンパ節転移が同側の気管支か肺門周囲に限られる。原発巣の最大径が3cm以下か3cmを超えるかでAとBに別れる。リンパ節転移がなくても隣接の他臓器に浸潤するとUB期となる。
VA期 同側の縦隔リンパ節転移がある。リンパ節転移が同側の気管支か肺門周囲に限られ、原発巣が隣接の他臓器に浸潤する。
VB期 心臓、気管、食道、大動脈、大静脈、胸椎などの重要臓器への浸潤がある。対側の縦隔や肺門や鎖骨上窩のリンパ節転移がある。胸水からがん細胞が見つかる。同一肺葉内に肺内転移がある。
W期 遠隔転移(脳、骨、肝、原発巣とは別の肺葉などの転移)がある。

 手術の成績は5年生存率(5年経って何%の人が生存しているか)で評価されますが、一般にTA期83.9%、TB期66.3%、UA期61%、UB期47.4%、VA期32.8%、VB期29.6%、W期23.1%程だと言われています。