スペシャルインタビュー
学びのススメ
大きなキャリアチェンジをきっかけに「学び直し」を考える方も少なくありません。
第一線で活躍をされている著名人の方々に、
体験談を含めてご自身の「学び」について伺ったスペシャルインタビューです。
鈴木俊貴氏インタビュー
誰もやったことがないことをやってみる
体験と観察が導いた、発見へのまなざし
「人間以外は言語を持たない」とされてきた世界の常識を覆して、シジュウカラが単語を組み合わせて文を作っていることを解明し、「動物言語学」という学問を樹立した、東京大学先端科学技術研究センター准教授・鈴木俊貴さん。子どもにも読める本として執筆した『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)が、科学エッセイとしては異例の26万部を超える大ヒットを記録した鈴木さんに、研究について、学びについてのお話を伺いました。
2026/09/30
世界中の人たちに伝えたい、自分だけの大発見
研究者になるまでのことを教えてください。
僕は物心つく前から生き物を観察するのが好きだったんです。一番古い記憶はクロヤマアリを観察していたこと。それからキレンジャク*1を見た、ヤマカガシ*2を見た、などなど生き物の記憶がたくさん残っています。生き物好きな僕の様子を見て、父が東京から茨城県の古河市という緑豊かなところに引っ越してくれました。林や川が近くにある環境で、虫を捕まえたり魚を観察したり、そんな環境でますます生き物が好きになっていきました。この頃父は毎日往復5時間以上かけて通勤していて、大変だったんじゃないかな、と今になって思います。そんな父には心から感謝しています。
小学校2年生の時に、奥本大三郎さんが翻訳した『ファーブル昆虫記』を読みました。水色の表紙の本で、今でもはっきり覚えています。2年生の自分には少し難しかったのですが、生き物を観察することが仕事になる、仕事になればそれを一生続けられると知って、それから将来は生物学者になりたいと思うようになりました。
中学・高校時代は生物部に入って友達と生き物を探しに行ったりして、本格的にバードウォッチングを始めたのは高校生の時でした。その頃はまだ、どうやったら学者になれるのかわからなかったんです。ただ、生き物を観察し続けるための道として学者というものがある、と漠然と思っていた感じでした。
大学生になって英語の本や論文を読むようになり、世界には様々な研究者がいて、研究成果を論文にして科学ジャーナルなどで発表している、ということを知り、そんな世界に興味がわきました。論文を書くには、ただ観察するだけではなく、たくさんのデータをとって統計学的に結論に導いていかなければならない。そのために統計学を勉強してみたらそれも面白い。夢中でやっているうちに統計学の知識も身につき、それなら自分が見つけたことを世界に発表したい!と英語の勉強もして、英語で論文を書いて、発表して…。そうしたら、いつの間にか研究者になっていました(笑)。
- *1:
- スズメ目レンジャク科に分類される鳥類
- *2:
- 爬虫綱有鱗目ナミヘビ科ヤマカガシ属に分類されるヘビ

大ヒットの著書『僕には鳥の言葉がわかる』について教えてください。
森の中で観察を続けているうちに、僕はシジュウカラが言葉を使っていることに少しずつ気付いたんです。「ヘビ」や「タカ」、「警戒」、「集まれ」といった鳴き声の単語を持っている。さらに、それらを組み合わせて文章をつくることまでできる。動物の鳴き声の機能を紹介している本はありましたが、それが「言葉」であるとした研究は、当時ひとつもなかったのです。古代ギリシャの時代から「言語を持つ生き物は人間だけだ」と信じて誰も疑わなかったこの世界で、僕はすごいことに気付いてしまったぞ、と。それで、「みんなに伝えなきゃ!」という気持ちが生まれてきたんです。伝えるためには証拠が必要になるので、まずは研究を完成させる必要がある。何年かかってもいいからやろうと決意し、さまざまな学術誌に論文を発表していきました。2022年に、世界中から研究者が集まる国際行動生態学会で、僕がやってきた動物の言葉を解き明かす新しい学問を「動物言語学(Animal Linguistics)」と名付けて発表。2025年、この研究が新しい領域を切り拓いたと認められて、英国の動物行動研究協会から最も栄誉ある国際賞「ティンバーゲン・レクチャー賞」をいただきました。アジア人で初めて、そして史上2番目の若さでの受賞でした。これでアカデミアの中に僕の研究はちゃんと広まったぞ!となったのですが、これを学問として続けていくためには、子どもたちにも「面白い、やってみたい!」と思ってもらわないといけないし、社会に広く発信していかなくてはならない。僕ひとりでやっていたのでは、誰にも繋がらずに、すぐになくなってしまう。たくさんの人たちに動物たちの言葉の研究の魅力を伝えたいと思い執筆したのが、『僕には鳥の言葉がわかる』*3です。2026年6月には、多くの子どもたちにも楽しさが伝わるように、「ふりがな版」も出版しました。
- *3:
- 『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)鈴木俊貴著。2025年1月初版発行。同年11月には16刷、2026年3月には20刷が発行されるなど、大ヒットを記録している

「自分にしかない体験」を大切にすると、
みんなが気付いていないことが見えてくる
ルー大柴さんの話し方からヒントを得て、シジュウカラ語とコガラ語をミックスさせた『鳥語版・ルー語』を発案し、鳥たちの言語能力を証明していくなど、奇想天外なアイデアが本の中にたくさん書かれていますが、そうしたアイデアはどこから生まれてくるのでしょうか。
どこから生まれてくるのか、分かれば苦労しないです(笑)。だけど僕は、新しいアイデアを閃かせるために、世界中で誰もやっていないインプットをすることを意識しています。誰もやったことのない経験を積むと、誰も思いつかないアイデアに辿りつけたり、誰にも見えていなかったことに気付けたりするのかなと思っていて。
19世紀イギリスの自然科学者で『種の起源』の著者として知られるチャールズ・ダーウィンは「生き物は神様が作ったのではなく共通の祖先から枝分かれしてきた」という「進化論」を唱えました。彼は大のお金持ちだったので、ビーグル号という船で世界中を旅して、いろんな生き物を見て比較する中で、当時の常識にとらわれない法則に気付いたのですが、それはもうダーウィンがやったことなので同じことをしても仕方がないし、そもそも僕は貧乏で世界中を旅することなんてできない。誰もやったことがないことってどんなことかな、と考えた時、「シジュウカラを誰もやったことがないくらい長い時間観察してみよう!」と思ったんです。それが大学3年生の時で、軽井沢の森の中でこの鳥の観察を始めました。シジュウカラに言葉があると確信したのもこの森です。1泊500円の山荘に、3か月間こもって観察し続けました。それからず〜っと森に通っている人生です。今も、年に8〜10か月くらいは軽井沢の森にこもって、本当にずっとシジュウカラを観察しています。
自分にしかない体験にこだわって、常識を一度横に置いて見てみた。観察と知識を切り分けてきた。だから、誰にも見えていなかった世界を見つけることができたんだと思います。

「体験」から「問い」を立てるのが「学問」
鈴木先生が思う生涯学習とはどのようなことでしょう。
「勉強」と「研究」は、全然違います。「勉強」は、これまでにわかっている社会や世界、自然現象について知ることですが、「研究」は誰も知らない未知の世界を切り拓くこと。とてもワクワクすることです。研究をしていて思うのですが、自然界の中にはわかっていることよりもわかっていないことの方がずっと多くて、それに気付くことはとても楽しい。
勉強は答えがあるものだと思いがちですが、その答えは間違っているかもしれません。ちょっと前までの勉強だと「鳥には言葉はない」だったでしょ。でも、勉強で得る知識は変えられるんですよ。知識をアップデートできるのが「研究」の力なんです。
歌人の俵万智さんが僕の本の帯に「学問って学ぶこと以上に問うことなのだ」というコメントを書いてくれました。いい言葉だと思います。考えてみると、僕の問いはいつも体験から生まれています。本やインターネットの情報を知識として入れることも楽しいけれど、体験を通して問いを立てることのほうが面白いし、そこから始まることもあるんじゃないかな。調べて出てくる情報は、今までに誰かが解釈した自然現象のひとつの見方でしかない。まだたくさんわかっていないことがあるのに、情報を収集しただけで終わりになってしまうのは残念なこと。自然の中には一生探究できるくらい、まだわからないことが溢れているんです。例えば僕がやっている研究も、まだわからないことばかりです。だから一生シジュウカラの研究をすると思うし、なんなら、生まれ変わったらシジュウカラになりたい(笑)。シジュウカラ自身がどんなふうに感じて、何を考えているのかは、究極的には鳥たちの主観的な部分。いくら研究しても、体験することはできないのです。だからシジュウカラになってそれを感覚的に理解して確かめてみたいと妄想しちゃうんです。
学ぶことを含め、探究することは「一生楽しむことができること」、それが、生涯学習なのではないでしょうか。
何かを学びはじめたいと思っている方々へメッセージをお願いします。
俵さんとバードウォッチングに行ったことがあります。その日のことを俵さんが短歌に詠まれていたのですが、俵さんが切り取った世界と僕が見ていた世界がまるで違っていたことに、衝撃をうけました。同じ1日を一緒に過ごしても、人によって違う体験になるのだと感動しました。
まずは、いろんなところに行ってみる。それがきっかけで「好き」や「楽しい」、「やりたいこと」が見つかるかもしれません。体験から問いを立てたり調べたりすることから学びがスタートするのはとても面白いことだと思います。
学ぶということはただ知識を増やすことではなく、世界の解像度を上げること。世界の理解を深めることです。それができた時、人は自分の人生が豊かになったと感じるのではないかな。体験から気付いて、知識を得て、もう一度体験するとまた全然違った風景が見えてくる。
僕の場合、研究する前はシジュウカラが喋っていることに全然気付かなかったけれど、研究でシジュウカラの言葉の意味がわかるようになって、シジュウカラのおしゃべりが聞こえちゃう。「ヒヒヒ」って鳴けば「鷹が来た!」って、すぐわかっちゃう。今むちゃくちゃ世界の解像度が高いんです。
せっかく生まれてきたのだから、この世界について、もっともっといろいろ知りたい。その思いに価値があると、僕は考えています。
プロフィール
鈴木 俊貴(すずき としたか)氏
1983(昭和58)年 東京都生まれ 東京大学先端科学技術研究センター 准教授
大学3年生の時にシジュウカラの観察を始め、鳴き声やジェスチャーで意思の疎通を図っていることを解き明かす。2013年の日本動物行動学会賞をはじめ、2021年 文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、Public of the Year 2025など数々の賞を受賞。「動物言語学」という新しい学問領域の樹立が評価され、2025年 英国・動物行動研究協会の最も栄誉ある国際賞「ティンバーゲン・レクチャー賞」を、アジア人初、史上2番目の若さで受賞する快挙を成し遂げる。著書に『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)。共著に『動物たちは何をしゃべっているのか?』(集英社)など。