スペシャルインタビュー
学びのススメ
大きなキャリアチェンジをきっかけに「学び直し」を考える方も少なくありません。
第一線で活躍をされている著名人の方々に、
体験談を含めてご自身の「学び」について伺ったスペシャルインタビューです。
中島さち子氏インタビュー
学ぶことと働くことは、喜び。
それを生涯学習として描いていけるといいですね。
高校時代に国際数学オリンピックで日本人女性初の金メダリストとなり、東京大学卒業後は、ジャズの道へ。さらに、STEAM教育の第一人者として、また大阪・関西万博のプロデュースなど、その才能を惜しみなく発揮し分野を問わず活躍されている中島さち子さんに、氏が考える「学び」についてお話を伺いました。
2026/01/23
学ぶことは遊びの延長!五感で感じ取って遊ぶことの重要性
幼少時代の中島さんはどんな子どもでしたか?
自然の中で遊ぶのが好きな子どもでしたね。ずっと外で遊んでいました。効率よく何かをするのはあまり得意じゃなくて、同じことをし続けるのが好きでした。ずっと砂場で遊んだり、ずっと鉄棒でぐるぐる回っていたり(笑)。考えることも大好きで、小学校時代に三平方の定理、3辺の間にどんな関係があるかといった問いに、いろんな仮説を立てて半日くらいずっと考え続けたりして遊んでいました。何一つ当たらなかったんですけれどね。できないけどずっと考えていることが好きで、できることよりもできないことの方が面白いと感じていました。パッと正解してしまったらそれしか見えないけど、こうやってもダメだ、ああやっても違う、と試行錯誤を重ねると、いろんなことが見えてくる。すると時にロジカルに考えなくても、五感で感じて、気づきが生まれる。その方が圧倒的に学びは大きいと感じます。
早く何かができることよりも、できないこととか、すごく苦手とか、その方がむしろ見えてくる世界があると思うんです。私はそれを「弱さの価値」と言ったりしていますが、自分なりのペースで自分なりに遊んでいると、設定したいテーマのようなものが見えてくる。今はみんなが自分なりに何かの視点で考えたり感じたりして、それを言葉や形にしていくことが求められる時代になってきているので、やはり遊びはすごく大切だと考えています。だから子どもだけではなく、どんな人も、おじいちゃんだっておばあちゃんだってたくさん遊んだ方がいいと思います。

国際数学オリンピックに挑戦された経緯を教えてください。
「テストや受験や賞のために勉強することはつまらないことだ」と考えているのですが、これは学問好きな母に言われ続けていたからなのだと思います。だから反対に、「テストのための勉強じゃないんだからもっと読もう、もっとやろう」というあまのじゃく的なところもありましたね。学ぶことは大好きだったのですが、私にとっては遊びの延長でした。
高校生の時に国際数学オリンピックのインド大会とアルゼンチン大会に参加したことも、まさに遊びの延長です。オリンピックで出題される問題ってめちゃくちゃ面白くて、もし結果を全然気にしなくて良いのなら一日中考えていたいような面白い問いがいっぱいなんです。オリンピックを活用して切磋琢磨できる環境も用意されていて、とにかくいろんな国の友達ができました。大学生の時にはルーマニア大会とスコットランド大会の手伝いに行ったのですが、こっちは裏方としての参加だったので、より一層色々な国の代表の人たちと交流するわけです。みんなが仲良くなるにつれてどんどん切り込んだ話が出てきて、数学の話はもちろん、国際社会で起きている現実や価値観の違い、貧困の実態などを知ることになりました。外に出れば空気の感じから空の色に至るまで、日本とは全部違う。オリンピックがなければ訪れる機会のなかった国々で、世界中の人と出会えたこの経験は、私の人生にとってとても大きなことで、自分の原体験として刻まれています。今思うと、この経験で人生が変わってきたんだと思います。これがのちに万博に関わるきっかけになるんです。
東京大学を卒業されてジャズピアニストの道に進まれましたね。
ピアノは小さい頃から習っていたのですが、楽譜通りに弾くよりも自由に弾く方が好きで、自分でテーマを決めて即興で作曲して弾いたりしていました。数学が面白くなっちゃって中・高生時代は音楽はやめていたのですが、大学生になって、数学者になろうか、小説家になろうか、はたまた国際関係で外交的なことをやろうかと色々迷っていた時、軽い気持ちでまた音楽を始めたんです。もともと答えのないものが好きだったので、即興でアンサンブルをするジャズの面白さにハマってしまいまして。ジャズのアンサンブルは、決まったものに対して演奏していくのではなく、喋っている感じで重ねていくイメージといえばわかりやすいでしょうか。実際のお喋りだとみんなで重ねるとやりづらいですが、音楽の場合は同時に喋れるわけですよ。その中でいろんな役割を行ったり来たりして…これが本当に楽しくて!最初は、「なんか自分は浮いちゃってるかな?」と感じるんだけど、絡み合ってくると、もう面白い!!
数学者には風来坊みたいなところがあって、職業としてではなくて精神性みたいなところが音楽で生きることとちょっと似ているんです。好きでやっていて永遠に終わらない旅路を彷徨って、死ぬまで終わらないし、死んでも終わらないみたいな(笑)。
とはいえ、音楽と数学が実は凄く似ていると思い始めたのは30代になってからです。それまでは数学に飽きたらちょっと音楽、音楽に飽きたら数学、みたいに分けて考えていたんです。
数学はロジカルに組み立てていくものなのですが、何かが閃く瞬間は意識ではなく無意識、直感的なところがあります。論理と情緒が行き来することで新しいものが生まれてくる。そのため、感受性を開く必要がある。だからロジックの世界と言われている数学や科学にも、絶対的に情緒が必要だと感じています。
音楽の場合は、割と感性や情緒が重要視されますが、それに縛られてくることもあるわけです。創造するものが似たようなものになってしまうことや、身体性に縛られることもある。自分では自由のつもりが全然自由じゃなくなってしまった時、ある種ロジカルに考えるんです。「どうしてこの音に感動するのか」と分析したり、練習を積んだり。しばらくやり続けるうちに、新しい感覚が身体に馴染み、パッとまた何かが見えて、次の段階に進める。数学も音楽も、論理や訓練のように左脳的なところと、情緒や感性といった右脳的なところが行ったり来たりするんです。
私は、数学教育は情緒を育むためのものだと思っています。自由にものを見たり、本質を考えたり、足し算って何だろう、と考える。そういうことが数学の面白いところです。解けるかどうかわからない問題設定に自分なりに挑み、試行錯誤の嵐にはまって、ああでもないこうでもないと物事を多角的に捉えたり、「結局本質は何だろう?」と批評的な力が生まれてきたり。そういうものこそ数学を通して学べるもの。だから数学って、本当は文系的なものを深く含むと私は思っています。

多様な状態でごちゃ混ぜになることで見えてくるもの
プロデューサーとして、大阪・関西万博で表現されたことについて聞かせてください。
文系・理系もそうですが、日本では分断されていることが多いと思うんです。例えば障害のある方とない方の分断もそう。高校生に「見えない・聞こえない友達はいますか」と聞くと、ほぼ誰もいない。これは特別支援学校と普通学校が分かれすぎちゃっていて出会いがないからなんです。障害のある人と遊んだことがなければ、どうやって関わっていけば良いかわからない。もしそういう友達がいれば、「ここ困ってるんじゃない?」と普通に声もかけられるし、言い合える。違う属性を持つ人とできるだけ早い段階で出会うことが鍵だと思っています。
万博に関しては、そういうモデルを作ろうと思っていました。私が携わったシグネチャーパビリオン「いのちの遊び場 クラゲ館」は、五感や身体性を伴う遊びや学び、芸術、お祭りなどをごちゃ混ぜにした参加型協奏体験のパビリオンだったのですが、車椅子の人や重度の障害のある人も当たり前のように参加できて、そして働くことができる場所にしたかったんです。
音楽のちからって、すごいんです。音楽は文化や言語をパッと超えていくんです。その人その人特有の歩き方や体の揺れ方、得意なものなんかが重なり合うことができるのが、音楽や踊りの強いところなんです。耳が聴こえなくても身体が動かせなくても”奏で” ”踊る”ことができる。
日本人はみんなで一緒に同じことをするのが得意ですよね。盆踊りとか合唱とか。それはそれで楽しいのですが、もっと多様な状態で重なり合う感じ。例えばお祭りで言えば、この場所でやっていることに、あっちでやっている音が混ざり合ってゴチャゴチャしているじゃないですか。そういう場をもっと作っていきたいという思いを持って、「クラゲ館」では挑戦してみました。
パビリオンづくりの過程でも、誰が偉いとか誰が正しいとかではなく、協賛会社や施工会社の方々と立場を超えてみんなで喧喧囂囂(けんけんごうごう)と意見を出し合い、五感で試行錯誤するようなことをやってきました。時に、会議だけでなくみんなで一緒に歩いたり踊ったりもしました。それがあったから仲良くなれたし、一つのものを作り上げられたのだと思っています。
万博にきた人たちは、多様な文化を浴びることの面白さを感じられたと思います。今まで私たちが日本人の価値観でやってきたものを超えてくるような価値や多様な文化があるのです。音楽も文化も、理系も文系も、障害のある人もない人もみんなごちゃ混ぜに重ね合わせて、ジャズのセッションのような、何か楽しいことを生み出していくことが、これからの社会には必要になってくるんじゃないかな。すると、同時に”自分”の文化や価値も自ずと見えて、愛しくなってくる。既存の一様の価値観を一旦崩すことは、特に日本では難しいことだと思いますが、覚悟してかき混ぜていく必要がある、それが最終的には日本文化や一人一人の多様な個性を活かす社会づくりにつながると感じています。万博で一緒にやってきた仲間の一人が、「中島さんのやっていることって、いろんなものをかき混ぜることだよね」とおっしゃって、それから私たちのことをマドラーと呼ぶようになったのですが、私はこのマドラーとしての役割を、街中でももっとやっていきたいと思っています。
大阪・関西万博でプロデュースした
「いのちの遊び場 クラゲ館」のモチーフともなったクラゲのポーズ
「知る」と「創る」の循環の中にある、生きる喜び
中島さんが思う生涯学習とはどのようなものでしょうか。
私は学ぶことと働くことは喜びだと思っています。人には学び続ける喜びがある。この学ぶ喜びを生涯学習として描いていけるといいんじゃないかな。
学びって、ただインプットしていくだけでは面白くない。私が代表を務める株式会社steAm (*1)でも「知る」と「創る」の循環ということを行っているのですが、どの世界、どの学問、どの分野でも、新しいものの見方ができる瞬間があって、そこに生きる喜びがあると思うんです。と同時に、自分が未来のかけらを作っているのだと思える時間=自己肯定感だったり、何らかの価値を生み出していると実感することだったり、自分が何者であるかということを認識することが、自分を支える力になるんじゃないかと思います。
あとは、学ぶ場所というのもとても重要な課題だと思っています。知を創り出す場所として図書館というのは理想的です。世界では、図書館は、従来の知を受け取る場所から知を創り出す場へと意味づけが変わりつつあります。海外では図書館に3Dプリンターやパソコンが置いてあって自由に使えるメーカースペース(*2)の設置が非常に増えています。家にパソコンがない子どもがプログラミングに挑戦してみたり、主婦の方が自分でデザインしたクッキーの型を3Dプリンターでササッと作ってみたり、市民が日常的に使う場所になっている事例もあります。
日本では図書館は静かにしないといけない場合が多いのですが、実は図書館って、誰かが書いた本でインプットしていくだけではなく、読むことで受け取って、それを伝えたくなったり何かをやってみたくなったりするような創造性が生み出されていく場所です。不登校の子どもたちが増えている社会問題にも、図書館という受け皿で色々な世代の人がごちゃ混ぜになって自然に取組が生まれていく、そんな風に日本でも色々な人やことがマドラーとなって、混ざり合って何かを創り出せる余白があるような、未来の”図書館”が増えるといいなと期待しています。
- *1:
- STEAM教育 / 科学(Science)、技術(Technology)、工学・ものづくり(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Art/Arts)、数学(Mathematics)の頭文字を組み合わせた、創造的・実践的・横断的な学びを表す。中島氏が代表を務める株式会社steAmでは、学校向けワークショップ開発やSTEAM探究伴走、企業向け人材育成研修・研究開発支援等、数々のセミナーや講演などを行っている。
- *2:
- メーカースペース / 誰もがものづくりを体験できる共同工房。3Dプリンターや工具、コンピューターなどを誰でも利用できるコミュニティ。
何かを学びたいと思っている方々へメッセージをお願いします。
実は学びはいろんなところに転がっています。一つ何かを発見することも学びです。当たり前だと思っているものだって、見方を変えることで何かを発見できるんです。
今まで知らなかった人やものとの新しい出会いを作るのがいいと思います。本に出会うことでその本の作者の考えに出会うことでもいいし、どこかの国の料理を作ってみてもいい。プログラミングやAIって何だろうって思えば、年齢なんか関係なくやってみたほうがいい。SNSで何か一言呟いてみることだって、何かの発見につながるかもしれない。色々つまみ食いしているうちにだんだんこれ美味しいからもうちょっと食べてみようかな、作ってみようかな、という広がりが生まれてくるのです。
私は全ての人が科学者であり芸術家であると思っています。心の赴くままに、ワクワクすることに向かって、そのワクワクが生まれそうなところに踏み出してみてください。できれば身体も動かして!自然にやりたいことが出てくると思いますよ。
プロフィール
中島さち子氏
フェリス女学院中学校・高等学校卒、東京大学理学部数学科卒。高校2年生の1996年、国際数学オリンピックインド大会で日本人女性として初めて金メダルを獲得。翌1997年のアルゼンチン大会で銀メダルを獲得。
ジャズピアニスト、数学研究者、STEAM教育者・メディアアーティスト、大阪・関西万博「いのちを高める」テーマ事業プロデューサー、内閣府 STEM Girls Ambassadors、フルブライター(NY大学ITP修士)、株式会社steAm代表取締役、一般社団法人steAm BAND 代表理事、多文化協奏KURAGE Band リーダー。
主な著書に「人生を変える『数学』そして『音楽』」(講談社:2012年)、「知識ゼロからのSTEAM教育」(幻冬舎:2022年)、「いのちの遊び場 クラゲ館の挑戦」(青春出版社:2025年)、絵本「クララとそうぞうのき」(ひかりのくに:2025年)他多数