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特集 Work vol.2

創設者から受け継がれた思い~
『みんないっしょ』に漬物づくり

茜洋舎(横須賀市)

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創設者から受け継がれた思い~『みんないっしょ』に漬物づくり

和食の基本を表す言葉に「一汁一菜」がありますが、一汁はご飯とみそ汁、菜は漬物を指しています。昔から漬物は、日本の食卓に欠かせない存在でした。横須賀市内の障害福祉サービス事業所「茜洋舎」では、らっきょう漬け、梅干し、白菜漬けといった漬物を手作りしています。その始まりには「伝統的な日本の食卓の温もりを伝えたい」という、今は亡き創設者の思いがありました。国産、無添加といった品質にこだわり、スタッフと利用者で力をあわせ手作りを続ける茜洋舎の漬物づくりを紹介します。

200kgのらっきょう
力あわせ1日で浸ける

横須賀市久里浜にある障害福祉サービス事業所「茜洋舎」。今年4月に開設から38年を迎えた歴史ある事業所です。障がいの種別に関わりなく様々な人が利用し、社会参加の支援などを受けています。この日は、一歩玄関に入るといつもとは違って、ツンとした香りが迎えてくれました。「今日は1年に1度のらっきょうを漬ける日なんです。朝からみんなで作業しています」と笑顔で説明してくれたのは、施設長代理の山田久美子さん。200kgのらっきょうを1日で漬けるのだといいます。「これでも今年はだいぶ少ないのですよ」と山田さん。昨年は300kg漬けましたが、今年はコロナ禍でどれだけ販売できる場所を確保できるか不透明なため、漬ける量を減らしたのだといいます。「ご案内しますね」という山田さんに連れられて、施設の1階フロアをのぞくと、食品作業のため、マスクを付けエプロン姿のスタッフと利用者が、らっきょうをばらす作業などに励んでいました。

作業に集中する利用者
作業に集中する利用者

徹底した衛生管理
国産・無添加にこだわり

集中し黙々と作業にあたっている人もいれば、笑顔でお話しをしながら手を動かしている人など様々です。「細かく工程を分けて、できる作業をして頂いています」と山田さん。できる内容に差はありますが、全スタッフと利用者全員で取り組んでいます。2階にあがると、食品加工室・通称「つけもの工房」があり、障害福祉サービス事業所には珍しい大きな冷蔵庫が設置されていました。こちらでは徹底した衛生管理の下、帽子に白衣、長靴、手袋等に身を包んだスタッフや利用者が、下ごしらえを担っています。1階でばらされたらっきょうが次々に運び込まれては、手際よく水洗いなどを行っていました。最後は冷蔵庫内の巨大タンクで漬け込みます。らっきょうは地元久里浜の八百屋さんから取り寄せた国産品。味付けは無添加で醤油・甘酢・塩の3種類。同所ではらっきょう漬けのほかにも、梅干しや白菜漬けを手作りしています。梅干しや白菜漬けも国産・無添加にこだわります。

つけもの工房の様子
つけもの工房の様子
1ヶ月半程度巨大タンクで漬け込む
1ヶ月半程度巨大タンクで漬け込む
販売している「らっきょう漬け」(写真=昨年漬けた商品)
販売している「らっきょう漬け」
(写真=昨年漬けた商品)

今も生きる創設者の思い
食卓の温もりを伝えたい

 

漬物づくりは30年以上前に遡ります。運営する社会福祉法人誠心会の創設者であり、理事長を務めた浜田幸生さんの発案でした。はじめは、浜田さんが園長だったしらかば保育園(現・しらかばこども園、横須賀市)で園児と一緒に作ったのが始まりです。山田さんは「伝統的な日本の食卓の温もりを伝えたかったのだと思います」と説明します。漬物づくりはその後、浜田さんが施設長を務めた茜洋舎で行われ、商品化に至りました。保存食のため長く販売できることや、「いつの時代も変わらずに必要とされる」と考えたことも商品化を後押ししました。

 

浜田さんは戦後、神奈川県に勤務する傍ら、地域の青少年活動として、社会奉仕グループ「白樺会」を結成し、県内の養護施設などでボランティア活動を行いました。その後、横須賀市内にしらかば保育園を設立。障がい福祉にも力を入れ、同市内に障害者地域作業所「働く家しらかば」や身体障害者通所授産施設「茜洋舎」を開所しました(現在2施設とも障害福祉サービス事業所として運営)。平成15年に亡くなるまで、保育と福祉に情熱を注いだ人生の中で掲げていたのが「みんないっしょ」の精神。家庭にはそれぞれ事情があり、子どもにもそれぞれ特徴があるのは当たり前。一緒に集まり、可能な範囲で手助けをしながら、「みんないっしょに、育てましょう」という思いで運営されていたといいます。山田さんは浜田さんが生前、漬物づくりを自ら先頭にたって指揮していた姿を覚えています。「浜田理事長は、みんなで行うことを楽しみにされていました。当時と漬物づくりの工程は若干変わりましたが、国産・無添加へのこだわりや、すべて手作業、全員で取り組む姿は変わりません」と話します。らっきょうは久里浜の京急ストアで販売し、梅干しは生協に卸しています。白菜漬けは注文を受け、年末に配達していますが、すぐに売り切れるほどの人気です。

 

創設者が願った「日本の食卓の温もりを伝えたい」という思いは、「みんないっしょ」の精神とともに、令和の時代となった今も生き続けていました。

取材先:社会福祉法人誠心会「茜洋舎」
昭和57年に開設された障害福祉サービス事業所。場所は横須賀市久里浜、運営は社会福祉法人誠心会。障がい者の社会参加の支援などを行っている。自慢の漬物はすべて手作り。ほかにも、菓子や縫製(刺子)・フラワーアレジメントなどの自主製品を取り扱っている。
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