医療的ケア児と家族がそろって映画鑑賞「ともいきシネマ」開催
2月21日、横浜・みなとみらいのイオンシネマみなとみらいで、日常的に医療的ケアが必要な子ども(医療的ケア児)や、障がいのある方とその家族などが、安心して映画を楽しめる映画上映会「ともいきシネマ」が開催されました。
主催は呼吸器生活向上委員会と神奈川県。今回で3回目、映画館での開催は2回目です。
事前応募は722名と想像を超える反響がありました。「少しでも多くの子どもたちに届けたい」という思いから、200名を予定していた当選者は227名に拡大。当日は体調不良や入院などで参加できなかった人もいましたが、車椅子やストレッチャー利用者35名を含む201名が会場を訪れました。
上映作品はディズニー映画『ズートピア2』。多様な存在が共に生きる姿を描く物語は、神奈川県が掲げる「ともに生きる」とも重なります。
会場では音量を控えめに設定し、場内の照明もやや明るく調整。上映中の出入りは自由としました。医療的ケアが必要な子どもとその家族にとっては、呼吸器やたんの吸引の音がほかの観客の映画鑑賞の迷惑になるのではないかといった懸念から、映画鑑賞をあきらめてしまうこともありますが、そのような音があっても、気にする必要のない環境が整えられました。
開催にあたり、呼吸器生活向上委員会は、劇場支配人と動線や安全面を事前に確認したうえで会場を決定しました。また、会場決定後も、申し込み段階から車椅子などのサイズを確認し、座席配置を事前に決定。段差や動線も何度も下見を重ねました。車椅子やストレッチャーのスペースを確保できたシアターを使用し、あえて一般来場者と同じ動線上の会場を選びました。イベント参加者のみの「特別な場所」ではなく、一般のお客様と同じ映画館の空間の中で映画を楽しむ機会にしたいという思いからです。
当日は「ともいき」Tシャツを着用したボランティアが声を掛け合いながら車椅子の移動をサポート。飲食の購入補助やきょうだい児のトイレ付き添いなども行いました。車椅子から座席に移乗して鑑賞した子どもたちの車椅子をボランティアが預かり、シアター外や空いているスペースで保管していました。終演後にスムーズに退場できるよう、車椅子を順に並べて返却する対応を行いました。ボランティアの学生らもこの日のために集まりました。
上映前には、きょうだい児の川原紅葉さん(18)がマイクを握りました。
「上映中に声が出ても、医療的ケアの音がしても全く問題ありません。出入りも自由です。リラックスしてお楽しみください」
その力強い言葉が、会場全体を大きく包み込みました。
上映が始まると、意外にも場内は物語に集中する静かな時間に包まれました。リズミカルな音楽の場面では笑顔が広がり、手拍子が起こる場面もありました。声が上がることもありましたが、それを気にする様子はありませんでした。何より印象的だったのは、保護者が肩の力を抜いてスクリーンを見つめていた姿でした。
この日、家族全員で訪れる初めての映画館となった車椅子の娘を育てる小沼さん家族。「車椅子をどう降ろすか、座席までどう行くか、周囲の目も気になります。でも、今日は同じ立場の方が多いと聞き、安心して参加できて嬉しいです」と母・文子さんは話します。後方では父と息子が並び、家族それぞれが同じ時間を共有していました。
呼吸器生活向上委員会は、障がいのある子どもを育てる保護者らによる有志団体です。代表の鈴木妙佳子さん自身も24時間人工呼吸器を使用する子どもを育てています。「ともに生きる」を軸に、こうした場を全国へ広げたいと語ります。
その思いの先に見据えるのは、開催までのハードルをさらに下げ、いつか「ともいきシネマの日」が当たり前にある社会です。一方で課題もあります。
今の映画館の車椅子席は、コンパクトな車椅子での利用が想定されていること、限られた数しか設けられていないこと、大きな車椅子やストレッチャー利用の場合、見やすい位置で鑑賞できるとは限らないこと、長時間同じ姿勢で座っていることが難しい場合もあるストレッチャー利用の子どもには背骨の変形などからマットがあると安心できること——。現場で見えてくる細やかな配慮の積み重ねが、より良い環境づくりにつながります。「思っているだけでは伝わらない。こうした機会を重ねながら、多くの人に知ってもらうことが大切だと感じています。」と鈴木代表は語ります。その思いの先に見据えるのは、イベントとしての開催ではなく、今回のような上映スタイルで鑑賞できる「ともいきシネマの日」が全国の映画館にできることです。一方で課題もあります。
現在の映画館の車椅子席は、コンパクトな車椅子での利用を想定して設けられていることが多く、数も限られています。最前列での鑑賞を余儀なくされる場合もあり、車椅子などに乗っていると視界も限られるため、スクリーンとの距離が近く見えづらいこともあります。
また、長時間同じ姿勢で座り続けることが難しい場合もあります。マットに横になるなど、それぞれの身体の状態に合わせた姿勢で映画を楽しめる環境があれば、より安心して参加することができます。さらに、車椅子エリアの拡充や、大きな車椅子でも鑑賞しやすい位置の確保など、映画館の環境が少しずつ広がっていくことも期待されます。
こうした工夫ができる環境があれば、だれもが安心して映画館で映画を楽しめるようになります。「思っているだけでは伝わらない。こうした機会を重ねながら、多くの人に知ってもらうことが大切だと感じています」と鈴木代表は語ります。
24時間医療的ケアが必要な子どもを育てながらの活動は決して容易ではありません。それでも、この日スクリーンを見つめていた子どもたちの姿が、その原動力になります。
“ともに生きる”という言葉は理想ではなく、こうした一歩の積み重ねの中で形づくられていきます。