Work

特集 Work vol.14

誰もが地域で活躍できる力を持っている

特定非営利活動法人さんわーく かぐや
藤沢市日中一時支援事務所「駅前かぐや」

特集タイトル画像

駅前長屋から繋がる〝ともに生きる〟地域の絆

〝心と体を作る障がい者支援施設〟として、2008年、藤沢市に開所した特定非営利活動法人「さんわーく かぐや」が運営する日中一時支援事業所「駅前かぐや」は善行の駅前の昭和の風情が残る長屋風の建物の一角にあります。ここは、通所メンバーが地域で働く機会を開拓し、自立を後押ししている施設です。地域ぐるみの協力で、障がいがあってもなくても、施設メンバーであっても、地元商店主であっても、誰もがともに助け合い、自然体で日々を送っている…。当事者と地域を元気にすることを目指して活動している駅前かぐやと地域の人々を取材しました。

楽しくてあたたかい…。誰もがふらっと立ち寄れる駅前の拠り所

かぐやのカフェ

小田急江ノ島線「善行駅」北口すぐ、昔ながらの雰囲気を残す長屋風の建物があります。この建物の1角で毎週金・土にオープンするのが、「かぐやのカフェ」。

日中一時支援事業所「駅前かぐや」が運営しているカフェです。店内にはカウンターと小さなテーブル席、合わせて5席ほど。交差点に面した、日差しの差し込む空間です。

かぐやメンバーによる手作りの器たち。コーヒーを飲む器を選ぶのも楽しみのひとつです。
かぐやメンバーによる手作りの器たち。コーヒーを飲む器を選ぶのも楽しみのひとつです。

提供しているのはコーヒーと、かぐやが運営する農園で採れた梅や紫蘇などの農産物を素材にしたジュースなど…。イートインの人には、手作りのおやつも付いてきます。取材に訪れた日のおやつは、冷たく冷やした甘~い焼き芋でした。カフェの日を楽しみにしているという常連の女性は、カウンター席に座り、この日のおやつをつまみながら、ゆったりと世間話に花を咲かせていました。お天気の話や最近見たテレビの話など、たわいもないやり取りに温かな空気が漂います。

ホットコーヒーの器は、かぐやメンバーの手作りの陶芸品です。この〝世界にひとつしかない器〟が店内にいくつも並んでいます。来店者はその日の気分で好きな器を選び、コーヒーを注文できるのです。

店内で使用するコーヒー豆はすぐそばの珈琲豆屋「あんだんて」のものだそうです。コーヒーの淹れ方は、あんだんて店主の岡田さん直伝のドリップ方法で…。地元の空気を感じてもらいながら気軽におしゃべりを楽しむ拠り所を目指しているそうです。

地域で働く機会を開拓、通所メンバーの自立を後押し

駅前かぐや

「駅前かぐや」は特定非営利活動法人「さんわーく かぐや」が運営している藤沢市日中一時支援事業所です。「さんわーく かぐや」は、2008年4月、藤沢市に開所した福祉活動を行うための法人です。理事長の藤田靖正さんは話します。「障がいがあってもなくても、自分らしくありのままに、いつでも仲間と一緒に過ごせる場所でありたい。メンバーの創作活動と働く機会を通して、自立に向けた思いを基本に設立しました」と。広大な竹林と緑に囲まれた「さんわーく かぐや」は自然豊かな環境を活用しながら、農作業や創作活動を中心に〝心と体を作る障がい者支援施設〟として、一歩一歩あゆんできました。2019年には〝その在り方が福祉の原点でもあり、本質でもある〟と評され、「かながわ福祉サービス大賞」の特別賞を受賞、2022年には通所メンバーの〝くらしの場〟でもあるかぐやを舞台にしたドキュメンタリー『かぐやびより』として映画化され、大きな話題となりました。かぐやは施設の通所者と職員とボランティアスタッフが垣根なく、一人ひとりがありのままに日々を暮らす様子から、〝日本のブータン〟と称される場所になっています。そして、設立から14年目の2022年、新たなチャレンジとして設立したのが「駅前かぐや」なのです。

駅前かぐやの室内
14坪ほどの駅前かぐやの室内。机や家具などは多くの人々の協力でできているそうです。本棚や机などももちろん手作り。寄せ集めの家具であるのにもかかわらず、その調和した雰囲気、木の温もりがとても心地良い空間となっています。通所メンバーの作品も飾られています。
14坪ほどの駅前かぐやの室内。机や家具などは多くの人々の協力でできているそうです。本棚や机などももちろん手作り。寄せ集めの家具であるのにもかかわらず、その調和した雰囲気、木の温もりがとても心地良い空間となっています。通所メンバーの作品も飾られています。

善行駅から徒歩1分という立地で、地元商店会や地域の人々とのコミュニケーションがとりやすい環境です。駅前かぐやの所長・澤野亮介さんは「地元商店会を中心に就労体験の場を提供していただける協力店舗を開拓し、就労体験や短時間での就労の機会を提供すること。地域の方々との日常的な接点づくりや交流する機会を通じ、かぐやと地域とが、より顔の見える関係になること。同じような経験を持つ人同士が支え合える活動を応援する場になること」を目指していると話してくれました。

地域のお店のお手伝い。
「就労未満」という働き方も社会と繋がるひとつのステップ

駅前かぐやの通所メンバーは、定期的に地域のお店で働いています。「賃金をいただくのはちょっと荷が重い…」というメンバーのためには、まずは〝お手伝い〟からはじめているそうです。

焼肉台のパーツを洗って整えるかぐやメンバー(右)と、見守る元気屋オーナー・有田さん
焼肉台のパーツを洗って整えるかぐやメンバー(右)と、見守る元気屋オーナー・有田さん

駅前かぐやからほど近いホルモン焼きのお店「ホルモン元気屋」では、メンバーが定期的に通い、開店前のお店の掃除やモップがけ、コンロの焼き台や煙突を洗う仕事など、その日の営業が始まるまでに必要な仕事をもくもくとこなしていました。

地域で働く機会を通じ、メンバーは施設の通所者という立場ではなく、〝名前で呼び合える、短い時間でもアルバイトとして雇用契約を結んでいる関係性〟社会を支えている1人として自立への一歩を踏み出しています。

例えば、飲食店の開店までの2~3時間の掃除や準備など、雇い入れる側にとっても非常にありがたい存在になっているそうです。

アルバイトメンバー
アルバイトメンバーとお店との情報共有ノート
アルバイトメンバーとお店との情報共有ノート

そして、駅前長屋から、かぐやの挑戦はつづくー

理事長の藤田さんと所長の澤野さん(駅前かぐやにて撮影)
理事長の藤田さんと所長の澤野さん(駅前かぐやにて撮影)

設立から17年めを迎える「さんわーく かぐや」。〝障がいがあってもなくてもともに支え合い地域の中で暮らしていく〟という理念のもと、あらたな挑戦も続けていくそうです。

ここ善行には、あえて〝ともに生きる〟と言葉にしなくても、それが当たり前、自然なことであるということを、かぐやのメンバーと職員・ボランティアの皆さん、そして、それをごく自然に受け入れている善行の地域の皆さんは教えてくれています。これからも、かぐやと地域の皆さんの取り組みに注目が集まります。

通所メンバーが主体となって発行している「かぐや新聞」。地域の協力者も参加しているコミュニティ紙となっている
通所メンバーが主体となって発行している「かぐや新聞」。地域の協力者も参加しているコミュニティ紙となっている
取材先:特定非営利活動法人「さんわーく かぐや 」「駅前かぐや」
駅前かぐやインスタグラム https://www.instagram.com/ekimae_kaguya/
さんわーくかぐやFacebook https://www.facebook.com/sunworkkaguya/?locale=ja_JP
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