開店から7年。「静の表情が変わってきた」と雅美さんは話します。
「お客様から美味しかったよ、と声をかけられる。家族以外の人から褒められるという体験は、彼にとってこれまであまりなかったものでした。それからうどん作りがうまくできたという達成感。これも大きく影響したと思います」
かつて人と視線を合わせることが苦手だった静さんが、いまではお客様に「ありがとうございました」と声をかけられるようになり、手を振って挨拶する姿も珍しくなくなりました。
「障がい者が作っていることをアピールしない」というこだわり
近隣住民を中心にリピーターも多く、テイクアウトも好評だという「うどんカフェうせい」ですが、その人気を支えているのは「完全手打ち麺であること、そして家族でやっているアットホーム感ですね」とのこと。「障がい者が作っているということは前面に出していないんです」
情報誌やテレビなどで「障がいがある店主の店」と紹介されることがあったとしても、それによる集客はあくまで一過性のもの。何度も足を運んでくれるお客様に話を聞くと、うどんの味こそが来店理由とのこと。
「障がいがあっても麺を作れるって、すごいことだと思うけど、それより静の麺が好きだから来ているんだと言ってくださるんです」
コロナ禍で飲食業界が大きな痛手を受ける中、それでも継続して営業できているのは、静さんのうどんそのものの魅力によるものなのではないでしょうか。
「美味しかった、ここの麺が好き、と言ってくださるお客様を見ていると、静は一人前のうどん職人になったんだなあと実感します」
目指すは納税者。「強み」を生かして収入に繋げたい
2022年10月、雅美さんたち一家は就労継続支援B型事業所「みんなのうせい」を立ち上げました。重度の障がいがある人も受け入れていて、刺繡やビーズなどの創作活動、YouTubeの動画編集・投稿、PCでの入力作業や軽作業、無農薬野菜の栽培・販売など、幅広い就労支援を行っています。
静さんもうどんカフェのランチ営業が終わった後、「みんなのうせい」に移動して、様々な作業に取り組んでいるそうです。
高校生のときに「これもできない、あれもできない」と言われていた静さんは、いまや立派なうどん職人となり、お店でもB型事業所でも多くの人と関わりをもつことができています。
「いずれはB型事業所にも製麺所を設けて、静の次の麺職人が育ってくれると嬉しいですね。目指すは納税者! 障がいがあってもきちんと自立できるんだと証明したいですね」と雅美さんは笑顔で話してくれました。